第394話 一学期終業式
終業式当日。
長いようで短かった一学期は今日でお終い。
まあ、本当に長かった気がするんだけどね……。
その最終日と言えば、終業式をして教室に戻ったら、来週の月曜日にある林間・臨海学校の最終確認のようなこと。
と言っても、持ち物の確認だけなんだけど。
「とりあえず、重要な物をお前たちに言っておく。水着、筆記用具、着替え。一番重要なのはこの三つだろう」
うーん、なんでその三つ?
もっと言うことがあるような……。
「一応、風呂に関する物は別に持ってこなくも問題はないが、まあ、あった方がいいだろう。待つのも嫌だろ? それから、スキー教室の時、どっかの馬鹿共が覗きをしたという報告があったんで、色々と対策したそうだ」
そう言いながら、何人かの男子を笑顔で睨む戸隠先生。
目が笑ってない……というか、あの件、知ってたの? 一体、どこからの情報なんだろう。
睨まれた男子たち(態徒も含め)は、一瞬肩をビクッとさせた後、そーっと視線を逸らした。自分たちが悪いです。
でも、対策って何したんだろう?
「次、必要なもんは色々と書いてあると思うが、半数くらいの奴らは懐中電灯を持ってこい。三日目に使う場面があるからな。でないと、色々と困りそうなんで」
どうして懐中電灯?
いまいち使いどころがない物だよね? それ。
うーん?
「それから注意点。山には、熊や猪、蜂と言った危険生物がいて、海には鮫やクラゲなんかもいるから、その辺りは注意するように。対処法なんかはパンフレットにも書いてあるから、しっかり確認しておけよー」
ボク的にはあまり困らない、危険生物のラインナップ。
熊さんは友達だし、猪は躱せるし、蜂は毒耐性で効かない。クラゲも大丈夫。鮫は……多分大丈夫だと思います。
人を襲う鮫って、実は数種類しかいないって言う話だからね。
まあ、その少ない種類の鮫が襲ってきたら、どうにかするけど。
「それから、非日常的なことをするからと言って、変に迷惑はかけるな。特に、男女」
「え、なんでボクなんですか!?」
「なんでって……普段、何のかんの言って、一番問題を起こし、騒動の中心にいるのはお前だからに決まってるだろう?」
「うっ、は、反論できません……」
今までの事を考えると特に。
でも、ボク自身は決して問題を起こそうとは思っていないし、なぜか気づいたら騒動が起きているだけで、ボクは悪くないような……。
「それから、御庭も気を付けろよ。一応、道中パーキングエリアに寄ったり、土産屋にも行ったりするからな。なるべく、複数人で行動しろよ」
「はーい!」
……なんだろう、すごく釈然としない。
「……よし、確認はこんなところだろう。それじゃあ、今日は終わりにするぞ。来週、土壇場で欠席とか遅刻とかするなよ? こう言う行事に行けないのはただただ苦痛だからな。じゃ、これで終わりだ。また来週な」
そう言うと、戸隠先生は教室を出て行った。
うーん、最後まで投げやり。
みんな慣れたのか、いそいそと帰り支度をしている。
さて、ボクも帰ろうかな。
「あ、依桜」
「何? 未果」
帰り支度をしていると、不意に未果に話しかけられた。
「例によって、買い物に行くんだけど、依桜も行く?」
「買い物? ショッピングモール?」
「そうよ。ちょっと必要な物が出て来てね。行かないなら別にいいけど」
「ううん、行くよ。ボクもちょっと、見ておきたいし」
「了解。恵菜は行く?」
「もっちろん!」
「ま、そうよね」
ふっと笑う未果。
エナちゃんが転校して来てから、ボクたちと一緒に行動するのが基本となっていた。
というより、馴染んだ、に近いかも。
転校してきた日には、LINNのグループにも入ったしね。
「それで、晶たちは?」
「今回は全員参加よ」
「あ、珍しいね」
「そうね。じゃ、行きましょ。早めに終わらせたいし」
「うん。エナちゃん、行こ」
「うん!」
というわけで、行事前の恒例的な行動になった、ショッピングモールでの買い物となりました。
「なんか、視線ヤバくね?」
ショッピングモールに着くなり、態徒がそう呟く。
それを肯定するように、他のみんなも軽く頷く。
「あははー、なんかごめんね?」
「いや、気にするな。人気アイドルの宿命、みたいなものだろう」
「そう言ってくれるとありがたいな」
やや申し訳なさそうに謝っていたエナちゃんだけど、晶の言葉に笑顔になる。
お分りの通り、原因はエナちゃん。
エナちゃんは大人気アイドル。
知名度が高いアイドルで、よくバラエティー番組にも出演しているため、その顔を知っている人は多い。
そのため、こう言った人が多い場所に来れば注目されるわけで……
『な、なああれ、エナじゃね?』
『マジかよ! 本物じゃん!』
『最近、この辺りでよく見かけるって呟きがあったけど、マジだったのかよ』
『ってか、エナと一緒にいるあの銀髪の娘、女神様じゃね?』
『なんて素晴らしい絵図……!』
「なんか、依桜にまで視線が行ってるわね」
「あ、あはははは……」
ニヤニヤとした笑みを浮かべながら話す未果に、ボクは乾いた笑いしか返せなかった。
「まあ、依桜君だもんねぇ。今じゃ、日本だけじゃなくて、世界の方でも軽く知れ渡り始めてるみたいだし」
「え、ちょっと待って!? それどういうこと!?」
「どういうことと言われてもねぇ。言葉通りの意味さ! 依桜君って、ネット上でちょくちょく話題にってたじゃん?」
「ネット上どころか、テレビでも話題になってね?」
「す、好きで話題になってるわけじゃないもん……」
むしろ、あまり目立ちたくないんだけど、ボク。
……なのに、なぜか目立ってしまう状況。
ボクの自業自得な場面もあるけど、ほとんどはやむを得ず目立っちゃう、って言う場面が多いんだよね……。
「で、それが日本大好き! な人たちが依桜君の写真を見つけた瞬間『What the hell is this girl? It's too cute! She's a goddess!』みたいなコメントが多く付いたみたいでね。おかげで、拡散に次ぐ拡散! って感じかな?」
「わー、女委ちゃんの英語流暢だね!」
そこじゃないと思う、エナちゃん。
「な、なあ、今言った女委の英語って、一体何って言ってるんだ?」
「今女委が言った英語は『何だこの少女は! 可愛すぎる! まさに女神だ!』って言ってるのよ。まあ、ちょっと違うかもしれないけど、アレンジってことにしといて」
「なるほどなぁ……ってか、依桜は海外でも同じこと言われるのな」
「……ボク、なんで女神扱いされるんだろう?」
そこがわからないよ……。
たしかに、一般人とは呼べないかもしれないけど、それでもまだ日常面で言ったら逸脱はしていないはず……。
「依桜ちゃんが可愛いし綺麗だからじゃないかな?」
「と言うより、それ以外ないわよね?」
「「「それな」」」
「……ボクの銀髪碧眼が珍しいだけで、そうでもないと思うんだけどなぁ……」
なんで、ここまでもてはやされているのかがわからない……。
そう言ったら、なぜかみんなが微妙な顔をしていた。
軽くお買い物を済ませたら、フードコートでちょっと休憩。
「そういや、オレら照らし合わせてもいないのに、よくもまあ、同じになったよな」
みんなでそれぞれ買ってきた物を食べたり飲んだりしていると、不意に態徒がそんなことを言う。
「そうだな。まさか、全員臨海学校を選んでいるとは思わなかったよ、俺も」
「たしかに。わたしたち、高校生になってから、よく一緒になってるよね。これはあれかな? 運命って奴?」
「やめてよ女委。晶はともかく、態徒といるのも運命みたいな言い方……」
「ちょっ、未果お前、その言い方はいくらオレでも傷つくぞ!?」
未果の悪ノリじみた発言に、態徒が反応した。
「冗談よ、冗談。変態とはいえ、大事な友達だと思ってるわよ。変態とはいえ。ね、みんな?」
「そうだな。態徒は変態だが、大事な友人だな。変態だが」
「だね~。変態だけど、友達だと思ってるよ、態徒君のこと! 変態だけどね!」
「うちも、態徒君のことは変態さんだとは思ってるけど、いいお友達だと思ってるよ! 変態さんだけど!」
「みんな、変態言いすぎだよ。でも、たしかに態徒は変態だけど、大事な友達だよね。とっても変態だけど」
「お前ら人のことを変態変態言うなよ!? マジで傷つくぞ!? ってか、女委にだけは言われたかねえよ!」
「にゃはは!」
ある意味、いつもの光景。
ボクたちのグループの中で、態徒が一番いじられてる気がする。
いじってて楽しいもんね、態徒って。
反応がいいからかな?
それと、しれっとエナちゃんも混じっている辺り、本当にボクたちに馴染んだね、エナちゃん。
「畜生、オレばっか集中砲火を喰らうとか、マジで釈然としねぇ……。晶とオレの差ってなんだ……」
「「「「変態かどうかの違い(じゃないかな)(じゃない)(だろ)」」」」
「チキショウ!」
そう叫びながら、態徒がテーブルに突っ伏した。
それを見ながら、ボクたちいは笑っていた。
態徒って、やっぱり面白い。
休憩を終えた後は、再びショッピングモール内を歩く。
歩いている最中、やっぱり視線がすごかった。
それを見ると、エナちゃんって本当に人気があるんだなぁって、実感する。
普段は天真爛漫な可愛い女の子、と言う風な認識でしかないから、なんだかちょっとだけエナちゃんを遠くに感じる時がある。
……まあ、ボクも一応、アイドルと言えば、アイドルなんだけどね。
みんなで歩いている途中、不意にエナちゃんが、
「あ、うちそう言えば買いたいものがあるの忘れてた! ちょっと買いに行ってくるから、待っててもらえるかな?」
「うん、いいよ。気をつけてね」
「ありがとう! じゃあ、ちょっと行ってくるね!」
そう言うと、エナちゃんが小走りくらいの要領で、一時的に離脱していった。
それから十分くらい経過。
未だにエナちゃんが戻ってきていない。
「おかしいわね。すぐに戻るって言ってたんだけど……」
「何かあったんじゃね?」
「んー、どうだろ? エナっちって意外と用心深かったりするし、大丈夫だとは思うんだけどなぁ」
「……普通に考えて、人気アイドルが一人でいる状況ってまずい気がするのは、俺だけか?」
「晶の言う通りかも。ちょっと、気配を探ってみるね」
「お願い」
ボクとしてもちょっと気になったので、『気配感知』でエナちゃんを探す。
……うん? 何だろう? この感情は……苦しい?
それに、周囲に人が大勢……って!
「ちょっとエナちゃんの所に行ってくる!」
「え、あ、依桜!?」
エナちゃんの状態に気づいた瞬間、ボクは走り出していた。
ショッピングモール内を駆ける。
本来なら、走っちゃいけないんだけど、緊急事なので大目に見て欲しいところ。
なるべく急いで走っていると、エナちゃんがいるであろう場所が見えて来た。
『さ、サインください!』
『あ、この野郎、なに割り込んでんだ!』
『うるせぇ! それはお前だろ!』
「う、うぅっ……」
目の前では、大勢の人にもみくちゃにされているエナちゃんがいて、とても苦しそうに顔を歪めていた。
あの人たち、自分のことばかりでエナちゃんに目が行ってない……!
それはダメ! 絶対にダメ!
ボクは走るギアをさらに上げると、集団に近づく。
集団に近づくと、ボクは軽く跳躍して、なんとかエナちゃんの所へ。
「エナちゃん、大丈夫!?」
「い、依桜ちゃん……!」
「ごめんね、ちょっと失礼して!」
「きゃっ」
ボクはエナちゃんの手を掴んで一度集団から出ると、そのままお姫様抱っこをした。
なんだかんだで、一番人を抱えて走りやすいからね。
『あ、待ってくれぇ! まだサインをもらってないんだ!』
『せめて、せめてサインを!』
「むぅっ、ちょっとしつこいなぁ……仕方ない」
「い、依桜ちゃん……」
「あ、大丈夫だよ、エナちゃん。絶対に守ってあげるからね」
にこっと笑ってそう言うと、一気にエナちゃんの顔が赤くなった。
どうしたんだろう?
って、今はそうじゃなくて。
「エナちゃん、しっかり掴まっててね」
「え? それってどういう……」
「ふっ――!」
「ほぇ……? って、きゃああああ!」
ボクはショッピングモールにある吹き抜け部分のガラスの薄い縁に足をかけると、そのまま二階に向かって飛び降りた。
すたっと着地すると、再び走り出し、今度は出口に近い位置の吹き抜け部分から一階に飛び降りた。
『す、すっげえ!』
『何かの映画の撮影!?』
『かっけぇ!』
なんだか、大騒ぎになっちゃってるけど、今はそんなことより、エナちゃんの安全が最優先! 変に目立っちゃっても、必要な犠牲ということで。
……まあ、後々になって、『気配遮断』を使えばよかったと気づかされたけどね。
何はともあれ、ボクはエナちゃんを抱えたまま、一度ショッピングモールを出た。
「ふぅ……エナちゃん、大丈夫?」
ショッピングモールを出て物陰に隠れ、誰も追ってきていないかを確認してからエナちゃんを地面に下ろしてから大丈夫かどうかを尋ねる。
「……(ぽー)」
「エナちゃん?」
顔を赤くさせて、ぼーっとしてるエナちゃんに再び声をかける。
「……え、あ、な、なに? 依桜ちゃん!?」
「あの、大丈夫かな?」
「う、うん大丈夫! かなりドキドキしてるけど、問題ないよ!」
「そ、そっか。ごめんね、事前に何も言わないで飛び降りちゃって。怖かったよね?」
「ううん! むしろ、普通じゃ味わえない出来事を体験出来て、ちょっと楽しかったよ! ……それに、依桜ちゃんがカッコよく助けに来てくれたし……」
「? 何か言った?」
「な、何でもないよ!」
うーん、何か呟いていたような気がするんだけど、気のせいかな。
でも、なんでこんなに顔が赤いんだろう?
「そ、それにしても、何も言わないで出てきちゃったけど、どうしよう?」
「うーん、また戻ってもさっきみたいに追いかけられるだけだと思うし……仕方ないけど、ボクたちは先に帰ろっか」
「……そうだね。むー、みんなには悪いことをしちゃったよ……うちのせいで、こんなことになるなんて」
「自分を責めないで。大丈夫。みんなわかってくれるよ。それに、エナちゃんが一人で行こうとした時に、誰かついて行ってあげればよかったね。こっちこそ、ごめんね」
「い、いいのいいの! 結果的に依桜ちゃんが助けに来てくれたわけだしね! 気にしないで!」
「……そっか。じゃあ、未果たちに連絡しておくから、ボクたちは帰ろう」
「うん!」
そんな感じで、ボクたちは家路に就きました。
未果たちに連絡をしたら、みんな心配してくれていました。本当に、みんないい人たちだよね。
そう言えば一緒に帰っている時、
「依桜ちゃん、腕を組んでもいいかな?」
「腕? 手じゃなくて?」
「う、うん、腕。ダメ、かな?」
「……うん、いいよ」
「やった! ありがとう、依桜ちゃん!」
って言うやり取りがありました。
ボクが了承したら、すごく魅力的な笑顔を浮かべて、ボクの左腕に抱き着いてきた。
ちょっと甘くていい匂いがした。
……なんだか、恋人みたいだなぁ、なんて思ってしまった。
ちなみに、学園の制服姿で飛び降りため、実はちょっとパンツが見えてしまっていたことに、ボクは最後まで気づかなかった……。
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