第466話 天使と悪魔への斡旋

「はぁ~……なるほど……そう来たかー……」


 お祭りの次の日。


 ボクはセルマさんとフィルメリアさんの二人を連れて、学園長室に訪れていた。

 理由はもちろん、二人のお仕事を探すため。

 あわよくば、住む場所も見つけて欲しいと思っているけど、そこまではしてもらおうと思っていないので、学園長先生が提案してくれたら、だけどね。


「まさか、天使と悪魔が来て、その上依桜君に仕えるなんて……本当に、面白い体質と言うか、色んな人を味方につけるわよねぇ、依桜君って」


 そんな学園長先生は、目の前にいる天使長と悪魔王の二人に驚きを禁じ得なかった。

 むしろ、驚きすぎて笑っているくらい。


「あ、あははは……」


 ボクなんて、苦笑い以外ないです。

 ボクだって、まさかこうなるとは思ってなかったんだもん……。


「それで、二人の仕事を紹介して欲しい、と」

「はい。できますか……?」

「んー、そうねぇ……。お二人は希望とかあるの?」

「我はとりあえず、娯楽を制覇するために金が欲しい。なのでまあ、仕事はできるだけ金が多く手に入る仕事がいいのだ」


 うん、悪魔らしい。


「私は、人助けになるようなお仕事がいいですねぇ」


 こっちはこっちで、天使らしい。


「なるほどなるほど……。その希望だと、うーん……」


 腕を組んで唸る学園長先生。


「もしかして、難しかったりしますか?」

「いえ、そうでもないわ。……正直、どこに就けたものか迷ってるのよ。悪魔の王と天使の長っていうくらいだからかなり有能でしょうし、どこに就けるのがベストか、ってね」

「なるほど……」


 たしかに、そうかも。


 セルマさんは悪魔王で、現代の知識は少ないかもしれないけど、それでも頭がよく、何でもできそうだもんね。


 フィルメリアさんの方も、天使長という立場をン億年も務めていて、部下の天使の人たちからの信頼も厚いらしい。なので、仕事はかなりできると思う。


 そう考えると、どこに就けても活躍しそう。


 それなら迷うのも納得。


「それに、果たして下手な仕事に就けてもいいのか、と」

「えと、どういう意味ですか?」

「いえね? この二人って、天使と悪魔、それぞれのトップなわけでしょ? そんな人たちを、下手な場所に就けるのは気が引けるなー、と」

「た、たしかに」


 知っている側からしたら、相手の態度がとても失礼なものになりそう。


「我は気にしないのだ。今は、一人間としてこっちの世界に滞在しているからな!」

「私もですぅ。天使の長としてではなく、普通の人間として暮らしたいので、お気になさらずぅ」


 二人は特に気にした様子もなく、そう告げた。

 どうやら、人間としてこっちの世界で暮らす気満々のようだった。


「そう言うことなら、少し考えてみるわ」

「ありがとうございます」

「いいのいいの。……こういう案件は、事情を知らない人じゃ手に余るから」


 笑顔でそう言う学園長先生。

 人外、だもんね……。

 ボクも内心、苦笑いでそう思った。


「で、次は住む場所だったかしら?」

「はい。どこかありますか?」

「そうねぇ…………あ、そうだ。フィルメリアさん、って言いましたっけ?」

「はいぃ」

「あなたの仕事、一ついい物があったわ」

「本当ですかぁ?」

「ええ。この学園は今年から、初等部や中等部が新設されて、更に学生寮が増えたんだけど、各寮には寮母という役職があってね。まあ、寮の管理をする人なんですが、その仕事、してみませんか? 実は、一ヵ所だけ漏れがあったの」

「寮母……」


 うん、何と言うか……フィルメリアさんにぴったりな仕事だね、本当に。

 でも、そっか。やっぱり、寮母さんとかいたんだ、学生寮に。

 ボク自身、元々市内に住んでるから、関係がなかったんだよね。


「ちなみに、寮母は住み込みのお仕事でもあるので、住む場所はそこで問題ないわ。光熱費はさすがに払ってもらうことになるけど。どうかしら?」

「どういったお仕事なのですかぁ?」

「簡単に言えば、寮に住む学生の食事や日常的なサポートがメインね。学生を助ける仕事、と思ってくれてOKよ」

「助ける……つまり、人助け……いいですねぇ! そのお仕事、お引き受けいたしますぅ!」

「よかったわ。じゃあ、後で契約に関する書類を持ってくるから、よろしく」

「わかりましたぁ」


 すんなりと、フィルメリアさんのお仕事が決まった。


 は、早い。


 でも、寮母さんかぁ……。


 ……なんだか、人気でそうだよね、フィルメリアさんって。

 綺麗な大人のお姉さん、っていう感じだし、何よりすごく優しいし。


「となると、あとはセルマさんの住む場所とお仕事、ね。……うーん」

「どうしたのだ?」

「さっき言っていた条件以外で、何かある?」

「そうだな……とりあえず、面白い仕事がいいのだ」

「面白い、ねぇ……」


 さらに難しい条件が。

 まあ、娯楽が好きなんだもんね、セルマさんって。

 悪魔だし。


「もういっそ、私の会社で働く?」

「ぬ? どういうことなのだ?」

「私、製薬会社とゲーム会社の両方の面を兼ね備えた会社を経営してるんだけど、そのゲーム側の仕事はどうかなと」

「ゲームの仕事? それはどう言うものなのだ?」

「んー、今運営しているゲームを作ることね。内容的には、ゲーム内で開催されるゲームのイベントを決めたり、新しい敵MOBの性能とか、出現条件とかを考えたりする仕事ね。他にも何かいいアイディアがあれば、それを企画化させたりもあるわね」

「ほほう。それは面白そうなのだ」

「給料は……そうねぇ。正直、非現実的存在で、尚且つ悪魔の王であることを踏まえると、この仕事に対しては、これ以上ないくらいの人材なのよねぇ。ファンタジーなゲームの運営だし、そこにリアルなファンタジー人種な人が来ればねぇ」


 たしかに。


 しかも、セルマさんって向こうのことに詳しそうだもんね。

 こっちの世界では、十分な魔力量がないらしいので、難しいみたいだしね、呼び出すの。

 その代わり、向こうの世界ではちょこちょこ悪魔の人たちが呼び出されていたとか。

 なので、向こうには詳しいそうです。

 そう言う意味では、たしかに適任なお仕事かも。


「というわけで、その仕事を任せたいんだけど、どう? もちろん、仕事の仕方については教えるから」

「……うむ、その仕事、引き受けたのだ!」

「よかった! じゃあ、住む場所も社員寮になるわ」

「社員寮とな?」

「ええ。会社に勤める人たちが住むための場所ね。会社側が用意した住居、と言う風に捉えてくれてOKよ」

「なるほど。じゃあ、そこでいいのだ」

「ありがとう。……思いの外すんなり決まったわね」

「ですね」

「ま、こっちも人材確保ができてありがたいわー。しかも二人とも、優秀そうだし」


 嬉しそうに言う学園長先生。

 その発言がダメだったのか、


「こいつよりは、優秀なのだ」

「この人より、優秀ですよぉ」

「「アァ?」」


 二人がまたしても喧嘩しそうに。


 はぁ……この二人はもう……。


「はいはい、喧嘩はだーめ! 二人とも、昨日言ったばかりだよ? 喧嘩はダメって」

「「だってこいつが(この人が)!」」

「だっても何もないよ。言い訳はダメ。二人は相当な年月生きているんだから、そう言う区別もつくでしょ?」

「「……はい」」

「それならいいの。……すみません、学園長先生」

「いえ、気にしないで。……天使と悪魔って、仲悪いのね」

「……そうなんです」


 なんでここまで仲が悪いのかがわからない。

 何か理由があるんだろうけど、仮にそうだった場合、どんなことが理由なのか気になる。

 ……まあ、意外としょうもないような出来事が理由そうだけどね。


「ところで、学園長とやら。一つ質問いいか?」


 ふと、セルマさんが学園長先生に質問していいかどうかを尋ねた。


「ええ、何でも訊いて」

「じゃ、遠慮なく。質問と言うより、たのみに近いのだが、その社員寮と言うのは、今日から住むことは可能なのか?」

「今日から? ええ、もちろん。基本的な家具や家電製品は準備されているし、あとは本人と本人の着替えさえあれば問題ないわ」


 セルマさんのお願いごとに、学園長先生は一瞬目を丸くしたものの、すぐにいつもの表情に戻り、大丈夫であると伝えた。


 やっぱり、設備はちゃんと整ってるんだ。


「おぉ、では今日から頼む」

「了解。じゃあ、すぐに手配しておくわ」

「ありがとうなのだ」

「セルマさん、別に今日から住まなくてもいいんだよ?」

「いや、我は単純に一人を好むだけのこと。まあ、主や主の妹たち、主の友人らと一緒にいるのは楽しいから好きだがな」

「そ、そうなんだ」


 ニッと笑ってそう言われた。

 なんだか気恥ずかしい。


「では、私も今日から学生寮に住みたいのですがぁ」


 セルマさんに釣られてか、フィルメリアさんも今日から住みたいと言い出した。

 多分これ、対抗心を燃やしてるんじゃないかなぁ……。


「フィルメリアさんも? まあ、全然OKだけど。しかも今って、ちょうど夏休み中だから、ありがたいわー。できることなら、今日の夜頃からお仕事に入ってくれるのがベストなんだけど、厳しかったら別に明日や明後日からでも構わないからね?」

「いえいえ、住まわせてもらうわけですし、今日から働かせていただきますねぇ」

「まあ、本人がいいならいいけど。……お仕事、と言ってもまあ、夕食を作るだけなんだけどね」

「それでしたら、お安い御用ですよぉ」

「フィルメリアさんって料理できるの?」

「もちろんですぅ。私、地上に降りていた際には、炊き出しを行っていたり、料理人のようなお仕事をしていた時期もありましたのでぇ。それに、この時代の料理がどのような者なのかも気になってますからねぇ」

「なるほど、そうだったんだ」


 なんだか以外……でもないかな。

 天使だもんね。

 ン億年も生きているわけだし、そう言うことがあっても不思議じゃない、よね?


 ……ただ、天使の長が炊き出しって言うのはちょっと面白いけど。


 もし、キリスト教の人たちがそんなことを知ったら、卒倒しそうだよね。


 もちろん、言うつもりもないし、言わせる気もないけど。


 だって、そう言う人たちにバレたら相当大変なことになりそうだもん。多分、世界中で大騒ぎになるんじゃないかなぁ……。


 天使と悪魔が実在するだけでも問題なのに、神様もいるわけだからね。


 そう言う意味では、宗教関係の人たちには絶対に会わせたくない二人だね。


「じゃあ、二人には早速そっちへ行ってもらうとして……そう言えば、二人は連絡手段とかどうしてるの?」

「我とこいつは、主に対してであればどこにいても会話ができるからな。正直、それ以外の方法は持っていないのだ」

「たしか、すまほ、なるものがあるんですよねぇ?」

「そうね。現代人には必需品と言ったところかしら」

「ほう」

「なるほどぉ」


 興味深そうな反応を示す二人。

 そう言えばこの二人、こっちの世界に来たのが昨日だから、連絡手段とか持ってないんだっけ。


「とりあえず、ボク名義で契約した方がいいですかね?」

「んー、そうね。一応、会社用のスマホはあるけど、あれは同じ会社内のスマホ同士でないと使えないからねぇ。依桜君相手であれば問題ないでしょうけど、もし、それ以外で連絡が必要になった場合、間違いなくあった方がいいわ」

「ですよね」


 そうなると、やっぱり契約した方がよさそう。


「じゃあ、二人とも。この後、スマホを買いに行こっか」

「いいのか?」

「いいんですかぁ?」

「もちろん。それに、あると便利だからね。ゲームもできるし、動画やアニメだって見れるし、マンガやライトノベルも読めるしね。それ以外だと、色んな料理のレシピを調べたり、美味しいお店を調べることもできるから」

「ほほう……!」

「まぁ……!」


 あ、二人が食い付いた。

 セルマさんは娯楽関係に目を輝かせて、フィルメリアさんは食べ物に関することに目を輝かせてるね。

 二人の趣味嗜好がわかるというものです。


「主、早速行くのだ!」

「行きましょうぅ!」

「うん。……じゃあ、学園長先生、ボクたちはこの辺りで」


 二人が急かしてくるので、ボクは軽く苦笑いを浮かべながら頷き、学園長先生にそう言って部屋を出ようとした。


「ええ。一応、二人が住むことになる場所の地図は、依桜君の学園アプリの方に送っておくから」


 すると、そんなことを言われる。


「わかりました……って、ちょっと待ってください。学園アプリってなんですか?」


 不思議ワードが聞こえてきたんだけど。

 学園アプリって何?


「あ、そっか、そう言えばまだ告知してなかったっけ。……簡単に言えば、学園生専用アプリのことよ。一応、次の登校日に周知させる予定だったけど、依桜君なら別にいいので、教えちゃうわ!」

「事前なのにいいんですか!?」

「いいのいいの! 依桜君は裏事情的なことも知ってるしねー。だから、はいこれ。QRコード」


 そう言って、学園長先生がQRコードが書かれた一枚のプリントを手渡してきた。


 ボクはそれを受け取り、プリントに目を落とす。


 どうやら、学園生たちが部活動やクラス、委員会、生徒会活動などのコミュニケーションや連絡事項を円滑にするためのものみたい。


 これがあれば、重要な連絡ごとも簡単にできるし、ミーティングなども離れていてもできる。


 結構便利そうだね、これ。


「できれば今ここで登録してくれると、私としては嬉しいわ」

「わかりました。じゃあ、すぐにやっちゃいますね」

「ありがとう」


 言った通り、ささっと登録を済ませる。

 自分の生年月日、名前、性別、電話番号、メールアドレスを入力するだけでいいみたい。


 学年、クラス、番号に関しては、データベースが存在しているみたいで、登録した人物の情報とデータベースでの情報を照らし合わせて、該当する人の情報が表示されるようになるみたい。


 ちなみに、電話番号とメールアドレスに関しては、他の生徒にバレないようにしているとのこと。


 まあ、バレたら大問題だもんね。


「できました」

「ありがとう。じゃ、後で送っておくから、よろしくね」

「わかりました。それで、失礼します」

「ええ、またね」


 そう言って、ボクたちは学園長室を後にした。



 学園から出た後は、二人のスマホを買いに携帯ショップへ。

 その過程であったことに関しては、これと言った出来事がなかったので割愛。


「おー、これがスマホ! こんな小さいのに、遠方の者と通話できたり、ゲームができたりするのか。魔力を必要とせず、電気で動かすとは、やはり法の世界の人間たちはすごいのだ」

「あまりいい気はしませんが、セルマさんに同感しますぅ。これだけで、色々な情報を収集することができるとは、すごいものですねぇ」

「そうだね。いつか、これよりも進化した携帯が出て来るかもね」


 ホログラム式の物とか。

 実現したら、それはそれですごいことになりそうだけど。


「それじゃあ、早速二人の住む場所に行こっか」

「うむ」

「わかりましたぁ」


 色々と準備が必要かもしれないしね。



 そんなわけで、まずは学生寮の方から。


「なるほどぉ。ここが、私がお仕事をすることになる場所ですかぁ」


 学生寮があったのは、学園から徒歩十二分程の位置。


 外観は、寮と言うより、シェアハウスのような印象を受ける。

 生垣で囲まれた敷地内には、芝生が広がっていて、その中心に煉瓦で作られた大きな家があった。


『気配感知』の応用で調べた限りだと、大体八人暮らしかな?

 そこにプラスして、フィルメリアさんが住むことになるから、九人。


 そこそこだね。


「えっと、メッセージには、入って目の前の廊下を右に曲がった先にある部屋を使って、って書いてあるね」

「わかりましたぁ。では、私はこのまま入りたいと思いますぅ」

「着替えや生活雑貨とかはあるの?」

「大丈夫ですよぉ。『物質生成』が使えますからねぇ。天力を用いれば、それなりに色々なことができますからぁ」

「な、なるほど」


 すごく便利……。

 ボクの神気でも、そう言うことってできるのかな……?

 ……って、よく考えたら、『アイテムボックス』でそれできるね、ボク。


「では、私はこれでぇ」

「頑張ってね。何かあったら、いつでもボクに連絡してね?」

「依桜様のお手を煩わせるようなことは起こさないようにしますので、ご心配なくぅ」

「そ、そっか。……でも、もしもそう言うことがあったら、絶対に連絡してね? 約束だよ?」

「依桜様がそう言うのならぁ……」

「うん、ありがとう」


 一応、ボク以上に強いみたいだけど、それでも問題が起こった時は助けてあげたいからね。


 それに、フィルメリアさんは天使なわけで、もしかすると人と違う価値観があるかもしれないしね。そう言う意味で、心配なわけです。


「ふんっ、せいぜい頑張るのだ」

「ふふふ、そちらも頑張ってくださいねぇ?」


 仲がいいのか悪いのかわからない。



 次に訪れたのは、セルマさんが働くことになる会社の社員寮。


 どうやらマンションらしく、最上階に用意してくれたとのこと。


 地味にいい場所。


「ほほぅ、ここが我の住む場所か」

「みたいだよ。生活雑貨とか着替え、食べ物の類は無いみたいだけど……」

「あいつにできて、我にできないことはないのだ。問題ない!」

「だよね」


 セルマさんだってできるよね、『物質生成』。

 天使と悪魔って、結構似通ってるのかも、種族的に。

 どういう経緯で誕生したのかはわからないけど。

 師匠、知ってたりしないかな?


「それに、本来悪魔や天使は食事を必要としないのだ。というより、睡眠も必要ではないな」

「そうなの? じゃあ、なんで昨日は普通に寝てたの?」

「必要としないだけであって、我は寝ることは好きだからな! やはり、睡眠はいいものなのだ」

「そうなんだ」


 好きか嫌いかの話なんだね。


「それじゃあ、我も今日はここで休むとしよう」

「うん。セルマさんも、何かあったら連絡してね」

「もちろんなのだ」

「うん。じゃあ、ボクはそろそろお買い物をしないとだから、またね」

「うむ! ありがとうなのだ、主!」

「いえいえ。それじゃあね」


 最後に軽くそう言って、ボクはセルマさんとも別れた。



 その帰り道。


「えーっと、これで終わり、と」


 商店街でいつものようにお買い物を済ませて、いざ家に帰ろうとしたら、ブー、ブー、と電話がかかって来た。


 スマホを取り出すと、ディスプレイには『エナちゃん』と表示されていた。

 何だろうと思って、電話に出る。


「もしもし、エナちゃん?」

『うん、うちだよ! 依桜ちゃん、今大丈夫かな?』

「大丈夫だよ」

『よかった! えっとね、伝えることがあってね』

「伝える事?」

『うん! 八日にテレビ番組の件について訊いたでしょ?』

「あ、うん。そうだね」


 テレビ番組の件。

 それは、異世界から帰ってきた直後に、エナちゃんに言われたこと。

 なんでも、とあるテレビ番組がエナちゃんにオファーを出した上に、ボクにも声をかけて来た。

 今すぐじゃなくて、八日までに答えを出して欲しいとのことだったので、ボクは少し悩んだ末、


『いいよ』


 と答えた。


 エナちゃんとお仕事をするのは、普通に楽しいと思っているし、何よりあれはボクじゃなくて、いのりだからね。


 ……もちろん、目立つのは嫌だけど、変にファンが付いちゃった以上、期待を裏切るのはちょっと……。


 なので、ボクは出ることにしたわけです。


『それで、事前収録の日が決まったの』

「そうなんだ。それはいつなの?」

『四日後だね』

「十六日だね。うん、わかったよ。その日はちゃんと空けておくね」

『ありがとう! 一応、うちの事務所所属ということになってはいるから、一緒に行くことになるけど、大丈夫かな?』

「うん、大丈夫だよ」

『よかった! じゃあ、十六日にね! 一応、マネージャーからLINNで連絡が来ると思うから、そっちを見てね! それじゃあ、バイバイ!』

「うん、エナちゃんも頑張ってね」

『ありがとう!』


 通話終了。


 そっか、事前収録……。


 そう言えば、なんの番組なんだろう?


 やっぱり、アイドルだから、そういう類の物だったり、バラエティー番組だったりするのかな?


 ……変なことになりませんように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る