第74話 依桜ちゃんとハロパ5
「カードを貰っていない生徒はいるか? ……よし、いないな。それじゃあ、ビンゴ大会始めるぞ!」
『Yeahhhhhhhhhhhhhhhhhhhhッッッ!!!』
結局同じ歓声だった。
いや、うん。使いやすいんだろうね、これ。
結構応用利くもん。
「はい、それじゃあまずは、景品からだ。景品は全部で三十」
学園長先生が景品について言うと、ガラガラと様々な景品が乗せられた台が運ばれていた。
三十って……何それ多くない!?
いや、でも、生徒の人数を考えたらそれくらい、なのかな?
一クラス人数が四十人で、人学年に付き七クラス。
だから、生徒総数は……八百四十人か。
うーん、それなら普通、だね。
「ただし、三十あると言っても、いくつか被っている物もあるので、そのあたりは留意しておくように」
あ、ほんとだ。
運ばれてきた景品を見ると、いくつか同じようなものがあった。
景品は何があるのかな?
ボクたちがいるのは、講堂の真ん中くらいなので、そこそこ離れている。
でも、そこは異世界で鍛えた視力。
さらに、身体強化を目にだけ使用し、さらに視力アップ!
これで見える……と思ったところで、問題が発生。
「み、みえない……」
ボクよりも身長が高い人しかいないので、ステージが全く見えない。
ぴょんぴょん跳ねても、やっぱり見えない。
一応、ある程度力を出してジャンプすれば見えるんだろうけど、それをしちゃうと、その……ミニスカートなので、パンツが見えちゃいそうでできない……。
し、しかたない。
「あ、あきら……」
「ん、どうした?」
くいくいと、ズボンを引っ張って晶に声をかける。
「じ、じつは、その……す、ステージがみえないの……」
「あ、ああ、そうか」
申し訳なく思いながら晶に事情を言うと、なぜか顔を赤くして微妙に言葉が詰まっていた。
どうしたのかな?
「つまり、見えるようにしてほしい、ってことか?」
「う、うん」
「ん、わかった。なら――」
「ふぇ?」
脇下から手を入れられて、持ちあげられた。
わ、わわわわわ!
「あ、あきら!?」
「どうした?」
「な、なななななんでこのかっこうなの!?」
「なんでと言われてもな……見えるようにしてほしいというから、こうして持ち上げただけだぞ? にしても、軽いな」
「も、もちあげるんじゃなくて、ふつうにまえのひとにいうだけでいいんだよっ!」
「いや、さすがにこうも周囲が熱狂していると、邪魔するのも気が引けてな……まあ、外見だけなら、年相応に見えるからいいんじゃないか?」
「ちがうよ! ボク、じゅうろくさい! しょうがくせいじゃないよっ!」
え? 十六歳じゃないって? いや、あの……こっちの世界だと十六歳なので、じ、実年齢は気にしないでください。
「いや、その見た目で言われてもな……」
「うぐっ」
晶の冷静な切り返しに反論できない……。
た、たしかに外見だけ見たらそうかもしれないけど。
「で、でも、ボクじゅうろくさいだし……」
「ま、大人しくしてろ。な?」
「あ、あぅ……わ、わかったよ……」
は、恥ずかしい……。
まさかこの歳になって、抱っこされるなんて……。
今はそれが似合う外見だからいいけど、逆にそれが複雑だよぉ……。
……う、ううん。今は悲嘆している場合じゃない。
せ、せっかく見えるようになったんだから、どんな景品があるか見ないと。
ええっと?
PO4(プレイアウト4)に、幻天堂Buttonに、あ、あの時の温泉旅館もある。それ以外にも、ゲーミングPCだったり、以前、ボクが碧さんからもらったあのフリーパスもある。ほかに目立つものは、薄型テレビとか、図書カード一万円分とかがある。
そういえば、ボクたちが旅行で言ったあの旅館って、実はそこそこ値段が高かった。
一人につき、一泊七万くらい。
それを七人分なので、四十九万円かかっていたことになる。
……美天商店街って色々とおかしいような……?
どうやって用意したのか気になるところではあるけど、なんか真実を知るのがこわいから、忘れよう。うん。
「あ、あきら、ありがとう。もういいよ」
「そうか。よっと」
「ありがとう、あきら」
「いいんだよ。また困ったら言ってくれ」
「うん」
そっと下ろしてくれた晶に感謝して、ボクは再び学園長先生の言葉に耳を傾ける。
『――とまあ、景品はこれくらいだ。そして、特賞として……ケモロリっ娘ちゃんの手料理!』
『おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!』
だからなんで、ボクの料理だけでそんなに歓声が上がるの!?
材料普通、味普通、見た目も普通と、普通が三拍子そろった料理に、なんでそこまテンションを高くできるのかボクには分からない。
「ちなみにこちら、量的には二十人前と言ったところか。ふむ……よし、こうしよう。これからビンゴをするわけだが、見事ビンゴになった人には、クジを一度引いてもらう。クジはもうすでに用意されている」
あれ、なんですでに用意されてるの?
ボク、料理を作ってきたこと学園長先生に言ってないよね!?
……はっ、もしかして、学園の至る所に配置されている監視カメラ!?
正直、ボクだけじゃなくて、この作品を読んでいる人とか、絶対忘れてるよ! 作者さんだって、ナチュラルに忘れてたもん!
そもそも、学園祭の二日目に、ボクが屋上に行ったときとか、明らかにタイミングが良すぎたもん!
……その内、あの監視カメラは壊しておこう。
ボクの能力、スキルをフル活用して、絶対に。
「よーし、じゃあ、始めるぞ!」
と、学園長先生が開始の合図をした瞬間、ゴゴゴゴゴゴゴッ! と講堂が揺れ始めた。
それと同時に、講堂内の照明がすべて消えた。
「地震かしら?」
「た、たぶんちがうとおもう……って、なにあれ?」
ステージから、何かがせりあがってきた。
……もしかして、ここの講堂のステージって、よくあるライブステージとかにありがちな、地面が開いて、そこから人が! っていう仕掛けが施されてたり?
……してそうだよね。あの学園長先生のことだし……。
そのステージからせりあがってきた何かがガコンッという音を立てながら、姿を現した。
それは……巨大な、ビンゴ用の抽選機だった!
って、大きすぎない!?
文章だけで、絵がないからあれだけど、あれは大きすぎるよ!
少なくとも、高さが9メートルくらいあるよ!? 中に入ってる玉とか、一メートまでは行かないけど、数十センチはるあるよ!?
あんなもの、どこから調達してきたのあの人!?
「さあさあ、まずは最初に一回目!」
ドゥルルルルルルッ……という、よく聴くようなドラムロールが講堂に流れ、ジャンッという音共に、立体ホログラムに数字が書かれた球が映し出され……って、ちょっと待って!? あの立体ホログラム、明らかにフィルムとか板がないんだけど!?
あ、あれ!? あの技術ってまだ実現していなかった気がするんだけど!
どうやって、空中に投影してるの!?
「さあさあ、最初の数字は、1! あった人は、ちゃんと穴を開けておくように!」
「あった」
「お、あった」
「わたしも~」
「私はないわね」
「くっ、オレもねえ」
最初の一回目は、ボク、晶、女委の三人のカードに穴が一つ開いた。
というか、誰も何も気にしてないんだけど、あの立体ホログラムの異常性に気が付いてほしいんだけど!
もしかして、ああいうものだって勘違いしてたりする……?
……多分そうだよね。
そもそも、ホログラムって、空中に投影してるんじゃなくて、特殊なフィルムや、プラスチックの板に立体画像を映しているんだよね。
あとは、初〇ミクのライブや、某夢の国のライド型お化け屋敷なんかに使われているのは、光の反射を利用したもの。
ライブなんかだとわかりやすいのが、観客席とステージの間にハーフスクリーンっていうガラスと、床面から照射される投影機を用いて、あたかもそのステージにいるように見せかけているとか。これは最近だと、アイドルや、アニメキャラクター、VTuberなどで使われていたり。
ほかにも、水蒸気を用いたものや、網膜ディスプレイっていう物があったりするんだけど……水蒸気の場合は、水蒸気を霧のように吹きだし、それをスクリーンの代わりとして使うもの。それに、あれは見る方向によっては綺麗に映らなかったり、そもそも立体映像ではない、って言われているから確実に違う。
となると、あとは網膜ディスプレイになるんだけど……あれ、ARヘッドセット、ARグラスっていう物が必要になる。この場にいる人が、誰一人使用していないところを見ると、明らかにこれも違う。
……つまり、今ボクたちの目の前で行われているのは、まだ世界中の人が知らない、最新技術の無駄遣いというわけです。
さ、さすが学園長先生。
楽しむことには、本当に全力……。
多分、今目の前で行わている異常性に、誰一人として気がついてないんだろうなぁ。
だから、テロリストのスパイが入り込んだりするんだろうね、うちの学園。
「さあ、どんどん行くぞー! 次は……72! 72だ!」
「よっしゃ、今度はあったぜ」
「むぅ、今回はないかぁ」
「俺もだ」
「くっ、またしてもない……。依桜は?」
「うん、ボクもあったよ」
二回目は、ボクと態徒の二人。
うん、いい感じかも。
……まあ、ボクの場合、当たりにくければ当たりにくいほど当たるって言う、ある種のチートが備わっているから、ほとんどずるしてるのと変わらない気がする。
その後も、着々と進み、
大体、十二回くらい回したころ。
「31! 31だ!」
「お、リーチだ」
「なんだと? 晶もそこそこ運がいいよな。オレなんて、さっきからほとんど当たってねえよ」
「私もね。うーん、今回でようやく3つか……」
「ふっふっふー、わたしもリーチだよ! しかも、ダブル!」
「すごいな、女委。たった十回そこらでダブルリーチとはな」
「すごいでしょー。それで、依桜君は?」
得意げな女委が、ボクのビンゴの状況について訊いてきた。
ボクは少し俯きながら、
「と……トリプルビンゴ、です」
「「「「マジで!?」」」」
「う、うん……」
こくりと頷きながら、四人にボクのビンゴカードを見せる。
「うっわ、マジだ。なんだこれ? オレ初めて見たぞ!」
「仮にできたとしても、そこそこの回数回すわよ? たしか、トリプルビンゴを出す最低回数は、十二回。しかも、今がちょうどその十二回目。それを引き当てるとか……やっぱり依桜おかしいわよ」
「あ、あは、あははは……」
もう乾いた笑いしか出てこないです。
ボクも、ね。まさか、こんなバカげたカードが出来上がるとは思ってなかったんだよ。
だって、トリプルビンゴだよ!? ダブルならまだわかるけど、これは見たことないよ!
「まあ、とにかく依桜君は宣言しないと」
「う、うん」
「さあ、ビンゴの人はいるかな?」
と、ちょうどいいタイミングで、学園長先生が行動を見渡しながら訊いていた。
「は、はいっ!」
「お、どうやらいたようだ! じゃあ、今宣下した人、ちょっとステージに上がってきて」
そう言われてしまった。
で、ですよね……。
「行って来いよ、依桜」
「う、うん……」
みんなに見送られながら、ボクはステージに登った。
「おお、まさかのケモロリっ娘ちゃん! さ、カードを見せて」
「ど、どうぞ」
おずおずと学園長先生にカードを手渡す。
この人、さっきからケモロリっ娘って言ってるけど、絶対ボクだって気付いてるよね?
気付いている上で、言ってるよね?
「ふむふむ……えっ、と、トリプルビンゴ!?」
『うええええええええええええええええええっっっ!?』
学園長先生の驚愕に引き続き、講堂内にいた人全員が驚愕の声を上げた。
うん、そうなるよね!
そもそも、そんなありえない確率を引き当ててる時点で、色々とおかしいもんね!
「そ、そっかぁ……んー、本来なら、ダブルビンゴになっても、もらえる景品は一つだったんだが……ケモロリっ娘ちゃんには、景品を提供してもらっているので……特別に、二つプレゼントしたいと思うのだが、みんな構わないかな?」
『もちろんだ!』
『ロリには優しく! 二つ上げてもいい!』
『可愛いは正義なので、OKです!』
「だ、そうなので。さあ、二つ選びなさい」
「ほ、ほんとうにいいんですか?」
「もちろんだとも」
「わ、わかりました」
もらえるなら、もらっておこう。うん。
かなりずるをしている気分だけど、せっかくの厚意を無碍にはできないしね……。
断っても、無理矢理押し付けようとしてくるのは間違いないだろうから、ここは素直に。
でも、何にしよう?
テレビは、最近リビングにあったものがボクの部屋に来たんだよね。
だから、テレビは必要ないかな。
うーん……あ、それなら、ゲーム機とかがいいかも。
ボク、基本的にゲームはPCのものをやることが多いけど、家庭用ゲーム機とかあまりなかったし、持っていたとしても、数世代前のものだからなぁ。
それなら、幻天堂Buttonにしよう。
一つは決まったけど、もう一つかぁ……。
うーん、PO4にしてもいいけど、ゲーム機は、それぞれ三つずつしかないし、この後の人たちのことを考えると、どちらももらう、と言うのはやめておこう。
温泉旅行は、前行ったばかりだし、フリーパスもまだ使えるから必要なし……。
うん、図書カードかな。
「それじゃあ、げんてんどうButtonと、としょカードにします」
「わかった。それじゃあ、それはそのまま持って行っていいよ。あ、袋いる?」
「お願いします」
持っていけないことはないけど、今のボクだと、ちょっと大きいので、抱えて歩くことになっちゃう。
そうなると歩きにくいので、学園長先生から袋を貰った。
貰った袋にゲーム機と図書カードを入れて、ボクはみんなのところに戻る。
クジ? 当然辞退しました。ボクが作ったものをボクが当てても、ね?
「よかったな、依桜」
「う、うん。まさか、ふたつもらえるとはおもわなかったけど」
「まあ、依桜は運がいいしね。当然と言えば、当然よね」
「ぼ、ボクてきには、うんがいいとはおもってないけどね」
「よっしゃ、依桜に負けてられねえ! オレも、ビンゴを狙うぞ!」
「わたしもー。個人的には、PCが欲しいし」
「私は……まあ、図書カードかしらね。欲しい本もあるし」
「俺は特にないし、当たったら適当に、かな」
態徒は単純にビンゴになりたいだけで、女委はPCが欲しい、と。未果は、本が欲しいようで、図書カードを。晶は、欲しいものがない。
PC、PCか……。
そう言えば、ミス・ミスターコンテストの優勝賞品の最新型のPCがまだ届いていないんだけど……どうしたんだろ?
うーん……まあ、学園長先生だし、そのあたりはちゃんとしてくれるよね!
……そう、だよね?
この後も、普通に順調にビンゴ大会は進み、未果、女委、晶の三人がビンゴになった。
未果は図書カードを。女委は、PCを。晶は、温泉旅行を貰っていた。
晶に温泉旅行にした理由を聞くと、
「両親にプレゼントしようと思ってな」
親孝行な理由だった。
晶らしいと言うかなんというか……心までイケメンでした。
で、態徒はもう少しなんだけど、って言う状態。
景品の数も、気が付けばあと一つに。
それと、特賞であるボクの料理もどんどんはけていき、こちらもあと一人分に。
つまり、最後にビンゴになった人が貰っていく、ということになる。
ちなみに、誰かが料理を当てていくたびに、『チッ』という舌打ちが講堂内に響いていた。
……そこまで?
「さあ、次だ! 次は……75! ビンゴはいるかな?」
「よっしゃ! ビンゴ!」
とても嬉しそうに、態徒がビンゴと叫んだ。
「おめでとう、態徒」
「おうよ! じゃあ、行ってくるぜ!」
そう言って、大股で態徒がステージに登る。
どうやら、奇跡的にビンゴが被る、なんてことにはならなかったみたい。
よかったね、態徒。
「というわけで、これが最後の景品だ。持って行ってくれ」
そう言って渡されたのは、以外にも、PO4。
なぜか、ゲーム機が残るという珍しいことになっていた。
「よっしゃ、これ欲しかったんだよな」
「うんうん。喜んでもらえて何よりだ。そしてこれが、最後の料理だ」
「ありがとうございます!」
と、態徒が嬉しそうに受け取り、ステージから降りた瞬間、
『変態から料理を奪え―――――――!』
『お――――!』
「ちょ、何だお前ら!?」
いきなり、講堂内にいた人たち全員が、態徒に襲い掛かっていた。
え、なにこれ!?
「な、なんでお前ら置いてかけてくるんだよッ!?」
『うるせえ! てめえ、ケモロリっ娘ちゃんの料理、散々食ってだろ! なら、それいらねえよな!? だから寄越せや!』
「食っててもな、何度でも食いたくなるんだよ! 誰が、お前らなんかにやるか!」
『くっ、オイお前ら! 俺たちで争っている場合じゃねえ! 今は結託して、あいつを半ごろ――倒すんだ!』
「おい! 今半殺しって言いかけてたよな!? つか、なんでこんなはえんだよ!」
必死に景品と料理を持って逃げ回る態徒。
その後ろには、鬼の形相で料理を狙う人たち。
時たま、椅子やテーブルなどを態徒に向かって投げつけている人も現れる。
と、そこはさすが態徒。
「おらぁ!」
持ち前の武術を活かして、飛来してくる椅子やテーブルを壊さないように様々な方向に逸らし続ける。
おお、すごい。
「くそっ、マジでなんでこうなった!?」
うん、それはボクも思うよ、態徒。
「いやぁ、ほんと、うちの学園の生徒は、依桜君が好きだねぇ」
「う、嬉しいような、嬉しくないような……」
「まあいいんじゃない? こうして、面白い光景も見れたし」
「だな。滅多に見れるものではないな。こんな、ライトノベルの主人公みたいな追われ方」
たしかに、と頷いてボクたちは笑いあった。
「ちょ、お前ら笑ってないで、助け――ぎゃあああああああああああああああああああッッッ…………!」
そんな態徒の断末魔で、高校生活最初のハロパは幕を閉じた。
……本当に酷かったです!
来年は、もう少し平穏なハロウィンであることを願います。
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