第4話 依桜、変化する

 そんなこんなで久し振りの学校は終了し、放課後。

 あれから、未果たちと色々話した。身長然り、声然り。

 中でもやっぱり、みんながボクに対して感じている違和感がすごかった。


 どうもみんな的には、ボクが妙に女の子っぽくなったと感じているらしい。

 雰囲気であったり、歩き方であったり。感じた違和感は色々だった。

 中でも、身長の縮み、声のトーン、ボクの匂いが一番気になったらしい。


 ボク自身よくわからないけど、長い付き合いのあるみんなだ。正直、その考えを切り捨てることはできない。

 ……性転換とか、起こらないよね? というか、起こらないでほしい。

 切に願いながら、ボクは家に帰った。



『依桜~、ご飯よ~!』


 家に帰り、着替えてから軽くベッドで休んでいると、少し眠ってしまったらしい。

 母さんがボクを呼ぶ声で起きた。


 なぜだかはわからないけど、今日は妙に眠い。普段は感じないような、強烈な睡魔がボクを襲っていた。

 しかし、夕飯を食べないわけにもいかないので、眠い目をこすりながら、少しふらふらとした足取りで下へ向かった。



「ごちそうさま」

「あら、もういいの?」

「う~ん、なんかあんまり入らなくて」

「どうした、食欲がないのか?」

「ううん。別にいつも通りだよ。でも、何と言うか……あんまり胃に入らないんだよね」


 今日の夕飯を食べているとき、なぜかものすごく違和感を感じた。

 今言った通り、いつもと同じくらいの食欲のはず。

 ボク自身、一般的な男子の平均より、少し多いくらいの量を食べるんだけど、妙に胃に入らないというか……まるで、胃が小さくなったように感じる。

 ……おかしいなぁ。

 いつもより食べないボクに心配したらしく、それがさっきの二人のセリフなわけで。


「そうか? まあ、病気じゃないなら問題ないな」

「そうねぇ。病気じゃなけれな、こっちとしても心配無用だからね」


 まあ、今のボクが病気になるかはわからないけどね。

 なにせ、馬鹿みたいに向こうで鍛えたわけだし……ちょっとやそっとの風や病気じゃ、かかったとしても、一日もかからないで完治しちゃいそうだけどね。

 だから多分、病気じゃないと思う。

 ……ある意味、病気のほうがまだましかもしれないけど。



 その夜


「……んん、なんか寝苦しい……」

 夕食を食べ、お風呂に入ったのち、少し休憩を挟んでからボクは布団に入った。

 目を閉じると、すぐに意識は消えたけど、なぜか少しして目が覚めた。

 違和感を覚えたからだ。


 なんというか、こう……今まで連れ添ってきた大切な相棒が突然いなくなる感じっていうのかな?

 自分でも何を言っているのかわからないと思うけど、本当にそんな感じ。

 それに、妙に顔や首がむずむずする。

 なにか、細く長く、そして絹のように柔らかい何かが当たっているように感じる。

 色々なことが気にはなったけど、やはり睡魔には勝てなかったらしく、ボクは再び意識がなくなった。



 翌朝


「……ん、んぅ……あしゃ?」


 窓から差し込み光によって、ボクは目が覚めた。

 今日は土曜日。休日だ。

 今週は特に予定もないから、惰眠でも貪ろうかと考えたけど……


「……起きよ」


 なんだかもったいない気がして、起きることにした。

 ボクって、貧乏性かもなぁ。


「……あれ、なんか変?」


 ふと、何か違和感のようなものを感じた。

 ちょっと寝ぼけているだけかもしれないので、軽く頬を叩いて眠気覚ましをする。

 すると、頭の中がクリーンになり、視界もはっきりとした。

 感覚も正常になり、こちらでも違和感が。


 なんというか、その……体の一部が重く感じる。

 そう、それは胸の辺り。

 ほかにも、


「ボクって、こんなに髪長かったっけ?」


 髪が長くなっているように感じた。

 ……というか、


「あれ、ボクって、こんなに声高かったけ……?」


 妙に声が高いのだ。自分のとは思えないほどに、声が高いのだ。

 しかも、妙に可愛らしい声のような?

 それに、背中や首、頬、腕、足に当たっているさらさらとした何かが気になる。

 例えるなら、そう……髪の毛、かな?


 それに、さっきも思った通り、胸の辺りも重い感じがする。

 嫌な予感がして、恐る恐るボクは視線を下に落とした。

 すると、


「……ある」


 なぜかボクの胸に山ができていた。

 有り体に言うと……胸が成長していました。


「……まさかっ!」


 ボクはあることを確認した。

 それは当然、ボクの数少ない男としての象徴だ。

 手を股のところに持って行って、わかったこと。

 ……いや、そもそも、違和感がある時点でわかったも何もないんだけどさ。


「……………ない」


 なくなっていた。

 ボクを男たらしめていた物が無くなっていたのだ。

 ボクの、唯一と言っても過言ではないモノが。


「え、もしかして……」


 ボクはベッドから降りて、自分の部屋にある姿見に自身の姿を映し、その姿を見て絶句した。

 そこにいたのは、


「こ、これは……ボク?」


 銀髪ロングの少女だった。


「な、なななな…………なにこれ――――っっっ!?」


 ボクの素っ頓狂な声が、爽やかな秋の朝に木霊した。

 そうしてこの日、ボクは女の子になった。

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