第313話 核爆弾のような事実

 学園の仕事そっちのけで、イオを探すものの、やはり見つからない。


 いやまあ、別の世界に行ってる時点で、いるわけないけどな。


 つい先日、エイコから、イオのいる世界がわかったと言われ、さらにそこが並行世界だと言われた。


 何と言うか、何してんだろうな、って話だ。


 お互いの世界のエイコが協力し、それによって装置が完成したようだ。


 そんで、あとは帰還するのを待つだけとなったんだが……。


 それでもやはり、どこに出るかわからない以上、こっちでもその地点を探さないといかん。


 で、帰還日だという新しい週の月曜日。


 その日もいつも通りに探し、成果はなかった。


 だが、同時にイオの気配はチラッとだが感じはした。


 学園側にある気がした。


 そして、放課後になると、まっすぐ家に帰っているのを感じたので、なるべく急ぎで家に帰宅した。


「ただいま」

「あ、おかえりなさい、ミオさん! 依桜が帰って来たわよ!」

「――ッ! わかった、すぐに行く」


 あたしは、大急ぎで階段を駆け上がると、


「イオ!」


 イオの部屋に突撃をかました。


「師匠。えっと……か、帰りました」


 そこには、あたしの大事な大事な愛弟子が、申し訳なさそうな笑顔を浮かべながら、床に座っていた。


 見れば、メルがイオにくっついて眠っていた。


「……無事か?」

「は、はい。どこにも異常はないですよ」

「……そうか。ならよかった」


 どこにも異常がないというのなら、問題はないな。

 安心した。


「……で? お前はこの一週間、あたしに何も言わず、どこに行ってたんだ? すべて包み隠さず言え」

「は、はい! じ、実は――」


 あたしは、イオからこの一週間のことを聞いた。

 内容的にはまあ……一週間、並行世界に行っていた、ということだ。

 で、まあ、男のイオがそっちにはいたらしい。


「――というわけです」

「……なるほどな。並行世界、か。で、原因はそっちのエイコの発明品の暴走、と」

「はい」

「はぁぁぁぁぁぁ……我が弟子ながら、面倒なことに巻き込まれる奴だ」

「すみません……」

「……いや、この辺に関してはもう仕方がない。とりあえず、無事で何よりだ」


 やはり、無事が一番だしな。


 ……だが。まあ、時間のずれはなかった、か。


 色々と謎が深まったわけだ。


 ……今は、そんなことはどうでもいいな。


 ここはやはり……


「さて、そんな師匠であるあたしを心配させた罰として……今日は一緒に風呂に入り、一緒に寝てもらおうか」


 イオに罰を与えねばならん。


「……ふぇ?」

「さあ、そうと決まれば早速行くぞ! お、ちょうどいい、メルも誘うとしようじゃないか」

「あ、あの、師匠……? 寝るのはわかりますけど、あの、どうしてお風呂……?」

「んなもん、お前に背中を流してもらうために決まってるだろ」


 というか、一緒に風呂に入りたいし、一緒に寝たい。

 まあ、あれだ。師弟同士のスキンシップって奴だな!


「え、ええぇ……?」

「いいからさっさと行くぞ!」


 そして、こいつに拒否権などない!

 あたしを心配させた罰だ! 許さん!


「え、あ、ひ、引っ張らないでください! ……いやああああああああああああ!」


 イオの襟首を掴んで、あたしはずるずると引きずって行った。



「はっはっは! いやはや、イオは体がほんっとに綺麗だな」

「は、恥ずかしいから、あまり見ないでくださぃぃ……」


 顔を真っ赤にしながら、自身の体を隠そうとするイオ。

 こいつ、マジでエロいんだよなぁ……素晴らしいくらいに。


「ねーさまのおっぱいは、やっぱりふかふかなのじゃぁ~~」


 なんて言いながら、メルはイオの胸に顔をうずめていた。


 う、羨ましいな……。


 さて、もうこの時点でおわかりだと思うが……今は、あたしとイオ、メルの三人で風呂に入っていた。


 まあ、例の罰執行のためのあれだ。


 イオの家の風呂は意外と広く、三人で入っても問題ないほど広かった。


 すごいな、こいつの家。


 まあ、だから一緒に入れるわけだが。


「め、メルっ、あ、あまりっ、んっ、い、いじらないでぇっ……!」


 ……エッロ。


 お前、変な声出すなよ。


「でも、ねーさまのおっぱい気持ちいいんじゃもん……仕方ないのじゃ」

「そ、そうは言ってもっ、ぁんっ、へ、変な気分にっ、な、なっちゃうっ、からぁ……!」

「むぅ、よくわからんが……じゃあ仕方ないのじゃ」

「た、助かった……」


 こいつ、年下にすらこうやっていじられるのか……マジで受けの性質だよな、こいつ。あれか、Mなのか。


 まあ、イオって明らかに受けだもんな。


 うむ、なんか納得したぞ。


「さて、弟子よ。あたしの背中を流してもらおうか」

「あ、は、はい。じゃあ、ボクの前にどうぞ」

「ああ」


 イオに言われ、あたしは前に座る。


「じゃ、じゃあ、流しますよ?」

「頼む」


 すると、ごしごしと泡立てた垢すりで、背中を流してくれた。


 強すぎず、かと言って弱すぎない、絶妙な力加減で。


 あぁ、気持ちいいなぁ……。愛弟子がやってくれているという状況も相まって、すっげえ気持ちいい。


「ど、どうですか?」

「ああ、最高だ」

「よかったです。……師匠には、迷惑かけちゃったみたいですしね」

「なんだ、気にしてるのか?」

「ま、まあ……それに、メルにも寂しい思いをさせちゃったし……」

「寂しかったが、ねーさまがいるのじゃ! もう大丈夫なのじゃ!」

「……そっか。それならよかったよ」

「お前は心配しすぎだ。あの程度、迷惑なんざ思わんぞ、あたしは。というか、お前が何かに巻き込まれるとか、日常茶飯事だし」

「うっ、ひ、否定できない……」


 事実だしな。


 むしろ、巻き込まれないで、平穏な生活を送っていたら、それこそ恐怖だぞ、あたし的には。


「だが、そうだなぁ……お前が今後、異世界に行かないとも限らん。やはり、あたしは世界すら超えて感知できる能力とか、異世界転移の能力かスキル、魔法でも探してみようかね」

「……師匠ならできそうですね」

「そうか?」

「はい。師匠ってなんでもできる、なんてイメージがありますからね。不思議じゃないです」

「ははっ、いいこと言うじゃないか。ま、不可能を可能にするのが、あたしってもんだ。その内、探してみるさ」


 じゃないと、マジでこいつが心配だしな。


 どこへ行くかもわからん奴である以上、そう言ったものが必要になってくるのは当然だな。


 久々に努力でもしてみるか?


「……っと、そうだ。なあイオ」

「はい」

「お前、異性の裸を見ても、全然平気になったんだな?」

「ふぇ!? ち、ちちちちち違いますよ!? そ、その、師匠の裸は、えと……修業時代に見ていたので、だから、な、慣れがっ……!」

「んま、お前が風呂に入っている時に、よく乱入してたしな。……まあいい。そろそろいいぞ」

「あ、はい。じゃあ、お湯を流しますね」


 そう言いながら、イオは最後にお湯を背中にかけてきた。

 ふむ。気持ちよかったな。


「どれ、今度はあたしがお前の背中を流してやろうじゃないか」

「え、い、いいんですか?」

「ああ」

「じゃあ、お願いします」

「任された」


 この後も、愛弟子とのスキンシップを楽しみながら、三人仲良く色々と話した。



 その夜。


 あたしが言ったように、今日はあたしとイオ、メルの三人で寝た。


 まあ、さすがにベッドで寝るのは無理があったんで、和室の方に布団を敷いて三人で寝ることにしたがな。


 で、まあ……あたしがこいつと一緒に寝よう! などと言ったのは、別にこいつと一緒に寝たいからじゃない。……一割くらいは。


 だがまあ、その一割が今回の目的と言えよう。残った九割は単純に寝たいだけだが。


 さて、あたしがどうしてこいつと一緒に寝たいと言ったか。


 それは……あれだ。鑑定をかけるためだ。


 別に普段の生活でもいいだろ? とか思うだろうが、実はちょっと面倒なことがある。


 これは、相手のステータスによっては、向こうに違和感が生じてしまう。


 といっても、ほんのわずかだが……相手は、紛いなりにも、魔の世界において、世界で二番目に強い、なんて言われているような奴だ。違和感を感じ取る危険性がある。


 まあ、体育祭の時に鑑定をかけているが、あの時は、今ほど強くはなっていなかった。


 こいつは、帰還後の方が強くなっているんでな。


 おかげで、ちょっと面倒になっちまった。


 だが、寝ている間というのは、大抵無防備なものだ。


 あたしも『鑑定(覇)』を鍛えたおかげで、かなりの熟練度になっている。


 毎日凝りもせずに、視界に映るすべての物に鑑定をかけまくってれば、そりゃ熟練度もあがるわな、とか思ったけどな。いやマジで。


 さて、ぐっすり眠っているイオのステータスでも、覗かせてもらいますかね。


『イオ・オトコメ 女 十九歳

 体力:7800/7800 魔力:10000/10000

 攻撃力:998 防御力:604 素早さ:1875

 幸運値:7777

 職業:暗殺者

 能力:『気配遮断』・『気配感知』・『音源感知』・『消音』・『影形法』・『一撃必殺』・『短刀術』・『双剣術』・『投擲』・『立体機動』・『擬態』・『変装』・『料理』・『裁縫』・『壁面走行』

 スキル:『瞬刹』・『身体強化』・『料理』・『柏手』・『鑑定(下)』・『無詠唱』・『毒耐性』・『精神攻撃耐性』・『言語理解』・『変色』・『分身体』

 魔法:『風魔法(初級)』・『武器生成(小)』・『回復魔法(初級)』・『聖属性魔法(初級)』・『付与魔法』・『アイテムボックス』

 種族:―ん―― 固有技能:『範能上昇』

 称号:『ミリエリアの子孫』・『――――――』』


「ぶはっ――!?」


 あたしは思わず、噴き出していた。


 今のでイオたちが起きてしまうかもしれないレベルで、噴き出した。


 え、ちょ、ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?


 は!? どういうこと!?


 え、マジで? こいつ、あいつの子孫なん!?


 うっそだろ!?


 というか……いやいやいやいや! なんであいつの子孫がここにいるの!? あいつって、普通に死んだよな!?


 なのになぜ、あいつの子孫がこっちの世界にいるねん!


 ま、待て、落ち着け。ツッコミどころは他にもある!


 なんでまだ種族が見れないんだよ! あと、称号ってなんだ!


 そもそも、称号なんて項目あったの!?


 お、落ち着け……落ち着けあたし……自分のステータスを思い浮かべろ。もしかすると、あたしにも称号ってのがあるかも――って、いや、あったよ。マジであったよ。


 えーっと?


『創造神の親友』


 うっわー、これあいつのことやん……。


 え、ちょっと待って? いや、本当に待って?


 長い生涯において、一番の爆弾なんだが!? それどころか、核爆弾レベルの何かが、あたしの目の前でぐっすり、可愛い表情で眠ってるんだが!?


 え、ええぇぇぇぇ?


 普通さ、こういうのってあっさり暴露しちゃダメなんじゃね?


 ラノベで言ったら、十数巻くらいで明かされる秘密的な何かだぜ? 正直言うと、まだその巻数に到達してないぞ!?


 いや、自分でも何言ってんだって話だが!


 しかし……しかしだ! これを見て、冷静になれって言う方が無理な話だろ!?


 ……ん? ま、待てよ? こいつが子孫ってことは……あたしの親友って、


「恋人がいたのかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」


 思いっきり叫んだ。


 それはもう、思いっきり。


 はっ! まずい! 今大声を出したら、イオたちが起きて――


「すぅー……すぅー……えへへぇ……ししょぉ~、だいすきぃ~……」

「――ッ!?」


 ね、寝言で告白された!?


 だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


 もういい! 考えるのは後だ! 今は寝るぞ! てか、もうびっくりすぎて、考える暇がない! 寝かせてくれ!


 よし、今日も疲れたな! 寝る!


「おやすみ!」


 現実逃避をするかのように、あたしは夢の世界へと旅立った。

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