第328話 試合終了後

 初戦が終わった後は、次の試合が決まるまで休憩。


 コートを出ると、


「ねーさま!」

「イオお姉様!」

「わわっ」


 二人が抱き着いてきた。


 慣れたなぁ、なんだか。


 やっぱり、こうやって抱き着かれるのが日常的になると、ちょっとした癒しになりつつあるよ。普段から疲れるしね……。


「二人とも、応援ありがとう」

「本当は、ニアたちも来たがってのじゃが……」

「試合などが重なってしまったのです」

「いいよいいよ。同じ学園にいる以上、そう言うことの方が多いからね。でも、二人だけでも応援に来てくれたのは嬉しいよ」


 そう言って微笑みながら、二人の頭を撫でる。


 二人は目を細めて気持ちよさそうな表情を浮かべると、さらにぎゅっと抱き着いてきた。


 可愛い……。


「本当は、みんなの試合も見に行きたいんだけど、見ての通り、時間があまりなくてね……ごめんね?」

「いいのじゃ! ねーさまが来れないのなら、儂らで会いにくれば問題ないのじゃ!」

「そうなのです。ニアたちも、午後は見に行くと言っていたのです!」

「そっか……。ありがとう」


 本当に出来た娘たちだよ……。


 こうして、妹たちを見ていると、慕ってくれているって言うのは、胸があったかくなるね。血のつながりがなくても、全く問題ないというか、むしろ、ないからこそこうして温かくなるんだろうなって思う。


 可愛いしね、みんな。


「依桜、大活躍だったわね」

「あ、未果。見てたの?」

「もちろんよ。バスケとテニス、両方終わらせてきたわ」

「あ、そっか。未果ってずっとやってたんだっけ?」


 未果は、テニスとバスケの二つに参加してたんだもんね。


 でも、スケジュール結構ギリギリだったんじゃないかな?


 一応、同時にあったようなものだし……。


 ……どうやって参加したんだろう?


「そうよ。テニスは当たった相手が悪くて初戦で負けちゃったけどね。バスケの方はなんとか勝って、三回戦目まで行ったわ」

「そっか、おめでとう」

「そっちこそ。でも……まあ、依桜なら当然よね。身体能力、以上だもの」

「あ、あはは……」

「しかも、メルちゃんとクーナちゃんの応援で、ちょっと本気出したでしょ」

「うっ……わ、わかってた?」

「当然。まさか、メルちゃんたちのためだけに頑張るとはね……依桜、あなた、シスコンがどんどん重症化してないかしら?」

「し、シスコンじゃないよ!?」

「む? ねーさま、しすこん、とはなんじゃ?」

「私も知らないのです。どういうものなのですか?」

「うっ……」


 つ、伝えにくい……!


 みんなは、こっちの世界において戸籍上ボクの義理の妹となっているだけに、伝えにくい……! もちろん、ボクも本気で妹だと思ってるけど。


 でも、だからこそ、伝えにくいわけで……。


「それはね、妹が大好きで大好きでしょうがない人のことを言うのよ、メルちゃん、クーナちゃん」

「なんと!」

「ほ、ほんとなのですか!?」

「ま、まあ……二人のことは……というより、みんなのことは大好きだよ? 当然。でも、し、シスコンじゃない、と思うんだけど……」

「ほーう? まだ認めないと申すか。そもそも、柊先生にサッカー部に誘われていたわよね、あなた」

「う、うん」


 ……それも見てたんだね。


「断った理由は?」

「……みんなのお世話とか、家事とか? あと、まだみんながこっちに来て日が浅いから心配で……」

「過保護ね。……まさか、依桜にシスコンの一面があるとは思わなかったわ……」


 え、そ、そんなに過保護かな、ボク。

 普通だと思うんだけど……。


「まあいいけど。でも、二人の応援があったとはいえ、11対0はやりすぎでしょう」

「す、すみません……」

「ゴールから敵チームのゴールにボールを入れるわ、一度もボールを取られないでゴールに入れ続けるとか、以上だったわよ? 知ってる? 依桜。この球技大会ってね、各種目で有名な大学やら、プロのチームの監督、もしくはスカウトマンが来てたりするのよ?」

「え!?」


 なにそれ、初耳!


 そんな人たちが来てたの? なんで?


「その様子じゃ、知らなかったようね。……まあ、去年まではごく普通の男の娘だったし、その時はまだ、依桜は運動が苦手だったものね。仕方ないわ。でもね、さっきの試合、ものっすごい注目されてたわよ」

「ほ、ほんとに……?」

「ほんとほんと」

「でも、なんでこの学園に……?」

「……叡董学園って、部活動が盛んなのは知ってるわよね?」

「うん」


 一応強制ではないとはいえ、部活動に参加している生徒は多いしね。


 中には、よくわからない部活もあるんだけど。


「実際、うちって結構な強豪校なのよ。なんだかんだで設備はしっかりしてるし、自主性もあるしね。なんだったら、申請を出せば新しいトレーニング器具とか購入できるし」


 あ、あー……たしかに、学園長先生だったら、それぐらいできそうだよね……。


 あの人の財力って異常だもん。


 少なくとも、一介の高校生の口座に一億円を一括で振り込みできるくらいには。


 それを考えたら、新しいトレーニング器具を購入するくらいわけないんだろうなぁ……あの人。


「それでまあ、そこが目当てで入ってくる中学生も多いわけよ。で、今はほら、初等部と中等部が新設されたでしょ? だから余計。割と有名だしね、この学園は。それでまあ、強豪で、尚且つ有名なこの学園に、スカウトマンやら、大学の各スポーツの監督やらが見に来るわけよ。有望そうな人を探しにね」

「な、なるほど……」


 概ね理解した。


 でも……未果の言っていることに、メルとクーナの二人はわかっていないみたい。


 まあ、うん。そうだよね。ニアたちよりも先にこの世界来たとはいえ、メルは三月に来たばかりだし、ニアたちに至っては、つい最近だもんね。


 それに、大学だってよく知らないと思うし、スポーツもそう。


 だから、理解できない方が自然だよね。


 その内、教えておこうかな、将来的なことも見据えて。


「それで、教師の人に、あの少女は誰だ! ってものすごい勢いで尋ねていたわよ? ほんと、しっかりしているようで、抜けているわよね、依桜は」


 呆れ笑いを浮かべる未果。


 ぬ、抜けてる……。た、たしかに、ちょっとは自覚あるけど……でも、普通はスカウトが来てるとは思わないもん。


「幸いというか、対応していたのは戸隠先生だったから、なんとか誤魔化していたけど、この後も試合があると思うと、結構面倒かも?」

「うっ……」


 それは……たしかに、ちょっと嫌だ。


 だって、ボクはスポーツの選手とかになるつもりないしね……。

 仮になった場合、相当注目を集めちゃうと思うし、無理無理。


「ま、自業自得よね」

「……はぁ」


 たしかに、自業自得とはいえ、二人が見ていたんだもん。カッコ悪いところなんて見せられないよ。


 そう考えたら……まあ、うん。後悔はない……です。


「そう言えば、女委は?」


 たしか、卓球の方ももうそろそろ初戦が終わるはずなんだけど……


「女委なら……ほら、あそこ」

「え? ……あ、納得」


 未果が指差した先には、なにやら大興奮で莉奈さんたちと話している女委がいた。


 もしかしたら、迷惑そうにしているかも、と思ったら、莉奈さんたちもなぜか楽しそうに……テンションが高そうに話している。


 一体、何を話しているんだろう……?


 と思っていたら、四人がこっちに来た。


「いやー、依桜君ナイス!」

「え、急に何?」

「まさか、依桜ちゃんが『謎穴やおい』先生のお友達だとは思わなかったよー。おかげで、会話が弾む弾む」

「うんうん。私もびっくりだったよぉ。でも、こっちのお願いごとを聞いてもらえてラッキーだったよ!」

「私も。おかげで、素晴らしいものが手に入りそう」


 あれ、もしかしてこの三人って……


「あの、もしかして、女委のファンなんですか?」

「「「うん」」」


 すごくいい笑顔で頷いていた。


 え、ほんとに?


 ……そう言えば、美羽さんもそうだったような……って、


「あれ? そう言えば、美羽さんは……」


 美羽さんがいない。

 たしか、美羽さんも来るみたいなこと言ってたと思うんだけど……。


「美羽ちゃんなら、依桜ちゃんのお友達の男の子の試合を見に行ってたよ~。たしか、晶君、だったかな?」

「そうなんですね」


 なんだかんだで見に行ってるんだ。


「多分そろそろ……」

「依桜ちゃ~ん!」

「おでましね」

「依桜ちゃん!」

「うわわっ!? み、美羽さん、いきなり抱き着かないでくださいよぉ!」

「ふふふー。そこに依桜ちゃんがいるのなら、抱き着くのは当たり前!」


 恥ずかしげもなく、堂々と言えるのは、素直にすごいと思います、美羽さん……。


「ねーさま、そこの四人は誰なのじゃ?」

「私も気になるのです」

「あ、ごめんね。えっと、こっちの人はメルはゲームの中で会ってると思うけど、美羽さんだよ」

「ほう! あの優しそうで、どことなく危ない何かを抱えていそうなお姉さんが、美羽なんじゃな!」

「「「ぶふっ!」」」


 メルがそう言った瞬間、莉奈さんたちが、なぜか噴き出した。


「め、メルちゃん!? わ、私、別に危ないものなんて抱えてないよ!?」

「む、そうかの? 時折、ねーさまを見る目が危ないような気がしたんじゃが……」

「き、気のせい! 気のせいだよ、メルちゃん!」


 慌てて否定する美羽さん。


 なんで、そんなに慌ててるんだろうと、首をかしげる。


 未果と女委を見れば、二人して『あー……納得』みたいな顔をしている。


「き、気を取り直して、そっちにいる黒髪セミロングの人が莉奈さんで、右隣の茶髪でハーフアップの人が音緒さん、左隣にいる眼鏡をかけて、黒髪三つ編みの人が奈雪さんだよ」

「男女ティリメルじゃ! よろしくなのじゃ!」

「男女クーナなのです。よろしくお願いしします!」


 二人そろって、ぺこりとお辞儀する。

 うん、礼儀正しくて偉いね。


「依桜ちゃんって、妹さんがいたんだねー」

「二人ともすっごく可愛い!」

「……たしかに。これは反則ね」


 莉奈さんたちは、メルとクーナの二人を見て、頬を緩ませている。


 可愛いからね!


「あれ? 依桜ちゃん、クーナちゃんって娘、以前見かけなかったんだけど……どうしたの?」

「実はですね、ゴールデンウイーク中に、五人ほど妹が増えまして……」

「え」

「海外にいる親戚の娘たちなんですけど、わけあって今はボクの家族です。もちろん、戸籍上でも。とはいえ、みんな可愛いですし、大切に思ってますけどね」

「あ。そ、そうなんだ……まさか、妹が増えてるなんて、夢にも思わなかったよ」


 そこはボクも思ってます。


 異世界へ行ったら、妹が増えることになったんだもんね。


 普通は予想できないよ。


「依桜ちゃん依桜ちゃん」

「はい、なんですか、莉奈さん?」

「えーっと、依桜ちゃんって何人姉妹?」

「ボクを含めたら、七人ですね」

「「「「すごっ!?」」」


 より正確に言えば、七人兄妹なんだけど……まあ、今のボクはある程度受け入れちゃってるしね……女の子でいることを。


 それに、すでにお姉ちゃんであることを自覚しちゃってるし。


 さらに言えば、莉奈さんたちはボクが男だったって知らないもんね。

 言っても問題ないと言えばないけど……今はやめておこう。


「え、依桜ちゃんのお家って、お金持ちなの!?」

「い、いえ、一応ごく普通の家庭ですよ?」

「普通なのに……七人姉妹?」

「ひょっとして、貧乏だったりー……?」

「そんなことはないですよ。幸い、ボクにもちょっとした稼ぎがありまして……それで妹たちは養っていますよ」

「「「……」」」


 あ、あれ? なんか、微妙な表情をしているような……?


(((依桜ちゃんって……もしかして、もうすでにとんでもないお仕事を!?)))


 うん? 今、微妙に違うことを思われたような……気のせいかな?


「そう言えば依桜、最近引っ越したのよね?」


 不意に、未果がそう尋ねて来た。

 どうしたんだろう?


「うん」

「前の家ってどうなったの?」

「あ、うん。持ってるよ」

「………………待って。持ってるって、何?」

「えっと、まあ、ちょっと色々あって……今はボクの所有物、ということになってます」

「……ということは、依桜君って、家持ってるの? 個人で?」

「まあ……そうなる、かな。うん」


 一応、名義はボクになってるし……。


 まさか、高校二年生で家を持つことになるとは思ってなかったけどね。


「え、依桜ちゃんって家持ってるの?」

「と言っても、二日前なんですけどね」

「そ、そうなんだ」

「……依桜ちゃんって、やっぱり相当なお金持ちなのかなぁ?」

「え、えーっと……」


 実質的な話を言えば、ボクの残り残高、未だに数千万だから……個人で、それも高校生が持つ金額にしては相当だよね……。


「……依桜、一応聞くんだけど、今の残り残高って、いくら」

「…………たしか、五千万くらい?」

「「「「――ッ!?」」」」


 ボクが残り残高を言うと、美羽さんたちが声にならないくらいに、驚いていました。

 うん、だよね……。


「待って? 依桜ちゃんってどんなお仕事をしてるのー?」

「ちょ、ちょっとした実験のお手伝い……ですよ?」


 あながち間違いじゃないよね。

 だって、実験みたいなものだもん。


「実験のお手伝いをしただけで、それだけ貯まる……依桜ちゃん、すごいのね」

「い、いえ、たまたまこうなっただけで、ほとんど成り行きで……それに、このお金は妹たちにしか使ってませんよ、ほとんど。自分のために使うのは稀です」

「そ、そうなんだぁ……。なんだか、私よりもお金持ってて、すごく負けた気分だよぉ……」

「音緒さん、依桜君のやることなすことすべてに落ち込んでたら、疲れちゃうぞ? 依桜君、色々とおかしいもん」

「め、女委、それは酷くない……?」

「事実でしょ、少なくとも」


 未果からの切り替えし。

 ……普通に生活してるだけなんだけどなぁ……。


「依桜君はトラブルホイホイだからねぇ。知らない間に、何かに巻き込まれてるしね」

「……あ、だから依桜ちゃん収録の時に、絶妙なタイミングでいたんだねー。納得だー」

「偶然じゃなくて、必然だったわけだねぇ! 依桜ちゃんすごい!」

「面白い体質ね」

「ということは、依桜ちゃんが私と出会ったのも、必然だったんだね! 運命を感じちゃうよ!」

「そ、そういうのじゃない、と思いますけど……」


 幸運値のこともあるから、一概に否定できない……。


 ただ、トラブルホイホイと言うのだけは、本当にやめてほしい……。


 この後も、次の試合が始まるまで、色々と話しました。


 その過程で、莉奈さんたちの中では、ボクがおかしなことになっているらしいんだけど……それをボクは知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る