第464話 天使と悪魔を呼び出し

「はぁ~、疲れたぁ」

「お疲れ様、エナちゃん。はい、飲み物」

「ありがと~。こく、こく……はぁっ。いや~、盛り上がったね」

「そうだね。まさか、あんなに盛り上がるとは思ってなかったよ」


 あの後、ボクとエナちゃんの二人は、本当に山車の上でライブをしました。

 エナちゃんとしても、山車の上で歌うのは初めてだったらしく、かなり楽しかったそうです。


 そのライブはと言うと、大成功。


 コンテストを見ないで、普通にお祭りを楽しんでいた人たちの中にも、エナちゃんのファンはいたらしく、その人たちもライブを見に詰めかけてきました。


 お祭りには、巡回の為に警察の人たちもちょこちょこいたりするんだけど、今回の突発的なライブにより、美天市の警察官の人たちが総動員で動き回ることになっていたのは、申し訳ないと思った。


 山車に近づきすぎたりしないよう、注意喚起とか、誘導とか頑張ってたしね。


 中には、ライブを楽しみながら、お仕事を頑張る警察官の人たちもいたけど。ファンだったのかな?


 ちなみに、今ボクとエナちゃんは、運営側の人に用意してもらったテントにて休憩中です。


「そう言えば、マネージャーさんにこのことを連絡したの?」

「もちろん! それにね? 実は、コンテストの集計中に連絡を取って、許可をもらってたの」

「あ、そうだったんだ」

「さすがに、うちの独断でやるのもあれだからね! それでね、マネージャーに話したら、すぐにOKがでたの」

「よく許してくれたね。エナちゃん、大人気アイドルだし、問題が起こるかもしれないからダメ、みたいな風に止められるかもしれないのに」

「ふふふー、うちの所属する事務所って、いい人が多いからね! 社長もこう言うのはどんどんやれ! っていうタイプだもん」

「へぇ~、なかなかすごい事務所なんだね」


 普通、無償のお仕事を受けさせることって、あまりしないと思うんだけどなぁ。

 しっかりと、地道にコツコツやるタイプなのかな? その社長さん。


「依桜ちゃんも所属する?」

「ぼ、ボクはいいかな。そう言うところに所属すると、その、必ずお仕事をしないといけなくなりそうで……」

「うちの事務所は強制とかしないけど」

「そう言う問題じゃなくて、何と言うか……無理してやらなくてもいいよ、って言われて、あまりお仕事をしない、って言うのも申し訳なくて。それに、ボクの場合はほら、成り行きみたいなところがあるし」

「まあ、うちの護衛としてアイドルになったんだもんね。それもそっか!」

「うん、そういうこと」


 あれは今でもびっくりだったけどね。

 まさか、警備員のアルバイトに行ったら、成り行きでエナちゃんの護衛と言う名目でいアイドルになるんだもん。


「さて、そろそろみんなの所に戻らないとね」

「あ、そうだね。みんな、どこにいるかなー?」

「ちょっと待ってね。気配を探ってみるよ」

「おー、本当に便利だよね、依桜ちゃん」

「こういう時は特にね」


 暗殺者の能力が日常面でこんなに使えるとは。

 迷子を捜すのにはもってこいだからね、『気配感知』。


「えーっと……うん、割と近くにいるね」

「おぉ、じゃあ早く行こ!」

「うん。……あ、ごめんね、行く前に少しだけやることがあるから、ちょっと待っててもらえる?」

「了解だよー。じゃあ、ここで待ってるね」

「ありがとう。すぐ終わらせてくるから」

「じゃあ、ちょっと行ってくるね」

「いってらっしゃーい」


 エナちゃんの送り出す声を受け、ボクはテントを出た。



 テントを出た後、人気のない場所へ移動。お祭りの間は、路地裏には人がいないからね。うってつけです。


 ボクがエナちゃんと別れた理由は一つ。

 セルマさんとフィルメリアさんを呼び出すこと。

 えーっと、お二人とも準備は大丈夫ですか?


『いつでもOKOKなのだ!』

『こちらも大丈夫ですよぉ』


 うん、準備は出来てるみたいだね。

 じゃあ、早速。


「《召喚》!」


 二人を呼び出すために必要な発動の言葉を発すると、ボクの魔力が三割くらい減る。

 すると、ボクの両サイドに旅行中試した時と同じように、金色の光と紫色の光がボクの両サイドに現れた。


 下手なところでやると、本当に目立ちそうだね、これ。


 そして、光が収まる頃には、セルマさんとフィルメリアさんの二人が光があったところに立っていた。


「えーっと、こんばんは、セルマさん、フィルメリアさん」

「うむ、こんばんはなのだ」

「こんばんはぁ」


 軽く挨拶をすると、二人ともちゃんと返してくれた。

 よかった、言葉の方は問題なさそう。


「少し遅くなってすみません。ちょっと、イレギュラーなことがあったもので……」

「いやいや、気にしないのだ。我は出てこられればそれでいい」

「私もですよぉ。……ところで、ここが依桜様たちが住む世界でしょうかぁ?」

「はい、そうですよ。視界を覗いていたからわかると思いますが、今はお祭りの途中なんです。それで、せっかくだからということで、お二人を呼ぼうと思った次第でして……」

「ふむふむ。じゃあ、その祭りとやらが終わった後は、主がついさっき言ったように、こっちで暮らしてもいい、ということか?」

「そうですね。ただ、暮らす場所をどうするかですが……」


 この二人は当然、戸籍とかないわけだし……。

 一応、ボクの家で一緒に暮らしてもいいんだけど、二人の希望を訊いてからかなぁ。


「私はゆっくりと過ごすことさえできればどこでも構わないのですがぁ」

「我はこの世界を見て回ってみたいのだ。面白そうな予感がする!」

「えーっと、つまり、お二人とも住むところには特にこれといったこだわりはない、ということですか?」

「そうですねぇ」

「うむ、そうだな」

「なるほど」


 そうなってくると、本当にどうしよう。


「じゃあ、何かこう、してみたいこととかは……?」

「美味しい物を食べたいですねぇ」

「面白いことがしたいのだ」

「美味しい物に、面白いこと……ですか」


 見事にバラバラ。

 となると、本当にどうしようかな?


「一応、ボクの家に住むということもできますけど……」

「いえいえ、さすがに依桜様にこれ以上お世話になるのは申し訳ないのでぇ。私は私で、住む場所やお仕事を探してみたいと思いますぅ」

「心底嫌だが、我も同意見なのだ。手っ取り早く、稼ぐ手段があれば、問題はないのだ」


 ボクは別に構わないんだけど……。

 でも、二人の希望だし、ここは尊重しよう。

 ……そうだとしても、お仕事、かぁ。


「うーん、何か希望はありますか? こんなお仕事がしたい、とか、こんな場所に住みたい、とか」

「そうですねぇ……私は天使なので、人の為になることをしたいですねぇ」

「お前、さんざんそんな仕事をしてきただろ」

「それはそれですよぉ。あなたたちのように、人を騙して命とか取るようなことはしませんからねぇ」

「……喧嘩売ってんのか?」

「ふふふ、どうとるかはあなた次第ですけどぉ?」

「ぐぬぬぬ……!」

「うふふふ……!」


 あぁ、また喧嘩しそうになってる!

 って、よく見たら、二人とも天使や悪魔特有のオーラを出してる!?


「す、ストップストップです! 喧嘩はダメです! あなたたちが喧嘩なんてしたら、周囲の人たちが死んじゃいます! こっちの世界の人たちは、向こうの世界の人たちと違って頑丈にできてないんです! 喧嘩を始めたら、送還しちゃいますよ!」

「「す、すみません……」」


 慌てて喧嘩を止めると、怒られた二人はしゅんとして、それに伴いオーラも消えた。


「まったくもぅ……」


 本当に仲が悪いと言うか……。

 あー、でも、この二人の場合、仲が悪いと言うより、喧嘩するほど仲がいい、みたいな関係な気がする。

 なんだかんだで、息ぴったりな時もあったし。


「それで、話の続きですけど、希望はありますか?」

「お仕事は先ほど言った通りですけど、住む場所は、そうですねぇ……適当な場所にでも住もうかとぉ。たしか、アパートやマンションがあったはずですしぃ」

「ふむ……では、我もそうするのだ。自力で生きて行けず、悪魔王を名乗れないからな!」

「そうですか。じゃあ、お仕事を探したりしないといけないわけですね」

「ですねぇ」

「そうなのだ」


 お仕事……お仕事かぁ。

 二人とも、普通の人じゃないし、さらに言えば人間でもないんだよね……。


「戸籍、ないですよね、お二人とも」


 そこまで高いハードルと言うわけでもないけどね。こう言う案件は、学園長先生の相談すれば一発だもん。

 でも、出来る限りはしたくないんだよね。

 なんて、そう思っての発言だったんだけど、


「ありますよ?」

「あるのだ」

「え、なんで!?」


 なぜか、二人が持っていると言い出した。

 どういうこと……?


「いえ、私は普通にお仕事柄地上に来ることもあり、たまーに滞在していたのですよぉ」

「我も同じなのだ」

「え? でも、コンテスト前に話した時、さも初見のようなことを言っていた気がするんですけど……」

「この国は初だからなのだ。他の国ならばあるぞ!」

「そうですねぇ。私も同じ理由ですよぉ」


 なるほど、そうだったんだ。

 あれ? それじゃあ……


「あの、どうして日本には来たことがないんですか……?」

「ぶっちゃけてしまいますと、そもそも日本では神への信仰……と言うより、天使などに関することとかほとんどありませんからねぇ」

「我も似た様なものなのだ」

「あー……なるほど、理解しました」


 なんと言うか、現実的なのかな? 別に、宗教を否定したり貶したりするわけじゃないけど、神様と言う存在を信じていない人の方が多いしね。

 それに、日本って国教は定められていないし、基本的に自由というのもあるからね。

 神道と仏教が多数派と言うだけで。


 ボクの家は無宗教だけどね。

 おじいちゃんとおばあちゃんの方は何かあるのかもしれないけど。


 ……まあ、神様って実在するんだけどね。


 でも、そっか。そう言う理由なんだ。

 フィルメリアさんの方はさっきの通りで、セルマさんも似た様なものらしいみたいだけど。


「あ、でも、こちらの悪魔王さんは日本に来たことがあったような気がするのですけどぉ」

「そうなんですか? でもさっき、初って言っていましたけど……」

「そこの天使の言うことは間違いではないが、正確に言えばこの時代の日本には来たことがない、なのだ」

「じゃあ、過去にはあるということですか?」

「うむ。といっても、相当昔だぞ。この国では、悪魔崇拝は表立ってと言う意味ではないが、意外と裏ではそう言う者たちがいるのだ。と言っても、我がこっちの世界、ひいてはこの国に行かなくなったのは、戦国時代後半だからなのだ」

「そうなんですね、でも、どうしてその時代に行かなくなったんですか?」

「まあ、色々とあるのだ」


 あれ? なんだか、少し寂し気な表情……。

 何か悲しい事でもあったのかな? それなら、無理に聞かない方がいいね。


「そうなんですね。じゃあ、かなり変わっていてびっくりしたんじゃないですか?」

「うむ。結構びっくりしたぞ。見たこともない建造物や娯楽があってな。できれば、娯楽物は制覇したいと思っているのだ」

「結構ありますよ? ゲームとかマンガ、ライトノベルにアニメ、その他にも色々」

「むむむ、それは気になる……そうか、多いのか。……となると、仕事は給料がいいものを選ぶべきか……」


 娯楽、好きなんだね。

 悪魔らしいと言えばらしいのか?


「私は、美味しい物が食べたいですねぇ」

「美味しい物、ですか?」

「はいぃ。美味しい物を食べていると、普段のブラックなお仕事を忘れられましてぇ」

「……そ、そう、ですか」


 本当に辛い仕事だったんだね……。

 天使なのに、仕事内容はその反対って……どうなってるんだろう。


「と、とりあえず、この話は一旦後にしましょうか。今日はとりあえず、ボクの家に泊まってください。住む場所とかお仕事については、明日考えましょう」

「わかりましたぁ」

「うむ、了解なのだ」

「それじゃあ、みんなの所に行きましょうか。今はお祭りですからね、二人も楽しんでくださいね」

「ですねぇ」

「面白いことがあるといいのだ!」


 うん。二人とも生き生きとしてるね。

 それじゃあ、早速二人を……って、


「あ、二人とも、翼と角、もしくは天使の輪はちゃんとしまってくださいね? 騒ぎになっちゃいますから」

「わかりましたぁ」

「了解なのだ」

「では、行きましょう」


 そろそろ合流しないとね。

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