第332話 妹の試合の観戦

 それから、しばらくミリアのクラスの試合を見ていました。


 結果は勝利。


 クラスの子たちと、嬉しそうにハイタッチをしている姿が、ボクの目に映っていた。


 うん……癒しだよぉ……。


 そして、楽しそうにしていたミリアが、不意にこちらを向くと、にぱーという効果音が見えるような、とっても可愛い笑顔を浮かべながら、ボクの所に駆けて来た。


「イオねぇ!」

「ふふっ、お疲れ様、ミリア」


 いつものように、ボクに抱き着いてきたので、いつものようにしっかり抱きとめて頭を撫でる。


 みんな撫で心地がいいから、ボクとしても密かな楽しみだったり……。


 可愛い妹の頭をなでなでするのはお姉ちゃんの特権だと思います。


「イオねぇ、見てくれてたの!?」

「うん、途中からだけどね。ゴール決めてたところはバッチリ見てたよ」

「ほんと!? わーい!」


 ボクがあの瞬間を見ていたことを言うと、ミリアは嬉しそうにぴょんぴょん跳ねた。


 か、可愛い……。


 最近、可愛いしか言っていない気がするけど。


「ミリアはすごいね。運動神経がいいのかな?」

「ううん! ぼくも運動は得意だけど、他のみんなも得意なんだよ!」

「あ、そうなの? じゃあ、リルとかも?」

「うんっ。メルねぇが一番すごくて、次がクーナねぇで、その次がスイだよ!」

「へぇ~。じゃあ、ニアとリルはどんな感じ?」

「えっとね、二人とも足が速いよ! もちろん、ぼくも!」

「そっかそっか。それはいいことを聞いたよ」


 やっぱり、こっちの子供よりも、あっちの子供の方が身体能力は高いみたいだね。


 その辺りは多分、ステータスの方も関係してきそう。


 こっちの世界には、ステータスが普及していないみたいだしね。


 一応、『鑑定』してみると、ステータスが現れるので、ないわけじゃないみたいだけど。ただ、魔力の項目は、みんな0だったのはちょっと気になったんだけどね。


 こっちの人たちには魔力がない、っていうことなのかな。


 ……あれ、じゃあ、なんでボク魔力があったんだろう? うーん……あれかな。向こうに行って、強くなったからとか? 多分、そんな理由だよね。うん。


「イオねぇ」

「なに?」

「そういえば、なんでイオねぇがこっちに?」

「ちょっと、不戦勝になっちゃってね。相手チームが棄権しちゃったんだよ」

「わ、すごーい! イオねぇ、戦わずして勝つができるんだね!」

「う、うーん、ちょっと違うような気がするけど……まあ、そんなところ、かな?」


 できれば、普通にやりたかったところだけど……こうしてみんなの試合が見れるんだから、ある意味結果オーライかな?


「イオねぇはこれからどこか行くの?」

「うん、とりあえず、卓球のニアとリルの所に行こうかなって。ミリアはどうする?」

「イオねぇといっしょがいいけど……お友達ができたから、そっちに行く!」

「わかった。お友達がいるのは、いいことだから、大事にね?」

「うんっ!」

「じゃあ、ボクはそろそろ行こうかな。楽しんでね」

「はーい! イオねぇも楽しんでね!」

「あはは、うん、もちろんだよ。それじゃあ、またあとでね」

「バイバイ!」


 最後にミリアが笑顔で手を振るのを見てから、ボクは初等部の体育館へと移動した。



 初等部の体育館に来ると、やっぱり元気いっぱいの小学生たちが、楽しそうに試合をしていた。


 高等部の方を見た後だから、尚更ほっこりするよ。


 向こうって、なんだか変な盛り上がり方するしね。死人が出るんじゃないかな、ってくらいの盛り上がり方だもん。


 えーっと、卓球は二階だったかな?


 二階へ続く階段を上る。


 二人の気配があるのは確認済み。


 この感じだと、多分……


「あ、いたいた」


 二人は奥の方の台にいました。


 同じ台にいるのは、次の試合がお互い近い位置でやるからなのか、単純に一緒だったから同じ台にいるのか、どっちなんだろう?


 あ、トーナメント表があった。


 えっと……あ、あー、なるほど。二人は試合に出るんだね。しかも、敵同士で。


 まあ、三年生と四年生だし、そういう組み合わせになっておかしくないよね。


 ともかく、二人の所に行こう。


「ニア、リル」

「イオお姉ちゃん!」

「イオ、おねえちゃん……!」


 ばふっという音共に、二人がボクを見つけるなり抱き着いてきた。


 うーん……あったかい。


「二人とも、大会楽しんでるかな?」

「「うんっ!」」

「それはよかった。二人は次の試合みたいだけど……それも、敵同士で」

「ニア、おねえちゃんに、勝てるか、わからない……」

「大丈夫ですよ、リル。私もちゃんと手加減しますから。というより、リルの方がこういう小回りが利くものが得意じゃないですか」

「でも、ニアおねえちゃん、の方、が、おねえちゃん……」

「歳は一つしか変わらないです。大丈夫ですよ」

「ほん、と?」

「はい。イオお姉ちゃん、そうですよね?」

「うん、そうだね。ボクはまだみんなの身体能力がどれほどのものかわからないけど、ミリア曰く、みんな身体能力は高いみたいだし、大丈夫だよ」


 ボク的には、仮に身体能力が低くとも、可愛さがすっっっっっっごく! 高いから、別にいいんだけどね!


 可愛いが一番です。


「ほら! 大丈夫です!」

「う、うんっ……! わたし、がんばる……!」

「うんうん、その調子だよ、リル。大人しいのもいいけど、もっと自信を持ってね? リルは可愛いし、頑張ればできるから」

「かわ、いい?」

「うん、可愛いよ」

「え、えへへ……」


 はぅっ! そ、そのはにかみ顔は反則だよぉ……。

 リルって、小動物っぽいところがあるから、すごく可愛いんだよね……はぁぁ、癒し……。


「イオお姉ちゃん! 私は? 私は可愛いですか?」

「もちろんだよ! ニアも、メルも、ミリア、クーナ、スイだって、みーんな可愛いよ! ボクの自慢の妹たちだからね」

「「えへへへ」」


 あぅっ! だから、その顔は反則だよぉぉ……。


 最初はみんなをこっちに連れてきてどうなる事かと思ったけど、今では連れてきてよかったと思ってるよ……。


 こんなに可愛い妹たちが出来たんだもん。嬉しいに決まってます。

 これで嬉しくないとか思う人がいたら、ついつい針を刺したくなりますね。


〈姉馬鹿ですねぇ〉


 一瞬、アイちゃんの呆れたような声が聞こえてきたけど、気のせいだね。うん、気のせい。



 ちなみに、先ほどの依桜たちのやり取りを見ていた、体育委員や環境委員会(高等部からの派遣)と、審判の初等部教師達は思った。


(((何あれ、めっちゃ尊い)))


 と。



 ボクが来たタイミングは、ちょうど休憩中だったらしく、ほどなくして試合となった。


 もちろん、ボクが観戦するのは、ニアとリルの試合です。


 ビデオカメラ、用意してくればよかった……。

 とりあえず、スマホのカメラでいいよね。


「アイちゃん、お願い」

〈ほいほい、お任せを!〉


 本当、アイちゃんって便利。


 時折、ちょっとだけアレな言動が出てくる時があるけど、なんだかんだでアイちゃんってすごく有能だからね。


 スマホでの録画なども問題なくやってくれるし。


 ありがたい存在です。


 そんなわけで、こちらの準備も完璧で始まった試合はと言えば……


「やぁっ!」

「こっち、もっ!」


 と、可愛らしい掛け声で打っているんだけど……そのスピードはハッキリ言って、すごく速い。


 さすがに、プロの人たちの世界大会のラリーとまではいかないけど、代表戦などで見かけるようなラリーが行われていた。


 ちなみに、開始からすでに十分くらい経っていて、まだワンセット目。


 5―5と、全くの同点。しかも、かなり速い。


 まさか、ここまでとは思ってなかったよ。


『す、すっげぇ!』

『ちょーはえー!』

『カッコいい!』

『ニアちゃんだ! がんばってー!』

『リルちゃんもファイト―!』


 と、とても小学生のレベルとは思えない試合はやっぱり、同じ世代の子供たちにはすごい、という風に映るんだろうね、試合そっちのけでこっちを見に来ていた。


 試合はおろそかにしちゃいけないと思うけど……まあ、無理もないよね。


 子供って、こういうすごいものを見ると、つい見に行きたくなるもん。


 ボクだって、小さい頃はそうだったしね。


 例えば、晶がカッコいいことをしている、見に行ってしまったり、とか。


 そう言えば、何気にニアとリルの二人に声援が送られているところを見ると、ちゃんと友達ができているみたいだね。


 安心安心。


「やぁっ!」


 と、ここでリルがスマッシュを打つ。


「なんのですっ!」


 そしてそれを、しっかり返すニア。


 そこからはほとんどスマッシュでの打ち合い。


 ……ミリアが、みんな運動神経いい、って言ってたから、どれくらいかなぁって思ってみれば、このレベルだったんだね。


 お姉ちゃんびっくり。


 でも、可愛いから全然おっけーです!



 そして、まさかの試合は延長戦に突入。


 ニアがマッチポイントになったと思ったら、今度はリルがマッチポイントになり、そしてまたまたニアが……みたいなことがずっと繰り返された結果、


『え、えー、時間的なあれもあるので、次に点を入れた方の勝ち、ということにしましょう』


 引き攣った表情を浮かべた審判の先生がそう告げた。


 ボクとしては、ずっと見ていてもよかったんだけど、他の人たちのことも考えると、そうもいかないからね。


 しかたないです。


 というわけで、ラスト。


 結果はと言うと……


『はい、勝者は、男女リルちゃん!』


 リルが勝ちました。


「か、勝った……!」

「負けちゃいました……」


 最後、ニア側の台の角を上手く狙ったスマッシュが見事に決まり、球があらぬ方向へ飛んでいったことで、リルが試合を制しました。


 何気にすごい。


「二人とも、お疲れ様。はい、飲み物」


 試合が終わった二人に近づき、『アイテムボックス』から取り出したスポーツドリンクを渡す。

 もちろん、試合終了間際にこっそり取り出したので、バレてませんとも。


「ありがとうございますっ」

「あり、がとう……!」

「どういたしまして。二人ともかなり熱中してて、汗もかいてるしね。脱水症状になったら大変だもん。ちゃんと、水分補給だよ?」

「「はーい!」」


 と言うと、二人はこくこくと喉を鳴らしながら、可愛くスポーツドリンクを飲む。

 何をしても可愛いって、すごいと思います。


「でも、二人がこんなにすごいとは思わなかったよ」

「すごいですか?」

「すご、い?」

「うん、とっても。ニアは負けちゃったけど、それでも十分すぎるくらいにすごかったし、勝ったリルも、歳が一つ上のニアに勝っちゃうんだからね。これなら、優勝を狙えるかな」

「リル、すごいです!」

「え、えへへ……」

「だから、頑張るんだよ?」

「うんっ……!」

「ニアも、応援してあげてね?」

「もちろんです! 頑張って応援します!」

「いい娘だね。よしよし」

「ふわぁ……イオお姉ちゃんのなでなでですぅ……気持ちいい……」


 ニアの頭を撫でてあげると、そんな風に言いながら、気持ちよさそうに目を細めた。

 すると、物欲しそうな顔で、リルも見てきたので、


「ふふっ、わかってるよ。リルも、頑張ったね」


 優しく頭をなでなでした。


「んぅ~……気持ち、いい……」


 やっぱり、目を細めて気持ちよさそうに目を細めた。


 妹たちみんな、ボクが撫でると同じような反応をするんだよね。

 そんなにいいのかな?


 ……あ、でも、ボクが小さくなった時に、女委に撫でてもらった時があったけど、何気に気持ちよかったっけ。


 子供って、撫でられるのが好きなのかな?


 まあ、ボクは撫でる方が好きだけどね。


「さて、ボクはそろそろ行こうかな」

「もう、行っちゃうんですか……?」

「ボクももう少しいたいけど、保健委員の仕事があるからね」

「がん、ばって、ね……?」


 う、上目遣い……。


 なんでこう、上目遣いって胸に刺さるんだろうなぁ……。

 やっぱり、可愛すぎるからかな?


「ありがとう。じゃあ、二人も頑張ってね。もし、怪我したら、すぐに来ること。お姉ちゃんが完璧に治してあげるから」

「「はーい!」」

「うん、いい返事です。じゃあ、またあとでね」

「「バイバイ!」」


 と、最後にそう言って、ボクは初等部の救護テントへ向かいました。


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 前日譚の物語がスタートしました。暇な時にどうぞ。

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