第329話 声優たちの依桜ちゃん談義

 あの後と言えば、初戦がしばらく続き、お昼になりました。


 一度保健委員の仕事をしたり、晶たちの所へ行ったりしているうちに、気が付けばお昼に。


 食べる場所は伝えてあるんだけど、ちょっと心配だし迎えに行こうかな。


 あ、その前に。


「えっと、美羽さんたちってお昼持ってきてませんよね?」

「うん、依桜ちゃんに言われたからね」


 美羽さんがそう返答すると、莉奈さんたちも不思議そうな表情を浮かべながらも、頷いた。


「それで、どうしてお昼はいらないって言ったの?」

「あ、はい。どうせなら、お弁当を作ってこようかなと思って、みなさんの分のお弁当も用意したんですよ。もちろん、いらなかったら――」

「「「「いります!」」」」

「そ、そうですか。よかったです……」


 食い気味に言われたけど、普通に安心したよ。

 これでもし、いらないとか言われたらちょっと落ち込んじゃってたかもしれないし。


「依桜ちゃんの手料理かぁ……CFOで食べたけど、リアルでは初めて!」

「あ、そう言えばそうですね。腕によりをかけましたので、期待していいですよー」


 一応、バレンタインにチョコレートをもらってはいるけど、あれを手料理と言っていいのか微妙なところなので、ちょっと割愛。


 でも、手作りには変わりなかったんだけどね。


「うん!」

「じゃあ、ボクはちょっとメルたちを迎えに行ってきますね。向こうに、芝生がありますのでそこで待っていてください」

「了解だよー」

「じゃあ、行ってきますね」


 そう言って、ボクは初等部の方へ小走りで駆けていった。



 依桜ちゃんが行った後、私たちは依桜ちゃんが指定した芝生に向かいつつ、軽く話していた。


「いやー、お昼は用意しなくて大丈夫、って今朝言われたから何事かと思ったけど……まさか、お弁当とはね~」

「うんうん! 依桜ちゃんすっごく家庭的!」

「たしかに。しかもあの様子だと、妹さんたちの分も作っているわけよね?」

「依桜ちゃん、すごいもん。多分『六人も九人も、大して差はないよね!』とか思ってそうだしね」


 依桜ちゃんだもん。


 大抵のことはそつなくこなせるすごい女の子。


 まあ、実際はTSした元男の娘なんだけどね。


 その事実を、莉奈さんたちは知らない。


「ところで、美羽さんって依桜ちゃんの手料理を食べたことあるような口ぶりだったけど、食べたことあるのぉ?」

「あ、うん。CFOってあるじゃないですか」

「たしか、美羽さんがイメージキャラクターをやってる、話題のフルダイブ型VRMMOゲームよね?」

「そうそう。それでね、私、依桜ちゃんと向こうでもフレンドさんなんだけど、向こうで再会した時に、料理を作ってもらってね。と言っても、スイーツだったんだけど……すっごく美味しかったの!」

「そうなんだぁ。でもでも、ゲームの中なんでしょ? それって、ゲームの中だから美味しいんじゃないのかなぁ?」

「ううん。CFOの料理ってね、現実で作れるものしか作れない、みたいなところがあってね。さらに言うと、味も現実で作るのと同じだそうで……つまり、CFO内で依桜ちゃんが作る料理は、現実と同じということ」

「……美味しい、ってこと?」

「うん、そうだよ」


 奈雪さんの言葉を肯定すると、莉奈さんたちはそろって頬が緩んだ表情を見せた。


「ちなみにだけど、依桜ちゃんって、家事万能らしいよ? 炊事洗濯、掃除、なんでもござれ! みたいな感じ」

「な、なんという女子力―……」

「近年稀に見る家庭的美少女だねぇ」

「高校生なのに、それって……すごいとしか言えない」

「私も驚いたよ」


 まさか、あの時であった女の子と、こんな関係になってるとも思わないし、その女の子がものすごく家庭的だったりして、さらに驚き。


 あそこまでエプロンが似合う女の子もなかなかいないんじゃないかなぁ。

 ……それでも、元男の娘なわけだけど。


「ここまでくると、依桜ちゃんが何者なのか気になるね~。何でもできる完璧美少女! って感じだしー」

「完璧じゃないですよ、って依桜ちゃん言うんだよね」

「ふーん? もしかして、苦手な物とか?」

「なんでも、『お化けだけはダメです! 怖いです! 無理なんですぅっ!』だそうで」


 初めての収録の時に、依桜ちゃんに聞いてたり。

 その時と言えば、本当に萌え死ぬかと思ったよ。


「あ~んなに可愛くて、家庭的で、すごく優しくて、才能の塊のような依桜ちゃんが、お化けが怖い……いやぁ、絵に描いたような、完璧美少女っぷりだねー! 莉奈ちゃんびっくり!」

「私もですねぇ。依桜ちゃん、可愛すぎるんですもん。抱き心地も最高でしたぁ」

「……気になる。依桜ちゃんの抱き心地」

「ふふふー、最高ですよ? あと、かなり特殊な話なんですけど……聞きます?」

「「「聞きたい!」」」

「わかりました。でも、依桜ちゃんに一応訊いてみますね?」


 さすがに、何も言わずに教えるのは、依桜ちゃんに失礼だし、何かと問題になりそうだしね。怒らないとは思うけど、それでも親しき中にも礼儀あり! だね。


 というわけで、LINNで連絡。


『依桜ちゃん、依桜ちゃん! 莉奈さんたちに、依桜ちゃんの体質のこと言ってもいいかな?』

『体質って言うと……小さくなったり、っていうあれですか?』

『そうそう! もちろん、秘密にしてもらうよう言うから』

『はい、いいですよ。莉奈さんたちになら大丈夫そうですしね。それに、なんだかんだで今後も何かで関わりそうな気がしてますし』

『そっかそっか! じゃあ、伝えておくね! あ、いっそのこと、元男の娘って言うのも伝えちゃう?』

『……うーん、一応そう言う不思議体質、っていうことを説明する上で避けて通れない話題な気がしますし……そうですね。言っておいていただけると嬉しいです。それに、別段秘密にしている話題でもありませんしね。変に注目とか浴びないように、っていう理由で知らない人には言っていないだけなので』

『そっかそっか。まあそうだよね』


 依桜ちゃんのように、ある日突然性別が! みたいなこと、現実じゃあり得ないしね。万が一、下手に広まっちゃうと、是非研究を! みたいな、いかにもヤバそうな人たちに言われそうだからね。


 そう考えると、なるべく言わないように、って言うのは大事だよね。


『じゃあ、一応言っておくね』

『はい。本来ならボクから言うべきなんでしょうけど……』

『大丈夫大丈夫! 莉奈さんたちはいい人だから、問題ないよ! 気にしないで、メルちゃんたちを迎えに行ってね!』

『ありがとうございます』

『うん。じゃあ、後でねー』


 最後にスタンプを送って、会話終了。

 前向きな方で助かった。


「許可が下りたので、話します。……でも、結構ぶっ飛んでるあれこれなので、絶対に秘密にね?」


 そう言うと、莉奈さんたちはこくりと頷く。


 表情はどことなく楽しそう。


 普段、どちらかと言えば硬い奈雪さんも、ちょっと楽しそう。


「えーっとね、実を言うと、銀髪碧眼で、超絶美少女で、まさに女神様のような性格の依桜ちゃんなんだけど……元男の娘です」

「「「………………うん?」」」

「去年の九月ごろに、朝起きたらあの姿になっちゃったらしくて、それ以来女の子で過ごしてるの」

「「「……」」」

「あれ? 大丈夫ですか?」

「大丈夫……と言えば大丈夫だけどー……え、ほんとにー? ほんとに、依桜ちゃんって元男の娘―?」

「はい。えっと……あ、あったあった。女委ちゃんに送ってもらった、依桜ちゃんが依桜君だった時の写真」


 もらっておいてよかった!


 個人的に、好みにドストライクだったので、永久保存してます。


 可愛すぎるのがいけない。


「これ、男の子なのぉ?」

「男の娘ですね」

「妹や姉、というわけではなく?」

「正真正銘、依桜ちゃんです」

「わ~お、びっくりー! ということは、依桜ちゃんってリアルTSさんということかー!」

「そうだね」


 まさか、現実にTSした人がいるとは思わなかったけどね!


 とりあえず、異世界や依桜ちゃんの素性のあれこれについては伏せておくから、原因はわからない、ということになるんだけど。


「それから、さらに面白いお話」

「TSさんということ以上面白いことって……あるの?」

「うん。依桜ちゃんってね、不思議な体質をしてて、不定期で体が変わるの」


 そう言うと、莉奈さんたちは揃って疑問符を頭の上に浮かべた。

 知らないとそうだよね。


「バリエーション豊かで、小学四年生くらいの幼女状態に、小学一年生くらいの姿に狼の耳の尻尾が生えた、ケモロリ姿と、通常時に狼の耳と尻尾が生えたけもっ娘姿と、二十代くらいの姿になる大人バージョンもあるよ」

「「「え、えぇぇぇ……」」」


 さすがに、この情報には絶句していた。


 うん、その気持ちはわかります。


 でもね、


「ここだけの話、依桜ちゃんの耳と尻尾は……すっごくもっふもふで、すっごく触り心地がいいの! さらに、けもっ娘状態だと、抱きしめるとちょうどすっぽり収まるサイズだからなお良し! 最高です!」

「「「なんっ、だとっ……」」」

「ちなみに、これがその時の動画です」


 写真ではなく、なぜ動画かと言えば、私が一人で楽しむためです。


 なにせ、けもっ娘美幼女がもじもじとしながらちょっと潤んだ瞳で、さらに上目遣いで見てくる姿なんですよ? 絶対見ちゃいますって。


 可愛すぎる依桜ちゃん。

 そして、そんな姿を見た莉奈さんたちはというと……


「「「……( ˘ω˘ )」」」


 浄化されたような純度100%の微笑みを浮かべていた。


 さすが、天使です!


 どんなに欲があっても、すぐさま浄化してしまうなんて……映像でこれなら、リアルだとどうなるんだろうなぁ。


「これが、けもっ娘依桜ちゃんー……」

「可愛すぎますよぉ」

「なんだか、庇護欲がすごい……」

「ちなみに、こっちがロリモードで、こっちがけもっ娘モード。そして、これが大人モードです」

「「「お、大人モード……エロい」」」


 わかります、その気持ち。


 依桜ちゃんの大人モードって、本当にエッチなんですよね。


 あふれ出る色気が留まることを知らず、常時あふれ出続けるというすごさ。


 女の私でも、これにはドキドキしちゃう。


「でも、これで性知識0」

「「「え!?」」」

「女委ちゃんから訊いたんだけど、依桜ちゃんって、赤ちゃんはキスでできると本気で思い込んでるようで……」

「「「何それ、可愛い……」」」

「さらに、そういう知識を教えると、顔を真っ赤にして気絶するとのことでもあります」

「「「……ピュアっピュア!」」」

「そうなんです。依桜ちゃんって、びっくりするくらいピュアなんです」


 これには、私もびっくり。そして同時に……自分が汚れている気がして、すごく、負けた気分になりました。


「さらに――」


 という風に、依桜ちゃん談義が花を咲かせ、依桜ちゃんが戻ってくる頃にはさらにヒートアップしていて、依桜ちゃんが小首を傾げていました。


 キュンとした。

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