第443話 クナルラルへ
四日目。
昨日の騒動はあったからなのか、とてもぐっすりと眠れた。
疲れが色んな意味で限界に達していたのかもね。
晶と態徒に関しては……まあ、うん。なんて言えばいいのかな、これ。
気絶から回復したら、二人して部屋の隅の方で壁を見ながら三角座りをしてしまった。
まあ……あれはね……。
要するに、自分たちがモデルのキャラが恋仲になっていたわけだもん。それはこうなるよ。
ちょっと何言ってるのかはわからなかったけど。
さて、異世界旅行も四日目。同時に、折り返しに。
今日からは王国ではなく、魔族の国の方に滞在することになります。
「王様、三日間ありがとうございました」
「いやいや、またいつでも来てくれて構わん。その時は歓迎するぞ」
「はい。レノも元気でね」
「うぅ、まさか一緒にいられる時間がこんなに短いとは……お姉様、またいつでも来てくださいね……?」
「もちろん。こっちの世界に来る時にはなるべく顔を出すようにするから」
「約束ですよ……?」
「うん、約束」
なんでここまで懐かれてるのかな、本当に。
異世界で王女様と仲良くなったり、恋仲になったりするのは定番って女委がよく言うけど、それは異世界系作品の中での出来事だと思ってるし……。
まあ、レノとはどちらかと言えば友達のような関係だし、違うよね。
「それじゃあ、ジルミスさんを待たせるのも悪いし、行こっか」
そう言うと、みんな一斉にきょとんとした。
あ、そう言えば言ってなかった。
でも、今はとりあえず、待たせるのもまずいし、先に合流しないとね。
「それでは、ボクたちは失礼します。またいつか、ここに来ますね」
「うむ、待っておるぞ」
「約束、守ってくださいね?」
「うん。それでは」
最後に軽く会釈をして、ボクたちはお城を出た。
「なあ依桜、さっき待たせるのも悪いって言ってたけどよ、何を待たせてるんだ? ジルミスって言う人か?」
「うん。行けばわかるんだけど……っと、あ、いたいた。ジルミスさーん!」
態徒の質問に答えつつ、王都の門まで歩くと、目的の人物を見つけた。
少し遠目だけど、ジルミスさんに声をかける。
すると、向こうはすぐに気づいてくれたみたいで、こちらに気付くと軽く微笑んでこちらに向かって歩いてきた。
「お久しぶりです、イオ様、ティリメル様」
「久しぶりなのじゃ! ジルミス!」
「お久しぶりです、ジルミスさん。元気でしたか?」
「はい、特に問題なく。今は平和な世の中ですから。人間の方から奇襲を受けることもなければ、反政府勢力などによる暗殺などもありません。健康な状態で、常に職務を全うしております」
「そ、そうですか」
そんな物騒なことあったんだ、今まで。
向こうの世界と違って、こっちの世界って本当に物騒だよね。こう言う話を聞いていていつも思うよ、ボクは。
「依桜、この人は誰かしら?」
「あ、ごめんね。えーっと、魔族の国の前国王だよ。まあ、今もほとんど国王みたいなものだと思うんだけどね。ボクが政務とかやってないから」
「いえ、イオ様が女王になってくださっているおかげで、我々は動けているのです。相応しいトップでなければ、我々が一生懸命になって働くことはありませんので」
「い、いや、ボク普通に飾りの王様なんですが……」
「むしろ、飾りとはいえ、我々が使えるべき主であるからでもあります。つまり、イオ様だから我々は動いているわけです」
「あ、ハイ。そうですか」
これは何を言っても同じような返しをされるだけだね……。
こう言ったパターンは何度も見てきているから、すぐに諦めよう。それが、円滑にコミュニケーションを取る方法です。
「……依桜の奴、マジで敬われてんな」
「話に聞いてはいたが、いざ目の前で見せられると、少し面白いな」
「でも、今は一人だけしかいないけど、他の人とかどうしているのかしら? この人って要人なのよね?」
「こういう時って、絶対どこかに潜んでるものだよね! どうなのかな?」
「おや、そちらの方々は……」
「あ、紹介してませんでしたね。この人たちはボクの向こうでの友達です。黒髪ロングの女の子が未果。その隣の金髪碧眼の人が晶。そこにいる、髪が短めの人が態徒。態徒の隣にいるオレンジ髪の女の子が女委。それで、そっちのウェーブのかかった明るい茶髪の女の人が美羽さん。その隣の赤い髪の女の子がエナちゃん。そして、黒髪ポニーテールの人がボクの師匠のミオさんです」
妹たちの方は、以前会っているので紹介は不要だね
「これはこれは、イオ様のご友人にお師匠様でしたか。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私は、ジルミス・ウィンベルと申します。今現在は国王としてではなく、ティリメル様、イオ様のお二方の忠実なる家臣として政務を行っております。以後、お見知り置きを」
う、うわぁ、本気の挨拶……。
ここまでかしこまらなくてもいいのに……。
それを言ったらボクもだけど。
「おー、これが魔族……! 人間に近い姿をしているんだね!」
「そうですね。我々魔族は、そこまで人間と大差ありません。強いて言うならば、人間の方々よりも体が頑丈であったり、身体能力が高かったりする程度でしょうか。それ以外ですと、聖属性魔法が絶対に使用できないなどや、闇属性魔法が誰でも使用可能な点ですね」
そうそう、魔族って意外と人間と似通っているからね。
案外違いはそこまでなかったり。
だからこそ、どうして戦争していたのかがわからないんだけどね。
「おっと、そろそろ出発した方がよさそうですね」
「ジルミスさん、何かあるんですか?」
「ええ、少々ありまして。イオ様やティリメル様のお二方にも無関係ではないことがありまして。もちろん、イオ様のご友人やお師匠様、妹君様方にも」
ボクたち全員に関係があるって何だろう?
「さ、ここから少々離れた場所にて、馬車を待たせてありますので、そちらへ。クナルラルまでそれで行きます。ですので、私についてきてください」
ジルミスさんはそう言うと、ボクたちを先導するように歩き始めた。
ジルミスさんについて行くと、そこには何やら豪華な馬車が二台ほどと、豪華というほどではないけど、それなりに立派な馬車が二台ほど止まっていた。
「……えーっと、ジルミスさん? この馬車は一体……」
無駄に豪華すぎる馬車の登場に、ボク……というより、ボク含めた地球組の人たちが揃って固まった。
それを代表して、ボクがジルミスさんに尋ねる。
「あぁ、あれですか。何せ、イオ様にティリメル様のお二方だけでなく、イオ様のご家族やご友人、お師匠様までもがクナルラルに来ると言うではありませんか。ならば、最大限のおもてなしをしなければいけないな、と。会議で決まりましたので、我が国で最高品質の馬車を用意させていただきました」
「あ、あー……な、なるほどー……そういうことですかー……」
……つまり、大袈裟に捉えちゃった、ということだね、これは。
あ、あはははは……何だろうね、これ。
「ああ、それからご安心ください。馬車の揺れは最大限無くしてありますので、体が痛くなることはございません。快適に、クナルラルまで行くことができます」
「地味に技術力が高いですね……」
「これでも、生活に関する技術は研究してまいりましたので」
……そう言えば、魔族の国ってやたらと技術力が高かった気が……。
なるほど、人間の国が一時期押されていたわけだよ。
「中には軽食類やお飲み物などもございますので、遠慮なく。ささ、お乗りくださいませ」
気が付けば、他の魔族の人たちも来ていて、恭しい態度で馬車に乗るように促してきた。
あー……どうしよう。むずむずする。
ここまで恭しく接されると戸惑うんだよね……もともと一般家庭の女子高生……じゃなかった。男子高校生だったから。
いけないいけない。とうとう、自分の元の性別すら忘れて来てるよ。
まあ、今は女の子の方が自然だと思い始めちゃってるんだけどね……。
「えーっと……とりあえず、乗ろっか、みんな」
苦笑いを浮かべながら言うと、みんなもちょっとだけ戸惑い気味になりながらも、こくりと頷いてくれた。
師匠だけは、なんだか慣れていたような雰囲気でした。
豪華な馬車は二台、ボクたちは十四人ということで、二手に分かれることに。
まあ、どういう組み合わせになるかはわかりきっているんだけどね。
ボクはメルたちと一緒です。
家族なので。
他のみんなは、もう一つの馬車に乗る事に。
師匠があっちに乗っているから、道中危険なことがあったとしても完璧に対応してくれそう。
世界一安全な場所だからね。
ちなみに、ジルミスさんは別の馬車に乗っています。
『同じ馬車に乗るのは、畏れ多い』とのことです。
う、うーん、ボクの魔族の国での評価って、本当にどうなってるんだろう……?
「久しぶりのクナルラルなのじゃ! 楽しみなのじゃ!」
「ふふっ、そうだね。メルの故郷だもんね」
「うむっ! 向こうも好きじゃが、クナルラルも大好きなのじゃ!」
久しぶりに故郷に帰れるとあって、メルは大はしゃぎ。
でも、こう言ってはなんだけど……そうなった原因って、メルなんだよね。
あの時、メルが『偽装』を使ってボクについてこなければ、そう言うことにならなかったんだよね。
まあ、来ちゃったものは仕方ないし、そもそもボクは全然よかったと思ってるけどね。
メル、可愛いもん。
それに、メルが向こうに来なかったら、ニアたちにも会うことはなかったと思うからね。
もしかして、ボクたちはもともと会う運命だったとか?
……なんて。さすがにないよね。偶然。
神様はいても、この世界に運命というものがあるかどうかなんてわからないしね。
それにもし、運命があるのだとしたら……ボクの人生、相当ぶっ飛んでるよ。
異世界に行って、魔王を倒して、女の子になって、変化する体質になって、妹が増えて、さらには異世界人の子孫であることが判明したんだもん。
これを運命って言われたら、一体ボクはいくつの運命を抱えていることになるのかわかったものじゃないしね。
運命なんて、あったとしても一つで十分だと思います、ボクは。
「あ、そう言えばみんなは魔族の国に行くのは二回目だったよね?」
「はい!」
「たの、しみ……!」
「ぼくも!」
「私は、攫われる前に過ごしていた場所に行けるのが楽しみなのです!」
「……わたしも、少しは。でも、なるべく行きたくない気もする……」
「クーナはいいけど、スイはどうしたの?」
「……わたしの先生、ちょっと怖い」
「怖い先生だったの?」
「……そう。怒ると怖かった」
……スイが怖がるって、どんな先生だったんだろう。
結構気になる。
ある意味、一番図太いのってスイだからね、この中だと。
「クーナの先生はどんな人だったの?」
「寝てばかりの人だったのです!」
「ね、寝てばかり?」
「はいなのです! 私の先生は、私とスイと同じサキュバスなのです!」
「あ、なるほど。そういうこと」
どうやら、サキュバスの人みたい。
もしかして、クーナがいた場所って、サキュバスやインキュバスの魔族が多いのかな? その辺り、ちょっと気になる。
「メル、おねえちゃん、にききたい、んだけど……」
「なんじゃ、リル? なんでも答えるぞ!」
「あの、メルおねえちゃん、の種族って、なん、なの……?」
「儂の種族か? もちろん、魔王じゃ!」
「え、魔王って種族だったの?」
「うむ! 魔王は魔王という種族なので、どの魔族にも当てはまらないのじゃ! ……って、ジルミスさんが前に教えてくれたぞ!」
「あ、ジルミスさんが情報源なんだね」
となると、かなり信用できそう。
それにしても、魔王って種族だったんだ。初めて知った。
魔王って特別なんだろうなぁ、とは思っていたけど、本当に特別なんだね。
勇者って言う種族はないのかな? 反対に。
……うん、なさそう。
「ちなみに、ジルミスが教えてくれたんじゃが、魔王はすべての魔族の力の一部が備わっているそうじゃぞ! なので、クーナとスイのように、サキュバスの能力である『魅了』もいつか使えるようになるそうじゃ!」
「メルも使えるようになるのですか?」
「うむ!」
「……じゃあ、将来はボンキュッボン?」
「そうじゃなぁ、ねーさまのようなないすばでぃになりたいのう」
「私もなのです」
「……わたしも」
「胸が大きくても、いいことはないんだけどなぁ……」
運動しにくいだけだし。
でも、クーナも将来的にはスタイルのいい姿に育ちたいんだ。
サキュバスの人って、みんなそうなのかな?
あと、魔王って全部の魔族の能力の一部が使えるんだ。本当に、チートみたいな存在だよね。
……あれ? じゃあ、もしもボクが倒した魔王が女性で、魅了の力を使ってきていたら、ボクに勝ち目ってなかったんじゃ……?
……よ、よかった! 男の魔王で! 本当に安心したよ!
あ、でも、スイが前に言ってたけど、サキュバスの天敵なんだっけ? ボクって。
なんでなんだろう。
「でも、イオお姉ちゃんのお胸って、すっごくふかふかで、私は大好きです!」
「あ、あはは、ありがとう、ニア」
「どうやったら大きくなるんですか?」
「ど、どうやったらと言われても……ボクはもともと男だったし、こうなったのも呪いが原因だし……だから、よくわからないかな」
「むぅー、ねーさまけちなのじゃ」
「けちって……ボクに言われてもわからないし……。強いて言うなら、何でも好き嫌いしないで食べて、夜更かししないでよく寝る、かなぁ。あと、適度に運動も」
これしか言えない。
以前、ボクと女委でやったお悩み相談室とかでもあったよね、胸を大きくする方法を教えてください、っていう悩み。
あの時は、女委が解決策を教えてたね。
なぜか育乳、っていうのを知っていたから。
「好き嫌いはないです!」
「よく、ねて、るよ……!」
「運動も好き!」
「夜更かしはしてないのです!」
「……問題なし」
「うむ! 儂らは良い子じゃから、きちんと守っておるぞ!」
「ふふっ、そうだね。みんは良い子だもんね。じゃあきっと、将来はスタイルのいい女の人になれるよ」
「「「「「「ほんと!?」」」」」」
「うん、本当だよ。だから、なるべく規則正しい生活を心がけるようにね」
「「「「「「はーい(なのじゃ)!」」」」」」
ボクは一体、なんの約束をしているんだろう?
胸を大きくしたいって言う、子供の無垢な願いを聞いて、なんでこんなことを言っているんだろうなぁ……。
まあ、みんなが可愛いからいいよね。
うん。
この後も、クナルラルに到着するまで、姉妹仲良くお話ししました。
癒されました。
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