第331話 手持ち無沙汰なので
お昼ご飯も終わり、球技大会再開。
同時に、サッカーの二回戦目も行われます。
そして、組み合わせと言えば……やっぱり、第一試合目。
相手は一年二組。
早速試合を、と思って指定されたコートに行ったんだけど……
『『『棄権します!』』』
という、二組の人全員の発言により、不戦勝になりました。
……なんで?
まさかの試合終了に、ボクは手持ち無沙汰になった。
本来なら、最低でも三十分は試合だったんだけどなぁ……。
うーん……とりあえず、態徒の所にでも行ってみようかな。
一応同じサッカーをやってるはずだし。
まあ、一試合目かどうかは別として。
ちなみに、莉奈さんたちはちょっとだけ休憩したら、色々なところを見て回ってくるって言ってました。
「えーっと……あ、態徒―!」
「ん? おお、依桜じゃねえか! どうしたん?」
「実は、不戦勝になっちゃってね。ちょっと暇だからこっちに来たんだよ」
「なーるほど。ってか、不戦勝か……。依桜、さてはお前、初戦で暴走したな?」
「うっ」
「やっぱなー。大方、妹ちゃんたちの応援で張り切った、ってとこかね?」
「むむむむ……態徒のくせに生意気な……」
変なところで鋭い……。
「その言い方は酷くね!?」
「酷くないもん。実際にあったことを態徒に言い当てられて、ちょっと釈然としない、とか思ってないもん」
「……依桜って、普通に優しいけどよ、なんかオレにだけは冷たくなる時があるんだが……」
「気のせいですっ」
「そ、そうか」
でも、態徒がこうして言い当ててくるのって、やっぱり釈然としないよね……。
なんというか、微妙な敗北感があるというか……。
「んで? 暇だからオレんとこに、って言うけどよ、オレの試合は第三だぜ? 次の次なんだが」
「あ、そうなの?」
「ああ。たしか、晶辺りが今試合してるんじゃなかったか?」
「なるほど。ありがとう、態徒。ちょっと行ってくるね」
「おう、行ってらー」
というわけで、体育館の方へ移動。
この学園の体育館は、なんだかんだで結構大きい。
人が集まる事だけを目的にした講堂があるので、その分体育館を大きくできたんだろうね。初めて見た時はびっくりしたよ。
だって、バスケットボールのコートが8くらいあったんだもん。
いや、そもそも体育館じゃないよね? それもう、どこかの公共施設並みの大きさだよね? とか思ったものです。
まあ、その分色々とできるから結構便利なんだけど。
『小斯波!』
「ああ、任せろ!」
と、ボクが体育館に来ると、ちょうど試合をしている最中だった。
見たところ、今は晶たちの方にボールが回ってきていて、攻撃に転じているところだったみたい。
晶はクラスメートからボールを受け取ると、そのままドリブルをして相手チームのゴールへと向かう。
その手前で、三人の人たちに阻まれる。
ボクだったら、いっそのこと少しだけ反対方向に戻って、自陣のゴールから相手チームのゴールを狙ったりするかも。
速さには自信があるし。
……まあ、実際そういうことをサッカーの初戦でやっちゃったわけなんだけど。
でも、晶はごく普通の一般人。
右斜め後方に見方がいるのを確認すると、そのまま後ろにパス。
『ナイス小斯波!』
そんな声が発され、ボールを受け取ったクラスメートはゴールへと走る。
こういう時って、大抵一番運動神経が高い人を狙いに行っちゃうから、つい視野狭窄になるんだよね。
ボクもあったなぁ、向こうで。
先に強い魔物を倒さないと! って思って、そこまで強くない個体よりも先に倒そうとして、ちょっと危機的状況に陥ったりとかね。
あの時は危なかったよ。
危うく、心臓を貫かれるところだったから。
まあ、まだ一年目の時だったしね。あれは死ぬかと思ったよ。
なんて、過去の事を思い出しつつも、試合を観戦。
ゴール前へ到達したクラスメートの人は、そのままゴールに入れるのではなく、少し後ろの方にいた晶にパスをすると、晶がキャッチすると同時に、そのままゴールに入れた。
おおー、すごいチームワーク。
点が入ったことで、晶たちはハイタッチを交わしている。
うん、なんだか、青春って感じだよね。
「晶―!」
つい、晶に声をかける。
すると、晶はこっちを向いて、軽く笑ってから片手を上げた。
それを見て、ボクはちょっと微笑んで手を振った。
その瞬間、気のせいだとは思うんだけど……なんだか、敵意? 嫉妬? のような感情が含まれた視線が、晶に向けられていた気がした。
同時に、晶の表情も少し引き攣っていたように見えた。
……見なかったことにしよう。
それから、しばらく試合を観戦。
結果は、晶のチームが勝った。
これで、三回戦目を突破したみたいです。
サッカーと違って、バスケは二十分程度で試合が終わるみたいだしね。
試合終了と同時に、汗をかいている晶がボクの所に来た。
「お疲れ様。はい、タオル」
「そのタオルをどこから出したのか気になるところだが……ありがとな、依桜」
もちろん、『アイテムボックス』ですよ。
まあ、こっそり使ったからバレてないと思います。多分。
真っ白なタオルを晶に渡すと、首にかけて汗を拭き取り出す。
五月下旬で、少し暑くなり始める時期ではあるものの、そのままにすると汗で体を冷やしすぎて風邪を引きかねないからね。
ボクのようのかなり頑丈、って言うわけじゃないから、汗をこまめに拭かないと。
……気のせいかな。やっぱり、敵意的な視線が晶に降り注いているような……。
「それで、依桜はなんでここに? たしか、サッカーもあるはずだと思ったんだが……」
「え、えーっとね、不戦勝になっちゃって、手持ち無沙汰に……」
「……なるほど。概ね、依桜が初戦で飛ばしすぎて、それをたまたま見ていた相手チームが、棄権した、ってところだろうな。さらに言えば、その原因は、依桜の妹たちの声援で、いいところを見せようとした結果、やりすぎた、って感じか?」
「お、おっしゃる通りで……」
みんな、鋭くない?
なんで、ボクがやったことを、まるで見ていたかのようにわかるの?
未果は見ていたけど……。
「まったく……。依桜、シスコンなのは別に構わないが、最終的に妹離れはできるようにしとくんだぞ?」
「い、妹、離れ……?」
「ああ。妹とはいえ、いつかは恋人ができると思うし、そういう時に備えて、多少は考えて……って、だ、大丈夫か?」
「こ、恋人……め、メルたちに、恋人……」
そ、そうだよね……。
メルたちだって女の子だもんね……好きな男の子一人や二人、できる、よね……。
……あぅぅ、どうしよぅ……いつか巣立っていくって言うことを考えたら……いつかはボクのお世話が必要なくなるってことだよね……。
……い、嫌だなぁ……なんと言うか、ずっとお世話していたいというか……。
……で、でも、みんなの幸せを考えたら、いつかは……。
あ……目から汗が……。
「い、依桜泣くな! まだ大丈夫だから! まだ小学生なんだから、まだまだ先だから! な?」
「ぐすん……」
『……おい、あの野郎、女神様を泣かせてるぜ?』
『なんというクズ野郎ッ……!』
『おい! 至急ファンクラブの奴らに連絡しろ! 確実に息の根を止めるんだ!』
『『『応ッ!』』』
「ま、まずい! 依桜、すまないが、俺はこれから逃げる! だからまあ……すまん!」
最後にそう言って、晶は慌てて体育館を出ていった。
そして、そんな晶を追うように、
『待てー!』
『逃がすな! 確実に捕まえ、ファンクラブの異端審問にかけるのだ!』
『コロスコロスコロスコロス!』
『ついでだ! 変態も狙いに行くぞ!』
いろんな人が鬼のような形相で走っていった。
……もしかしてボク、晶たちに迷惑を掛けちゃった……?
と、とにかく追いかけて誤解を解きに行こう!
その後、なんとか晶たちに追いつき、誤解を解くことに成功したボクは、なぜか泣きながら晶にありがとうと言われました。
……原因ボクなのに、お礼を言われるってこれ……マッチポンプって言うんじゃないのかな。
って思ったけど、心の内にしまっておくことにしました。
晶の所の観戦を終えた後は初等部の方へ。
初等部の方には、大会中保健委員の仕事でしか行かないから、競技自体を見るのは初めて。
たしか、ニア、リル、ミリア、スイの四人が今日の種目に出ているはず。
とりあえず、一番近いミリアの所にでも行ってみようかな。
というわけで、初等部のサッカーコート。
高等部と違って、こちらはわいわいと楽しそうにしている。
ちなみに、高等部の方だと……
『おい! そっち行ったぞ! 止めろォォ!』
『松林佐紀ィィィィィィッッ!』
『クッソォ! テメェよくも!』
『あんただけは許さない! 私の彼氏を奪ったあなただけは!』
『アハハハハハ! あんたの魅力が私を下回っていただけの話よ!』
『なにおう!?』
『こらこらこら! 相手を数メートルほど吹っ飛ばすタックルをしない! って! それはアメフトバリのタックルだから! それもっとダメ! いや、マジで!』
『フハハハハハ! 我は最強のしゅごしゃぐら!?』
『ボールくらい普通に止めろや! ははははは!』
みたいな感じです。
なんと言うか……騒がしいというか、酷いというか、ドロドロというか……なんだか、色々と危ない感じな気がしているのは、ボクだけでしょうか。
ちょっと心配になります。
その反面、初等部は、
『あ、そっち行ったよ!』
『うん! ご、ごめんね、とられちゃった!』
『大丈夫! おれが獲りに行くよ!』
『おねがい!』
みたいな感じで、ほのぼの~としています。
なんだか、和むよね。
でも、ふと思うのは……こんなにほのぼのとスポーツをしている子供たちが、いつか高等部の人たちみたいになるかもしれないんだね……って。
少なくとも、この学園に通っているうちに、ノリがああいう感じになるのかなと思うと、なんだか胸が痛くなる。
どうなんだろう……。
ちょっと切ない(?)気持ちになっていると、
『ミリアちゃん! おねがい!』
「うん、ぼくにまかせて!」
という声が聞こえてきた。
声の方を見れば、ミリアがサッカーコートをドリブルしながら駆けていた。
初等部と高等部のサッカーの違いと言えば、男女混合なところかな? あ、でも、一応他の集団系種目も混合だったっけ。
その辺りはちゃんと考えてるんだね。
さて、ミリアの身体能力はどれくらいかな……と。
「なるほど……やっぱり、こっちの子供たちに比べたら、向こうの人の子供の方が身体能力は高いんだね」
目の前では、何人かの男の子に行く手を阻まれつつも、軽い身のこなしや前方にボールを蹴って隙間を縫い、蹴ったボールに追いついたらそのままドリブル、という感じでミリアは動いていた。
すごいなぁ。
一応、ステータスを見ることもできるけど……とりあえずはいいかな。
でも、ミリアでこれって考えると、他のみんなもそれなりに高かったりするのかな?
ニア、リル、ミリアの三人は人間だけど、クーナとスイの二人はサキュバスとはいえ、魔族なんだよね。
魔族って、それなりに身体能力が高い人が多かったし、あの二人が五人の中だと身体能力が高いのかな?
メルはちょっと例外すぎてあれだけど。
「やぁ!」
気が付けば、ゴール付近にまで来ていたミリアが、可愛らしい掛け声と共にシュートを決めていた。
そのボールは見事にゴールに入り、得点となった。
「やったぁ!」
おー、いい所が見れたよ!
可愛い妹が、ゴールを決めたシーンって言うのは、なんだか自分のことのように嬉しい。
「でも……ビデオか何かで録画しておけばよかったなぁ」
〈そうお思いだろうなー、とか思って、近くの防犯カメラを使って録画しましたぜ、イオ様!〉
「あ、そ、そうなんだ」
いきなりアイちゃんが話しかけてきたと思ったら、サラッととんでもないことを言った気がしたけど……うん。まあ、学園長先生が仕掛けた監視カメラだもんね。いいよね。別に。
あの人、あれを使って盗撮紛いのことをしてたし。
って、あれ?
「ねえ、アイちゃん。今、さりげなく、ボクの心を読んでなかった?」
〈いえ、単純に今の光景を見たイオ様なら、写真か動画に収めたいだろうなー、って予測しただけであって、決して心を読んだわけじゃないですぜー〉
「そ、そですか」
……アイちゃんだから、それくらいできても不思議じゃないよね、って思ってたんだけど……そうだよね。AIであるアイちゃんが、そんなことできるわけないよね。
〈さてさてイオ様、どうしますー? 試合はまだまだ続きそうですし、このままハッキングして、動画収めます?〉
「お願いします」
即答でした。
ふふふ、やっぱりみんなのいい所は残しておきたいのです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます