第320話 練習期間

 月曜日。


「おはよー」


 いつも通りに朝起きて(起こされて)準備をしてから学園へみんなで登校。


 今の調子でいけば、三年生組のリル、ミリア、スイの三人は来週の月曜日くらいには編入できそうとのこと。


 で、四年生組のニアとクーナの二人も、来週中には編入できそうとのことでした。


 なかなか早くてちょっとびっくり。


 まあ、メルも二週間くらいである程度憶えてたし、大丈夫だよね。


 それに、ここまで早くできる理由の一端としては、『言語理解』のスキルを習得したからだと思うけどね。


 あれがあれば、言語の壁なんて一瞬にしてなくなるから。


 ……そう考えると、みんなが異世界に行ったら、まずそれを覚えさせないとだよね。まあ、少なくとも、ボクの考えが正しければ、一文字でも理解できれば『言語理解』の習得は可能だと思うしね。


 それなら、態徒がもっとも苦手とする英語の宿題とか、自力でできるようになると思うからね。


「おはよう、依桜。昨日はどうだった?」

「うん、まあ……楽しかったよ。ちょっと、大変なことになったけど……」

「ん、どうしたんだ?」


 少し声のボリュームを下げて、他の人に聞こえないように調整。

 ちょっと、大騒ぎになりかねないから。


「いや、その……ね? 昨日アニメに出演する声優さんたちで会食に行ったんだけど……ちょっと色々あって、女性声優さんたちが球技大会に来るって……」

「「は!?」」

「なんか、ボクの活躍が見たい、とか何とか言っていたんだけど、よくわからなくてね」

「そ、そう来たかー……。絶対、普通に終わらないと思っていたら、まーた変なことになったわね」

「というかそれ、色々と問題になるんじゃないか? あれに出演している女性声優って、かなり人気があったはずだが……」

「いやぁ……あははは……」


 もうね、乾いた笑いしかでないよ。

 まさか、こんなことになるとは思わなかった。


「おーっす」

「おっはー」


 ここで、二人が登校。

 いつも通りのテンションで教室に入ってきた。


「んー? どったのー? なーんか、朝から困惑顔してるけど」

「まあ、何と言うか……依桜がまたやらかしてね」

「ぼ、ボク何もしてないよ!?」

「でも、間接的には依桜が原因に思えるんだけど……」

「ち、違う、と思うけど……」


 うぅ、自身が持てない。


 少なくとも、ボクは悪くないはず……。


 単純に、美羽さんが行きたいと言ったのが始まりで、その後に莉奈さん(伊藤さんにそう呼ぶように言われました)が便乗する形で、奈雪さんと音緒さんの二人が見に来ると言い出した形です……。


 だから、ボクは悪くない……はず。


「んで? 何やらかしたんだよ?」

「別にボクがやったわけじゃないよ!?」

「簡単に言えば、声優が球技大会見に来るそうだ」

「「ファッ!?」」

「それも、『天☆恋』に出てくるメインキャラを担当している女性声優四人」

「「マジで!?」」

「マジらしい」

「おぉ……そう来たかー。さすがだねぇ、依桜君。まさか、そんなことになってるとは」

「いやー、マジで目を離した途端にこれだもんなー。よっ、トラブルホイホイ!」

「その言い方やめて!?」


 アイちゃんにも言われたけど、その言われ方、なんだかGホイホイみたいで嫌だよ!

 ボク、虫じゃないもん!


「まさか、そんなことになるなんてねぇ。依桜君はすごいね、ほんと」

「というより、平然と仲良くなってない? もしかして、連絡先の交換とかもしたの?」

「うん、一応。だれかしらが連絡できるようにした方がいい、っていう理由で、少なくとも昨日会った人たちとは交換したよ」

「さりげなーく手に入れてる辺り、依桜ってやべえよな」

「その内、政治家の人ともパイプを持ちそう」

「さ、さすがにそれはないよ!? むしろ、関わるような事態なんてそうそう起きないからね!?」


 そもそも、政治家の人とパイプを持つ、なんて状況になるはずないよ!


 ……あ、待って。


 そう言えば、去年の学園祭の最終日の夜、対テロ組織の一員みたいになるかも、みたいなことを言われたような気が……。


 たしか、異世界の話を知っている人って、それなりにいるとかなんとか……。


 それに、あのテロ組織、まだいるって話だし。


 ……あれから一向に情報がないけど、何もわかってないのかな?


 うーん……まあ、今考えても仕方ないよね。


「お、そういや、今日から球技大会の練習期間じゃなかったか?」

「そうだな。体育の授業はそれに充てられるらしい」

「個人種目はともかく、集団種目とかどうすんだろうな」

「んー、まあ、クラス内で軽く練習するとか?」

「そんなところでしょうね。その辺りは、体育祭と変わらないでしょ」


 球技大会。

 ボクは個人種目には出ないし、団体戦だけなんだよね。

 サッカーとドッジボールだけど。


「うちのクラスは五組と合同ね。一応、練習試合はありみたいね」

「へぇ~。じゃあ、ここである程度戦っておけば、本番で相手の力量がわかるってことだね!」

「女委、それはちょっと違うよ」

「およ、どうして?」

「相手の力量を調べるって言うのは、こっちの力量もバレかねないの。もし、こちらが手の内を明かさずに向こうの戦力を暴こうとしたら、向こう以上の実力の人がいないと、成立しないんだよ。まあ、だからと言っても、それが簡単にできるかと聞かれると、難しいんだけどね」

「お~、さっすが依桜君。説得力が違う」

「ま、まあ、師匠には常に相手の力量は把握しろ! とか言われてたからね……」


 本当、地獄……。


「じゃあ、ある意味練習試合は難しいってことか?」

「でも、これは別に戦争とかってわけじゃないから、楽しんだり、技量上げる意味ではちょうどいいかもね」

「依桜の場合、明らかに向こうの考え方が沁みついちゃってるしね」

「う、うん……」


 それほどまでに、濃密だったってことです。


 戦争、してたしね……。


 魔王、酷かったしね……。まさか、自分の城ごとボクを殺しに来るとは思わなかったし、それが原因で街に被害が出たなんて思わなかったしね……。


「おーし、席つけー」


 ここで、戸隠先生が入ってきて、一旦話すのは中断となりました。



 三、四時間目は体育。


 例によって、練習です。


 ボクはサッカーなので、とりあえずサッカーに出る人たちと一緒に、練習することに。


 やることと言えば、ボクはゴールキーパーなので、シュートを止める練習なんだけど……」


『依桜ちゃん行くよー』

「うん、いいよ!」

『えいっ!』


 クラスメート女の子の一人が、ボクにシュートを放ってくる。


 鍛えられているボクからすると相当遅いんだけど、普通の人からしたら、それなりに強いシュートだと思います。だって、女子サッカー部の人だし。


 シュートされたボールは、ゴールギリギリのところに行き、真ん中にいたボクはが止めるのは難しい、と普通の人なら思うんだけど。


「ふっ!」


 ボクは、普通にキャッチしていました。


『『『え!?』』』

「次、いいですよー」

『じゃあ今度はわたし! ええい! あ! 危ない!』


 次の人がシュートしてくると、そのボールはボクの顔めがけて飛んできたけど……


「大丈夫だよ」


 そう言って、片手でボールを止めました。


 これが師匠が蹴ったボールだったら、絶対に緊急回避してたよ、ボク。


 だって、死にかねないもん。


 いくら一般人より頑丈と言っても、師匠が蹴ったボール……それも本気の蹴りだったら、確実に死んでると思います。


 頭が飛んで、サッカーボールと一緒に、ゴールになったと思います。


 それでその後、蘇生されるんだろうなぁ。


 あの人、生かすも殺すも自由自在だからね……。


『依桜ちゃん本当にすごーい……』

『運動神経高すぎだよね』

『下手な男子よりカッコいい、可愛い女の子って、依桜ちゃんくらいしかいないよね、リアルじゃ』

『うんうん。やっぱりいいよね!』

「あ、あはは……」


 カッコいい可愛い女の子って、すごく矛盾しているような気がするけどね、ボク。

 というか、ボクって別に可愛くもなければ、かっこよくないと思うんだけど……。


「おーっす、やってるかー、ガキどもー」

「あ、師匠」


 と、師匠がやってきた。


「何してるんですか?」

「いやなに、教師らしく、あたしもガキどもの様子を見に来てるだけだよ。そうだな。おいそこの、あー……遠野だったか? ボールをシュートする時、お前は馬鹿正直にシュートするな。こういういのは、フェイントが大事だ。例えば……目線でどこに蹴るかを読ませるんだ。さすがに、それだとすぐにバレるだろう。だが、それが本当だと思わせることで入れやすくなる。まあ、何回かのシュートが必要だが……」


 師匠、ちゃんとスポーツのこと勉強してるんだなぁ……。


「あとお前。お前は――」


 と、一人一人にアドバイスをして行く師匠。

 みんな、しっかり師匠のアドバイスを聞いていました。


「ま、こんなところだろ。あたしは別にスポーツが得意ってわけじゃないんで、マジで初歩中の初歩しか教えられん。悪いな」

『ミオ先生、スポーツ得意じゃないんですか?』

「まあな。ルールありだと、ちと難しい。特に、こういった球技だとかな」


 ……ルールありだと、師匠にとってすごく窮屈に思いそうだもんね。


「この世界で何の問題もなくできると言ったら、パルクールとかスノボとか、まあその辺りだろうな。あ、あと砲丸投げ」

『『『すっごーい!』』』


 師匠が砲丸投げなんてしたら、世界記録どころか、世界一周するんじゃないかなぁ……。そうなったら、隕石だ! とか言われてそう。


「おい、そこのお前」


 と、この後も師匠はいろんな人に声をかけては、アドバイスをしていました。



 いつも通りに学園が終わった後、家に帰宅。

 そうすると、いつものようにみんなが出迎えてくれた。


「みんなの方は、練習は順調かな?」

「うん、ばっちりです!」

「儂たちなら、優勝できるのじゃ!」

「でも、四年生組と三年生組で、チームは違うから、敵になっちゃうかもね」

「「「「「「――ッ!?」」」」」」


 あ、気づいてなかったんだ。


 でもたしか、中等部は別として、初等部は年齢的な差が大きいということで、一年生と二年生、三年生と四年生、五年生と六年生、みたいな感じに分けられるらしい。


 競技種目自体は、ボクたちと変わらないみたいだけど……もし、みんなが敵同士になっていたら、どっちを応援すればいいんだろう……。


 うーん……うーん……。


「ねーさま、眉間に皺が寄っておるぞ?」

「どう、したん、ですか……?」

「あ、ごめんね。もしもみんなが試合することになったら、どっちを応援したいいかなって」

「みんなを応援するんじゃないのですか?」

「もちろん。みんなは大切な妹たちだからね。どっちも応援するよ」


 そうだよね。みんなを応援すればいいんだもんね。


 それが、できるお姉ちゃんだと思うし。


 ……何ができるお姉ちゃんの基準かはわからないけど。


「それから、頑張ったらお姉ちゃんがご褒美を上げるから、みんな頑張ってね」

「「「「「「ご褒美!?」」」」」」

「うん。ご褒美。まあ、何がいいかはみんなに任せるよ。とりあえず、ボクができる範囲ならなんでもいいから」

「「「「「「わーい(なのじゃ)!」」」」」」


 やっぱり、子供だね。


 でも、子供はこういうご褒美の存在が、一番やる気を出すからね。


 あと、みんながこっちの世界で、どれくらい身体能力が高いかを見極められるし。


 もちろん、メルは手加減するように言うけど。


 メルが本気を出したら、殺しかねないしね……。ブロック塀を簡単に壊せるみたいだし。


 ご褒美が貰えるとわかったみんなは、何にしようかな、みたいにわいわい話し出す。

 仲がいいようで、何よりです。


 やっぱり、大変な時を一緒に乗り越えたからかな。


 メルはお姉ちゃんになろうと頑張っているおかげか、それとも、こっちではわずかに先輩だからか、みんなを纏めようとしている。


 こういう成長を見ていると、なんだか暖かくなるよ、胸が。


 みんなが楽しそうにしている姿を眺めながら、ボクは微笑みを浮かべていました。


 妹っていいね……。

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