第3話 ちょっとしたチート?
「ん、そう言えば、女委が来てないが……誰か聞いてるか?」
「ボクは知らないよ」
「オレも知らん」
「私も。そう言えば、この時間にはいつも来ていたわよね? どうしたのかしら?」
「そうか。まあ、もうそろそろ来るか」
「そうね」
女委というのは、
彼女もボクたちの仲間で、ボクら五人でよくつるんでいる。
全員がちょっと個性的で、何かしら持っている。
ボクだったら、当然この外見。
未果だったら、容姿と性格。あとモテるレベル。
晶も大体未果と同じ。たまに、毒を吐くけど、基本的に身内だけ。
態徒と女委は……なんというか、ほぼほぼ同類。
態徒とは違ったタイプの変態で、なんていうか、その……色々と人として終わっているんだ。
見てもらえばわかるんだけど……
「お、おはよう!」
噂をすればなんとやら。
女委本人が教室に入ってきた。
さっき、女委の事は変態と称したけど、実際のところ、見てくれはいいのだ。
こっちも、未果と同じく、ラノベ風の説明をしてくれた人がいた。
なんでも、 肩口で切りそろえたオレンジ色の髪。けど、瞳は黒い。顔立ちも整っていて、優し気な印象を持たせる、おっとり系の美少女。変態だが、どういうわけか、プロポーションは抜群。特に胸は大きい。身長は未果より少し低いくらい、とのこと。
とはいえ、どう取り繕っても変態なので人として色々と終わっている人物。
ちなみに、女委の髪がオレンジ色なのは、単純に染めているから。もともと黒髪です。
「遅かったな、女委」
「そうだぞ! お前がいなきゃ、変態ポジはオレだけになっちまうんだぞ!」
「いや、変態は何人もいらないわよ」
「いやぁ、ちょっとばかしね」
「あれ、その眼の下の隈はどうしたの?」
と、ボクが尋ねる。
入ってくる時からかなり気になっていたのだ。
女委の目の下には大きな隈があったのだ。
それも、女子としてどうなの? なんてレベルで。
「いやぁ、入稿がかなりギリでねー。ちょっと徹した。ま、おかげで間に合ったけどね!」
「それは、お疲れさまと言うべきなのかしら……」
「まあ、迷うところではある……」
「オレ的には、女委の作品はなぁ、守備範囲外だからな……」
「ぼ、ボクも……」
「なんでさ! いいじゃん、薔薇! 最高じゃん! 純粋な愛情表現なんだよ!? なんで、理解してくれないのさ!」
「いやだって……」
「それはね……」
女委の言葉に対し、ボクと晶は目を合わせてこの一言。
「「だって俺 (ボク)たち、それのモデルにされてるし(んだもん)」」
そう、ボクと晶はすでに――というか、現在進行形でモデルにされているのだ。
モデル、というのは、絵画とか、そういったものじゃなくて、その……BLのモデルなんだよね……。
さっきの、入稿というのは同人誌のこと。
女委は、同人作家として活動していて、BLを中心に同人誌を製作している。PNは『謎穴やおい』。……意味が分かる人からしたら、ちょっとドン引きする名前だよね、ホント。
ちなみに、わからない人のために説明をば。
さっき言っていた薔薇とは、BLのこと。
ほら、女の子同士だと、百合と言われてるでしょ? 要は、それの対義語みたいなもの。
モデルに関しては、本来であれば、肖像権の問題で訴えられるんだけど……
「えー? でもあれ、ちゃーんと改変してるしー? 本人をそのまま使ってるわけじゃないしー?」
こんな感じで、無実を主張している。
正直、改変してる、って言ってる時点でアウトだとは思うんだけど……。
「はぁ……俺は普通に異性が好きだぞ? 別に、ホモとかってわけじゃないんだが……」
「くっくっく! そんなのは関係ありません! 重要なのは、愛読者様が喜ぶ内容が書けるかどうか! 表現の自由が、平等に存在するのです!」
「それを言うんだったら、ボクたちにも肖像権と言うものがあるんだけど」
いくら表現の自由があったとしても、他人を勝手にモデルとして使用するのはどうかと思うんだけどね。
「まあ、そうよね。いくら、改変しているとはいえ、実際に存在している人、許可なく使用してるものね。その辺りは、まあ……依桜と晶
だから許されてると思うけどね」
未果はボクと晶の味方のように見えて、実際は楽しんでいるだけ。
未果は、面白ければいい、の精神で生きてるところがある。
現に今も、ちょっとにやけてるし。止める気ゼロ。
「いや、別に許したわけじゃないぞ!?」
「そうだよ! ボクだって、BLのネタにされるのはちょっと……」
「でも、依桜って女子みたいな見た目だしな。そりゃ、女委からしたら、絶好のモデルなんだろうぜ?」
「ボクだって、好きでこんな姿になったわけじゃないよ!」
自分はネタにされてないからって、好き放題言って……!
「でも、依桜君って、ほんとに女の子っぽいところあるじゃん? だから、それを逆手にとって、女の子になっちゃった、みたいな作品も作ってるんだけど?」
「……今のボクに、その話題はタブーだよっ!」
「およ? どうして?」
「色々とあるの!」
「そっかぁ。じゃあ、今はやめとく」
こういうところは素直でいいんだけど……。
なぜ、ボクがタブーと言ったのかは、もちろん、呪いの件。
あれ、下手すると、女委の作った作品のようになってしまうのだから、本当に笑えない。
異世界に行くようなことがなければ、笑い話で済んだかもしれないけど。
「そういや、依桜。お前、なんか雰囲気変わったか?」
今しがた気づいたかのように、態徒がそう言ってきた。
それ、未果にも言われたけど……。普通の一般人が言わないようなことを、この短時間で二回も言われるとは思わなかったよ、ボク。
「ボク、そんなに変わったように見える?」
さすがにボク自身も気になったので、みんなに尋ねる。
未果が考えるそぶりをして、口を開く。
「そうね……私は、まずさっき話したみたいに、身長が縮んだように感じたわね。それ以外だと……謎のプレッシャーのようなものを感じるわ」
そのプレッシャーというのは、暗殺者としての物かもね。
「んー、俺は……なんか、妙に女子っぽいオーラを感じる」
「いやそれ、いつもじゃないん?」
女委、そのツッコミは変だよ。その理屈だと、ボクは普段から女子っぽいオーラを出していることになるんだけど。
というか、
「女子っぽいオーラ?」
自分で考えてて思ったけど、女子っぽいオーラって何?
もしかして、男子っぽいオーラとかもあるのかな?
「ああ。なんというか……普段の依桜からも、ほんのわずかだけそれっぽいオーラはあったんだが……なんか、今日急にそれが強まったような気がしてな」
「あ、それはわかるぞ、晶。たしかに、今の依桜からは、変に女子っぽいオーラが感じられるわ」
「男として、そのセリフは色々とおかしいんだけど……」
女の子っぽいオーラね……。
まさかと思うけど……あの呪いが効果を及ぼし始めてるとか?
だとすると、ボクが引き当てたのは……性転換?
……ま、まさかね。
ちょっと、考えたくない可能性が脳裏によぎった。
ないないと、頭を振ることでその考えを消そうとしたけど……やっぱり、何か引っかかる気がして。
「わたしはね……うーん、なんか髪質がちょっと変わったような気がする」
「髪質?」
女委が言ったのは、一番よくわからないものだった。
髪質って、実際見ただけでわかるのだろうか? いや、女委だしなぁ。あり得る。
ただ、ボクとしてもちょっと気になったので、軽く触ってみる。
「うーん……たしかに、ちょっといつもよりさらさらしてるような……?」
いつもより、わずかにさらさらとした肌触りになっている。
手櫛が通りやすいし……。
「そそ。それに、いつもより艶があるような気がするし」
「あ、言われてみれば。依桜、もしかして、シャンプーとか変えたりした?」
「ううん、変えてないけど……」
未果にそう言われるけど、シャンプーは変えていない。
もちろん、母さんのと間違えた、なんてことは全くしていない。
それに、シャンプーを一回そこら変えたところで、あまり変わらないと思うしね。
……まあ、実際は三年経っているわけだけど。
「それに……」
「え、まだあるの?」
「うん。なんか依桜君から、花のような、フローラルな匂いがするんだけど……」
「え、マジ?」
「それは気になるな」
「私も」
女委の発言に、ほかの三人が興味を持ったのか、ボクににじり寄ってくる。
「え、あ、あの、皆さん? 何をしていらっしゃるのでしょう?」
そんなボクの言葉を全く聞かず、スンスンと三人はボクの匂いを嗅ぎ始めた。
……え、なにこれ? これだと、三人がただの変態のような気がするんだけど……。
あと、ボクとしても、ものすごく反応に困ることされてるんだけど。
「……たしかに。女委の言った通り、依桜からはフローラルな匂いがするわ」
「ああ。花の匂いとかは詳しくないから分からないが、確かに言われてみればそれっぽいなと、俺も思う」
「依桜、お前、香水でも使ったのか? それとも……女子と寝たとか?」
「なっ! そ、そんなわけないでしょ!」
普通、そう言う発想になる? ならないよ、ボクだったら。
そこはまあ、態徒クオリティー。
「「「「……え?」」」」
ボクが、ちょっと大きな声で否定すると、四人が間抜けな声を漏らした。
しかも全員、驚いた表情をしている。
どうしたんだろう?
「……な、なあ依桜」
「なに?」
「お、お前……声も高くなった?」
「何を馬鹿なことを……どこか頭でも打ったんじゃないの? 態徒」
さすがに、ボクの声が高くなってるなんてことないと思う。
といより、三年間も向こうで過ごしたんだから、逆に声が低くなると思うんだけど。
ちなみに、ボクはほとんど声変わりをしていない。それどころか、女の子みたいな声、とよく言われたりするけど、それでも男子と判別がつくレベルだ。
だというのに、そんなことを言ってくるとは……。
「え、いやでも……」
態徒は納得していないのか、なおも言いよどむ。
ほかの三人も、ちょっと怪訝そうな顔をしているし。
……なんかちょっと気まずい。
「と、とりあえず、席に着こう? もうそろそろHRも始まるだろうから」
ボクがそう言うと、みんな渋々と言った感じで自分の席に戻っていた。
強引に戻しちゃったけど……しょうがないよね。
なんか、妙に気まずかったし。
それに、みんなが席に着いた瞬間に先生も入った来たし。
「席に着けー。HR始めるぞー」
問題ないかな、と思ったのもつかの間。
ちょっとしたアクシデントが発生。
それは、三時間目の体育だった。
「おーし、今日は特にやることもないから、ドッジボールでもするぞー」
今日の体育は、なぜかドッジボールだった。
特にやることがないて……先生がそれでいいの? と思わなくもなかった。
あと、高校生になって、ドッジボールかよ、と思うんだろうけど……意外とそうでもなく、やるとやっぱり楽しい。
高校生になって、身体能力が向上しているおかげで、ある程度レベルを上げての試合が可能だからだと思う。
もちろん、ボクも嫌いではない。
……まあ、こういうのって基本的にスポーツが得意な人が活躍したりするからね。
ボクみたいなのは、通常あまり活躍できなかったりするんだけど。
「それじゃあ始めるぞ!」
そんなこんなで、ドッジボールが始まった。
ボクはAチーム。
晶と態徒はBチームだ。
うーん、ボクだけ仲間外れかぁ。
しかも、晶ほどではないとはいえ、態徒もそれなりに運動神経はいいからなぁ。
晶に至っては、スポーツ全般が得意だし……。
うん。やれるところまでやってみようかな。
と、一人でそんなことを考えていると、
『おい、男女危ないぞ!』
「え?」
ボクのチームの人が、突然ボクに向かってそう叫んでいた。
正面を見ると、Aチームの人(筋肉マッチョ)が投げた剛速球のボールが飛んできた。
……あれ、なんか遅く感じる。
これ、どこが危ないんだろう?
よけるまでもないかな?
「ほいっと」
「……は?」
ボクがよけるそぶりもない上に、何でもないようにボールをキャッチしたところ、投げた人からは、当たると確信していたのだろう、予想裏切ってキャッチされたことで、間抜けな声を出していた。
それをチャンスだと思ったボクは、振りかぶり、
「じゃ、いくよ! それ!」
小手調べとばかりに、軽くボールを投げた。
バヒュン! という音を立てながら飛んでいったボールは、一瞬で筋肉マッチョの人に飛んでいき、
「ごぶっ!?」
ドゴンッ! という音を立てながら腹部に衝突した。
しかも、当たった瞬間に体がくの字になるというおまけ付き。
ボールが落下したのと同時に、ぐらりと、筋肉マッチョくんが前のめりに倒れた。
そして、沈黙が訪れた。
聞こえるのは、筋肉マッチョくんの呻き声と、ボールのポーンポーンというバウンドする音だけである。
「あ、あれ……?」
おかしいな……ボク、そんなに力入れてないんだけど……なんだろう、あのスピードは。
………死んでないよね、彼。
そう思ったのもつかの間、
『す……すげえ! 何だ今の!?』
『投げたボール……見えたか?』
『全然見えなかった!』
『だよな! あれ、どうなってんだ?』
『くそお! 男女のやつ、今まで隠してたのか!?』
『あんなん、勝ち目ねえじゃん!』
『よけられる気がしねえ……』
みんな興奮したように、騒ぎ始めた。
騒いでいる内容は、当然のように、ボクの投げたボールのこと。
あ、あれ?
もしかして……本当に向こうの身体能力って、こっちでも活かされたり……?
……ぽいなぁ。だって、普通の人間がこんなバカみたいなボール投げられるはずないし……。
投げられるとしたら、野球ボールくらいだと思うし……。
じゃあ、さっきボールが遅く感じたのも、向こうでの生活が原因……だよね?
ああ、やってしまった……。
「い、依桜。お前どうした? なんか、昨日までと別人みたいなんだが……」
「依桜お前、いつの間にそんな力を!? あれか!? 異世界にでも行って、鍛えてきたのか!?」
……態徒。それ正解。
それと、晶もあながち間違いじゃない。ボクだって、いかにも気弱なインドアな人です、っていう風のクラスメートが、次の日頭のおかしい厨二的殺人鬼になったら、別人だと思うもん。
でも、そう思うのは当然。なにせ、こっちは三年間もの間、魔物やら魔族やらと闘ってきたんだからね。
学校の体育とは比較にならないよ。
……どうしよう。
次から、もうちょっと威力を抑えないと……。
でもよかったぁ……本気で投げなくて。
今のボクが本気で投げてたら……多分、体に風穴が空いていていたか、ばらばらになってあたり一面に筋肉マッチョくんだったなにかが散らばる、なんてスプラッタな絵面になるところだったし……。
『よっしゃあ! この調子でいこうぜ!』
『おおお!』
その後の試合と言えば、何と言いますか……圧倒的でした。
異世界帰りのボクは、身体能力が異常なまでに向上しているので、仮に格闘技の世界チャンピオンといきなり戦えと言われた上に、ハンデとして右手だけ、と言われたとしても、まず負けることはないと思う。
軍人相手でもそう。銃を持っていたとしても、避けられる自信がある。
それほどまでに、今のボクはちょっと規格外だった。
少し手を抜いていたとしても、全然余裕だった。
むしろ、手加減をすることに心血注いでいたから、そっちで疲れたかな。
と言った感じで、体育が終了した。
尚、筋肉マッチョくんは保健室に運ばれました。
いい一撃だったぜ、と清々しい笑みと、サムズアップをしながら言われた。
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