第330話 初日の昼休み
メルたちを迎えに行って戻ってくると、なぜか美羽さんたちが話に花を咲かせていた。
何だろうと首をかしげると、なぜか撃ち抜かれたように胸を押さえていたのが気になった。
どうしたんだろう?
ちなみに、軽くみんなには自己紹介をしてもらってます。
すると、可愛さにやられたのか、みなさん頬を緩ませていたので、ちょっと嬉しくなった。可愛いからね。
それから、未果たちは、各家のご家族の人たちと食べるとのことです。態徒だけは……なんかちょっと違っていたような気がするけど。
それはともかくとして、お昼時。
いつもの気分で『アイテムボックス』から、お弁当を取り出す。
「……あれー? 依桜ちゃん、今その大きなお弁当箱、どこから出したのー?」
あ。しまった。
つい、『アイテムボックス』を……。
お弁当のようなものを保存しておく上で、クーラーボックスなどよりもいいという理由で使ってたけど……ナチュラルに人前で使ってしまった……。
幸いなのは、莉奈さんたちしか見ていなかったことかな……。
「あ、え、えっと……て、手品です! ボク手品が得意なので!」
「そうなんだぁ。じゃあ、何かやってぇ」
……墓穴掘ったような……。
で、でも、手品で通用するのなら、魔法をちょっと使っても問題ない……よね?
だけど……さすがに、こういった場で魔法を使うって言うのはどうなんだろう?
こっちの世界には魔法っていう概念がないから、手品の一言で誤魔化せると思うけど……。
すっごくキラキラした目で見てる……。
し、仕方ない、よね。うん。
「イオお姉ちゃん、手品、ってなんですか?」
と、ここで、手品について知らない異世界組のニアが尋ねて来た。
向こうじゃ、意味のないことだもんね、手品って。
本当の意味で、種も仕掛けもございません、っていうものだし。魔法だから。
「えーっとね、手品って言うのは、絶対にバレないように種か仕掛けを使って、通常じゃあり得ないことをするもののことだよ」
ざっくりだけど。
そもそも、ボクも手品ってよく知らないから、あってるかどうかは不明だけどね。
「見て、みたいで、す……!」
「ぼくも!」
見れば、みんなも見たがっている。
え、いや、あの……みんなからしたら、すごく馴染み深い魔法のことなんですけど……ま、まあ、いいよね。うん。
「じゃ、じゃあ、やりますね。えーっと、ボクの右手をご覧ください」
そう言って、ボクは右手を開き、手の平を空に向ける。
「1、2……3!」
と、数字を数え、三の数字と共に、ボクは手の平に光る球を生み出した。
「「「え!?」」」
さすがに、いきなり光の球が出てきたことに、莉奈さんたちは驚いている。
でも、美羽さんは苦笑いしてて、メルたちはちょっと小首を傾げてる。
うん。まあ、魔法だしね……。
「光の球を増やしますね」
そう言って、ボクはさらに球を増やし、手の平でくるくると回転させる。
「「「おおー……」」」
目の前の光景に、感嘆の声を漏らす。
なんだか、ちょっと気分がよくなってきたので、何かをしてみよう。
うーん……あ、この光の球に『変色』って使えるのかな? ちょっと試してみよう。
試しで使ってみたら……
「うわぁ、色が変わったよぉ!」
「綺麗だね~」
「依桜ちゃんって、すごいのね」
本当に色が変わった。
赤、橙、黄、緑、青、藍、紫と、虹色にしてみた。
くるくると回転すると、本当の虹みたいになっている。
うん、結構いい感じだけど……これ、暗いところでやった方がもっと綺麗な気がする。
まあ、今はお昼だしね。仕方ないね。
「依桜ちゃん、依桜ちゃん! 他には何があるのかなぁ?」
「え、ほ、他ですか? え、えーっと……」
どうしよう。
他って言っても、ボクが使える魔法って、『風魔法』とか『武器生成魔法』くらいだよ? あとは、『アイテムボックス』だけだし……。
一応『アイテムボックス』を使ったことを、スキー教室でやってはいるけど、あれって反則だし……。
でも……
「「「……(期待の眼差し)」」」
うぅ、すっごくキラキラした目をしてるよぉ……。
これ、やらないとダメ、だよね……?
……はぁ、仕方ない。
「じゃあ、ちょうどポケットに入ってた袋を使って物を取り出します」
まあ、この袋もポケットから出したように見せかけて、実際は『アイテムボックス』で生成したものなんだけど……言わなくてもいいよね。
うーん、何を出そうかな……。
あまり高価なものは出すと怪しまれるし……とりあえず、市販のお菓子でいいかな。
「はい、たけのこの畑です」
「ちょっと待ってぇ!? 依桜ちゃん、今どうやってやったのぉ!?」
ボクが袋からたけのこの畑を出した瞬間、音緒さんが目を見開いてそう尋ねて来た。
いや、うん……。
「あ、あはは……て、手品は種と仕掛けがわからないからこそ面白いんですよ」
種も仕掛けもないんだけどね……。
なんだか手品と言いつつ、魔法を使っているだけだからすごく申し訳ないけど……わからないし、大丈夫――
「ねーさま。なぜ、魔法を使っているのじゃ?」
じゃなかった……。
ボクがしていたことに対して、メルが不思議そうに言ってきた。
メルが放った言葉に、莉奈さんたちはポカーンとしていた。
ちなみに、美羽さんはあっちゃー、みたいに手を額に当てて天を仰いでいる。
「い、依桜ちゃん、魔法ってどういうことかなー……?」
「あ、え、えっと、そのぉ……」
ど、どうしよう!
さすがに、この展開は予想外だよぉ!
幸いなのは、ボクたちの周囲にはなぜか人がいないこと。
なんというか、避けられているような気がしてならない。
でも、かえってそれが今の状況にはありがたいよ……。
……うぅ、あの時莉奈さんたちの前で『アイテムボックス』を使わなければこんなことには……ボクの馬鹿!
頼みの綱の未果たちはいないし、どうすれば……。
「依桜ちゃん、これ、誤魔化し効かないんじゃないかな」
「…………はぁ、そうですね。できれば、こっちの方は伏せたかったんですけど……」
美羽さんの言う通り、これはもう、誤魔化せない。
「正直に言います。ボク……魔法が使えるんですよ」
「「「( ゚д゚)」」」
「さっきの光の球も、魔法です」
「……じゃ、じゃあ、たけのこの畑はぁ?」
「あれも、魔法です……」
何とも言えない空気が漂った。
うぅ……できれば言いたくなかったのに……。
まさか、こうなるなんてぇ……。
もう、まともに接することは――
「すっごーいー!」
「……ふぇ?」
「依桜ちゃん、魔法使いだったんだねー!」
「うんうん、可愛い上に魔法使い! すごいねぇ!」
「驚きだわ。魔法があるなんて」
「あ、あれ? えっと、あの……へ、変に思わないんですか……?」
「なんでー?」
「だ、だって、人とは違いますし……」
身体能力とかもね……。
「ふふふー、依桜ちゃんやー。美少女魔法使いって、すっごくいいものなんだよー! なんで、そんな人を変に思うのかなー? 可愛ければいいんだよー」
「莉奈さんの言う通りですよぉ。依桜ちゃん可愛いですもんねぇ。魔法が使えても不思議じゃないというかぁ」
「依桜ちゃんだし、今更かと」
「そ、そうですか」
……なんだろう。ボクの周りって、いい人しかいないよね……。
ある意味、そこは恵まれてる気がします。
「イオねぇ。お腹空いたよぉ」
ふと、ボクの服をくいくいと引っ張って、ミリアがそう言ってきた。
見れば、他のみんなもお腹が空いているようで、お腹を押さえていた。
そして、揃って、くぅ~~~~……という、なんとも可愛らしいお腹の音を鳴らしていた。
か、可愛い……。
可愛すぎるよぉ。
「あ、ご、ごめんね。あの、とりあえず、魔法に関するお話は食べながらで?」
「「「OK!」」」
「ありがとうございます。じゃあ、食べましょうか」
そう言って、ボクは包みからお弁当箱を取り出し、目の前に広げた。
「お弁当というか……お重だよね、それ?」
「はい。普通のお弁当箱だと入らなさそうでしたし、大きいので、と」
美羽さんが苦笑いしながら、お重について言ってきたので、そう伝える。
実際、メルたちがいることを考えたら、個別にするよりも、ひとまとめでいれちゃった方が早いしね。
あと、楽っていうのもあります。
「はい、どーぞー」
「「「「「「「「「「いただきます!!」」」」」」」」」」
「召し上がれ」
すると、みんな一斉に食べ始める。
「お、美味しいー!」
「ほんとだぁ! 依桜ちゃんの料理、すっごく美味しい!」
「驚いたわ。美羽さんが言っていたけど、ここまでなんて……」
「ふふふ、お口に合ったようで何よりです」
みなさん、美味しそうに食べてくれているので、作った側としてはすごく嬉しい。
こう言うのが見れるから、料理って楽しいんだよね。
家事の中で一番好きです。料理。二番目は掃除かな。
「イオお姉ちゃん、美味しいです!」
「おい、しい!」
「イオねぇの料理好き!」
「私もなのです!」
「……美味」
「やっぱり、ねーさまの料理が一番なのじゃ!」
「ふふっ、ありがとう、みんな」
あぁ~~~……みんながこうして、美味しいって言いながら食べてくれるのは、言葉に表せないほどの嬉しさがあるよ……。
なんだか、すっごく幸せ……。
「依桜ちゃんがデレデレな表情を……」
「んー、もしかして、シスコンなのかな?」
「ぽいですねぇ」
「間違いなく、シスコン」
「し、シスコンじゃないですよ!?」
「「「「え?」」」」
……な、なんで、『何言ってんの?』みたいな反応なんですか……?
「あ、あの、ボクは、メルたちが可愛いからこうしているだけであって、あの、普通、ですよ……?」
「「「「普通……?」」」」
あの、そんな困ったような目で見ないでほしいんですけど……。
ボクって、シスコンなのかなぁ……。
魔法のこととかを話そうと思ったんだけど、みなさんすっかり料理に夢中になっちゃったらしく、かなりの勢いで食べていました。
中でも、
「このお稲荷さん最高!」
「わかるよー。私も、これ一番好きだなー」
お稲荷さんが一番人気でした。
一応、ボクの得意料理の一つで、好物の一つだったり。
甘いお揚げに、さっぱりした酢飯がいいよね。
それに、おにぎりよりも食べやすいと思ってます。
「いやぁ、依桜ちゃんは将来、いいお嫁さんになりそうだねぇ。可愛いし、家庭的だしぃ」
「ふぇ!? お、お嫁さんって言われても、あの……こ、困る、と言いますか……ぼ、ボクよりもいい人はきっといますよ……?」
((((可愛い……))))
はぅぅ、どうしてみんな、いいお嫁さんになれる、って言うんだろう……。
ボクなんて、そこまでじゃないと思うんだけどなぁ。
それなりの量を作っていたはずなんだけど、意外とあっさり完食。
女性しかいないのに、ちょっとびっくり。
食べ終わると、メルたちは眠くなってしまったのか、ボクに寄り掛かるようにして眠ってしまった。
まあ、昼休みはまだまだあるし、ちょっと寝かせておいてあげよう。
可愛いしね!
「えーっと、魔法の話、でしたよね?」
「そーそー。魔法の話を聞かせておくれー」
「はい。うーん、どこから話せば……」
少なくとも、魔法の存在を知られてしまった以上、異世界のことも話した方がいいよね。
……まあ、いっか。
「実はですね――」
と、莉奈さんたちに、去年の九月ごろにあった出来事を話した。
内容は、まあ……異世界に行ったことかな。
殺人に関することは、言わない方がいいと思ったんだけど、なんだか隠し事みたいで、あまりいい気分ではなかったので、包み隠さずに話した。
非難されるのを覚悟した上で、だけど。
最初こそ、ちょっとわくわくしながら聞いていたんだけど、いざ殺人の話に差し掛かった途端、一転して表情を暗くさせた。
「――というわけです。あ、あはは……やっぱり、信じがたいですよね……。それに、ボクは悪人とはいえ、人を手にかけてますから……」
ここで非難されるのは仕方のないこと。
だって、ここは平和な世界で、その中でもさらに平和な日本。
人を殺すなんて、普通じゃあり得ないこと。
だから、非難される覚悟をしていたんだけど……
「依桜ちゃんは、殺人衝動はないんだよねー?」
「え? も、もちろんです。もしあったら、ボクは世界最悪の殺人鬼になってますよ」
「だーよねー。いやぁ、安心したよー」
「安心、ですか?」
「だって、暗殺者、何て言うんだものー。さすがに、心配になるんだよー、私だって」
「えっと、あの……軽蔑、しないんですか?」
「いやいや。依桜ちゃん可愛いしー、別にいいかなーと。だって、すっご~く悪い人たちだったんでしょー?」
「ま、まあ……人を人とも思わないような、所謂、外道と呼ばれるような人たちばかりで、更生の余地もなかった人たちでした」
「じゃあ、依桜ちゃんはある意味、いいことをしたってわけかぁ」
「い、いえ! さすがに、殺人をいいこととは言わないですよ」
殺しはダメなことだもん……。
それをいいこと、とは絶対に言えない。
「でも、依桜ちゃん。私たちは声優。だから、様々な作品で声を当てる」
「そ、そうですね」
「その中には、二次元と言えども依桜ちゃんと同じことをしていたキャラクターもいたわ。中には開き直ってる人とか、それを背負って行こうとしている人がいるわけだし、問題ないんじゃない? だって、こっちの世界の人じゃないもの」
たしかに、奈雪さんの言う通りだけど……。
「それに、冷たいことを言うようだけど、その人たちは自業自得でなったわけで、依桜ちゃんに非はなし。なら、別にいいと思うの」
「奈雪さん……」
「奈雪ちゃんの言う通りだねー。私たちが知るのは、目の前にいる、それはもう可愛すぎる女の子の依桜ちゃんだけー! なら、異世界でして来た事云々に関しては別にいいかなと」
「だからぁ、気にしなくてもいいんじゃなかなぁ? 依桜ちゃん。私たちは、依桜ちゃんを軽蔑しないよぉ? むしろ、尊敬するかなぁ。だって、世界を救った勇者さん、なんだよねぇ?」
「あぅっ」
さ、さすがにこっちの世界の人に勇者って言われるのは……すごく恥ずかしい。
ボクはそう言う器じゃないのに……。
「そう言えば、依桜ちゃんの銅像があるんだっけ。あれ、すごかったなー」
「あぅっ!?」
「美羽ちゃんや、その話詳しくー!」
「や、ややや、やめてくださいよぉ!」
あの話だけは、何としても阻止!
その後、ボクの異世界でのこと(CFO内も含める)を色々と話させられたり、ボクの恥ずかしいあれこれ(CFO内でのこと)を美羽さんが話したりして、ボクの精神的ダメージはマッハでした……。
どうして、こんな目に……。
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