第389話 変わらない昼休み(?)

 転校生がまさかの現役アイドルであり、尚且つ人気アイドルであるエナちゃんだという事実が学園中に広まると、一目見ようと高等部の生徒がこぞってクラスに来た。


 エナちゃんに聞いたんだけど、前の学校でも似たような感じだったとか。


 まあ、日常的な空間に、人気の芸能人がいたらそうなるよね。


 ボクは……あまり気にはならない。というより、ボクたち五人はそう言ったことを気にしないタイプなんだよね、みんな。


 しいて言うなら、態徒と女委の二人がちょっとそうかな? くらいで。


 まあ、そんなわけで、休み時間の廊下には、エナちゃんを見ようと来る人が大勢来たということです。


 普通だったら、クラスの人とかは邪魔だなぁとか思ったり、エナちゃんに対して不満を持つ人もいるんだろうけど……この学園、そう言った人たちがほぼいない。


 まあ、基本的にお祭り好きな人ばかりだし、無駄に性格がいい人が多いから、ある意味当然と言えば当然なのかもしれないけど、すごいと思うんです、ボク。


 不満とかもっても不思議じゃないと思うんだけどなぁ……。


 あとは、授業中に先生方も緊張している人がちらほらといたね。

 さすがに先生でもそうなるんだね。


 もしかすると、中にはファンの先生もいたのかも?


 午前中は、本物のアイドルがクラスにいるという不思議な状況に、クラスメートや先生方がっちょっとそわそわしていたものの、特に問題も起こらず午前は終了。


 そうして、昼休みへ。


 さすがに、じっと見られながらのお昼ご飯、というわけにはいかなかったので、ボクたちは安全圏(?)である、屋上へと移動していた。


「今日は、少し涼しいな」

「そうね。これなら、ここでお昼を食べても問題なさそう」


 未果と晶の言う通り、今日は涼しい方。


 日は出ているけど、風があってちょうどいい。


 もしこれで風がなかったら、確実に暑かったね。あと、日本って湿気が多くてじめじめしているから、余計に暑い。


 たしか、乾燥している地域の夏(主にイタリアなど)は、木陰にいれば割と涼しいらしくて、過ごしやすいんだとか。


 そう考えると、湿気ってある意味敵だよね。


 だって、洗濯物とかも乾きにくくなるし。


 ボク的には、あまりメリットがないものだよ。


「エナっち大丈夫かい? 屋上で」

「うん! だいじょぶだいじょぶ! あのままクラスにいたら、サインをもらおうとする人でいっぱいになってたかもしれないしね! その辺りは、依桜ちゃんがファインプレー!」

「あ、あはは……」


 そう。実は、屋上に行こうと言い出したのはボク。


 だって、明らかに熱意的な視線がエナちゃんに集中していたし、何よりペンと紙を持っている人がちらほらと見受けられたからね。あれは、確実にサインをもらおうとしてたよ。


 さすがに、昼休みにそう言った騒ぎになるのは問題だと思ったので、こうして屋上に移動して来た、というわけです。


「でも、大丈夫だったの? 一応、ファンの人だっていたよね? ボク、もしかして余計なこととかしちゃったんじゃ……?」

「ううん、大丈夫だよ! むしろ、感謝してるんだよ、依桜ちゃん! さすがのうちでも、できればこういう場所では、普通に過ごしたいからね! 非日常的な生活はお仕事中で十分! プライベートはプライベートってわける主義なの!」

「へぇ~。なんだか、依桜と同じような考え方ね」

「あ、そうなの?」

「だねぇ。依桜君、基本的に平穏に過ごしたい、って言うタイプだし、普通じゃない日常は、たまにでいい、って言ってるもんね」

「ボクは、そこまで刺激を求めてないからね……。非日常的な生活は、もう十分したもん。三年くらい」

「異世界に行ってたって話だもんね! それなら、非日常的な生活にも飽き飽きするよ」

「そうだね。と言っても、たまに非日常があるのは別にいいんだけどね。ただ、さすがに毎日はちょっとね……」


 ボクなんて、休める暇はほとんどないからね……。


 原因は、なぜかボクが変なことに巻き込まれること。


 色々なことに巻き込まれすぎて、最近ではかなり慣れつつあり、『あ、またなんだね……』くらいの反応にしかならなくなってきていたり。


 それはそれでどうなんだろうね、ボク。


「んー、うちは依桜ちゃんと出会ったのは、二週間前だし、よくわからないんだけど、依桜ちゃんって普段どんな生活送ってたの? 教えてくれないかな?」

「あー、そうね……とりあえず、今まであったことを言えば……去年の九月頭に性転換して、同じ月、九月には学園祭があったんだけど……そこでは、ミニスカ猫耳メイド状態で料理を作ってたわね」

「メイド! しかも、ミニスカ猫耳! 絶対依桜ちゃんに似合う衣装だね!」

「そ、そんなことないと思うけど……」


 未だに、あの時の服装が似合っていたとは思えないんだもん、ボク。


 ボクが似合ってると思っている衣装って、地味な感じのTシャツに、フレアスカート、それからパーカーといった服装だと思ってるもん。


 普通じゃ着ないような衣装は似合ってるのかどうかわかりません。


「で、その後ミスコンに出場して、その途中でテロリストが襲撃。私が撃たれたことで依桜が大激怒。それはもう、普段の依桜からは想像もできないくらい、半端ない殺気を放ってたわね」

「テロリスト!? え、この学園て、テロリストが来たことあるの!?」

「あるねぇ。原因は、学園長先生の異世界研究のデータらしいよー」

「ふへぇ~……。この学園もすごいんだねー……」

「それだけじゃないぜ! 他にも、依桜は読者モデルをしたり、ドラマのエキストラにも出ていたりするからな!」

「あ、それ知ってる! 去年話題になってたよね! たしか、読者モデルの方は、金髪の男の子の方も話題になってなかったっけ?」

「……そうだね。ちなみに、その時話題になっていた男の子、そこにいる晶だよ」


 エナちゃんの疑問に、ボクがそう答えると、エナちゃんは晶の方を向いた。


「あぁ~、どこかで見たと思ったら、あの雑誌かー!」

「知っていたのか?」

「うん! うち、たまーにあの雑誌にも出るからね! モデルとして! だから、たまーに自分でもチェックしてたりするの! ほら、可愛い衣装とか多く掲載されてるからね、あの雑誌は」

「エナちゃんも載ってるの?」

「そそ! アイドルのお仕事、っていうのでちょっと。まあ、これがアイドルのお仕事なのか、よく疑問に思ったけどね!」


 元気いっぱいにそう言うエナちゃん。

 たしかに、それってアイドルのお仕事なの? って言う疑問は出てくるね。


「他にはないのかな? 依桜ちゃんの日常的なお話!」

「そうねぇ……。ああ、そう言えば去年、福引で、とんでもないことしてたわね」

「あ、あったね、そんなこと……」

「どんなことどんなこと? うち、すごく聞きたいな!」

「簡単に言うと、依桜が買い物帰りに、商店街の人から貰った福引のチケットで、五回引いたんだけど……それ、全部が一等~五等だったのよ」

「それって、つまり……全部当てたってこと?」

「そういうことになるねぇ」

「なにそれすっごーい!」


 去年の福引の話をすると、エナちゃんは目をキラキラとさせた。

 ま、まあ……普通に考えたら、五回引いて全部当たってるわけだしね。


「ちなみに、それでオレたち、温泉旅行にも行ったぜ」

「わ、いいな、温泉旅行! このメンバーで行くのは楽しそうだよね!」

「まあ、このグループだと、基本的に退屈はしないな。態徒と女委がトラブルメーカーすぎて、何らかの問題を起こす場合もあるしな」

「「たしかに」」

「にゃははー、照れるなぁ」

「ちょっ、オレはそんなに問題は起こしてないぞ!?」


 正反対の反応。

 なんだか面白い。


「……問題を起こしていない奴は、スキー教室で覗きなんてしないと思うぞ?」

「ごふっ……」

「え、覗き? 覗きって、お風呂的なあれのことかな?」

「お風呂的なあれのことよ。この馬鹿はね、今年の一月に行われたスキー教室で、女風呂を覗こうとしたのよ」

「わ、現実にいるんだ、そういう命知らずな人!」

「おごふっ!?」


 あ、態徒の体が折れ曲がった。

 人気アイドルにそう言われたら、たしかにそう言う反応にもなるよね。


「ちなみに、実際覗かれたの?」

「そんなことあるわけないじゃない。仮に、覗きに成功していた場合……態徒はこの世にいないわ」

「ちょっと待て!? それ、オレ殺されてたかもしれないってことか!?」


 未果の全く冗談など紛れ込んでもいないセリフに、思わず立ち上がり叫ぶ態徒。


 あ、起きた。復帰早いね、態徒。


 前も思ったけど、師匠に鍛えられて以降、態徒の防御力がなぜか高くなっている気がします。


 やっぱりあれかな。ステータスが向上していたりするのかな?


 だとしたら、ここまで頑丈になるのも頷けます。


 今回は外傷じゃなくて、精神的ダメージだけどね。


「当たり前でしょ。考えても見なさいよ。あの時、依桜がいたのよ? バレないわけないし、あの時もし、見ることをしてたら、確実に依桜に殺されてたわよ、あんた」

「ひ、否定できないし、そもそも、事後自得だから何も反論できねぇ……。あとついでに言えば、覗こうしていたのはオレだけじゃないぜ! その時、いっそには言ってたやつら全員でしたからな! まあ、晶だけは傍観者だったが」


 まあ、ボクには『気配感知』なんて言うものもあるわけだしね。


 それに、他のみんなもほぼほぼ生まれたままの姿だったから、見られたら色々と終わりかなと思ったし。


「ちなみに、その他にも依桜が巻き込まれた、もしくは発生させたものとしては、一年生ながらに学園見学会の説明をしたり、サンタクロースになってクリスマスイブの夜を跳びまわったり、冬〇ミで宮崎美羽って言う声優さんと再会して、イベントに参加させられたり、ある日突然異世界に行って帰って来たと思ったら、妹を連れてきたり、後は、並行世界に行ったりもしてなかったかしら?」

「うん、したね。今年の四月に」

「並行世界ってあるんだ」

「もちろんあるよ。……まあ、そっちの世界では今のボクと正反対だったんだよ」

「正反対?」

「どうやら、依桜が言うには、そっちの世界には男の依桜がいるらしい。しかも、性格の方も男らしかったりするようだ」

「へぇ~……依桜ちゃんって、別の世界だと男の人なんだね」

「みたいだよ」


 あれはびっくりしたよ。


「あとはまあ……他校の生徒に告白されたりとかか?」

「モッテモテだよな、依桜って」

「そ、そんなにボクモテてるの?」

「うん、モテてるね」

「というか、割と手遅れなレベルにまで来てるわよね、依桜の場合」

「そ、そんなことは……」


 ……でもあまり、男の人にモテても嬉しくないんだよね……。


 だって、元々男だもん、ボク。


 モテるような要素ってないと思うんだけどなぁ……。



 この後も、ボクの過去話(個人的には恥ずかしいタイプの)をして盛り上がり、そうして昼休みは過ぎていきました。

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