第204話 スキー教室7
元の場所に戻った後は、お昼を食べて、自由時間となった。
この自由時間は、スキーやスノーボードで自由に滑ってもいいし、別の場所で雪合戦をしたり、雪だるまを作ったり、なんでもあり。
なんでもあり、なんだけど……
「ハハハハハ! どうしたどうしたガキども! このままだと死んじまうぞ!」
『うわああああああああ!』
『きゃああああああああ!』
雪合戦をしている場所では、阿鼻叫喚に包まれていた。
事の始まりは、お昼を食べている時。
二日目のお昼は、お弁当。
旅館の板前さんたちが作った特製のお弁当で、すごく美味しい。
そのお弁当を食べる場所は特に決められておらず、外で食べるもよし、中で食べるもよしとなっていたので、ボクたちは天気が良かったので外で食べることにした。
外と言っても、テラスみたいなものだけど。
「飯、ちゃんと食べてるか?」
みんなでお昼を食べているところに、師匠がやって来た。
いつものタンクトップにホットパンツという、いかにも寒そうな服装ではなく、半袖に黒のコート。それから、ジーンズと言った姿。
これでも十分寒そうなんだけど……。
「はい、食べてますよ」
「そうか。それならいい。ところで、お前たちは午後、何かする予定でもあるのか?」
「いえ、特にはないですけど……」
「なら、雪合戦でもするか?」
と、師匠がボクたちに提案してきた。
「お、いいですね」
「私は賛成」
「わたしもー」
「俺も」
「じゃあ、ボクも」
「よし、決まりだな。たしか、自由行動用に開放されたエリアがあるから、そこでやるか」
「ですね」
というわけで、ボクたちは雪合戦をすることになった。
お昼を食べたら、ボクたちは自由行動用のエリアに。
そこは、スキー場とは違って、起伏がほとんどない、平坦な場所だった。
見れば、ボクたち以外にもここで遊んでいる人たちがいる。
雪だるまを作っていたり、雪合戦をしていたり、様々。
「お、あの辺りが空いているな。あそこでやるぞ」
師匠が言う先には、たしかに開けたような場所があった。
ボクたちはそこへ移動し、雪の壁を作る。
「んで、ルールはどうするか」
「そうだなぁ……二回当たったら脱落、というのは?」
「それでいいか。チーム分けは……まあ、とりあえず、私一人でいい。五人まとめてかかってきな」
「……え、だ、大丈夫なんですか?」
そう尋ねるのは、未果。
たしかに、未果の疑問はわかるけど……。
師匠が一人いるだけで、あと少しで負ける、という戦況すら覆せちゃう存在だから、その心配はいらないんだよね……。
「問題ない。よし、やるぞ」
というわけで、早速やることになったんだけど……。
「はい、まずは一人」
「ぶげら!?」
開始早々、態徒が吹っ飛んだ。
「「「!?」」」
それの光景を見た、ボクを除く三人は、何が起こったのかわからず、硬直した。
「ぼけっとしてると、死ぬぞ」
ビュンッ! という風切り音がしたと思ったら、
「ぐはっ」
今度は晶が倒れた。
「な、何今の!?」
「ちょっ、何が起こったのか何もわからないんだけど!」
立て続けに二人倒れたことで、混乱状態に陥る未果と女委。
ボクは遠い目をした。
いや、うん。
酷いなぁ……師匠。全然手加減してないよ……。
そんな手加減ガン無視の師匠は、雪玉を持って、ぽーんぽーんと投げてはキャッチする、と言うことを繰り返していた。
「い、依桜、今の何?」
「……とんでもない速度で雪玉を投げてるだけ」
「あの速度で投げたら、雪玉って砕けるわよね?」
「……相当圧縮してるね、あれ。それこそ、隙間がないくらいに」
「ミオさん、やばいわね……」
「いや、うん。そもそも、誰も勝てないよ、師匠には」
だって、異世界では最強なんだもん。
ボクなんて、勝ったことがないよ。
勝てるのなんて、それこそ生活力くらいだよ。
「ふんっ!」
なんてことを思っていたら、とんでもない速度の雪玉がボクに接近してきていた。
「うわわ! し、師匠、いきなり投げてこないでくださいよぉ!」
「何を言っている。これは勝負だぞ? どこに、投げる合図をする馬鹿がいるんだ」
「いや、そうですけど! せめて、手加減くらいはしてくださいよ!」
「知らん! だが、ミカとメイは可哀そうなんで、手加減をしてやろう」
「「ほっ……」」
さすがの師匠でも、普通の女の子相手にあの剛速球を投げるつもりはないようだった。
それを聞いて安心したのか、未果と女委は安心したように胸をなでおろしていた。
「まあ、だからといって倒すことに変わりはない」
「「へ?」」
間の抜けた声が聞こえた直後、
「「わぷっ!?」」
二人の顔に雪玉が直撃した。
しかも、当たった直後に、さらにもう一発くるという、波状攻撃に近いことになっていた。
ひ、酷い……。
「ほれ、イオいくぞ」
ヒュンッ!
という、音が聞こえて、すぐさま横に跳んで回避したら……
ベキベキベキ……! ドズゥゥン……。
背後の木が折れていた。
「え、えー……」
雪玉で木を折る人を、ボクは初めて見た。
……いや待って。なんで、雪玉で気が折れてるの?
普通、木にぶつかったら砕けてなくなるよね?
というか、そのスピ―ドで投げたら、雪玉が途中で霧散すると思うんだけど!
「師匠、何したんですか!」
「何って……超圧縮して、ただ力任せに投げただけだぞ?」
「普通の人は、雪玉で木を折ることはできません!」
「いや、こんなのあたしからしたら簡単なものだぞ?」
「それは師匠の常識です!」
「うるさいな……とりあえず、お前も攻撃して来いよ」
「わかりましたよ……」
ここで攻撃しなかった場合、何をされるかわかったものじゃないので、ボクも雪玉を作って、攻撃をする。
「えいっ!」
大きく振りかぶって、勢い良く雪玉を投げる。
「ほう、いい球だ。だが……甘いわ!」
パァンッ!
師匠の目の前で、なぜか雪玉が弾け飛んだ。
え、何今の。
「し、師匠、何したんですか……?」
「拳を突き出した時の風圧で壊した」
「……人間業じゃないです、師匠」
「そうか? 限界を超えれば、誰だってできるぞ?」
その限界を超えることが、普通の人には無理なんだけど……。
あと、この世界では絶対に無理です。
「まあいい。ほれ、行くぞー。オラオラ!」
「し、師匠多いですよ!?」
ものすごい数の雪玉が、ボクに強襲してきた。
しかも、ドドドドドドドドドッッッ! なんて、マシンガンみたいな音が聞こえるんだけど!
あれどうなってるの!?
というか、よく見たらあれ、『武器生成』使ってるよね!?
さっきからずっと投げているのに、一向に止む気配ないもん!
投げたそばから雪玉生成してるんだけど!
その、人力雪玉マシンガンを、なんとか回避し続けるんだけど……
『な、なんだ!? って、うわぁあ!?』
『な、なにあ――きゃああああああ!』
とうとう、このエリアにいた他の人たちにまで被害が発生してしまった。
そうして、今に至ります。
まあ、なんて言うか……師匠の暴走が原因です。
「ふははははは! ガキども、攻撃して来い!」
『く、くそ、こうなったら反撃だ! 皆行くぞ!』
『『『おー!』』』
こうして、教師一人対生徒約百人の雪合戦が始まりました。
「ふっ、やはり、まだまだ甘いな、ガキども」
『か、勝てねぇ……』
『強すぎるだろ、ミオ先生……』
『かっこいいけど、これは辛い……』
『依桜ちゃんの師匠って聞いたけど、よく耐えられてたね……』
ボクもそう思います。
今にして思えば、なんで乗り切れたんだろうね、師匠の修業に。
それにしても……死屍累々、だね。
師匠に雪合戦を仕掛けたみんな、もれなくダウン。
地面に座り込むか、倒れているかのどちらか。
師匠の雪玉マシンガンは、甚大な被害をもたらした。
しかも、すごいことに、相当な速度で投げていたにもかかわらず、男女で威力がちゃんと違うっている、器用なことをしていた。
あの人、本当に何でもできるね。
ボクには無理。
そんなボクは……
「か、勝てない……」
ついに倒れた。
師匠の投げる雪玉マシンガンがあまりにも激しすぎて、回避するのも大変だった。
かれこれ一時間はずっと回避し続けていたんだけど、さすがに体力の限界。
銃弾の嵐なら全然問題ないけど、それ以上のスピードで襲い掛かってくる、まさに無尽蔵ともいえる雪玉マシンガンを避けるのは相当辛く、結果ボクも体力の限界が来て倒れてしまった。
これでまだまだ、なんて言うんだから、師匠の基準はどうなっているんだろうね。
なんて思いながら、ボクは意識を手放した。
「ん、ぅ……はれぇ……?」
次に目が覚めると、後頭部がすごく柔らかくてあったかかった。
なんか、昨日もこんな感じだった気がするんだけど……。
「お、起きたか、弟子」
と、師匠の声が聞こえてきた。
声の方を見ると……
「おはようさん」
「って、ししししし師匠!?」
膝枕をしていたとのが、まさかの師匠だったとあって、ボクは慌てて跳び起きた。
「おいおい、せっかくあたしが膝枕してやったというのに……なんだ、嫌だったか?」
「そ、そう言うわけじゃないです! むしろ、嬉しかったというか……って、そうじゃなくて! なんで、師匠が膝枕していたんですか!?」
「まあ、あたしが原因で倒れたわけだしな。これくらい、師匠ならするだろう?」
「それは、師匠が悪いような……」
「うるさい。いいから、もうちょい寝てな」
「って、わわ!」
跳び起きたボクの頭を掴んで、師匠が自分の膝の上に乗せた。
や、柔らかい……。
それに、やっぱり落ち着くような……?
なんというか、懐かしいような、それでいて心が安らぐような……。
「どうだ、あたしの膝枕は」
「……すごく、気持ちいいです……」
「そうかそうか。あたしの人生初の膝枕だぞ。喜べ」
「……はい」
「ん? なんだ、随分素直だな……って、うお? お前、顔真っ赤だぞ?」
「……そ、そうですか?」
「ああ。どれ、ちょっとこっち向け」
師匠にそう言われて、師匠の顔を見ると、
「……ん、熱はない、な」
師匠が自分のおでこを、ボクのおでこにくっつけてきた。
って!
「し、ししししし師匠!? にゃ、にゃにをしてらっしゃるんですか!?」
近い近い近い!
師匠の顔が近いよぉ!
ちゅーができてしまいそうなくらいに近いよぉ!
わーわー! 恥ずかしい! 師匠の顔がすぐ近くにあるのは、う、嬉しいけど、これは恥ずかしすぎるよぉ!
「何って……お前の顔が赤かったから、風邪でも引いたのかと思って、熱を測っただけだぞ?」
そう言って、師匠がゆっくりと顔を離した。
「そ、そそ、そうで、すか……」
どうしよう。すごく胸がドキドキしてる……。
し、心臓に悪いよぉ……。
師匠、普段の言動や行動自体はあれだけど、すごく綺麗な人だし……。
スタイルだって、すらっとしているのに、出るところは出てる、なんてモデルみたいな体系してるんだもん……すごく魅力的だから、本当に顔を近づけられたりすると、心臓に悪い。
……あれ? ちょっと待って?
そう言えば昨日、露天風呂の所で、師匠に思いっきり抱き着いちゃったような……それも、裸で。
………………ああああぁぁぁぁぁぁ……!
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいぃぃぃ!
なんであんな大胆なことしちゃったのボクは!
うぅ、今思えば、相当恥ずかしいことだよぉ……しかも、微妙に涙を浮かべていたし、ほとんど泣いているような状態で、師匠に抱き着いちゃって……。
だ、大丈夫かな……師匠に、変な弟子だと思われてないかな……?
「ん、どうした弟子。ものすごい赤いぞ、顔が」
「い、いえ、あの、その……し、師匠は、ボクのこと、どう思ってます、か……?」
「そりゃお前、大好きに決まってるだろ」
「……ふにゃ!?」
「どうした、イオ。何か驚くことでもあった……って、気絶しちまってるな」
「ぷしゅ~~~……」
師匠に大好きと言われたボクは、頭がオーバーヒートを起こしたのか、気絶してしまった。
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