第325話 ナースな依桜ちゃん

 更衣室で体操着に着替えて、グラウンドへ。


 一応、初等部~高等部までの人たちが、一ヵ所のグラウンドに集まってます。


 うわぁ、人数多いなぁ……。


 たしか、合計人数三千三百六十六人だったっけ?


 お、多い。


 ある意味、こんなに人がいるのに、入りきるグラウンドがあることにボクはびっくりです。


 開会式が始まるまで、みんなと軽く話していると、もうそろそろ時間になるので、一度解散して、自分のクラスの所に整列。


『只今より、叡董学園球技大会を開催いたします。初めに、学園長先生からお話を頂きます。学園長先生、お願いします』

「はーい。みなさん、おはようございます! 高等部の二年生にとっては、二回目の、三年生にとっては、三回目であり最後の球技大会だと思います。それ以外の人たちは、この学園に通い始めて、初めての球技大会であると同時に、初めてのイベントごとです。初めてのイベントごとで緊張したり、不安になったりしている人もいるかと思いますが、この学園では楽しいイベントごとしかありません。なので、思う存分、楽しんでください! もちろん、高等部二、三年生も、楽しんでくださいね! 以上です」

『ありがとうございました。続いて、球技大会中における注意事項です。ミオ先生、お願いします』


 あ、やっぱり、師匠なんだね、注意事項って。


 師匠がやる、っていうのがすでに固定になっている気がします。


「体育科のミオだ。まあ、あたしからは注意事項だな。怪我に注意しろよ。特に、運動部出身の奴とか、運動神経がいい奴とかは、絶対に怪我させるんじゃないぞ。男女混合の種目あるしな。もし、怪我させようもんなら……あたしが特別授業をしてやる。覚悟しとけ。この大会中、外部から来た客もいる。絶対に変な行動はするなよ。それで信用を落として困るのは、どっちかと言えばガキどもだからな。あと、うちの愛弟子が救護テントにいるからって、怪我してないのに行くなよ。あそこは、怪我した奴が手当てを受ける場所なんでな。あとは……ああ、球技大会中、学園の敷地外に行くなよ。めんどくさいから。とまあ、あたしからはこんなとこだな。気を付けて、楽しくやれよ。以上だ」


 ……師匠、なんでボクのことを言ったんですか?


 普通に考えて、怪我をしていないのに来ることなんてないと思うだけど……。


 友達とか、メルみたいな感じだったら、来ても不思議じゃないけど。


『ありがとうございました。続いて――』



 開会式が終われば、すぐに第一種目の準備へ。


 今日は基本的に予選のみ。


 本戦以外は、同時に行われるそうなので、見たいところにそれぞれ行く、っていう感じになるんだそう。


 本戦は三日目。午前中にほぼやるそうだけど、三日目の午後はあのよくわからない競技。


 ボクは学園側で動くことになるんだけど、何するんだろうなぁ……。


 最初に行われるのは、室内でバスケと卓球、それから屋外でテニスとサッカーが行われるそう。


 学園が広いから、ある程度同時にできるみたいだしね。


 ちなみに、予選と言っても、実際は準々決勝までの事を指していたりします。


 準決勝と決勝戦が本番当日、というわけです。


 なので、今日はさっき言った四つの種目が今日の主な種目になります。


 それ以外は明日。


 進行上、ちょっと早く終わることも予想されているので、二日目の午後にはもしかしたら決勝をやることになるかもとのこと。


 最終種目は、最低でも二時間くらいかかると予想されているとか。


 だからこそ、三日あるんだそう。


 あと、一学年七クラスなので、一クラスだけ初戦がなかったり。

 ボクとしては、そっちの方がありがたいんだけどね。ボクが出る種目に関しては。

 あまり目立ちたくないし、ボクの場合手加減に心血を注がなくちゃいけないから。

 慣れているからいいけど、それでも、疲れるものは疲れるしね。


 でもまあ、今日は出場する種目がサッカーだけだし、基本的に保健委員の仕事の方が多くなる、かな? もちろん、試合の状況によるけど……。


 仕事……うん……仕事……。


「じゃあ、依桜君はこっちでお着替えしましょうね~」

「あぅぅ~~~……」


 ボクは、希美先生や保健委員の女の子たちに連行されていきました……。



「は、恥ずかしぃょぉ……」

『『『おおぉぉぉ……』』』


 そして、ボクはナース服を着ていました。


 真っ白な服で、裾は膝丈くらいだから、まあ……短すぎないからいいんだけど……。


 自分だけ別の衣装を来ていることがすごく恥ずかしい……。


 服自体はちょっとゆったりしてるからまだ楽なんだけど、それでも恥ずかしいことには変わりない。


 なんで、ボクだけ……。

 なんだか恥ずかしくて、つい裾を掴んで、内股になって、足をこすり合わせるようにもじもじしてしまう。


『な、なんだ、動悸がやべぇ……』

『あぁ、オレ、マジ生きててよかった……』

『あんな美少女に手当てされてみてぇ』

『依桜ちゃんって何でも似合うんだね』

『うんうん。むしろ、似合わない服装なんてあるのかな?』

『ないんじゃない?』

『はぁぁ……眼福ぅ……』

「依桜君似合いますね~」

「そ、そんなことないですよ……それよりも、あの、やっぱり普通の服装がいいんですけど……」

「でも、言質取ってるし~」

「うぅ……」


 なんであの時、頷いちゃったんだろう、ボク……。

 ……もし過去に戻れるなら、自分に拳を入れたいよ。


「さあさあ、そろそろお仕事に行ってね~。依桜君の姿が魅力的過ぎて見ていたい気持ちもわかるけど、この人数だからきっと怪我人はでるはずよ~。持ち場にGO、GO!」

『『『はーい』』』


 ……この姿で向こうに行くの、なんだか嫌なんだけど。


 すごーく、行きたくない気分を抱えながら、ボクは初等部の方へ向かいました。



「お、おはようございます」

「おはよう、男女さん……って、え、なんでナース服を?」


 初等部の救護テントに行き、挨拶しながら入ると、小倉先生がボクの姿を見てびっくりしていた。


 ちなみに、初等部の保健委員の子たちは、今日行われる最初の種目が終了したらこちらに来るそうです。


「あ、あはははは……ちょっと、色々あって無理矢理……」

「そ、そうなの……。ま、まあ、今日から三日間、よろしくね」

「はい。任せてください」


 仕事は仕事。


 格好はこの際我慢するとして……ちゃんとやらないと。


 衣装が恥ずかしいからできません、なんて言えないもんね。


「男女さん的には、やっぱり同学年のお友達の試合を見たかったんじゃないですか?」

「まあ、そうですね。でも……ちょっと妹たちが心配でして……」

「妹たち? ……あ、もしかして、四年生と三年生に編入してきた娘たち?」

「そうです。メル、ニア、リル、ミリア、クーナ、スイの六人がいまして……」

「六人も……随分と大家族」

「ちょっと色々ありまして。まあ、義理の妹たちなんですけど、こっちに来たばかりなので、お姉ちゃんとして心配で……」


 少なくとも、メルは力加減的な心配で、ニアたちの方はまだこっちでの身体能力を把握しきれていないからだしね。


 まあ、単純に怪我をしたらどうしよう、っていう気持ちの方が強いんだけどね……。


「ふふ、妹想いなんですね。でも、こっちに来たばかりって言うことは、海外から?」

「そ、そうです。海外の親戚の方で色々とあって、ボクの家で引き取ることになったんですよ」


 海外じゃなくて、、界外だけどね。


「へぇ~。六人も新しく住まわせることができるってことは、男女さんのお家ってお金持ちだったり?」

「い、いえ、一応ごく普通の一般家庭ですよ?」


 一般じゃないのは、ボクとか師匠とか、メルたちだけど。


 ボクは向こうで鍛えた結果、身体能力が異常になってるし、師匠は世界最強だし、メルたちは異世界人だし、可愛すぎるし……。


 でも、お金持ちかそうじゃないか、と聞かれれば……まあ、ボクがお金持ち、なのかな?


 一応、数千万という大金が口座にあるし。


 ……そのおかげで、みんなを養えてるんだけど。


「ああ、そう言えば、ミオ先生も男女さんの家に住んでいるんでしたね」

「そうですよ。……あれ? どうして、ししょ――ミオ先生の事を?」

「有名ですから、あの先生は」

「有名?」

「はい。高等部にすごく綺麗で、カッコいい女性の体育教師がいる、って話でして。初等部や中等部で働き始めた先生方からも、密かに人気があります。特に、女性の教師の方が」

「そ、そうなんですか?」

「そうなんです。何と言うか、サバサバしている上に、飾らない言動で人気があるとか」


 たしかに、師匠は飾らないよね、色々と。


 言葉遣いも、誰に対しても全く同じだし、敬語を使ったところなんて、学園見学会の時くらいな気がする。


 それ以外で使っていたことなんてあったかな? って言うくらいに、師匠は敬語を使わない。


 でも、師匠が綺麗でカッコいい、というところはすごく共感します。


 師匠、カッコいいもん。


 理不尽だけど。


「ところで、ミオ先生と男女さんってどういう関係で?」

「えーっと、ボクの師匠です」

「師匠というと、武術とか、何かの芸術とか?」

「そうですね。武術……と言えば武術、でしょうか?」

「ちょっと曖昧ですね」

「ま、まあ、ちょっとどう答えていいかわかりませんし」


 だって、暗殺技術とか、魔法とかだもん。


 平和な日本じゃ、絶対に習得することがないような物ばかり。というか、魔法とか存在していると思われてないもん。


 知っている人はいないこともないみたいだけど。


「なるほどー。武術の師匠なら、やっぱり、強いんですか?」

「それはもう、すごく……。むしろ、理不尽なまでに、強いです。多分、学園生全員が束になって挑んでも、瞬殺されます」

「…………え、冗談、ですよね?」

「……冗談みたいな人なんですよ、師匠って」


 だって、お酒が飲みたいから、なんていう理由で当時の歴代最強の魔王とか、神様を殺すくらいだもん。


 あの人以上に冗談のような人を、ボクは知りません。


「そ、そうなんですか。……でも、男女さんは慕っているんですね」

「ま、まあ、そうですね。あの人以上に理不尽な人は知りませんけど、あの人以上に頼りになる人もなかなかいませんよ。できれば、生活力を上げてほしい、っていう願いはありますけどね」


 むしろ、ボクが帰って来れたきっかけになったような人だしね。


 師匠がボクを弟子にしてくれなかったら、今頃こっちの世界には帰って来れてなかったと思うし、何より、道半ばで死んでしまっていたかもしれないしね。


「そう聞くと、ミオ先生はいい人なんですね」

「少なくとも悪人ではないですよ。かと言って、完全な善人かと言われると……ちょっと違うかもしれません。中立って言うんでしょうか。そんな感じです」

「でも、そういう人はなんだかんだで双方の意見も取り入れて考えてくれますからね、いいと思います」

「あはは、そうですね」


 小倉先生の言う通り、中立な人が一番信用できるかも。


 悪人は、自分のことしか考えない人が多かったり、善人の人は他人のこと……というより、それがいいことだと信じてやまない人が多い。


 反面、中立な人は、どちらに対しても理解があるので、時には悪い手段を使うこともあるけど、最終的には善行になる。


 師匠はそれに近いかも。


 どこまで行っても、平等な気がするもん。


『それでは、準備が整いましたので、ただ今よりバスケットボールとテニスの初戦を行います。出場する生徒は、各種目場所に集まってください』

「おっと、そろそろですね。じゃあ、私たちの方も準備しましょう」

「はい」


 始まりを告げるアナウンスが聞こえたボクたちは、いつでも怪我人が来ていいように、準備を始めた。


 ナース服であることを忘れそうになったけど……。

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