第348話 酷すぎる、ドッジボール決勝
「……ただいま」
「お、おかえり、依桜」
「なんと言うか……お疲れ様、と言うべきか……」
「あ、あは、あははははははは……しにたいです……」
「あかん。重症だわ……」
トランポリンハウスから戻って来た依桜は、何と言うか……重症だった。
目元がちょっと赤くなってるし、なんか、涙の痕もあるし……やっぱりあの時、ちょっと泣いてたのね。
しかも、あの瞬間以降、敵味方関係なく、依桜をあやすとか言う、あほみたいな状況になってたし。
とんでもない状況を作り出すわよね、ほんと。
「……まあ、さすがにパンツを大勢の前に晒す、なんて普通に考えて大事件だからな……」
おっしゃる通りで。
というか、仮にも通常時はボンキュッボンの銀髪碧眼美少女なのは、割と周知の事実だけど、その銀髪碧眼美少女が幼女化して、そのパンツを見て、鼻血を出して沈む男たちって……相当なド変態よね? これ。
もしかしてなんだけど……ここには、ロリコンが多かったりするのかしら?
ヤバい人しかいない学園だけど、これは何と言うか……もっとやばい。
「なあ、未果。俺は思うんだ」
「何を?」
「……サッカーでこれなら、ドッジボールの方はもっとまずいことになるんじゃないか、と」
「……そう言えば、着替えが揃ってる、とか言ってたわよね……」
「……依桜、大丈夫か?」
「……だいじょうぶ、なのかなぁ……」
どこか遠い目をしながら呟く。
まあ……そうよね。
なにせ、一種目目の決勝戦が、あんなにも酷いものだったんだもの。
確実に、ドッジボールの方もとんでもないものになるに違いないわ。
「まあ、とりあえず、あれね。依桜、今度からスパッツとか穿いていた方がいいわ」
「……うん。そうだね」
「まあ、仮にスパッツを穿いたとしても、あまり好転はしないような気がするけどな……」
何も、言い返すことができなかった。
それから、準備が出来たので、ドッジボールの場所へ。
この時間帯の決勝戦は、ボクと晶の二人。女委と態徒、未果の三人は、観戦しているようです。
……ボクの試合の。
心配だから、って言う理由だそうで……。
……その際、憐憫の目を向けられつつ、すごく優しい笑顔をボクに向けていました。
な、泣けてくるよ……ボク。
そんなわけで、ドッジボールのコートへ。
「……あれ? ふつう」
ドッジボールのコートに来てみれば、どこもおかしなところはなく、普通のドッジボールコートがあるだけだった。
なんとなく、サッカーの時と同じような感じになるんじゃないか、と身構えていただけに、なんだか拍子抜けというか……でも、着替えが揃ってる、って書いてあったことも考えると、何かあるんだろうけど、見当もつかない。
うーん、何だろう?
『依桜ちゃん、見た感じルール変更が無さそうなんだけど、どう思う?』
「う、うーん……ないにこしたことはないけど……が、がくえんちょうせんせいがいいだしたことだとおもうので、たぶん……あるとおもいます」
むしろ、ない方がおかしい、と思えてくるレベルだよ? あの人の場合。
『はい、ドッジボール決勝戦のルール説明を行いますので、こちらに集まってください』
そう言われたので、ボクたちはそちらへ移動。
『集まりましたね。では、説明します。まず、このドッジボールでは……こちらのボールを使います』
そう言って、先生が取り出したのは、一見すると何の変哲もないボール……なんだけど、よく見れば、一ヵ所だけ、変なものが見える。
ちょっと機械的というか……どう見ても、機械っぽい何か。
……すごく、嫌な予感が。
『こちらのボールは、何と言いますか……すごいボールです』
適当過ぎない?
あと、すごいってなにが!?
『こちらのボール、投げられたボールを、バウンドなしでキャッチすると、ランダムで何かが発生します。ランダムですので、何も起こらない場合もあります』
待って? 何かが起こるって何? 一体何をする気なの!?
すっごく心配になってきたんだけど!
『学園長先生からも、『何を仕込んだか忘れちゃったから、まあ……楽しんで!』としか言われなかったので、私もわかりません』
(((て、適当すぎる……)))
絶対に碌なことはしないと思っていたけど、本当にとんでもないことを始めようとしてない!?
一体、あのボールに何が仕込まれてるの!?
『他のルール自体は、通常のドッジボールと同じですが、一点だけルールが変更になっています。まず、相手が投げてキャッチしたボールは、相手に投げて、味方の外野か、相手チームのエリアに行くまでに地面に落としたら、アウトになります』
……うん?
『なので、キャッチしたボールを、味方との間でパスをし、取り損ねて落としたら……二人ともアウト、ということになるわけです』
(((鬼畜ッ!)))
どんなルールですか!? そんなルール、ドッジボールで聞いたこともないんだけど!
いや、あるの? 実際には存在してるの!?
う、うぅっ、とんでもないことになってるよぉ!
『というわけですので、そろそろ始めたいと思います。準備はいいですか?』
そう訊くものの、この場にいる人たちは、こくりと頷くだけでした。
……微妙そうな表情で。
何とも言えない空気で始まった、ドッジボール決勝戦。
ジャンプボールから始まるまでは、普通のドッジボール。
最初にボールが渡ったのは相手のチーム、三年一組。
実際、こう言う大会で決勝戦まで残るのって、最高学年が多かったりするからね、よくあることだと思います。
……まあ、この学園ではそうでもないんだけど。
だって、運動神経がいい人が多いもん。
『うっし、まずは小手調べだな。んじゃま、軽く……おらっ!』
そう言って投げられたボールは、ボクのクラスの男子、石田君がキャッチ。
『よし、キャッチ! じゃあ――ぶげはっ!?』
次の瞬間、ボールの表面が開き、ギャグマンガでよく見かけるあの、ボクシンググローブのようなものが飛び出してきて、石田君の顔に直撃した。
い、痛そう。
ピ―――!
『石田君、アウト!』
『『『ええぇぇぇぇ!?』』』
先生の判断に、敵味方関係なく、驚愕の声を上げた。
あれでアウトになるの!?
キャッチしたよね……って! あぁ! ま、まさか、このためにあの変なルールを追加したの!?
ば、馬鹿だよ! すっごく馬鹿だよ!
『や、やべえよ。いきなり石田が退場したよ……』
『しかも、マジもんの退場だぞ、あれ』
『うっわー……い、痛そう……』
『も、もしかして、女子にもあれが来たり……?』
そんな呟きが放たれると、女の子たちが固まった。
というか、顔を青ざめさせている。
『安心してください。学園長先生曰く、痛い系のギミックは、男子だけだそうです』
なんて、先生が言った瞬間、女の子たちはほっとしていた。
だ、だよね。
さすがに、学園長先生でもそれはしないよね。
……まあ、男子のみんなは絶望しているけど。
が、頑張って。
『くっ、石田の仇はとる! くらえ!』
今度は、野田君がボールを投げた。
『これは、避けた方が得策だな!』
そう言いながら、相手チームの人がひょいっとボールを躱す。
『たしかに!』
うん。この種目、ボールをキャッチしないのが、一番いいのかもしれないね。
その代わり、ほぼ一生ボールが回ってこない気がするけど……。
『じゃあ、背後からっ!』
野田君が投げたボールは、見事に回避されたものの、元外野の吉田さんに渡った。
そして、背後から投球。
そのボールは、相手チームの一人に当たり、アウトにした。
『くっ、当たっちまった……』
『大丈夫だ。ボールはこっちの手にあるからな!』
あのボールシステムって、さっきの先生の説明を聞く限りだと、敵チームの投球をノーバウンドでキャッチした場合に起きるものみたいだしね。
だったら、一度誰かが当たって、それでボールを回収した方がいいのかも。
……まあ、それすらも考慮に入れてそうだけどね、学園長先生。
『おーし、じゃあ、仕返しだ!』
今度は、ボクめがけてボールが飛んでくる。
こ、これは、キャッチするべきなのか、躱すべきなのか……って、あ、ぼ、ボクの後ろに人が!
う、うぅ、どうなるかわからないけど……キャッチする!
「きゃ、キャッチ! で、でもこれ、なにがおこ――わぷっ」
おこるの、と言い切る前に、ボールの表面が開く、何かが射出された。
なんとかボールは落とさなかったけど、な、なんなの? これ?
「うぇぇ……なんだか、ドロドロしてるし、ちょっとねばっこいよぉ……」
『『『――ッ!?』』』
あと、なんか妙に熱いような気がしてならない……。
白くて、ドロドロしてて、ちょっとねばっこいし、あと妙に熱いものが、顔にかかっちゃった……。
あと、ちょっとだけ口内にも……
「あ、あれ? これ、ヨーグルト……?」
なんか、ヨーグルトの味がしました。普通に美味しい。
でも、なんでヨーグルト?
うぅ、かかったものが、服にも……うぇぇ、べたべたするよぉ……。
『い、依桜ちゃん? その……だ、大丈夫?』
「う、うん、ちょっときもちわるいいがいはとくに……。あとこれ、ヨーグルトみたいだし……」
『あー、えーっと、そういうことじゃなくて、何と言うか……』
「? えっと、えんりょなくいってだいじょうぶ、ですよ?」
『うっ……じゃ、じゃあ、言うけど……依桜ちゃん。すっごく、エッチな状態なんだけど……』
「えっち? えっと、でも、しろいものがかかっただけ、ですよ?」
『あぁぁぁぁ……そうだった……依桜ちゃんって、近年稀に見えるピュアだったぁぁぁ……』
『……なんか、私たちが汚れてるって思えてくるんだけど』
『奇遇ね。私も』
ど、どうしたんだろう?
なんだか、女の子たちが落ち込んでいるような……?
『くっ、や、やばい。さすがに、幼女状態ならやられることはないと思ってたが……』
『無理だったっ……!』
『ってか、あの状態は色々とアウトだろ……!』
『ち、小さいからこそ、逆に背徳感があるっていうか……』
『やべえ、まともに立てん……』
あれ? よく見ると、男子の人たちがみんな前かがみになってるような……。
お腹でも痛いのかな?
『あー、依桜ちゃんがピュアすぎて、今の光景に首を傾げちゃってるよ……』
『まあ、依桜ちゃんだし、ね』
『たしかに』
……それはともかく、着替えたい。
「「よっしゃあああああああああああああああああああああ!」」
「落ち着きなさい、馬鹿共」
ドッジボールの決勝戦が始まり、少しした頃、依桜の惨状を見て、
「やっべえ! やっべえよ! あの光景、まじやべえって!」
「態徒君、やべえしか言えてないよ! でも、わかるよその気持ち! あの依桜君の状態は、反則だよ! 何あの、幼い中にあるエロス! 小さく、純粋だからこそ、内側にある無自覚のエロが素晴らしいんだよ!」
「ごめん、何言ってるかわからないわ」
もうだめね、この二人は……。
というか、あの状態は何と言うか……色々とまずい、わよね、どう見ても。
しかも、偶然引き当てたような感じがしないのよねぇ……まさかとは思うけど、依桜にだけ、特定のギミックが作動するようにしてる、とかないわよね?
あったらあったで、大問題だし。
「でもでも、未果ちゃんだって何も感じないわけじゃないでしょ?」
「……ノーコメントで」
「お? ツッコミをしておきながら、本当は依桜のあの姿にドッキドキなんじゃないのかぁ? 未果ぁ?」
「きもっちわるッ! 酸素の無駄だからちょっとの間死んでくれないかしら?」
「すんません……それはマジで立ち直れないくらいきついんで、許してください……」
ダメージを受けるくらいなら、気持ち悪い言い方をしなければいいのに。
「まあ、態徒君がド変態で、どうしようもない、クズなのはいいとして」
「ちょっと待て、女委。なんか今、女委の口からはまず出ない言葉が聞こえてきたんだが……」
「気のせい気のせい」
「そうか、気のせいか」
((え、単純馬鹿……))
何かしら、こう……態徒の将来がすごく心配になって来たわ、私……。
「……とりあえず、依桜の試合を見ましょうか」
「だねー」
「おう」
それから、色々なことがありつつも試合は進みました。
例えば、相手チームの男子の人がボールをキャッチした瞬間、
バチッ!
『いったッ!?』
ボールが、びりびりグッズよろしく、電気を発して、相手チームの人の手からボールが落ちたり、ボクのチームの女の子がボールをキャッチしたら、
『あぶっ!?』
なぜか、ボールの中からパイが飛び出してきて、顔に直撃して、パイまみれになったり、はたまたボクのチームの男子の一人がボールをキャッチしたら、
バシィィィンッ!
『が、はっ……』
ボールの中から手が出てきて、その手におもいっきりビンタされて、膝から崩れ落ちたり、相手チームの女の子が、
バシャァァ!
『きゃっ! ちょ、なんで水!?』
ボールの中から大量の水が放たれて、全身ずぶ濡れになった挙句、なぜか
『『『YEAHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!』』』
男子の人たちが歓声を上げていたりしました。
もう、何と言うか……酷すぎて、ね。何も言えないというか……うん。なにこれ?
そうして、気が付けば、お互いあと一人ずつとなっていました。
『はぁ……はぁ……く、体が、いてぇ……』
現在、ボールを持っている相手チームの人は、すでに満身創痍。。
手をびりびりされたり、ビンタされたり、ボクシンググローブのあれを受けたり、パイ投げを受けたり、なぜか献血されたり(一瞬で傷口を治療してました、ボールが)、ボールがいきなり膨らんだと思ったら、ちょっとの間空を飛んだり……まあ、そんなことがありながらも、なんとかコートに立っている状態。
その過程で師匠が、
『あいつ……鍛えがいがありそうだ』
とか、ボクに『感覚共鳴』で言ってきました。
師匠に認められるなんて……実は、すごい人なのかも。
正直、ボクも尊敬してます。あれだけことがありながら、無事に立ってられるなんて。
ちなみにボクは……まあ、最初のヨーグルトのほかに、なんだかよくわからないものを受けました。
なぜか、鈴付きの首輪がね、ボクの首に付けられたり、片耳(狼の)に可愛らしいリボンを付けられたり、ボールの中から手が出てきて、からだをくすぐられたり、あと、なぜか『いお』とボクの名前が書かれた布を、ナース服の胸の辺り貼られたり、一瞬で白のニーハイソックスを履かされたりと、色々ありました。
なんだか、ボクだけ方向性が違くない? とか思ったけど、もしかすると、、ボクが単純に変なものを引き当ててるだけかもしれないので、気にしないことにした。ランダムって言ってたしね。
だけど、なぜか周囲の人、特に男性の人たちが顔を赤くしながら目を逸らしてたけど。
あとは、なんだか……女の人たちの目が怖いというか……獲物を狙う狩人のような目というか……とにかく、怖かったです。
と、お互い色々とおかしな状態。
一刻も早く終わらせないと、あの人も倒れそう。
ボクも、早くこの首輪を取りたい。……ちょっと、可愛いけど。
動くたびに、ちりんちりんという音を出すしね。これ。
『へ、へへ……こ、この玉で、天使ちゃんを倒すぜ……行くぜ! くらぇぇぇぇ!』
最後の力を振り絞ったのか、球はかなりの速さで飛んできた。
キャッチしても問題はない……ことはないね! 何が起こるかわからないもん!
でも、一刻も早く、あの人を救護テントに連れて行かないと、色々と危ない気がするので、キャッチしよう。うん。それで、ボールを当てて、アウトにしてあげよう。
というわけで、キャッチ。
そして……これが、ダメだったんだと思います。
次の瞬間、例によってボールの表面が開いたと思ったら、中から謎の液体が放出された。
「わぷっ!? こ、こんどはなに……って、え?」
液体自体はそこまでの量じゃなかったです。
ただ、問題だったのは………………………………服が、溶けていました。
『『『ぶはっ!?』』』
周囲から噴き出した音が聞こえてきたけど、それどころじゃないよ!
え? え!? なんで、なんで服が溶けてるのぉぉぉぉぉぉ!?
あの液体って何!?
一体どんな成分が含まれてたの!?
酸性? 酸性なの!? で、でも、体に害はない……って、そうじゃなくって!
「あ、あぁぁぁ……!」
気が付けば、ボクの来ているナース服は、所々溶けて、ボクの地肌が見えていた。
しかも、当たり所が悪かったのか、今にも服がずり落ちてしまいそうに!
あぁっ! しかも、下着のキャミソールも微妙に溶けてきてる!?
スカートの方も、あと少しで完全に落ちてしまい、パンツ姿になっちゃいそう……!
そこまで理解した瞬間、ボクの顔……というか、体はみるみるうちに熱くなり……
「い、い……いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
『ちょ――ぎゃあああああああああああああああ!』
ほとんど全力の投球をしていました。
同時に、それが原因なのか、ボクの着ていた服がパサッと落ちる――
「いぃぃぃぃぃおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
寸前で、未果がボクを抱えてその場から走り去りました。
突然の事態に、周囲が硬直する……というか、まさかの光景に男女関係なく、全員、血の海に沈んだ。
『え、えー……しょ、勝者は二年三組です!』
と、教師がそんなことを言ったが……まあ、誰にも聞こえていないだろう。
人によっては、ある意味素晴らしい光景ではあったが、その代償に、一人の少女(男の娘?)がきらりと光る、涙を流したのは、言うまでもない……。
そして同時に、
「やったああああああああああああああああああ! 依桜君の、ケモロリっ娘服溶解ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! 首輪にニーハイソックス! イイィッ! 永久保存決定よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!」
とか、テンションが天元突破した諸悪の根源がいたとか、いないとか……。
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