第324話 球技大会当日

 そして、球技大会当日。


 ボクの朝は早い。


 朝の四時半に起きて、みんなを起こさないよう、細心の注意を払いながら、布団から抜け出す。


 修業時代に得た技術? 技能? の中に、睡眠時間短縮があります。


 読んで字のごとく、短い睡眠でも問題なく生活するための物です。


 一応、三時間寝れば、三日は寝ずに動けます。まあ、あれです。一日一時間で大丈夫、みたいな感じですね。


 まあ……これでも師匠には敵わないんだけど……。


 だってあの人、五分寝れば、一週間寝ずに動けるんだもん。


 三大欲求って、あるのかな、あの人。


 あ、でも、師匠って神のような存在って言ってたし……それが原因で、人よりも睡眠時間とか栄養補給が必要ないのかも。


 今度訊いてみよう。


「さて、それよりも、早く作っちゃお」


 ボクが大会当日に朝早く起きているのは、単純にお弁当を作るためです。


 一応、学食は開いているけど、見学に来る一般の人たちが来ることも考えると、席が取れない可能性があるし、それなら、自分で作った方が確実だしね。


 それに、成り行きとはいえ、莉奈さんたちも来ることを考えたら、あの人たちの分のお弁当も用意しておいた方がいいよね。


 あ、それなら、あらかじめ言っておかないと。


 よかった、連絡先交換しておいて。


「たしか、父さんと母さんは仕事があるって言って、行けない、とか言ってたっけ」


 ある意味、よかったかも。特に、母さんの方。

 さすがに、あの姿を見られるのはちょっとね……。


「あ、早く作っちゃわないと」


 時間もそこまであるわけじゃないし。


 でも、仕込みをしておいてよかったよ、本当に。


 少しでも、みんなに美味しいものを食べてもらいたいしね。


 美味しくないお弁当を食べさせるのは、お姉ちゃん的にはありえません。なら、自分ができる最大限の料理を、お弁当箱にいれればいいのです。


 ふふふ、みんな喜んでくれるかなぁ。



 朝から張り切って作ったお弁当は、七時になる頃には完成していました。

 一応、三日間あるから、明日明後日も作らないとね。

 ちなみに、今日は和食がメインだったりします。


「ふぁあぁ……んぁ、イオか。おはよーさん」

「おはようございます、師匠。朝ご飯、食べますか?」

「ああ、そうだな、もらうよ」

「はい、じゃあすぐに準備しますね♪」


 とりあえず、あまったお弁当のおかずと、軽くサラダでも作ろうかな。


「~~~♪ ~~♪」

「……」


 ふと、師匠から変な視線を感じた。


「師匠、どうしたんですか?」

「あー、いや、何と言うか……制服にエプロンつけて、鼻歌まじりに料理しているお前を見てると……マジで可愛いなと」

「ふゃ!?」


 不意打ちで可愛いと言われて、つい顔が熱くなった。


「正直、『あれ? これ元男だよな? 女だったっけ? あれ?』みたいな心境だ」

「お、男です! も、元ですけど」

「だが、そんなものっそい家庭的な姿を見せられるとなぁ……少なくとも、お前が元男だって知ってる奴でも、忘れるくらいに似合ってんだぞ? お前のその姿」

「そ、そう言われましても……」

「まあ、あれだな。いい嫁さんになりそうだ」

「お、おおおおお、お嫁さん!? な、ななっ、なななに言ってるんですかぁ!」


 お、お嫁さんだなんて、そんな……。


 で、でもボク、男の人と付き合いたいっていうあれはないし……そ、それなら、女の子の方が……って、そうじゃなくて!


 あぅぅ、朝から恥ずかしいよぉ……。


「と、とりあえず、どうぞ、朝ご飯です……」

「すまないな。んじゃま、いただきます」

「召し上がれ」


 ボクの家は、家事は基本的にボクか母さんのどちらかがやってます。


 ただ、前の家では、知らない間に家が綺麗になってた時もあったけど……あれ、誰がやったんだろう?


 さ、さすがに、幽霊とかじゃない、よね?


 なんてことを思い出していたら、ドタドタと足音が聞こえてきた。


「あ、起きてきたかな?」


 そう言った直後、みんながリビングにやってきた。


「おはようなのじゃ、ねーさま!」

「おはようございます、イオお姉ちゃん」

「お、はよう、ござ、います、イオおねえちゃん」

「おはようです、イオねぇ!」

「おはようございます、イオお姉さま」

「……イオおねーちゃん、おはよう」

「うん、おはよう、みんな。朝ご飯できてるから、食べちゃって」

「「「「「「はーい(なのじゃ)!」」」」」」


 朝から元気いっぱいで何よりです。



 朝ご飯を食べたら、みんなを着替えさせて、準備を終えたら、学園へ。


 今日は球技大会ということで、体操着で登校しても問題なしです。


 ちなみに、ハーフパンツとブルマの二択は、初等部と中等部にも適用されていて、みんなもそれぞれで分かれてます。


 メル、ミリア、クーナの三人がブルマで、ニアとリル、スイの三人がハーフパンツです。


 みんなは体操着で行くらしく、すでに準備万端。ちゃんと、終わった後の着替えも持たせてるので、大丈夫。


 ボクは……とりあえず、向こうで着替えようかな。


 なんだかんだでやることがないわけじゃないしね。


 そう言えば、球技大会の間、女委はブルマにする、とか言っていたっけ。


 恥ずかしくないのかな、あれ。


 なんと言うか、足がほぼぜんぶむき出しになっちゃうから、恥ずかしいんだよね……一回家で試しに穿いたことあるけど……。


 そう言えば、さっきから、視線がすごいような……。


 ボクや師匠に向けられているんだけど、なんだかメルたちに視線が行っているような……?


『た、体操着姿の美幼女……』

『やっべ、マジで可愛い過ぎる』

『あ、あれって、最近よく見かける集団だよな?』

『ハァハァ……』


 ……なんか、ボクの大切な妹たちに変な目を向けている人たちがいる気がする。というより、いる。


 むぅ……なんだか、すごく嫌な気分。自分じゃないのに、自分のことのように……ううん、それ以上に嫌な気分。これはあれかな、不快って言うのかな。なんだか、そんな感じ。


 ……ちょっと、こっそりお仕置きした方がいいような……って、ダメダメ。悪いことをしているわけじゃないし、ここで能力とかスキルを使ったら、前例を作っちゃって、師匠が暴走しそうになっちゃう。


 それはダメ……。


 でも、すごく気になるし……うぅ、どうすれば……!


「む? ねーさま、どうしたのじゃ?」

「あ、う、ううん、大丈夫だよ、気にしないで」

「そうかの?」

「……イオおねーちゃん、ちょっと黒いオーラ出してた。怒ってる?」


 え、く、黒いオーラ?


 もしかして、あれかな。みんなに変な視線を向けている人たちに対する、不快感のようなものが出てた、とか?


「だ、大丈夫。怒ってないよ。さ、早く行こ?」

「「「「「「はーい(なのじゃ)!」」」」」」


 気を取り直して、学園へ行こう。無害なうちは、嫌だけど……見逃そう。



「……あいつ、相当な姉馬鹿になってるな……まさか、妹大好き人間になるとはな……」



 学園に到着すると、すでに賑わっていました。


 勝負だ! と言って、ライバル心を燃やしている人もいれば、仲良くやろう、みたいに友達同士で楽しくやろうって話す人も。


 ……まあ、中には、


『勝った方が、吉田さんと付き合う。だから、絶対手を抜くなよ』

『ふんっ、こっちのセリフだ!』


 みたいな感じに、誰かと付き合うということを賭けている人もいるみたいだけど……それって、どうなの? その人の許可は得てるかな?


 ちょっと気になる。


「それじゃあ、ボクは後でそっちの救護テントに行くから、一旦お別れね。と言っても、他の人に迷惑になっちゃうかもしれないから、人がいない時以外は来ちゃダメだよ?」

「「「「「「はーい(なのじゃ)!」」」」」」

「うん、いい返事です。じゃあ、頑張ってね」


 そう言って、みんなの頭を軽く撫でてから、ボクは高等部の校舎へと行きました。



「おはよー」

「おはよう、依桜」

「おはよう」


 やっぱり、二人は早い。

 イベントごとがある日、ない日問わず早いんだよね。

 さすが優等生……。


「にしても……依桜、ずいぶんとその……大きな荷物ね」

 不意に、ボクが手に持つものを見て、苦笑いした。

「あ、うん。これ全部お弁当。ほら、一応人が増えたしね、ボクの家は」

「まあ、妹が六人もいるしな。それに、ミオさんだっていると思うと、さすがにな」

「うん。それから、ほら……莉奈さんたちも来るしね。あの人たちの分も用意したの」

「「あー……うん。さすが……お嫁さんにしたい女子No.1」」

「ちょっと待って? 何そのランキング」


 今、二人が同時に呟いたランキング、すっごく気になるんだけど。


「何って……読んで字のごとくよ。実を言うとこの学園、特に高等部ではね、謎のランキングが裏で行われてるのよ」

「ボク、知らないんだけど!?」

「まあ……依桜はそう言うのに興味ないしな……」


 た、たしかに、興味はないけど……少なくとも、ボクが入っている時点で、教えてほしかったんだけど。


「おっはー」

「うーっす」

「ん、おはよう、二人とも」

「おはようさん」

「おはよう。あ、ちょうどよかった。ねえ、女委。訊きたいことがあるんだけど、いいかな?」

「うん、いいよー」


 ここは、なんでも知ってそうな女委に訊いてみよう。

 何か知ってそう。


 だって、噂話とか好物だもんね、女委。


「えっとね、その、この学園でランキングが裏で行われてるって聞いたんだけど……ほんと?」

「うん、本当だね。ちなみに、今のところ、依桜君は……三冠だね」

「さ、三冠?」


 え、何? ボクって、三つのランキングで一位獲ってるの? ほんとに?

 なんで?


「えーっとね、『お嫁さんにしたい女子ランキング』、『彼女にしたい女子ランキング』『恋人にしたい人ランキング』の三つ」

「あの、最後の二つって同じじゃないの?」


 彼女にしたいと、恋人にしたいってどういうこと?

 え?


「あー、それはだな……。彼女にしたい、の方は男子限定で行われていたものだが、恋人にしたい、の方は男女両方で行われていてな。前者は言うまでもなく、ぶっちぎり。後者は……まあ、男女両方の票がぶっちぎりだったんだよ、依桜は」

「え、えぇぇー……」


 知らない間に、変なランキングが行われていた上に、なぜか同性の人からも大量の票が入っていたという事実に、戸惑いが隠せないんだけど、ボク。


 ボクって、そんなにいいところある?


 お世辞にも、可愛いとは言えないし、綺麗とは言えないよ?


 家庭的……とは言われるけど、単純に家事が好きなだけというのと、昔からやっていたから、っていう理由だし……。


(まあ、本当は三冠じゃなくて、七冠なんだけどね)

(……絶対依桜に言うなよ)

(依桜が聞いたら、絶対卒倒するよなー)

(何としても、情報が行かないようにするわよ)

(((おう)))


 あれ? なんか今、以前みんなに渡した、指輪の魔道具を使用した気配があったんだけど……気のせいかな?


 この後、みんなと色々と話しているうちに、開始の時間になりました。


 今日から三日間、頑張ろう。



 余談だが、依桜が獲った七冠の内、残り四つは……


『エロい女子ランキング』『胸に顔をうずめたい女子ランキング』『いじめてみたい(性的な方面で)女子ランキング』『ご奉仕してもらいたい女子ランキング』


 の四つである。


 欲塗れのランキングである。これが、学園内で行われているという恐怖。


 ちなみに、このランキング全て、男女両方が投票していたりするという点も、闇が深いと言えよう。


 さらに言うなら、三つ目のランキングには……未果と女委も票を入れていたりする。

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