1-4章 ちょっとおかしい体育祭
第75話 依桜の幼馴染は被害が多い
いろんな意味で大騒ぎだったハロパの次の日。
ハロパは自由参加だったので、振替休日のようなものはない。
なので、昨日バカ騒ぎをして、すごく疲れていたとしても、登校しないといけない。
「ふあぁぁ……あ、戻ってる」
朝、いつも通りに目を覚ますと、体が元に戻っていた。
まあ、お約束なのか、また裸だったけど。
ここで父さんが来たら、以前の二の舞になってしまうので、急ぎ目で制服に着替える。
「うん、問題なし」
鏡を見て、どこにもおかしなところがないか確認。
特に問題はなかったので、このまますぐに出れるように荷物を持って下へ。
もちろん、顔を洗うのと歯磨きは忘れずに。
「おはよー」
「おはよう。あら、もう戻っちゃったのね……」
「なんで残念そうなの」
露骨にがっかりする母さんにジト目を向ける。
「だって、可愛かったんだもん」
「いい歳してだもんって……」
母さんって、結構若く見えるから、外見的には違和感はないんだけど、実年齢(三十代後半)を考えると……ちょっとイタイかな。
「いいんですぅ、お母さん、ママ友の人からは、『え、本当に三十代なんですが!? 十代後半でも通用しますよ!』って言われてるから」
たしかに、通用するかもしれないけど!
「まあ、それはそうと……たしか、今月って体育祭があったわよね?」
「あ、うん。たしか、十一月二十一日だったはずだよ」
「あら、結構近かったのねぇ。まあ、その日なら休みは取れるわね」
「見に来るの?」
「当然! なんてったって、愛娘の高校生最初の体育祭だもの! 当然、見に行くわよ。あ、お父さんはもう休みを取ったって言ってたわよ」
「そ、そうなんだ……。あまり、騒ぎを起こさないでね?」
「問題ないわよー」
うーん、母さんの問題ないは、いまいち信用ができないと言うか、なんというか……。
ま、まあ、大丈夫……だよね?
まだもう少し先なのに、ボクはなぜか心の底から不安になった。
「おはよー」
「おはよう、依桜。元に戻ったんだな」
「うん。多分、ちっちゃくなるのは、一日だけなんじゃないかな。前回も、寝たら治ったし」
最初のは……途中から変化したことを加味すると、変化した次の日が一日目、と考えるのが自然かも。
だから多分、今後小さくなったとしても、その日だけの可能性が高い。
ただ、いつ小さくなるかわからないから、ちょっと怖いんだよね。
「それならいいが……難儀な体質になったものだな」
「ま、まあね」
それもこれも、学園長先生と師匠のせいではあるけどね。
「おはよう、依桜」
「あ、未果。おはよう」
晶と話していると、未果が教室に来た。
いつもは、ボクより早くて、晶と話しているイメージがあるんだけど、珍しい。
「依桜より遅いとは、珍しいな」
「まあ、ちょっとクラス委員のことでね」
「クラス委員?」
「そ。近々体育祭があるでしょ? だから、クラスの生徒がどの種目に参加するかを配られた紙に書いて、提出しないといけないのよ。たしか、今日の五、六時間目を使ってやるんじゃなかったかしら?」
「へぇ、二時間も使うんだ?」
「まあ、それなりに制限を設けられている場合もあるからね」
「制限か。やっぱり、部活動とかか?」
「ええ、そうね。例えば、スウェーデンリレーなんかは、運動部に所属している生徒は、100メートルか、200メートルでしか走れないのよ」
まあ、そうしないと、公平にならないもんね。
「でも、そうなると、短距離が得意な人が出たら、結構不利じゃない?」
「別に、言うほど問題ないとは思うわよ。だって、あとの二人が挽回すればいいもの」
「なるほど?」
わからないでもないけど、最初で稼ぎたい! って思うクラスなんかは、確実に最初に入れてくると思う。でも、何が起こるかわからない面もあるし、それに、運動部の人とかが活躍する場でもあるからね。
「でもまあ、運動部所属していなくても、運動が得意な人がいるからね、そこが問題みたいよ」
「そりゃそうだな。例えば、依桜が参加できる種目に全部参加したとしたら、確実に全部一位をかっさらっていきそうだからな」
「ひ、否定できない」
この世界の人と比べて、ボクの身体能力は異常。
仮に、この世界で一番強い人がいたとして、その人にボクが負ける、となると、ハロパの時のボクでなければ、ほとんど実現しない。
しかもあの状態だと、魔力量も減ってしまうので、身体強化を本気でかけたとしても、今のボクの……大体、六割くらいにしかならない。
もし、その状態で異世界を生き抜こうと思ったのなら、ボクは魔王軍の四天王で負けてる。
ただ、あくまでも、元の身体能力より低くなっているだけで、どういうわけか、昨日のような亜人族の姿になると、微妙に俊敏性、嗅覚が向上していた気がするので、一概にも言えない。
もしも、ボクが対等に競技をやるのであれば、力を抑える魔道具が必要になってくる。
それに、ボク一人で全部やっちゃったら、つまらないもん。ほかの人たちが。
「だから、学園側は、体力測定を基に、運動部に所属してないけど、運動は得意、みたいな生徒にハンデや出場制限を設けることにしたみたいよ」
「なるほど。それだったら、依桜が暴れまわる、なんてことにならないわけか」
「そんな、人を馬みたいに……」
「だが、事実だろ?」
「ま、まあ、結果的に暴れることになる……と、思うけど……」
「まあ、そんなわけよ。まったく、なんで私がクラス委員なんだか……」
「未果、昔からしっかりしてたし、小学生の頃から学級委員とかやってたもん」
「そうだけど……なんかこう、貧乏くじを引かされてる気分なのよね」
釈然としない様子で言う未果。
「ま、クラス委員とかは、ほとんどクラスの雑用みたいなものだからな」
たしかに。
ある意味、クラス内から決める生贄みたいだよね。
たった三年しかない内の貴重な時間を削るわけだから、面倒くさがってほとんどの人はやらないよね。
「第一、私、自分からやりたいとか言ったことないわよ。全部、くじ引きで決まってたし」
「本当に貧乏くじ引いてるな」
「ほんとよ。ま、やりがいのある仕事だからいいとは思ってるけど」
「ならいいんじゃないの?」
「少なくとも、九月までは、ね」
ふっと、遠くを見つめだした。
その顔には、諦念がありありと見えていた。
「依桜が美少女になってからというもの、やたらとクラス委員の仕事を押し付けられるようになった気がするのよ。主に先生から」
「え、なんで?」
「概ね、依桜があまりにも可愛いものだから、ぜひお近づきに! ってことなんじゃないの? ……そのおかげで、明らかに、『クラス委員の仕事じゃないでしょ!』って言う物までやらされ始めたし……。それで、依桜に言い寄ろうとする教師を止めるために、色々と裏で、ね……ふふ、私って、不憫よね」
「ご、ごめんね未果! 未果がそんなことをしてくれてたなんて……」
「いいのよ……私たち、幼馴染、でしょ?」
ああ、目が死んでる!
完全にこれ、疲れたよパト〇ッシュの心情になってそうだよ!
というか、ボクの幼馴染病みすぎてない!?
しかも、どっちもボクが関わっているがための状況だから、本当に心が痛い!
「み、未果、あ、あのね? 何か困ったことがあったら、何でも言って? ね?」
何でも、と言ったのが間違いだったのかもしれない。
その言葉を聞いた瞬間、未果がボクの肩をガッと強くつかんできた。
……ちょっと痛い。
「今、なんでもって言った?」
「え、う、うん……。ボクのせいで、迷惑かけちゃってたみたいだし……」
「そっかそっか。さすが依桜ね! よかったぁ、これでうちのクラスの方は問題なくなりそう!」
なぜだろう、すごく嫌な予感がする。
この感じは、学園祭の時にも聞いた気がする。
たしか……ミス・ミスターコンテストに関することで。
……まさか、ね。
「依桜、お前、大丈夫か?」
「み、未果だし、変なことは頼まない、と、思……いたいなぁ」
「願望だろ、それ。……まあ、変なことにはならないと思うぞ、俺も」
「だ、だよ、ね?」
未果は、たまにとんでもないことをしたり、頼んできたりするので、絶対に安心! とは言えないのが何とも言えない。
楽しいことが大好きな未果らしいと言えばらしいんだけど……。
「おっはよー!」
「おーっす……」
「あ、二人とも、おはよ……う!?」
態徒と女委がきたので、挨拶を返しながら振り向き、ボクはびっくりした。
「た、態徒、大丈夫!?」
「へ、へへっ……も、問題ない、ぜ」
「いやいやいや! 明らかに大丈夫じゃないよね!?」
大丈夫と言う態徒だったけど、どう見ても大丈夫じゃない。
顔に青あざを作り、少なくとも見えている範囲で包帯やら絆創膏やらを巻いたり、着けたりしている時点で、全然大丈夫には見えない。
「昨日あれ、やっぱりだめだったのね?」
「き、昨日のあれ?」
「依桜も見てただろ? 態徒がほぼ全生徒から追いかけ回されたてたところ」
「う、うん、見てたけど……」
たしか、最後に断末魔を上げていたよね?
あの後すぐに、ボクがヒールをかけて回復を促したけど。
「ケモロリっ娘に介抱されるとか許せねぇ! とか言って、あの後暴徒と化しちゃったんだよ」
「なんで!?」
「可愛い女の子に構われていたからじゃない? 依桜がこの学園で深く関わっているのなんて、私たちくらいのものだし」
「た、たしかにそうだけど」
それは、中学生の頃から、って言う部分もあるし、ね?
別に、ほかの人と話さなかったり、遊んだりしない、って言うわけじゃない。
でも、結局、いつもの四人の方が楽しい、って言う結論に行きついちゃって……。
それに、高校生くらいになると、大体普段の生活とか、そのグループで固定されがちだもん。
「それに、いつの間にか依桜のファンクラブまで来てるって話よ?」
「なんで!? なんで、芸能人でもなんでもない、普通の高校生のボクにそんなものができてるの!?」
「ほら、マンガやアニメでよくあることじゃん? 美少女にはファンクラブが作られてることが多いって」
「それはマンガやアニメの話! これは現実です!」
「まあでも、そのファンクラブのおかげで、最近依桜に告白する生徒が減ったのだけど」
「な、なんで!?」
「依桜に告白すると……ファンクラブの人間に粛清されるらしいからな」
「物騒過ぎない!? なんで、告白したくらいで、粛清されちゃってるの!?」
「ちなみに、俺と態徒は、ファンクラブのブラックリストに登録されてるらしい」
「ごめんね! 本当にごめんね!」
顔から表情が消えた晶に、必死に謝る。
本当に申し訳ないんだけど。
少なくとも、九月から、色々と迷惑を振りまいてる気がする。
「た、態徒もごめんね……」
「い、いいってことよ……」
あ、これ相当重症だ!
こ、こういう時どうすれば……あ、そうだ!
「た、態徒、今度一緒に遊びに行かない?」
「………………なに?」
「そ、その、ボクのせいで色々と酷い目に遭ったみたいだし、二人で遊びに行かないかなーって」
「マジ!? ってことはあれか? い、いわゆる、デートってやつか!?」
「ふぇ!? え、えとえと……は、傍から見たらそうなる、と思うけど……」
「よっしゃぁああああああああああ!」
「ひゃっ」
さっきまでのボロボロな状態は何だったんだろう、と言わんばかりに、態徒は復活。
そして、まるで『我が生涯に一片の悔いなし』って言っているかのように、天に手を突き出し、喜びの声を上げていた。
それと同時に、ボクたち以外のクラスのみんなが態徒に対し、
『チッ……あの野郎、男女とデートだとっ?』
『許せん……許せんぞ!』
『おい、ファンクラブ全員に連絡しろ! 何としてでも、奴に本懐を遂げさせるな!』
『い、依桜ちゃんが変態の毒牙にっ……!』
『何としてでも、阻止しないと!』
『変態がデートに誘われるとか、天変地異だろ!』
酷い言いようだった。
日頃の行いって、こういう場面で出てくるんだね。
多分、晶だったらここまで悪し様に言われることはなかったんだろうけど……恐るべし、態徒。
……と言うかこれ、結局態徒に余計な迷惑をかけただけなんじゃ……?
「た、態徒、みんなが態徒を殺意の死線で見てるんだけど……」
「ふっ、依桜とデートができるなら……たとえ、隕石が降ってこようが、地割れが起きようが、殺意の衝動に駆られたファンクラブ会員に夜道を襲われたとしても、本望だ」
な、なんて揺るぎない覚悟。
ここまでくると、態徒の喜びのレベルが限界突破しているとわかる。
……たった一日遊ぶだけで、ここまで喜べて、死を覚悟するって、高校生が経験することじゃないと思うんだけどね。
この後、態徒が『校舎裏な』と言われて、校舎裏に連れて行かれそうになったけど、ボクが何とか説得し、事なきを得た。
……ファンクラブの人が怖いです。
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