第465話 夏祭り満喫
「というわけで、セルマさんとフィルメリアさんです」
「どうもなのだ」
「お久しぶりですぅ」
エナちゃんと合流後、変装やらなんやらを解いて、未果たちに合流。
そこで、翼とか角、天使の輪などを仕舞い、人間に見えるようにしてもらった二人を紹介。
その結果、みんなが苦笑いを浮かべていた。
「……依桜だし、遅くなっているのは何か理由があるんだろうなー、とは思っていたけど……まさか、その二人を呼び出すなんて」
「あ、あはははは……ちょっと、色々ありまして……」
「それはいいんだが、どうするんだ? セルマさんとフィルメリアさんのことは」
「あ、うん。こっちの世界で暮らすみたいだよ」
「え、マジ? ってことは何か? ただでさえ、人外やら異世界人やらが多い依桜ん家に、更に人外が増えるってことか?」
「えっと、この二人は適当なアパートかマンションを借りて暮らすことにするみたいで、ボクの家には住まないみたいだよ?」
「へー、それまた珍しいねぇ。いつものパターンなら、お節介で世話焼きな依桜君が『ボクの家に住んでもいいですよ』とか、純粋無垢な笑顔で言ってきそうなものなのに」
ボク、お節介で世話焼きって思われてるんだ。
そんなにお節介で世話焼きかなぁ?
普通だと思うんだけど……。
「でも、暮らすのはわかるけど、どうやって生きていくの? お仕事は必要だよね?」
「うん。その件については、とりあえず後回しということしてるよ。まずは、お祭りを楽しまないとだからね」
「それもそうね」
もとはと言えば、お祭りに参加したい、みたいな感じだったわけだし。
「それじゃあ、そろそろ行こ」
というわけで、お祭りを楽しむために、ボクたちは人気のない場所から表通りへと出た。
「おー! これが射的、と言う奴か?」
『どうだい? 一回やってくかい? 嬢ちゃん』
「うむ!」
『じゃあ、一回三百円だ」
「これで頼む」
『千円ね。そんじゃ、七百円のお釣りだ』
「ありがとうなのだ」
お祭りを回り始めると、みんなよりもセルマさんとフィルメリアさんの二人が楽しみだした。
セルマさんは見ての通り、娯楽系に夢中。
今は射的をしています。
もちろん、ずるはなしと伝えてあるので問題はない、と思う。
ちなみに、お金に関しては、ボクが出しています。
だって、二人はまだお金とか持ってないわけだからね。それに、ボクの方は資金は潤沢にあるもん。
むしろ、潤沢すぎるくらいに。
そして、フィルメリアさんの方と言えば、
「美味しいですねぇ、これぇ!」
『ははは! お姉さん、いい食いっぷりだねェ! 作った俺も、嬉しいってもんだ!』
「本当に美味しいですよぉ!」
食べ物系を中心に楽しんでいました。
今は、たこ焼きを食べてます。
そんなフィルメリアさんの表情は、とても生き生きとしていて、さらに言えばとても幸せそうな表情だった。
食べ物を食べている時の表情、すごくいいね。
……初めて会った時なんて、隈がすごかったし、何よりその……沈んでいたので。
こっちの世界でしばらく過ごせば、回復できるのかな? そうだといいなぁ。
「ねーさま、ねーさま! 儂、りんご飴が食べたいのじゃ!」
「りんご飴ね、うん、いいよ。えっと、みんなも食べるかな?」
「「「「「食べる!」」」」」
「あはは、だよね。でも、まずは焼きそばとかたこ焼きみたいなご飯ものを食べてからね。りんご飴やその他の甘味系の物はその後」
「「「「「「はーい(なのじゃ)!」」」」」」
「うん、いい返事です。……セルマさん、フィルメリアさん」
「どうしたのだ?」
「どうかしましたかぁ?」
ボクが二人を呼ぶと、すぐに近くに来てくれた。
射的の途中だったら悪いと思ったんだけど、よく見たらもう終わった後みたい。
何気にぬいぐるみを取ってるし。地味にすごい。
フィルメリアさんの方も、食べ終わってるみたいだから、大丈夫かな?
「えっと、実はボクたちまだ夜ご飯を食べていなくて、なのでそろそろ夜ご飯を食べようかなと。お二人も一緒にどうですか?」
「お供するのだ」
「
「お供って」
そこまでかしこまらなくてもいいんだけど……そう言ったら、契約は契約とか言ってきそうだよね。十中八九。
「ともあれ、行きましょうか」
「うむ」
「わかりましたぁ」
というわけで、ボクの知り合い……と言うか、商店街の人たちがやっているお店に足を運ぶ。
ちなみに、未果たちとは一度別行動になりました。
なんでも、
『姉妹同士、あとは主従同士で楽しんできなさい。メルちゃんたちは、それを望んでるでしょうからね。あと、そっちの二人が暴走した時とか、止められるの依桜だけでしょ』
だそうです。
……まあ、たしかにそうだけど。
なんだか、気を遣わせちゃったみたいで申し訳ないような……。
でも、メルたちやセルマさんたちと一緒にいられるのは嬉しいので、全然いいんだけどね。
「おじさん、こんばんは」
そんなこんなで、目当てのお店に到着。
そこにいたのは、魚屋のおじさん。
『お、依桜ちゃんじゃないか! どうしたんだい?』
次のお客がボクだとわかると、おじさんは目に見えていい笑顔を浮かべた。
「おじさんのお店の物を買いに来たんですよ。美味しいですからね」
おじさんは毎年、お祭りで海鮮串焼きのお店を出していた。
どこからか仕入れてくる海鮮物を串焼きにして売るお店。
元々の素材がよく、おじさん自身も焼くのが上手いため、実際かなり美味しい。
タイミングが悪いと、かなりの行列になっちゃってたりするんだけど、幸いなことに、この時間は空いていた。
『ハハ! 毎年ありがとな。……それで、そっちのちっこい娘が、例の妹さんたちかい?』
「そうですよ。ボクの可愛い妹たちです」
『すっかり、お姉ちゃんだな、依桜ちゃんも。……んで、そっちのお二方は?』
「ボクの知り合い……と言うより、友人、ですね。桃色髮の人が、セルマさんで、翡翠色の髪の人がフィルメリアさんです」
「よろしくなのだ」
「よろしくお願いしますぅ」
ボクが二人を紹介すると、二人はそれぞれ挨拶をした。
ふ、普通だ……。意外と普通だ。
なんだか、その普通の対応がすごく嬉しい。
……今までのボクの知り合いと言うか、異世界やそれに関する人たちって、みんなこう……一癖も二癖もあったきがするからね……師匠とか。
『おう、よろしくな! それで、名前からして、外国人か? しかも、日本語ペラペラだしよ。すっげえ友達がいんだな、依桜ちゃんは』
「そ、そうですね。あはははは」
外国人どころか、この世界の人ですらないんですけどね。もっと言うなら、人でもないし。
『おっし、依桜ちゃんの妹さんに、友達って来れば、俺がやることは一つ! サービスしてやるぜ』
「い、いいんですか?」
『あったぼうよ! 依桜ちゃんには普段から利用してもらってるしな! その礼さ』
「ありがとうございます!」
『おうよ。……で、何食べる? 好きなもんを言ってくれ』
「そうですね……えーっと、みんなは何食べたい?」
「儂はホタテ!」
「タコがいいです!」
「イカ、が、いい」
「サザエ!」
「海老がいいのです」
「……ハマグリ」
「見事にバラバラ」
まあ、全員血が繋がっているわけじゃないし、当然と言えば当然だよね。
それに、クーナとスイに至ってはそもそも人間じゃなくて、サキュバスだもんね。
関係ないけど。
『おっし、任せときな。んで、そっちのお姉さん二人はどうするんだい?』
「我もいいのか?」
「私もぉ?」
『構わん構わん! 依桜ちゃんの友人ってなら大歓迎だ!』
「おぉ、それは嬉しいのだ。じゃあ……我はホタテと海老にするとしよう」
「私は、タコとサザエにしますぅ」
『依桜ちゃんは?』
「あー……じゃあ、ボクはイカで」
『あいよ! すぐに焼くんで、ちょっと待ってな!』
笑顔を浮かべると、おじさんが注文したものを鉄板で焼いて行く。
あ、すごくいい匂い……。
みんなを見れば、今か今かと待ちわびるように、鉄板を凝視していた。
セルマさんとフィルメリアさんの二人も、興味深そうに鉄板を覗き込んでいた。
そして、数分後。
『おっし、焼き上がり! ほら、熱いから気を付けて食いな』
「ありがとうございます。えっと、いくらですか?」
『そうだな……ま、七百円でいいよ』
「さ、さすがにそれは悪いんですが……」
だってそれ、実際の値段の物二つ分の金額だよ?
いくらサービスと言われても、さすがに申し訳ないんだけど……。
『気にすんな。たまに魚を捌くのを手伝ってもらってるからな。本来であれば、タダでいいんだが』
「それはダメです」
『依桜ちゃんの性格的にそうだろ? だから、七百円にしたのさ』
「な、なるほど……」
よくわかってるね、ボクの性格。
伊達に小学生の頃からの付き合いじゃない。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
『おう、ぴったり七百円、毎度!』
「はい、みんなどうぞ」
そう言うと、みんなボクの所に寄って来た。
けど、そこはボクの妹たち。押し合いにならないよう、上手く近寄ってきている。
うんうん、いいことです。
メルたちはボクから串焼き受け取ると、ふーふーと少し冷ましながら口に運ぶ。
すると、パァッ! と花が咲いたような笑顔を浮かべた。
「「「「「「美味しい(のじゃ)!」」」」」」
『ハハハ! そいつはよかった!』
「じゃあ、我も」
「私もぉ」
セルマさんとフィルメリアさんの二人も、串焼きを食べる。
「むぐむぐ……ごくん。おぉ、これは美味いのだ」
「たしかに、これは美味しいですねぇ」
二人からも好評。
でも、実際の所本当に美味しいんだよね、おじさんの串焼き。
普通に焼いているだけなのに、なんでこんなに美味しいんだろう? あれかな、夏祭りっていう非日常の中で食べるからかな?
「じゃあボクも。……んっ、やっぱり美味しい」
ボクも、これくらい作れるようになりたいものです。
それから九人でお祭りを回る。
『あのグループ、やばくね?』
『あぁ、しかも中心にいんの、白銀の女神だよな?』
『まさか本人が見れるとは……』
『ってか、周囲の娘やあっちの二人もレベル高くね?』
『とんでもねぇ集団だな』
う、うーん、なんだかすごく目立ってるような……。
「主よ、どうも視線が飛んでくるのだが」
「そ、そうですね。やっぱり、みんな可愛かったり綺麗だからでしょうか……」
「そうかもしれませんねぇ。特に、依桜様はかなりお綺麗ですからぁ」
「い、いえ、ボクはそうでもないので……」
「謙遜はしなくてもいいのだ。事実、主はかなり整ってるのだ」
「あ、ありがとう、ございます……」
うぅ、やっぱり褒められるのは慣れない……。
今までかなり褒められてきたから、慣れていそうなものなのに、どうにもこう言うのは慣れないんだよね……。
「ところで、主よ」
「あ、はい、なんですか?」
「いや、前に契約した日に言ったと思うのだが、敬語じゃなくていいのだ」
「……あ、そう言えば」
すっかり忘れてた。
「我としては、敬語じゃない口調で話して欲しいのだ」
「う、うん。えと、ごめんね? どうにもその、年上の人にタメ口で話すのは苦手で……」
「いいのだ。とりあえず、普通に喋ってくれればいいのだ」
「わかったよ。じゃあ、普通に」
「ありがとうなのだ」
普通の喋り方にすると、セルマさんは嬉しそうに笑った。
うーん、やっぱり、角とか翼がないと、悪魔に見えない……。
可愛い女子高生って感じだよね。
「むぅ、セルマさんがずるいのですぅ」
と、ボクとセルマさんのやり取りを見ていたフィルメリアさんが頬を膨らませながら、そう言った。
「あー、えっと、もしかして、フィルメリアさんもタメ口の方がいい、とかありますか?」
「もちろんなのですぅ。もとより、私たちは依桜様にお仕えする身なので、敬語は不要なのですぅ」
「そ、そうですか」
セルマさんはまだ外見的に同い年くらいに見えるから、さほど抵抗はないんだけど、フィルメリアさんに関しては、年上のお姉さんにしか見えないから、ちょっと難しいんだよね……。
でもこれ、ボクが敬語で話さないと、
「ハハハ! やはり、お前と違って、我は若い女の外見だからな! 話しやすいのだ! 大人な女の外見なお前では、話しにくいのではないか?」
「ぐぬぬっ……!」
喧嘩になっちゃいそうなんだよねぇ……。
「ねーさま。二人はなんで喧嘩してるのじゃ?」
「うーん……種族間の問題、かなぁ」
「でも、人間と魔族は仲良くなっていましたよ?」
「あれはまあ、結構例外だと思うよ?」
ニアの言う通り、向こうの世界の人間と魔族は仲良くなった。
でもそれは、ボクが裏で魔族の人を殺さないで逃がしたり、魔族の人たちも同様のことをしていたり、後は魔族の人たちが歩み寄ろうとしてくれた結果があるからね……。
天使と悪魔の二種族間に何があったのかはわからないけど、これはちょっと……。
「やはり、我らの方が上手なのだ!」
「何と言うんですかぁ? あなたたちよりも、私たちの方が優れているに決まっていますよぉ」
「なんだと?」
「なんですか?」
「「……」」
バチバチと二人の間に火花が散る。
……いや、実際には見えないんだけど。でも、この二人の場合、気迫がすごすぎて、そういうものを本当に幻視しちゃいそうで……。
って、そうじゃなくて。
「喧嘩はダメです。二人とも、送還しますよ」
「「す、すみません!」」
「よろしい。何度も言っていますが、お二人の喧嘩は洒落になりませんからね。下手をしたら吹き飛んじゃうんですから」
……もしそうなったら、師匠に何をされるかわからないし、どれくらいの被害が出るかわからないからね……。
「す、すまん……」
「わかればいいの。……フィルメリアさんも、わかった?」
「はいぃ……」
しょぼんと肩を落とす二人。
すると、フィルメリアさんが一瞬、『ん?』と首を傾げ、ボクを見ると、
「い、今、タメ口で言いましたぁ……?」
そう尋ねて来た。
「はい。なんだか、二人が喧嘩しているところを見ると、平等に接しないとダメなんだなと思って。それに、精神年齢が近そうだったからね。ならもう、敬語じゃなくていいかなと」
「あ、ありがとうございますぅ!」
……そんな本気でお礼を言うほど?
たかだかタメ口で話すだけなんだけど。
不思議。
「……じゃあ、お祭りの続きと行こっか。まだデザート類を食べてないからね」
そう言うと、みんなは嬉しそうに笑った。
その後、みんなで夏祭りを満喫しました。
こっちの世界に来て、初めての夏祭りに、メルたちは大はしゃぎで、セルマさんとフィルメリアさんの二人も、それぞれの楽しみ方をしていました。
少ししてから、未果たちとも合流し、十四人での行動となったのは……なんだかすごかった。
ただ、晶と態徒の二人が苦い顔をしていたのが気になったけどね。
何かあったのかな?
そして、後日。
おばあちゃんのお店が大繁盛したそうです。
どうやら、ボクのミス・浴衣コンテストを用いた宣伝が上手くいったらしく、『人気アイドルエナのパートナー、いのりが推す呉服店が大繁盛!』という記事が作られていたそうです。
どうやら、おばあちゃんのお店の着物類はかなりいい物だったらしく、評論家の人も絶賛したそう。
まさかそこまで行くとは思わなかったけど、これで何とか、潰れないで済みそうです。
ちなみに、ボクが一度お店に行った時に、
『依桜ちゃんや、ありがとうね』
とお礼を言われた。
……バレてるみたいでした。
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