第319話 収録とその後
収録現場に到着。
「おはようございます」
「お、おはようございます……!」
「お、おはよう、美羽さんに依桜ちゃん!」
「よろしくお願いします、日野さん、スタッフの皆さん」
「よ、よろしくお願いします……!」
美羽さんの真似をするように、ボクは頭を下げた。
「ははは、依桜ちゃんガッチガチだなぁ。緊張してるのかね?」
「はぃ……その……一応ボクは素人ですし、もしかしたら、プロの皆さんの足を引っ張っちゃうんじゃないかなって思って……」
なんやかんやで声優として一時的に活動することになったけど、それでもボクはプロというわけじゃなくて、これでも素人。
声優としての経験なんて、ゴールデンウイークのあの時くいら。
「依桜ちゃんなら大丈夫だよ! 一話の時に、あれだけできたんだもん! 問題ないよ!」
「み、美羽さん……」
「そうだぞ、依桜ちゃん。美羽さんの言う通り、君には才能がある! 正直言うとだね、このアニメが終わった後も、是非声優として活動してもらいたいくらいだ」
笑みを浮かべながら、日野さんがそう言ってくる。
……ボク、そんなに才能ある? 声優の。
少なくとも、変声術と、暗殺者として必要だった演技力を師匠に叩き込まれただけというか……。
「や、やるからには、全力でやらせてもらいます」
「そうそう、その意気だよ!」
「依桜ちゃん、頑張ろうね!」
「は、はいっ」
最初は軽い打ち合わせなどをしました。
打ち合わせを終えてから、マイクテストをして、その後本番という流れになりました。
一応、収録日を伝えられた次の日に、台本が届けられたので、ある程度目を通しています。
今回、ボクが演じる『麻宮空乃』というキャラクターは、何と言うか……主人公であるお兄ちゃんのことが大好きな、甘えん坊、という設定だそうです。あと、天使。
お兄ちゃんの事が大好きで、甘えん坊で、無邪気で、天使。この設定を見た時、ボクは、頭の中にメルが思い浮かびました。
今なら、ニアたちも思い浮かびます。
魔王だけど、可愛さは天使だからね! いつも、ボクのあとをちょこちょこついてきて、大好き、って言ってくれる、ボクの可愛い妹。
血は繋がってないけど、それでも大切なことに変わりはないです。
つまり、この空乃ちゃんを演じる際に思い浮かべるのは、メル。
甘えん坊だからね、メルは。
だから、メルになりきれば、空乃ちゃんを可愛く演じられるんじゃないかなって。
そう思って、アフレコに臨みます。
二話の空乃ちゃんの出番と言えば、そこそこ多いです。
冒頭部分から、空乃ちゃんの出番があります。
それは、寝起きのシーン。
主人公――麻宮陸翔が、朝起きて空乃ちゃんが陸翔のベッドに潜り込んでいるシーン。
「ふぁあぁ……あー、よくね……た!?」
「すぅ……すぅ……んにゅぅ……」
「そ、空乃? な、なんだ……まーた俺の布団に寝ぼけて潜り込んできたのか……空乃、起きろ。朝だぞ」
「んゅ……おにー、ちゃん……?」
「おう、お兄ちゃんだ。また、俺の部屋に来たのか?」
「……ひとり、さみしぃの……おにーちゃんと、いっしょは、こわくないの……」
「いや、そうは言うけど、お前はそろそろ中学生になるだろ?」
「……やぁ。おにーちゃんと、いっしょがいぃ……だぃすきなのぉ……」
「ぐふっ……く、か、可愛い……だ、だがしかし! お兄ちゃんにも、こう、男的なあれがあってだな? ほ、ほら、よく言うだろ? 男は獣だって」
「……ふみゅぅ? おにーちゃん、けだものさん……?」
「お、おう、獣さんだ! 悪~い子は、獣さんが食べちゃうぞ~?」
「……た、たべちゃう、の……?」
「食べちゃうなー」
「………空乃、たべちゃうの……?」
「食べちゃうぞー」
「……ひっく……ふぇぇ……おにーちゃん、空乃がきらいなんだ……うぅっ」
「って、な、泣くな泣くな! 俺は獣じゃない! 空乃は食べないよ!」
「……空乃のこと、すき……?」
「当然だとも! 世界で一番大好きだぞ!」
「……おにーちゃん、だぁいすきぃっ……!」
「うおっ……まったく、甘えん坊なんだから……」
「……おにーちゃん……すぅ……すぅ……」
「って、二度寝をするんじゃねぇ!」
『……はい、カットです!』
「は、はぁ~~……」
たった、これだけのことで、かなり疲労感が……。
すっごく緊張するし、失敗したら迷惑になる、って思ってたから、内心かなりドキドキだったよ……。
周囲を見ると、なんだか驚いたような表情が見受けられました。
あ、あれ? ボク、もしかして間違えちゃった……?
ちょっと心配になりつつも、この後も順調にアフレコが進みました。
お昼休憩になり、美羽さんと話していると、
「雪白さん、だったかな?」
「そ、そうです」
ふと、主人公を演じていた上野康さんが、話しかけてきた。
「いやぁ、午前の演技、なかなかよかったよ! すごく可愛かったし!」
「あ、ありがとうございます。内心、すごく緊張していて、大丈夫か心配だったんですけど……」
「いやいや! あれはすごいって! 正直、あれだけ演技ができて、声も変えられるのに、素人っていうのが驚きだよ」
「そ、そうでしょうか? ボクは、あまり自分の声や演技がどうなっているかは、いまいちわかってなませんから……」
「まあ、自分だからね。仕方ないさ。かなりできているし、そんなに緊張しなくても大丈夫だと思うよ、俺は。宮崎さんはどう思う?」
「うんうん、い……じゃなかった。桜ちゃんは声優に向いてると思うなー、私は」
「あ、あはは……」
なんだか、プロの人にこうも褒められると、ちょっと……というより、かなりこそばゆい。
褒められるのは嬉しいんだけど……いつまで経っても慣れないんだもん。
「ああ、そうだ。雪白さん。前回の収録時は御園生さんの件があったから、しなかったんだけど、収録が終わったら、このアニメに出演する声優でちょっとした交流会……という名目の、会食があるんだけど、どうかな?」
「会食、ですか」
「そうそう。桜ちゃんは俺たちとは初対面だし、一応このアニメ限りとはいえ、ある程度の信頼関係を構築しておいた方が、他の声優との会話の時に、合わせやすくなるからね。ちなみに、宮崎さんも来る予定だよ」
たしかに、そう言うのは大事かも……。
できれば、他の声優さんのことも知っておきたいし。
「えっと、ちょっと待ってくださいね。両親に訊いてみます」
「もちろん。桜ちゃんはまだ高校生だって聞くしね。強制するつもりはないから」
「ありがとうございます。じゃあ、電話してきます」
ボクは上野さんから離れると、一旦スタジオを出て母さんに電話を掛けた。
『もしもし、依桜?』
「うん、ボクだよ」
『どうしたの? 朝、いなくなっててびっくりしたんだけど。しかも、お仕事行ってきます、なんて置手紙もあったし……何かのバイト?』
「ば、バイト……なのかな? まあ、ちょっと色々あって、今声優の活動をしてて……」
『え!? せ、声優!? マジで!?』
「ま、マジです……」
『はぁー、そっかー。声優かぁ……ものすごく驚いたけど、わざわざそれを伝えるために電話してきたわけじゃないわよね?』
驚いたと言っている割には、そこまで驚いていないような……。
「う、うん。えっとね。さっき、会食に誘われたんだけど、一応ちゃんとしたお仕事だから、信頼関係を築きたいなって思って……」
『まあ、信頼関係があった方が、やりやすいでしょうしねぇ。それで、参加したいってこと?』
「うん。せっかくだしね。あまりできる経験じゃないから、行ってみたいなって」
『ええ、もちろんいいわよ。こう言うのは、何事も経験だからね。楽しんでらっしゃい』
「ありがとう、母さん」
『……まあ、家に帰ったら、メルちゃんたちがずーっとくっついてると思うけど、まあ、楽しんできてね!』
「あ」
『グッバイ、マイドーター』
「か、母さん!? ……切れちゃった」
そうだった……ボク、朝は置手紙を残して、こっそり家を出たんだった……。
これは、あれかな。帰ったら、ずっとボクにくっついてる、っていう状態になるかも……。あ、でも、それはそれでいいような……。
みんな、可愛いし、甘えてくるのはすごく嬉しいし……。
「……うん。何かお土産でも買って行こう」
そうしよう。
「戻りました」
「どうだったかな?」
「はい、許可が出ましたので、行きたいと思います」
「そっかそっか、それはよかったよ」
「やった、楽しみだなー」
戻ってきて、許可が出たことを伝えると、二人は嬉しそうに笑顔を浮かべた。
他の声優さんたちも、嬉しそうにしているような……。
「ちなみに、今日は担当するキャラクターが出ていないから来ていない人も、その時には来るから、よろしくね」
「は、はい」
そうだよね。ここにいる人だけじゃないもんね。
……だ、大丈夫かな、ボク。
休憩が終わり、後半の収録に。
と言っても、少し慣れてきたからか、前半よりもリラックスして演技ができました。
慣れってすごいね。
途中、何回か、指示を頂いたけど、そこまで詰まることなく、順調に進み、二話の収録は終わりました。
「お疲れ様でした」
収録後、スタッフさんにそう言っていました。
こう言うのは、挨拶が大事だからね。
ちゃんとしないといけません。
……向こうって、そういう礼節が大事な世界でもあったからね。ボク、よく貴族の人とかも相手にしていたし……。
「今日もありがとね、桜ちゃん! 次も、よろしく頼むよ! ……と言っても、次は二話くらい後になると思うが」
スタジオに入った時は、ボクのことを依桜ちゃんと言っていたけど、一応芸名(?)が雪白桜なので、桜ちゃんと呼ばれることになりました。
……まあ、ボクの場合、本名がバレるのはちょっとまずいからね……過去に色々と目立っちゃってるし。
「わかりました。じゃあ、えっと、日程が決まったら、今日のように連絡をお願いします。なるべく、その日程に行けるようにしますので」
「本当、ありがとう。おかげで、十月に間に合いそうだよ。もちろん、平日にならないようにするけど……まあ、次は平日になっちゃうかもなぁ。そうなったら、申し訳ない」
「いえいえ。学園の方なら、友達に頼んでノートを見せてもらったり、先生方に聞きに行きますから、大丈夫です。それに、こちらの方は、締め切りがありますから」
「いい娘だなぁ、桜ちゃんは……。じゃあ、こっちも頑張って調整してみるよ」
「はい、ありがとうございます。でも、あまり無理に土日に合わせなくても大丈夫ですからね。他の人たちのスケジュールもありますから」
「そう言ってもらえると、こっちも助かるよ。それじゃ、今日はお疲れ様」
「こちらこそ、お疲れ様でした」
最後にそう言って、ボクはスタジオを出ました。
スタジオを出たら、声優さんのみなさんと会食に。
なんだか、緊張する……。
みなさん、ボクよりも年上だし、大人、って感じがするし……。
なんだか、酷く場違いなような。
「あ、桜ちゃん、これから行く場所って、一応居酒屋なんだけど、大丈夫かな?」
「はい、大丈夫ですよ」
「よかった。一人だけ未成年だし、ちょっとね」
「お気になさらず」
……本当のことを言うと、今年で二十歳になるんだけどね、ボク。
でも、こっちの世界じゃ十六歳だからね。言わなくてもいいことです。
しばらく歩くと、目的地の居酒屋さんに到着。
ボク含めて、人数は八人くらいかな? 男性声優さんが三人で、女性声優さんが四人といった具合です。そこに、ボクが含まれます。
ちなみに、何人かは、途中で合流しました。
到着して、ボクたちは中へ。
『いらっしゃいませ!』
「予約を入れていた、上野です」
『上野様ですね! それでは、奥の座敷にどうぞ!』
店員さんに案内されて、一番奥の座敷へ座る。
ボクはなぜか通路側の左から二番目に座り、右に北山さん、その隣に大村さんで、ボクの左に美羽さんとなってます。
向かい側には、上野さんと、鈴木さん、沢野さん、伊藤さん、が座ってます。
ちなみに、上野さんと大村さん、鈴木さんが男性で、他は女性です。
「じゃあ、まずは飲み物。各々好きな物言ってー」
上野さんがそう言うと、声優さんたちが好きな飲み物を言っていく。
みんなお酒でした。
まあ、大人だもんね。
「雪白さんは何がいい?」
「えっと……じゃあ、オレンジジュースを」
「了解。料理は適当に頼んじゃうけど、いいかい?」
『異議なーし』
上野さんがリーダーみたいな感じかな? なんだか、上手く引っ張っているから、ちょっと安心。
「すいませーん!」
『はい、ご注文お決まりでしょうか?』
「えーっと、生三つと、鬼殺し一つに、梅酒二つと、ウーロンハイ二つ、あとオレンジジュースを一つ。で、シーザーサラダを二つと、唐揚げ二つに、刺身盛り合わせを二つ」
『かしこまりました。少々お待ちください』
店員さんが戻って、間もなくして飲み物が来ました。
は、早い。
「えーっと、じゃあ行き渡ったかな? それじゃあ……今後の成功を祈って、乾杯!」
『乾杯!』
今後の成功って言ったのって、やっぱりアニメの件だとバレないようにするためかな?
一応、みなさん、変装? らしきことをしているみたいですしね。
「んっ……んっ……はぁぁ! いやぁ、やっぱ生がいいわ! 声を出した喉に染みるぜー」
「だな。仕事終わりの一杯と言えば、生だ」
鈴木さんと大村さんの二人が、美味しそうに生ビールを飲んでいました。
「生って苦いから苦手だよぉ」
生ビールを美味しそうに飲んでいる二人をみて、北山さんがちょっと苦い顔をしながらそう言う。
「音緒さんって、子供?」
「あ、言ったなー! 私だって、もうとっくに二十四歳ですぅ! もうとっくに大人だよー!」
「でも、飲めないんでしょ? なら、まだまだ子供」
「むぅ! 奈雪さん、いっつも私をからかう! 酷いよ!」
「ふふっ、だって、音緒さんをからかうの楽しいんだもの」
北山さんを楽しそうにからかう沢野さん。
ちょっと楽しそう。
仲いいのかな?
「あ~~、彼氏が欲しいなぁ~~……」
「お、伊藤さんもそういう気持ちがあったんだなぁ」
「私にだって、あるよ~、上野君。今年で二十五歳。私、彼氏いない歴=年齢だから、彼氏が欲しいんだ~」
「まあ、伊藤さんはいい人だし、その内いい出会いがあるって」
「そうかな~」
こんな風に、伊藤さんと上野さんが恋愛絡みの話をしていたり。
各々、楽しそうに話していました。
「桜ちゃん、なんかごめんね? 急に会食に誘っちゃって」
「あ、いえ。大丈夫ですよ」
「でも、知らない人たちに囲まれて、緊張してない?」
「……ま、まあ、多少は……」
ボクだって、緊張はしますよ。
一応、知り合ったと言っても、まだ初対面みたいなものだし……。
「大丈夫、みんないい人だから、桜ちゃんをいじめる人はいないよ?」
「わかってますよ。こう見えてもボク、人を見抜く力はある方ですよ」
と言っても、『気配感知』の応用だけどね。
あれを使えば、どんな人かが大体わかるから。
「桜ちゃんってやっぱりすごいね。やっぱり、ミオさんに?」
「そうですね。あの人に、相当仕込まれましたから」
「ふふ、それが今回活きたって感じかな?」
「そうですね」
まさか、暗殺者時代の技術が、声優という形で活きるとは思わなかったけど。
世の中、何が起こるかわからないものだね。
『お待たせしました。シーザーサラダです』
美羽さんと話していると、シーザーサラダが運ばれてきました。
「あ、ボクが取り分けますよ」
そう言って、取り分けを名乗り出ました。
一番年下というのもあるけど、なんとなく、こういうのは好きだしね。
なるべく均等に取り分けて、みなさんに配る。
「ありがとう、桜ちゃん」
「さりげない気遣い……」
「こういう女の子にぐっとくるの? 男の人って」
「まあ、それなりに」
「いやいや、結構よくね? 俺は好きだぞー」
「俺は……まあ、光央と同じで、結構好きかな」
「だってー、桜ちゃん」
「ふぇ!? ぼ、ボクですか!?」
いきなりボクの事が呼ばれて、ちょっとびっくりしてしまった。
「お、可愛い反応~。桜ちゃんって、見た目と声だけじゃなくて、性格も可愛いんだね~?」
「そ、そそそそそ、そんなことはない、です……」
「わぁ、顔真っ赤だよー? 桜ちゃん」
「桜ちゃん、恥ずかしがり屋さんだもんね? いきなり褒められると、こうなっちゃうんだよ」
「へぇ~、本当に可愛い人なのね」
「ふぇ!? あ、あのあの、い、いきなり、可愛いって言われても、あの……こ、困りますぅ……」
『『『おうふっ』』』
なぜか、みなさんが胸を押さえて、そんな声を漏らしました。
な、なんで?
あと、妙に顔が赤い……?
どうしたんだろう?
それから、色々と話して盛り上がっていると、北山さんがこんなことを言いだした。
「でもさー、ほんと、桜ちゃんがあの時いてくれて、助かったよねー」
「そうだなぁ。御園生さんが癌って聞いた時は、マジで延期を覚悟したし」
「心配にもなる。一応、早期発見できたから、年末までには復帰できるみたい」
「そっか~」
沢野さんの発言を聞いて、この場にいた人全員が安心したような顔を浮かべていました。
そう言えば、御園生さんってどんな人なんだろう?
「これも、桜ちゃんと友達だった、美羽ちゃんのおかげだよね~」
「ふふふー、なんてったって、桜ちゃんは逸材ですからね! 私の大切なお友達です!」
「わぷっ?」
いきなり、美羽さんに抱きしめられた。
それと同時に、いい匂いが……って、そうじゃなくて!
「み、美羽さん! い、いきなり抱きしめないでくださいぃぃ!」
「えー? だって、桜ちゃんの抱き心地ってかなりいいんだもん。あったかいし、柔らかいし、いい匂いだし」
「ねえ、美羽さん、私も桜ちゃんを抱きしめてもいいかな!?」
「うん、はいどうぞー」
「わーい! そりゃ!」
「ひゃぅっ!?」
こ、今度は北山さん!?
しょ、初対面の女性に抱きしめられるのって、その……す、すっごく恥ずかしいよぉ!
「き、北山さん、え、えと、は、恥ずかしい、んですけど……」
「んふふー、私は恥ずかしくなーいよ? はぁぁ~……桜ちゃんの抱き心地、最高だよぉ……。ねえねえ、お持ち帰りしちゃだめ?」
「ふぇ!?」
「ダメだよ、音緒ちゃん」
「だよねー。……んー、堪能したー!」
「うぅ、恥ずかしかった……」
なんでボク、よく抱きしめられるんだろう?
そんなにいいのかなぁ……。
「そう言えば桜ちゃんって、学生さんなんだよね~?」
ふと、伊藤さんがそう尋ねて来た。
「はい、高校二年生です」
「お~、ピッチピチだ~」
「表現古いな!」
「いいのさいいのさ~。んで、美羽ちゃんと知り合いって言うことはあれかな、意外と住んでるところが近かった的な~?」
「そうですね。一応、同じ街ですよ」
「そうなんだ! じゃあ、美天市?」
「はい」
「となると……叡董学園辺りかしらね?」
「え、知ってるんですか? 学園のこと」
「もちろん。たしか、白銀の女神、って呼ばれている学生がいるって話だしね。結構有名だよね!」
固まった。
主にボクが。
……どうしよう。
これ、バレてないよね? ボクまだ、白銀の女神だってバレてないよね……? 大丈夫? 大丈夫だよね?
「あ! そうだそうだ思い出した!」
「ん、どうしたの、鈴木君」
「いやぁ、桜ちゃん、どこかで見たことあると思ったら、白銀の女神だ!」
……ば、バレたぁぁ……。
「言われてみれば……え、ちょっと待って? 本物?」
「桜ちゃんって、あの白銀の女神なの!?」
「え、あ、あの、えっと……まあ、その……はい」
何を言っても無駄だろうなぁ、と思ったボクは、素直に認めることにしました。
「びっくりだなぁ~。まさか、本人がいるとは~……」
「むしろ、なぜ今まで気づかなかったんだろうな、俺達は」
「びっくりびっくり! 未だにいろんな事務所が探している娘が、まさかこうして声優をしてるなんてねー!」
「あ、あはは……あの、できれば、ボクが声優として一時的に活動していることは言わないでいただけると……」
「もちろん。個人情報は守るとも。雪白さんには、助けられてるしね」
「うんうん! そんな恩知らずはいないから、安心していいよ~」
笑顔でそう言ってくれました。
なんだか、すごく安心しました……。
世の中には、それを破って拡散する人もいるので……。
「あ、そう言えば桜ちゃん。今月って、叡董学園では球技大会があるんだよね?」
「そうですね。よく知ってますね、美羽さん」
「まあね。それって、いつかな?」
「えーっと、二十六~二十八日ですよ。それが、どうかしたんですか?」
「オフだったら遊びに行こうかなって思っててね」
「え、でも、いいんですか? 見に来て」
「もちろん。桜ちゃんの活躍を見たいからね」
にっこり笑ってそう言われた。
ちょ、ちょっと恥ずかしい……。
「へぇ~、球技大会か~。……ねえ、桜ちゃん」
「は、はい、何ですか? 伊藤さん」
「それって、誰でも見に行けるの?」
「はい。たしか、一般の人も見に来れるみたいですよ」
「そっかそっか~。んー……よし決めた! 私、その日オフだし、見に行こっと」
「え!?」
「あ、じゃあ私も行く!」
「なら、私も」
「ええ!?」
「しまったな……その日は、スケジュール入ってる……」
「くっ、俺もだ」
「俺も」
「じゃあ、男性陣抜きで、私たちで見に行こうぜ~」
「「「賛成!」」」
……なぜか、女性陣の方たちが見に来ることになってしまいました。
きゅ、急展開すぎるよぉ……。
「あ、あの、何も面白いことはないと思いますよ……?」
「叡董学園は、イベントが多くて面白いことで有名だから! それに、桜ちゃんの活躍もも見てみたいしね~」
「で、でも……」
「たっのしっみだなー!」
「私も」
……止められそうにないよぉ。
それから色々と話していると、ちょうどいい時間になったので、お開きとなりました。
ちなみに、代金は上野さんたちが支払ってくれて、ボクは払わなくていいと言われました。学生さんだか、だそうです。
ボク、結構お金あるから、出したかったんだけど……結局お言葉に甘えました。
ボクと美羽さんは帰り道が同じなので、一緒に帰りました。
美天市に到着後、美羽さんを家の近くまで送ってから帰宅。
家に着くころには、夜の九時過ぎになっていたんだけど……
「ただいまー」
「「「「「「おかえりなさい(なのじゃ)!」」」」」」
「わわっ!? み、みんな、まだ起きてたの!?」
みんなはまだ起きていて、帰ってきたボクに抱き着いてきました。
「ねーさま、寂しかったのじゃ! だから、今日はいつも以上にくっついて寝たいのじゃ!」
「私もです!」
「わ、わた、しも……!」
「ぼくも!」
「もちろん、私もなのです!」
「……一緒」
「……うん。もちろん、いいよ。じゃあ、ボクはお風呂に入ってきちゃうから、先にお布団を敷いててもらえる」
「「「「「「はーい(なのじゃ)!」」」」」」
バタバタと足音を立てて、みんなは三階に駆け上がっていきました。
「うん、じゃあ、お風呂に入ろう」
ボクは『アイテムボックス』の中から着替えやバスタオルを取り出すと、そのままお風呂へと向かった。
お風呂から上がって、布団に横になると、みんなぴとっとくっついてきました。
可愛すぎだよぉ……。
後日、お土産――ケーキを上げたら、大喜びでした。
ちょっと喧嘩になりかけたけど、今度ボクが作るということで無事、解決しました。
喧嘩はだめだよね。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
タイトルに関することを回答していただいた方々、ありがとうございました。
他サイトでの回答も踏まえて考えた結果、現在のタイトルの裏に『~○○~』みたいな感じで、1と2の案を混ぜ合わせた、もしくは少し改変したものを付け加えたいと思います。そうすれば、現状維持にも近くなりますし、他の票に入れていた方々のあれこれが無碍にならなくなると思いました。まあ、屁理屈みたいなものかもしれませんが、よろしくお願いします。今日中に変更したいと思いますので、覚えておいていただけると、ありがたいです。
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