2-5章 依桜ちゃんたちの夏休み
第393話 林間・臨海学校の説明と部屋決め
気が付けば六月が終わり、七月。
七月に学園に登校するのは、実質的に半月程度。
その半月が終われば夏休み。
六月と言えば、なんだか色々あった気がするよ。
エナちゃんが転校してきたり、美羽さんが来て講演会をしたり。
他にも、みんなでプールに行ったり、職業体験に行ったりと、割と濃かった。
一応、他にもあったんだけど……それはまた、別の機会にかな。
ともあれ、七月。
少しずつ暑くなり始める六月を過ぎ、今年も暑い夏がやってきた。
一度外に出れば、ジジジジ――というセミの鳴き声も聴こえてくるし、日本特有のじめっとした暑さが体を包む。
そんな暑い中学園に行くものだから、人によってはかなり辛いと思う。
だって、途中坂とかあるしね。
個人的に、メルたちが心配。
そこで考えたのが、歩いている最中に、ボクがこっそり風魔法を使って、涼しくするという方法。扇風機より涼しいし、うまくやると温度や湿度まで調節可能なので、意外と夏場は重宝されていました、向こうの世界。
快適に登校させてあげるのも、お姉ちゃんとして当たり前。
これで熱中症になったらさすがに嫌だもん。
暑さを乗り越えつつ、学園へ登校する毎日を過ごしていると、登校残り一週間となった。
そんな、残り一週間の頭、月曜日のこと。
「えー、お前たちも知っての通り、今年は林間・臨海学校が例年通りあり、来週――つまり、夏休み頭に開かれる」
戸隠先生が五時間目のHRでそう言うと、目に見えてクラスのみんなが楽しそうに話し始める。
「まだ話は終わってないからな。……で、お前たちは今年が初参加だ。生憎と、去年は土砂災害やらなんやらで行けなかったが、今年は問題ない。そこで、今日は事前にアンケートを取ることになっている。まあ、要は林間と臨海、どっちに行くか、みたいなあれだ。とは言っても、この行事は三泊四日で、二泊目は普通に今日選んだ方だが、三泊目は入れ替わるんで、あんまり意味はないような気がするな。つまり、好物を先に取るか、後に取っておくか、みたいな感じだろう。今から紙を配るんで、どちらに先に行くかを書いて提出してくれ。ああ、先に言うが、あまりにも片方に偏っていた場合は、抽選になるんで、気をつけるように。そんじゃ、配るぞ」
いつものように、若干のけだるげさを見せながらも、戸隠先生が用紙を配り始める。
前から回って来た紙を受け取り考える。
うーん、どうしようか。
林間学校がいいか、臨海学校がいいか……。
でも結局、両方ともやるみたいだし、先にどっちへ行くか、だよね。
ここは、山と海、どっちが好きかで考えよう。
山……と言うより、自然豊かな場所には、異世界で散々行った。
反対に海はあまり行っていない記憶が。
もちろん、どちらとも好き。
じゃあ、どうするか。
それは、戸隠先生が言っていたように、好きなものを先に取るか、後に取るかで考えると……ボクとしては、林間学校を後にしたい。
だって、師匠と暮らしたあの一年のおかげで、すごく馴染むんだもん、山や森と言った場所は。
それに、向こうの滞在のおかげで、こっちの世界の森や山なんかは、大して脅威じゃなくなってるからね。蜂に刺されても、そもそも『毒耐性』があるから、蜂が無駄死にするだけだし。
さすがに蜂が可哀そうだから、避けるつもりだけど。
海の方は、なんとなくです。
やる内容がどういったものなのかはわからないけど、基本的に海に行った際の救護の練習とか、単純に海で遊んだりするだけなんじゃないかな? わからないけど。
うん。じゃあ、臨海学校にしよう。
「よーし、じゃあ回収するから、後ろから回してくれ」
後ろから回収し、用紙を回収し終えてもまだ時間がある。
「それじゃ、今から林間・臨海学校について軽く説明していく。その前にパンフレットも配布するんで、それを見ながら聞いてくれ」
そう言うと、今度はパンフレットを配り始めた。
しおりじゃなくて、パンフレットなんだ。
「ん、配り終えたな。それじゃあ説明だ。林間・臨海学校では、主に自然を学ぶという名目で行われる行事だ。と言っても、自然を学ぶと言うのは建前で、実際は色んな奴と交流を持って、目一杯遊ぶ、みたいなもんだがな」
教師が言っていいことなのかな、それ。
ちょっと苦笑い。
「ただ一つ注意点だ。この学園の林間・臨海学校はやや特殊でな。どちらとも、昼飯は自前で用意だ」
『先生。それって、自分で弁当とかを用意ってことですか?』
「いい質問だ。その質問の回答としちゃ、答えはNOだ。というか、弁当とか作って行っても腐るだろ。夏なんだから」
たしかに。
でもボク、『アイテムボックス』があるから腐らせる心配はないんだよね。
いや、使わないけど。
「ここでいう自前、と言うのは、言ってしまえば、現地調達、と言う意味だ」
その瞬間、クラスのみんなの頭にハテナが浮かんだ。
ボクはなんとなく理解。
……そういう生活をしていたもので。
「つまりだ。臨海学校では、海で魚を釣ったり、貝を獲ったりし、林間学校では山で山菜を取ったり、渓流があるんで、そこで魚を釣ったり、だな。我こそは、とかいう馬鹿――もとい、阿呆――もとい、勇気ある奴は、野生の猪を狩って捌いてもいいがな。もちろん、勧めんぞ、私は」
先生の言い方に、クラス内が笑いに包まれる。
猪、いるんだ。
「ただ、熊はやめておけよ。一応、あそこには熊がいるんだが、下手すると喰われる」
笑いが止まった。
熊、いるんだ。
…………あれ? そう言えば今年行く場所って、スキー教室に行った場所、だよね?
となると、あの時であった熊さんにも会えるはず!
ちょっと楽しみになって来た。
「まあ、そんなわけだ。万が一、材料が集められなかったら救済措置もあるんで、少なくとも食えない、なんてことにはならないから安心しろ。どっちかと言えば、林間学校が割と大変かもしれないが、まあ大丈夫だろう。あと、さっき言い忘れたんだが、自前で用意するのは、二日目と三日目だけで、初日と最終日はそう言ったものは無いんで、四日通して疲労が馬鹿みたいに溜まる、なんてことはないからな」
そう言うと、クラスのみんなが安心したような表情を浮かべた。
それから、軽くパンフレットに沿って説明をして行く戸隠先生。
一日目、朝の七時半に学園に集合して、そのままバスで移動。
大体十時半くらいに到着して、お昼に定番のカレー作り。
それが終わったら、自由時間。
ちなみに、この時泊る場所は、スキー教室で宿泊した旅館らしいです。
あそこの旅館、気に入ってるので普通に嬉しい。
ただ、この学園の林間・臨海学校はさん学年全員参加なので、学年ごとで泊まる場所が違うみたいです。
二日目は、今日選択した方(抽選にならなければ)に行き、それに合ったことをするのだとか。
三日目は実質二日目と同じような物なので割愛。ただ、夜辺りの時間帯に、『???』と書かれているものがあるのが気になる。
そして四日目。
四日目は最後、山か海かで再び遊ぶことができるらしくて、一応自由に行き来できるとか。
そうなると、近いのかな。山と海。
その自由時間が終われば、帰宅ということになるそう。
ざっくりとした説明ではあるものの、素直に楽しそうと思える。
「とまあ、こんな感じだ。時間も少しは余ってるんで、部屋とバスの座席決めでもするか」
その瞬間、クラス内がなぜか殺気に包まれた。
な、なに!?
「お前ら、大体の思惑はわかっているが、落ち着け。ともかく、部屋だな。去年、私のクラスだった奴はわかっていると思うが、このクラスの部屋割りはスキー教室の時と同様の分かれ方になる」
となると、女の子の部屋は、五人部屋が三部屋で、六人部屋が一部屋っていうことになって、男子の方は五人部屋が四部屋になるのかな?
このクラス、エナちゃんが転校してきたことによって、四十人じゃなくて、四十一人になってるもん。
まあ、男子の方は特に変化ないよね。
「と、本来ならば言うだろう。しかし、だ。正直あたしは思った。先月に転校してきた御庭がいる以上、何かと問題が起きそうだなと」
なるほど。たしかに、エナちゃんはアイドルだし、同性人気も高いって聞いたことがある。
そうなると、同じ部屋になった女の子が暴走して、色々と大変なことになりそうだよね。
「さらに、うちのクラスには核爆弾的存在の、男女がいる」
え、なんか唐突に飛び火したんだけど!
核爆弾って何!?
「で、いっそのこと問題が起きそうだと言うのならば、男女と御庭は同じ部屋割にして、そこに椎崎と腐島をぶち込んでしまうかと」
「先生、それって厄介払いに聞こえるんですが」
「椎崎。聞こえる、じゃない。実際にそう言っているんだ」
尚酷いよ!
「先生、そうなると、わたしたちは強制的に決まりって言うことですかねー?」
「その通りだぞ、腐島。一応、あと一人余りがあるんだが……下手に一人入れたら、そいつが死ぬ、もしくは殺されそうでな」
そんなことしないよ!?
内心そんなツッコミを入れたんだけど、周囲を見ればみんな(エナちゃん除く)が納得顔をしていた。一体、どこに納得をしたんだろう……?
「だから、男女たちの部屋はこの四人だけにしてしまおうと。よかったな。決める手間が省けたぞ」
むしろ、選ぶ自由が奪われたような……。
まあ、別にいいんだけどね。未果たちと一緒で。
だって、一番一緒に行って落ちつく人たちだし、すごく楽しいから。
「というわけで、私はくじを作った。これに合わせて、残ったやつは部屋割を決めろ。ああ、先に言うとだ。今回女子の部屋割は、五人部屋が二つ六人部屋が二つになった。まあ、実質四人部屋が一つあるようなもんだが。おし、くじ引け」
最後は投げやりな感じになっていた。
部屋決めが終われば、今度は座席を決める作業。
こちらもくじ引きとなり、その結果、
「おー、ものの見事に態徒君だけ外れたねぇ」
「畜生っ!」
「……なあ、俺に対する視線が半端ないんだが」
「諦めなさい、晶。こうなってしまったものは仕方ないわ」
「そうだぜ、晶君! ここはハーレムになったと考えるのさ!」
「晶君、大変だね」
「あ、あははは……」
ボク、未果、女委、エナちゃん、晶の五人は、バスの一番後ろの座席になった。
晶だけが唯一男子、という状況に、晶はすごく苦い顔をしていた。
だって、敵意の籠った視線が晶に集中しているんだもん。
そうなるよね。
ちなみに、態徒はボクたちの一つ前の座席になりました。
「まさか、転校して来てそう時間が経たない内にこういう行事があるなんて思っても見なかったな! すっごく楽しみ!」
「そうだね。いい思い出になるといいね、エナちゃん」
「うん!」
相変わらず爛漫とした笑みを浮かべるエナちゃん。
なんだか、こっちが嬉しくなるような笑みだよ。
そんな感じで、林間・臨海学校に関する説明や、部屋決めなどが終わった。
ボクも楽しみだなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます