第314話 色々考察

 新しい朝が来た。


 だが、あたしは全然清々しい気分ではない。


 というか、そんな気分になれんぞ。


 なんだあれ。


 今思い出しても、また噴きだしそうになる。


 ……称号と言う項目があったこともびっくりだが、一番驚いたのは……


「ミリエリアの子孫ってどういうことやねん……」


 似非関西弁が出てくるレベルで、あたしは困惑していた。


 なんとなしに、気になったから鑑定を掛けたら、予想外……というか、全く予想できなかった事実が飛び出してきた。


 不意打ちの一撃をもらったせいで、ものっそい精神的ダメージがでかい。


 あいつの子孫て……。


 ふぅむ……うん。ここはあれだな。エイコにも話そう。あたしだけじゃ、手に負えんし、考察するにしても、一人だとな……頭が痛くなりそうだ。


「そうと決まれば、連絡だな。今日はちょっと……仕事は無理」


 あたしはスマホでエイコに連絡を入れた。

 内容は、


『急ぎで話したいことがある。大事な話だ。今からそっちに行ってもいいか?』


 という、無難なものになった。


 送信から間もなく、返信が届き、


『OK~。じゃあ、研究所で待ってるわー』


 場所を言われたんで、あたしは軽く着替えてから、エイコの所へ転移した。



「来たぞ、エイコ」

「いらっしゃい。それで、朝から大事な話って?」

「いやなに、ちょっとあたしじゃ処理するのが難しくなっちまってな……エイコに、情報共有をしてもらおうかと」

「ミオがそう言うってよっぽどじゃない? ……まあいいわ。それじゃあ、こっち来て。いつもの所で話しましょ」

「ああ」


 いつものところって言うと、まあ、あそこだろうな。


 休憩室。


 てか、仮眠室と休憩室、何で一緒じゃないんだ? とか前にちょっと思ったな。


 なんてことを思いつつ、休憩室へ。


 お互い向き合うようにして座ると、エイコから口を開く。


「で? 一体何があったの?」

「……ちょっと前に、ミリエリアという法の世界と魔の世界を創ったであろう、創造神がいたって言う話をしただろ?」

「ええ。ミオの親友だったんでしょ? その神様。それで、その神様がどうかしたの?」

「……昨日のことなんだがな。イオを鑑定してみたんだ。前々から気になっていたんで」

「なるほど。それで、何かわかったの?」

「……わかったにはわかった。だが、ものっそい混乱した」

「混乱? 一体何が書かれていたのよ」

「…………あいつな、そのミリエリアの子孫らしい」

「…………………………うん?」


 エイコの表情が固まった。


 いや、まあ……その気持ちはわかる。あたしですら、人生で最も驚いた瞬間だったからなぁ……。


「……えーっと、ちょっと待って? 子孫? 神様の?」

「ああ……」

「それ、あり得るの?」

「……わからん。そもそも、神って子供作れんの? とか思わんでもないが……実例がいる以上、疑いようのない事実だ」

「……じゃ、じゃあ何? 依桜君って……神様的なあれなの?」

「いや、まだそこはわからん。あいつの種族全然わからなくてなぁ……。一文字だけ『ん』と書かれていた」


 正直、『ん』だけじゃわからんよ。


 これはあれか? まだまだ『鑑定(覇)』の鍛え方が足りないのか?


 まったく、どこまで鍛えれば、あいつの種族が見れるのかね?


「まあ、人間ともとれるし、今は……放置よね」

「そうだな。わからんことを考えても仕方ない。さて、問題はあいつがミリエリアの子孫だと発覚したことなんだが……」

「まさか、神様の子孫とはねぇ? でも、それって本当なの?」

「……鑑定を偽ることはできるが、あいつじゃ無理だな。そもそも、そう言うタイプの能力とスキルは持ってないし。それに……まさか、称号なんて項目があるとは思わなかったが、ステータスは嘘をつかない。これは常識だ。だから、あいつが子孫なのは間違いない、と思うんだが……」

「だが?」

「……問題はそこじゃない。そうなってくると、あいつの両親のどちらかが、イオと同じ子孫なんじゃないか、ということになる」

「あー、たしかに」


 正直、今ならわかる気がするんだよな……。


 イオで出来たということは、確実に。


 問題は、どっちがあいつの子孫かだが……。


「うーん……あ、もしかして……」

「ん、どうした?」

「いえね? 依桜君って、隔世遺伝で銀髪碧眼になってるでしょ? もしかして、依桜君って北欧系の血が流れていたからそうなったんじゃなくて、その神様が先祖にいたから、銀髪碧眼になったんじゃないかしら?」

「……なるほど。あり得ない話じゃないな。この辺りは、イオの家系を見ればわかりそうだな。エイコ、その辺りって調べられるか?」

「異世界研究よりも圧倒的に難易度は低いし、問題ないわよ。ちょっと会社の人使って、今から調べさせるわ。多分、すぐに見つかるんじゃないかしら? その辺のプロだし」

「すごいな、お前の会社は……」

「ふふん、自慢の社員たちよー。じゃあ、ちょっと待ってね。……あ、もしもし? 私です。ちょっとお願いしたいことがあって……。男女依桜君っているでしょ? その子の家系を遡ってほしいの。できれば、そうね……ミオ、神様が死んだのっていつ?」

「あー、すまん……それがよく覚えてなくてな……四百年~五百年くらいだと思うんだが……」


 あたしって、マジで何歳だっけ?

 もう覚えてないわ。


「まあ、それくらい絞れてればいいわ。……四百年~五百年までの間で調べてもらえる? あと、家系の中に名前が日本人じゃない人がいたり、ん? というような名前の人がいたら教えて。うん、よろしくね。……はい、頼んどいたわ」

「早いな」

「仕事は、常に迅速に行わなきゃいけないからね。まあ、多少遅れちゃっても問題なし」

「そうか」


 本当、頼りになるな、エイコは。


 こっちの世界じゃ、一番信用できる相手だ。こういう相手がいるってのは、何かと物事を有利に進められるからな。


「じゃあ、話を戻しましょうか」

「ああ。現状、今考えるべきは、あいつの存在と、気になる点だな」

「そうねぇ……依桜君が行方不明になった次の日の話も含めて考えましょうか」

「だな」

「で、ミオ的には気になることは何?」

「そうだな……。まあ、結構あるが……その中のいくつかをここでは考えるとしよう。まず一つ目。前回の話の続きでもあるが、イオのテロリスト襲撃時の行動。二つ目。これはさっき言ってなかったんだが、あいつの称号がもう一つあること。三つ目、今回の並行世界の件では、こっちの時間の進みと、向こうの進みが一緒だった。ずれはない。四つ目。これはあいつ自身ではないが、ミリエリア本人の方だ。なぜ、子孫がこの世界にいるのか。……まあ、とりあえずは、この四つだな」


 他にも色々とあるにはあるが、でかいところだと、この三つだな。

 あいつ自身は謎だらけ過ぎる。


「二つ目~四つ目はわかるけど、どうして一つ目が気になるの?」

「あたしは話でしか聞いてないからあれだが……たしか、学園祭はあいつが帰ってきてからすぐに行われたんだよな?」

「ええ」

「で、テロリストの襲撃があることを知ったのは、その前日」

「そうね」

「ハッキリ言って、なんであいつは後手に回ったんだ?」

「……どういうこと?」

「いやな? いくらこっちが平和な世界とはいえ、あいつが魔の世界でしてきた経験は、そうそう抜けることはない。だから、テロリスト襲撃が事前にあると知っていれば、あいつは事前に潰そうと動くはず。というか、あたしがそう教えた。なのに……あいつは事前に動くことはせず、行き当たりばったりで動いていた。ここがそもそもおかしい」

「……言われてみれば、たしかに」


 あいつなら、事前に動くはずなのに、なぜかそうしなかった。


 あいつの性格はよく知っている。


 大切に思っている奴らがいる状況で、行き当たりばったりに動くなんざ、あいつがするはずない。


 そうなってくると、別の何かが介在して、イオがそうするように仕向けたとしか言いようがない。


 問題は、それが何か、ということになる。


 そんな考えをエイコに話すと、エイコも思案顔になる。


「……そうね。それに、今更言うようだけど、私もやろうと思えば動けたはず……なのに、動けなかった。いえ、そもそもそう言う考えが沸いてこなかった、の方が正しいかも」

「……ふむ、そうなるとますます気になるな。その現象は、イオにもあった可能性がある」

「でも、そうなると誰がそんなことを?」

「わからん。しかし、何者かの意思が介在している可能性があると思っていいだろう。もちろん、これが本当のことなのかはさておき。単純に、お前たちがうっかりしていただけの可能性だってある」

「それならそれで、まだいいんだけど……でも、今思えば、腑に落ちないわね、ほんと」


 本人がそう言うってことは、割とガチである可能性が高い。

 まったくもって、わからないことだらけだな、ほんと。


「とりあえず、次の話をするぞ。二つ目の、称号に関する部分だな」

「たしか、ミオが見たのは『ミリエリアの子孫』だけなのよね?」

「ああ。そうだ。そして、その下にもう一つ、称号があった。だが、それは見えなくなっていてな。なんて書いてあるか不明だった」

「じゃあ、考えようがないんじゃないの?」

「まあ、そうなんだが……どうにも、何かあるような気がしてならん。だが、それがなにかはわからなくてな」

「見えないわけだしねぇ」

「ああ」


 一体何が書かれていたんかね?


 色々と気になるが、一文字もわからないんじゃ、どうしようもない。


 だが、可能性があるとすれば……


「称号は、ミリエリア関連である可能性が高いな」

「あら、それはどうして?」

「あいつが子孫であるのはまあ、確定情報だとして。あいつは、色々とミリエリアと繋がっていることが多い。例えば、ゲーム内のアイテムに対して、懐かしさを憶えたりだとか、そもそも性格が微妙に似ていたりだとかな。さらに言えば、まだ結果が来てないから何とも言えんが、マジで先祖だった場合、あいつの隔世遺伝はそこから来ている可能性が高い」

「なるほど……それはさっき、私が言っていたことね?」

「ああ。だがまあ、二つ目に関しては、わからなすぎるんで、ここで切ろう。考えても仕方ない。……で、三つ目。時間の進み。これでハッキリしたのは、時間のずれが生じるのは、魔の世界だけだろう」

「そうね。向こうで一週間過ごして、こっちでも一週間が経過していたわけだし」

「んで、ここで疑問。このずれ、あたしらにも適用されるのか、それともイオだけなのか、だ」

「……たしかに」

「さらに言えば、あいつの場合、こっちから向こうに行って、帰ってきた時にのみ、このずれが生じる。だが、魔の世界から法の世界へ行き、また法の世界へ行く、と言う場合だと、それは適用されていない。となると、あいつの出身世界が、法の世界で間違いない。だが……だからなんだ、と言う話にもなってしまうんだ」


 法の世界出身だから、何かあるかと言われれば……答えは否だろう。

 この世界は、ステータスが普及していないからな。何か特殊な力があるわけでもない世界だ。


「なるほどねぇ……。依桜君の出身がわかっても、誰がずれを生じさせているかわからないから、意味はない、と」

「そういうことだ。……もっとも、このずれに関しては、イオ以外の誰かが実験しないと、全員にかかることなのかわからないしな。ただ、これに関しては、あたしよりも、こっちの世界の人間で試した方がよさそうだが……」


 なんて、あたしがぼやいたら、


「……あ。ちょっと待って。それ、以前試した」


 唐突に、そう告げて来た。


「は?」

「体育祭の時に、変之君を一方的に攻撃していた人がいたでしょ? あの子ね、ちょっ~っとお仕置きがてら、異世界送りにしたのよ」

「ほう。それで?」

「そう言えば、一日で帰ってこなかったわ」

「期間は?」

「そうね……一週間だったはずよ。向こうで、一週間過ごして、出発から七日後に帰ってきてるわ」

「そうか……となると、イオにのみ起こっている現象ってことか」

「みたいね」


 そうなってくると、マジで誰かが時間をいじってるんじゃないか?


 本来なら、魔の世界と法の世界の時間の進みは同じでリンクしているはずだ。


 しかし、あいつだけは魔の世界に行き、帰ってくるとこっちでは七分の一の時間しか経過していない。


 一体何の目的があるのか知らんが……まったくわからん。


 あいつにまだ何かあるのか?


「じゃあ、一旦三つ目も終わりでいいわね?」

「ああ。じゃあ、最後の四つ目だ。というか、これが一番重要だろう。……なぜ、こっちの世界にあいつの子孫がいるのかどうか、だ」

「うーん、それってそんなに問題なの?」

「問題だな。あいつは、あたしの目の前で死んだんだぞ? あたしはそれを見ている」

「でも、それがもし、死んでなかったとしたら?」

「そんなはずはないだろ」


 エイコのたとえ話を、あたしはすぐに切り捨てた。

 ところが、納得いかないのか、エイコは再び尋ねる。


「……じゃあ、死んだ時って、どんな感じだったの?」

「光の粒子になって消えたな」

「ふむふむ。じゃあ、もう一つね。ミオって邪神を殺してるんでしょ? その時って、どういう風に死んだの?」

「ん? そりゃ、死体に……ん? 変だな……言われてみればおかしい」


 ミリエリアが死んだとき、あいつは致命傷になりかねない傷を負ってはいた。その直後に、あいつは光の粒子となって天に昇って行った。


 だが、あたしが邪神を殺した時は、そんな死に方じゃなかった。粒子というより……霧散に近かった気がする。


 光の粒子にはならず、黒い霧のような感じだった。


 ……そうなると、あいつの死に際はおかしいぞ?


「……エイコの言う通り、生きていた、のか?」

「私は現場を見ていないからあれだけど、可能性はあるんじゃないかしら?」

「……もし、あいつが死んだのではなく、こっちの世界に流れていたら……」

 そう口にしたところで、不意にエイコのスマホが鳴った。

「はい、もしもし。……え、もうわかったの? 早すぎない? ……あ、そう。まあいいわ、じゃあ、情報を送って。……ええ、ありがとう。それじゃ、よろしくね」

「……エイコ、今のって」

「依桜君の家系がわかったわよ。今、データを送ってもらってるわ」


 しばし、データが全て転送されるのを待つ。


 数十秒ほど待つと、全部送られてきた。


 さらにそのデータを、エイコがプリントアウトし、紙をあたしに渡してきた。


「どうぞ」

「ありがとう。さて………………なるほど」

「どう?」

「ああ、結論から言おう。あいつは、間違いなくミリエリアの子孫だ。見ろ、これ」


 あたしは家系図をエイコに見せる。


「問題となるのは、一五七〇年辺りだ。見ろ、『みりえりあ』ってあるだろ?」

「あらほんと……って、あれ? これ、よく見たら結婚相手……日本人じゃない?」

「ああ。おそらくだが、あいつはあの時死んだのではなく、この世界の……それも、日本に流れ着いたんだろう。で、そこでボロボロなミリエリアをそいつが見つけ出し、紆余曲折あって結婚した、ってところだろう。で、そいつの子孫が……サクラコ。あいつの母親だな」

「うっわー、ものすごい家系ねぇ、依桜君って」

「……マジで、笑えねぇ」


 だがあくまでも、あたしがしたのは想像の話だ。

 最初に見つけた奴は違っていて、別の奴が見つけ、それを世話した、って言う線も考えられる。


「安土桃山時代辺りね、これ」

「確か……戦国時代とも呼ばれるよな?」

「まあ、始まりはもっと前だけど、時代が被っているし、間違いないわ」

「そうか。……しかし、そうなると謎だな」

「謎?」

「ああ。一応、神は不老不死だ。いや、正確に言えば死ぬと言えば死ぬんだが、普通に生活していただけじゃ死にやしない。傷だって一応塞ぐことはできたはず。だが……現にあいつは現れていない。ミリエリアとあたしは親友同士で、お互いの存在はどこにいようと感知できる。なら、あたしがこの世界に来た時点で気付いているはずなんだが……」

「それがない、と」

「そうだ。……そうなってくると、あいつはおそらく神力を使い果たし、人間のような存在に成り下がってしまったんだろうな。で、寿命を迎えて亡くなった、ってところだろう。家系図にも、現れた年から八十年後くらいに没となっている」

「ほんと……」


 だとするなら……あいつは何かに生まれ変わったんだろう。それが何かまでは、まだわからんがな。


 ……ん? じゃあ待てよ?


 そうなると、あいつは魔の世界で生まれ変わったわけじゃなく、こっちの世界で生まれ変わっている……?


 一体何に?


 ……まあいい。その辺はその内探すとしようかね。


 とりあえず、イオが何者か、少しはわかったしよしとしくか。


 それに、隔世遺伝でミリエリアの特徴を濃く受け継いだんだろう。


 それなら、あいつの体に魔力回路が形成されていても不思議じゃないし、あの幸運値も納得できる。


 マジで稀有な存在だな、あいつは。


「……じゃあもしかして、ブライズの世界が滅んだ理由って……」

「まあ、概ね創造神の子孫であり、あいつの特徴を濃く受け継いだイオを殺した人間が許せなくて、色々とやらかしまくったんだろうな、神が。ある意味、とばっちりだ。資源の枯渇に関しては、まだわからんが……」

「そうね。……はぁ~~~、まさか、こんなことになるなんて、夢にも思わなかったわ」

「だな。あたしも、こんなとんでもないことになるとか、まったく予想してなかったよ。因果なもんだ。まさか、あたしが鍛えていた少年が、実はあたしの唯一の親友の子孫だったとはな……」


 なんかいっそ、運命的なものを感じるぞ?


 まるで、あいつ自身に、子孫を頼まれた気分だ。


 ……でも、あいつがもし、あたしと一緒にいた時に恋人がいて、子供ができていたら、あたしに預けてきそうだよな。


 あいつは、あたしのことを無条件に信用していたしな。


 多分、


『ミオなら任せられるよ。だから、お願い。――の子供を強くしてあげて』


 ってな具合に言いそうだ。

 それも、満面の笑みで。


「そう言えば、依桜君って固有技能ってあるの? 以前、見れなかったとか言ってたけど」

「ああ、あったぞ。『範能上昇』。効果は、一定の範囲内にいる物の身体能力をそこそこ向上させるものだな。使用方法は、応援。対象は自身で指定でき、人数上限はない」

「……なるほどー。つまり、体育祭の時、依桜君の応援で強くなった生徒って」

「十中八九、この固有技能が原因だろうな。知ってか知らずか、あいつは無意識に使っていたんだろう」

「なるほどねぇ」


 ある意味、天才だな、あいつは。


「まあ、少しずつ依桜君の事がわかってきたわけだけど……どうするの? この情報。依桜君に伝えるの?」

「……いや、やめておく。これは、あたしとエイコの秘密ってことにしておいてくれ。さすがに、教えられないな」

「秘密にするのはいいんだけど……どうして?」

「ただでさえ、あいつは他の奴と違う存在なのに、そこからさらにこの事実を突き付けて見ろ。あいつ、絶対に気にするぞ。それも、めんどくさいレベルでな。さすがにそれは可哀そうだ。やらねえよ」

「そっか。……ミオって、本当に依桜君を大切にしてるわよねぇ」

「ま、あいつの師匠だからな。大事にするのは当り前さ。それに……あいつの子孫であるとわかった以上、あいつは何が何でも守る。守り切れなかったミリエリアの形見のようなもんかね」


 もちろん、子孫云々なしに、あいつのことは守るつもりだけどな。

 だが、一層気合が入るってものだ。


「いい師匠を持ったのね、依桜君は」

「引き合わせてくれたのは、エイコのおかげでもあるがな」

「うーん、依桜君にはかなり苦労させちゃってるし、素直にどういたしまして、とは言えないわねぇ」

「いいんだよ。あいつも恨んじゃいないし、そもそも必然だったことだろうしな。前言ったように」

「……そうだったわね。少なくとも、この世界は正解を選んでいて、その渦中には依桜君がいるってことだものね。なんだか、世界の命運とか、その内背負わされそうよね、あの娘」

「はは! そうなったら、あたしが全力でサポートしてやるさ。それも、あいつが楽して世界の命運を背負えるようにな」

「頼もしいわね、ほんとに」


 最後に軽く笑いあって、会話は終了し、すっきりしたあたしは学園へと転移していった。一応仕事はしないといけないのでな。



 色々と旅をしたおかげで、わかったことは多い。


 イオのあれこれはまだまだ謎だが、まあ……少しわかっただけでも前進したな。


 ……さて、と。


 ブライズの件も片付いたし、しばらくは面倒なことは忘れて、イオたちと楽しく過ごしますかね。


 …………ん? そういや、あの本って……この世界に原本があるんじゃないのか?


 いや、今はいいか。後に回すとしよう。

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