第76話 種目決め
「今月の二十一日にある、体育祭の出場種目を決めます」
一時間目~四時間目まで、特に問題もなく(態徒が、大量の死線を貰っていたけど)授業が消化され、昼休みを挟んだのち、LHRとなった。
もちろん、体育祭の種目決めだ。
現在は、クラス委員長である未果が教壇に立って、進行を務めている。
「とりあえず、今から黒板に競技名とクラスから選出しなくちゃいけない人数を書いていくので、とりあえず何に出場したいか、考えておいて」
そう言いながら、未果は黒板に競技名と選出人数を書き始めた。
・スウェーデンリレー 四人
・クラス対抗リレー 十六人(男女混合:それぞれ八人ずつ)
・二人三脚 四人(男女の規定なし)
・棒倒し 十六人(男女両方の出場可)
・パン食い競争 二人
・借り物or借り人競争 三人
・綱引き 全員参加
・障害物競走 二人選出
・50メートル走 五人
・100メートル走 五人
・生徒・教師対抗リレー 学園側が決定
・部活動対抗リレー
・瓦割 一人(必ず出るという競技ではないので、任意)
・美天杯(武闘会) 二人選出
・アスレチック鬼ごっこ 逃げ側(奇数クラス):八人 鬼側(偶数クラス):二人
……ええ、なにこの競技。
途中までは普通。途中までは。
……最後の方の競技だけおかしくない?
なんで、体育祭の競技種目に、瓦割とか、武闘会とか、果てはアスレチック鬼ごっこなんていう、よくわからないものがあるの!?
この学園の体育祭おかしくない!?
「とまあ、これくらいあります。えーっと、とりあえず、わからないところとか、遠慮なく質問して」
未果がクラスのみんなにそう言うと、そこそこの数の手が挙がった。
でしょうね。
「じゃあ……真田君」
『ほとんど競技についてはわかるけどよ、最後の三種目だけいまいちわからないんだが……』
「ま、そうよね。とりあえず、説明するわ。まず、瓦割は、まあ見ての通り、単純に瓦割をするだけの競技よ。ルールは簡単。参加者が一枚ずつ瓦割を割っていき、徐々に枚数を増やし、最終的に一番多い枚数を割った人が勝ちよ」
うわぁ、本当に簡単。
「次、美天杯に関して。これは……まあ、単純に異種格闘技みたいなものね。参加資格は特になし。男女両方の出場が可能よ。一応、男子と女子のマッチングもあるそうだけど、そのあたりはちゃんと、ハンデが設けられるそうね。トーナメント方式の、格闘大会みたいなものね」
なぜ、体育祭で格闘大会があるのかすごく疑問なんだけど。
明らかに、高校の体育祭でやるような種目じゃないよね? そもそも、種目と言っていいのかすらわからないんだけど。
「最後。アスレチック鬼ごっこに関してなんだけど……これ、あんまり知らされてないのよね。アスレチックで行う鬼ごっこ、としか教えられてないのよ。それから、うちの学園の体育祭は、学園祭と同じで、二日間に渡って行われるの。今言った三種目は、二日目に行われる予定よ」
そもそも、明らかに時間がかかりそうな種目が二日目に回されちゃっている以上、確実にまともな競技じゃないことだけは確かだよね。
しかも、鬼ごっこの方に至っては、クラス委員にすら教えられてないし。
ふと思ったんだけど、本来、体育祭関連のことって、体育委員とかがやるような気がするんだけど、なんでうちの学園って、こういうのはクラス委員の人がやるんだろ?
「簡単だけど、説明はこんなものね。ほか、気になることある?」
「あ、一つ聞きたいんだけど」
一つ、ボクにも疑問が出たので、ここで訊いておこう。
「あら、依桜。珍しいわね。それで、何?」
「えっと、種目のルールとかはある程度分かったけど、出場制限とかってどうなってるの?」
「ああ、そう言えばそれを言ってなかったわね」
一応、朝の段階で大まかなことは聞いたけど、細かいことはまだわかっていないし、それに、出場制限に関して分かっていないと、どう決めていいかもわからないしね。
「そうね。まずは――」
未果の説明は以下の通り。
スウェーデンリレーは、朝言った通り、運動部(走ること前提の部活)は、100メートルか、200メートルでしか走れない。
次に、クラスリレーに関しては、ほとんど制限を設けられていないけど、運動部(走ること前提の部活)は四人までしか出場はできず、ほかの十二人はそれ以外の人。
棒倒しは、格闘技系統の部活動に所属している人は、クラスリレー同様、四人までしか出場できない。ちなみに、態徒のように、部活には入っていないけど、何かしらの武術の経験者だったり、有段者の人も適応される。ちなみに、ボクも適応されてます。当然だよね! あと、万が一、制限の都合で
競技内容に対する制限はこれくらい。
で、運動部に所属していたり、所属はしていないけど運動が得意、と言う人に関しては、出場制限――回数が定まっているとか。
ただし、その人の能力によって変わってくるとのこと。
これはこれで、つまらなくなりそうだけど、意外と好意的なのだとか。
誰にでも活躍の場がある! って言う理由らしい。
ちなみに、制限がわかりやすいのは、ボク、晶、未果、態徒の四人。
ボクは……まあ、ちょっと異常なので、学園長先生とかが判断したんだろうね、四種目までです。一応、体力測定時には、加減をしていたけど、学園長先生は事情を知っているので、結果的に四種目になったんだと思います。でもね、ボクが四種目も出れるって、結構まずいと思うんだけど……そこのところ、どう考えてるんだろ?
ちなみに、晶と未果も、ボクと同じく四種目。
で、態徒に関しては、回数制限などはないけど、棒倒し、瓦割、美天杯の三種目において、ある程度のハンデが設けられるそうです。
それと、大会などで成績を残している人などは、二種目だそうです。
なんで、ボクより少ないの?
「――と、こんな感じね」
『なるほど、やっぱ、運動部に対する制限は大きいか』
『そりゃそうだろ。男女が出たら、全部優勝しちゃうぞ?』
『だな。運動神経が半端じゃないし』
『何に出ようかなぁ。私、運動とかあまり得意じゃないんだけど』
『うーん、やっぱり、無難にクラスリレーとか?』
『まあ、楽と言えば楽だよね』
みんな各々、近くの人や、友達と話し始めた。
優勝したいのなら、結構慎重に決めないといけないからね。
優勝と言っても、この学園の体育祭ってちょっと特殊だけどね。
高校生になると、クラス対抗になる場合が多いけど、この学園だと、東軍、西軍で別れることになっています。
東軍が奇数クラスで、西軍が偶数クラス。
ボクのクラスは六組なので、西軍ということに。
各陣営のリーダーは、三年生が務めるとか。
「ねぇねぇ、依桜君」
「なに、女委?」
「依桜君は出たい種目とかあるの?」
「うーん、これと言ってないんだよね」
ボクの場合、何に出ても、問題しかない気がするし。
でも、最低限二種目でないといけないので、決めないといけない。
個人的にやりやすそうなのは……多分、武闘会かなぁ。
散々向こうの世界で対人戦闘をこなしてきたからね。一応は慣れてる。
それに、師匠のおかげで、加減をし忘れるようなこともしない。
あとは、アスレチック鬼ごっこと障害物競走とかかなぁ。
両方とも、障害物があるって言うことで、暗殺者のボクとしては動きやすそうだし。
もし、優勝したいというのならば、勝ちを取りに行くのもやぶさかではないけど、なるべく目立たない程度に抑えないと、学園祭のように目立ってしまいかねないので、注意が必要。
……そもそも、雑誌やドラマで顔が出ちゃっている以上、目立つも何もないんだけどね。
「依桜と女委は決まったのか?」
ここで、晶と態徒、未果が混ざってきた。
クラス内を見ると、自分の近くにいる人だけじゃなくて、離れている人のところに言って話し始めている。
「これと言って決まってないね」
「わたしは、パン食い競争と、借り物・借り人競争に出ようかなって思ってるよ」
「へぇ、女委も借り物を考えてるのか。オレも、面白そうだと思ってな。それに出ようと思ってるぜ」
「まあ、女委はある意味引きが強そうだし、意外とちょうどいいかもしれないわね。態徒は……まあ、問題ないでしょ」
「晶は決めたの?」
「あー、そうだな……スウェーデンリレーとクラス対抗リレーあたりだな」
「晶は走るほうが得意だもんね」
「まあな」
「じゃあ、未果は?」
「私? 私は……クラス対抗リレーと、100メートル走かしらね」
「未果も走るほうかぁ……。うーん、ボクは何に出ようかなぁ」
みんな何に出たいかの希望が決まってるとなると、ちょっとボクとしても焦る。
ボクの場合は、単純にいかに目立たないようにするか、と言う部分に集約されるし。
「一応、さっきクラスメートに聞いて回ってたんだけど、態徒と女委が借り物・借り人競争に出るのは確実ね。あと、晶と私の希望した種目も。で、一番人が集まっていない……というか、誰も希望していないのが、三種目。二人三脚、美天杯、アスレチック鬼ごっこの三つよ」
「後ろの二つはわかるけど、二人三脚は意外だよ」
意外と出たがる人が多そうだと思ってたんだけど。
「単純に、みんなチキンになってるだけだと思うよ」
「どうして?」
「考えても見てよ。二人三脚って、結果的に誰かとかなり密着して走るじゃん? そうなると、男同士で出たいって思う?」
「え、別にいいと思うんだけど……」
「依桜君とか、薔薇な人はそうでも、ごく一般的な男子高校生は、同性同士で走りたくないものなんだよ」
「そう言うものかなぁ」
「そう言うものだよ」
別に、ちょっとお互いの足を縛って、一緒に走るくらいだよ?
気にするようなことないと思うんだけどなぁ。
「あとは、女子の方も遠慮してる、って感じね」
「あれ、そっちはどうして?」
「……実際、二人三脚って、お互いの腰に手を回すでしょ? 好きでもない相手に好き好んで触られるような人って、いないでしょ?」
「……それはわかるかも」
今のボクだって、何の面識もない人とかに触られるのは……なんかちょっと嫌かも。
「じゃあどうするんだ? 四人出さないとまずいんだろ?」
「そうね。……ねえ、依桜、二人三脚に出てくれない?」
「え、ボク?」
「ええ。まだ一種目も決めてないでしょ?」
「そうだけど……組んでくれる人っているのかなぁ」
と、ボクが呟くと、
『『『出ます!』』』
「ひぁ!?」
クラスのみんながすごい勢いで出ると言い出して、思わずびっくりして悲鳴を上げてしまった。
「ま、こうなるわよね」
「そうだな」
「というかよ、女子も混ざってね?」
「混ざってるどころか、あれ、全員だよね? さすが依桜君! 男女両方を魅了するとは!」
未果たちは、まるで予想していたかのような口ぶり……というか、絶対に分かってたよね、この四人。
わかっててボクに頼む未果は、本当に酷いと思う。
「まあ、別に誰でもいいのだけれど……あなたたち、というか特に男子。……邪なことを考えているんじゃないでしょうね?」
にこぉっと、黒い笑みを浮かべながら男子たちを見回す未果。
こ、怖いっ。
『そ、そんなことないぜ?』
『お、おうよ。お、俺たちはただ、男女を助けてやろうかな、って思っただけだし?』
『べ、別に、合法的に密着したいとか思ってねぇし?』
「…………………はぁ。ま、見てのとおりね。で、依桜はどうする?」
「あれ、もしかしてボクが出るのって確定なの?」
「当然。それで、出るなら誰がいいの?」
「きゅ、急に言われても…………」
いきなり誰とがいいなんて聞かれても、思いつかない。
少なくとも……下心満載の男子のみんなは論外。
なんかちょっと怖いし。何か変なことされそうなんだもん。
女の子の方も……なぜか、鼻息が荒いので却下。
となると、いつもの四人から選ぶことになる。
うーん、四人の中で選ぶなら・……
「女委、かな?」
「ありがとう、依桜君!」
「わわっ! い、いきなり抱き着かないでよぉ」
いきなり、満面の笑みを浮かべながら、女委が抱き着いてきた。
『お、オイ見ろ、巨乳同士の抱擁だぞ』
『やべぇ、すっげえ百合百合しいし、めっちゃいい眺めなんだが』
『ほんと、依桜ちゃんと女委ちゃんって、おっぱい大きいよね』
『羨ましいなぁ』
……なんで、みんなはボクたちの胸を見ているんだろうね。
「依桜君がわたしを選んでくれた、これ即ち、依桜×女委ルートに!」
「ち、ちがうよ!? め、女委のことが好きだからじゃないよ!?」
「え、じゃあ、嫌いなの……?」
そ、そこで涙目は卑怯だよぉ……。
「も、もちろん、好き、だけど……と、友達としてだよ!? べ、別に、そう言う意味じゃないからね!」
『リアルツンデレ、ごちそうさまです!』
ボクの発言に対して、クラスのみんなほぼ全員が口をそろえてそんなことを言ってきた。
「つ、ツンデレじゃないもん! って、そうじゃなくて! 女委を選んだのは、女委に出場に対する制限がないからだよ!」
「ええぇ? そんな理由なのー?」
「そんな理由って言うか、それしかないと思うんだけど……」
「でもまあ、いっか! じゃあ、依桜君、一緒に頑張ろうね!」
「う、うん。……なんか、自分で女委を選んでおいてあれだけど、すごく心配になってきたよ……」
「にゃはは! わたしに任せておけば、もーまんたい!」
自信満々に、胸をドンと叩く女委だけど……それが心配なんだけどね。
あと、女委が胸を叩いた瞬間、男子たちの目線がぽよんと揺れた女委の胸に釘付けだったのはもう、言うまでもないとことだと思います。
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