第390話 依桜ちゃんの家へ 上

 昼休み終了後は、普段通りに授業。


 それでもやっぱり、エナちゃんがいるのは慣れないらしくて、クラスメートのみんなだけでなく、先生方もやっぱり緊張しているのか、ややどもり気味だった。


 まあ、テレビの中でしか見ないような人がいるんだもんね。


 と、そん感じで残る二時間の授業も終わり、帰りのSHRを終えたら帰宅。


 ボクたちは、朝話したように、ボクの家に集まることになってます。


 もちろん、夜ご飯もごちそうするつもりだけど、その前にお買い物にいかないとかなぁ……。



 一度全員帰宅した後、一度どこかで待ち合わせ。


 住所を送ってもよかったけど、さすがにわかりにくい可能性もあるし、それならいっそのこと集まってみんなで行こう、ということに。


 待ち合わせ場所はもちろん、『美天駅』。


 何かと便利なんだよね、あそこって。待ち合わせ場所に持って来いと言うか。


 色々準備があるということで、待ち合わせ場所は六時。


 ボクは夜ご飯のお買い物を済ませるべく、商店街へ。


 時間は一時間以上もあるし、まだ余裕もある。


 それに、今の家からも遠いわけじゃないからね。


 お買い物をするのなら、やっぱりあそこがいちばんいいです。値引き交渉もできるし、たまにおまけとかももらえるしね。


 家の家事をほとんど任されている以上、少しでも安く、少しでもお得にね。


「ふんふ~ん♪ まずは、お肉屋さんかなぁ」


 今日の夜ご飯のメインとなるお肉を買うために、いつものお肉屋さんに行こうとしていたら、


『お、依桜ちゃん! 買い物かい?』

「はい。今日は友達が来るので、大勢で食べるものをと思って」

『ほほう! ってことはあれかい? 焼肉とかかね?』

「よくわかりましたね。実はそうで、お肉を買いに来たんです」

『なるほどなぁ。で、依桜ちゃん。焼くのは肉と野菜だけかい?』

「そうですね。何かあればいいんですけど、なさそうですし……」

『そうかそうか! それなら、いいもんがあるぞ!』

「ほんとですか? 何がありますか?」

『ちょうど、今が旬のもんでな。ホタテ、ジンドウイカに、サザエだ』

「なるほど……」


 どれも焼くと美味しいものばかり。


 職業体験初日に、お買い物をした時にそう言えば、サザエを貰ったっけ。あれは美味しかった。


 師匠も気に入ってたし、ちょうどいいかも。


 それに、ホタテはバター焼きにすれば美味しいし、ジンドウイカも焼き物にしても美味しいって見たことがある。


 うん、合いそう。


「じゃあ、その三つください」

『あいよ! 数はどうする?』

「そうですね……イカは五杯で、ホタテは……十五人分。サザエも、十五個お願いします」

『あいよ! いやぁ、本当に依桜ちゃんはいいお客さんだよ! こんなに買ってくれるんだから』

「まあ、大所帯ですからね、ボクの家」

『みたいだなぁ。……あいよ、四千七百円だ』

「じゃあ、これでお願いします」

『えー……よし、ちょうどだな! じゃ、こいつはおまけだ。つっても、ブリのアラなんだがな』

「いえいえ! 全然嬉しいですよ!」


 これは、味噌汁にちょうどいいかも。


『あと、これ福引だ。よかったら引いてってくれ』

「ありがとうございます。では」

『おう、いつもありがとな!』


 ブリのアラと福引のチケットをもらっちゃった。


 福引……福引かぁ……。


 そう言えば去年、引いたね。この商店街の福引。


 それで、一等~五等まで全部当てちゃって、大変だったよ。


「とりあえず、お肉屋さんと八百屋さんで、それぞれお買い物を済ませてからかなぁ」


 少なくとも、変なものは当たらないはずだよね。



 というわけで、お買い物を済ませて福引へ。


 枚数は八枚。


「こんにちはー」

『おお、依桜ちゃんじゃないか! 福引を引きに来たのかい?』

「はい。八枚貰ったので、八回引きに来ました」

『そうかそうか。去年は、ほとんど持ってかれちまったからなぁ。今回は、当てさせないぞ?』

「あはは。さすがに当たりませんよ。あれは本当に運がよかっただけですし」

『それもそうだなぁ。そんじゃ、早速引いてくれ』

「はい」


 引く前に軽くラインナップの確認。


・一等『マッサージチェア』

・二等『高級焼肉セット』

・三等『美天市内全飲食店フリーパスチケット』

・四等『商品券一万円分』

・五等『クマのぬいぐるみ(一メートル)』


 なるほど……。


 なかなかにいい景品ばかりだね。


 一等のマッサージチェア、あれってたしか最近出たばかりの最新式の奴じゃないかな? ちょっといいかも。


 日頃の疲れのせいか、疲労がたまっている気がするし、特に肩こりが酷いんだよね。それを解消するという意味でも、ちょっとほしいかも。


 それに、父さんや母さん、師匠も使いそうだしね。


 二等は……ちょうどピンポイント。


 今日は焼肉……というより、バーベキューの予定だから、当たるとちょっと嬉しいかも。


 狙い目はここかな?


 三等に関しては、見たことがあるチケットだよ。


 だってあれ、去年ボクが読者モデルをした時に、碧さんからもらって、みんなで大食い勝負したしね。あの時は、態徒が自滅してたよ。


 四等は、素直に嬉しい。


 五等は……ボク個人としては、あれが一番欲しいかも。


 だって、一メートルのクマさんのぬいぐるみだよ? 可愛くないかな?


 ボクとしては、是非とも当てたいところ。


 結論としては、ボク個人として一番欲しいのは、ぬいぐるみだけど、ボク以外の理由で欲しいのは、大体一等か二等かな。


 肩こりを解消したいし、お肉の方は単純に美味しそうだから。


 せっかく、大勢で食べるんだから、少しでもいいものを食べたい。


 ボクの自腹を切れば、いいものは普通に買えるんだけど、それで金銭感覚がおかしくなったら、目も当てられないので、なるべく使いたくない。


 ……よし。じゃあ、早速引こう。


 ガラガラと音を鳴らしながら、抽選機が回る。


 そしてぽとりと、一つの球が落ちた。


 カランカランカラーン!


『おめでとう! 二等の『高級焼肉セット』だ!』

「やった!」


 二等が当たりました!


 これはすごく嬉しい!


 そもそも、福引でこうして当たるのが一番嬉しいよね。


 何等が当たっても、ボクとしてはすごく嬉しいし、当たるだけでも幸運だもんね、こういうのって。


 これは、みんなで仲良く食べよう。


『じゃ、あと七階回してくれ!』

「はーい!」


 うきうき気分で、ボクは抽選機を回しました。



 そんなこんなで、約束の時間。


「あ、おーい! 依桜ちゃーん!」


 一度荷物を家に置いてから、駅前に来ると、すでにエナちゃんがいた、


 ただ、エナちゃんは変装なのか、帽子をかぶって、サングラスをしている。


 服装も、普通の女の子が着そうな印象の物。


「早いね、エナちゃん」

「ふっふー。依桜ちゃんの家に行くのが楽しみだったから、ちょっと早く来ちゃった!」

「そっか。でも、そんなにいい所じゃないと思うよ? ボクだって、お金持ち、って言うわけじゃないからね」

「でも、お家買ったんだよね?」

「ま、まあ……」


 あれは、学園長先生が振り込んだお金というか……。

 正確に言えば、ボクが稼いだお金じゃないような気がしてならない。


「じゃあ、きっとすごいお家なんだよ! たしか、三階建てなんだよね?」

「うん。この辺りで、十人で暮らしても窮屈に感じないのが、ほとんどそこしかなかったし、それに駅から近かったしね」

「へぇ~。それを聞いてると、なかなかにいいお家っぽいね! 楽しみだよ!」

「あまり期待しないでね。あとは、未果たちを待つだけなんだけど……」


 と、ボクが周りを見ながら呟くと、


「依桜―」


 ボクを呼ぶ声が聞こえてきた。


 その声の方を向けば、未果たちが。


 どうやら、みんなで合流してからこっちに来たみたいだね。


「おまたせ」

「大丈夫だよ。全然待ってないし。ね、エナちゃん」

「うん! じゃあ、早速行こ! うち、楽しみだったんだー!」

「あはは。じゃあ、すぐに行こうか。みんな、ついてきて」


 待ちきれない、という様子のエナちゃんと、それなりに楽しみにしている表情を浮かべているみんなを連れて、ボクは家に向かった。



「「「「「お、おー……」」」」」


 そして、家に到着するなり、みんながそんな声を上げていた。


「えっと、どうかな? 思ったより、そうでもないでしょ?」

「「「「「いやいやいや! 普通にすごいから!」」」」」

「そ、そうかな?」


 たしかに、庭もそれなりに広いし、内装もちょっとあれだけど……。


「ま、まあ、とにかく入ってよ。外は暑いからね。仲は涼しいよ」


 ずっと外にいるわけにはいかないので、みんなを中へと案内した。



「「「「「お邪魔します」」」」」

「あら、未果ちゃんたち、いらっしゃい! あら? 一人見たことがない可愛らしい娘が……」

「あ、初めまして、御庭恵菜です! えっと、依桜ちゃんのお姉さんですか?」

「ざーんねん! 私は、依桜のお母さんよ」

「それにしては若い……」


 たしかにね。


 どういうわけか、母さんはかなり若い。


 外見年齢だけ見たら、二十代前半にも見えるし、それ以上に若くも見える。


 父さんも父さんで若く見えるし、ボクの家の家系って、割と不思議なことが多い。


 なので、エナちゃんのように、初めて母さんを見た人の反応は、大体がエナちゃんのような感じになります。


「ありがとう。依桜、頼まれていた物、三階のバルコニーに置いてあるからね」

「ありがとう、母さん」

「メルちゃんたちは三階で遊んでるから。それじゃあ、ごゆっくり」

「わかった。……というわけみたいなので、とりあえず、二階に行こうか」


 メルたちは多分、その内来るんじゃないかな? って気がするしね。


 まあ、いいでしょう。



「いやー、なんかあれだなぁ。マジで依桜の家広いな」

「そうね。正直、ここまでとは思ってなかったわ……」

「羨ましいねぇ。こんなにいい家に住むんだもん」

「確かに羨ましいが……これ、管理とか大変そうじゃないか?」

「たしかにね。依桜ちゃん、実際どうなの?」

「うーん、ボクとしてはそうでもないよ?」

「そうなんだ? でも、どうして? 確か、依桜ちゃんが家のことをしてるんだよね?」

「うん。えーっとね、ボクのスキルに『分身体』って言うのがあってね。まあ、文字通り、ボク自身の分身を出すものなんだけど、それに頼れば、掃除や洗濯を同時並行で行えるからね。結構便利なの」


 まあ、なくても問題ないと言えば問題はないんだけどね。


 もともと、前の家でも一人で全部こなしていることがほとんどだったし、多少家が広くなって、階数も増えただけだしね。


 結局、やることは前と変わらない。


「依桜ちゃんって、本当に便利だね」

「確かに、便利なことも多いかなぁ。だって、力があると重い物を持つ時とかにちょうどいいし、簡単に変装とかもできるしね」

「へぇ~。なんだか羨ましいなぁ。うちも、変装とか大変だし……」

「人気アイドルともなると、やっぱり大変なのかしら?」

「まーねー。結構、変装って重要でね。たまに、うちの家を特定して、家付近を張り込む人とかいるんだよね。その度に引っ越してたよ、うち」

「うわ、やっぱリアルでいんのな、そう言う奴」


 意外、とは思わないけど、やっぱり大変そう……。


「いるんだよー。だから、今回の引っ越しは、そう言う面もあったり」

「なるほどねぇ。ところでさー、その特定してくる人たちって言うのは、同一人物なのかな?」

「多分、同一人物かなぁ。だって、体格がほぼ同じだったからね! 多少変装をしてはいたんだけど、それでも体格とかまでは変えられないからね」

「観察眼がすごいということか」


 たしかに。


 というより、ボクの周りにいる人たちって、なぜか目がいいんだよね。特に、ボクが変装をしてるのを見破ったり、ボクが使用していた『擬態』を見破る人もいたし……。


 そう言う人が集まりやすいのかな、ボクの周りって。


「とはいえ、今回は絶対に特定されるようなへまはしないよ! 失敗から学ぶ、アイドルだからね!」

「それもいいけど、何かあったら言ってね、エナちゃん。力になるから」

「うん! もしその時が来たら、相談させてもらうね!」


 よかった、変に遠慮されないで。

 こう言うのって、遠慮する人とか多いからね。


「しっかし、アイドルとはまたすごいのがうちの学園に来たもんだ」

「そうだな。さすがにこれは予想外だった。しかも、人気アイドルと来れば尚更だ」

「むしろ、そんな人と二年も前から友人だった女委に驚きよ」

「にゃはは! いやー、すっかり忘れてたのさー」

「忘れてた、ってレベルの知り合いじゃないような……」


 だって、アイドルの友達だよ?


 それを忘れてたから言わなかったって、普通に考えてすごくない?


「ところで、御庭は以前はどんな学園にいたんだ?」

「んーと、芸能人がよくいる学校かな? いわゆる、養成学校、みたいな」

「そんなとこを辞めてきていいのかよ? 将来的にも、プラスになるところじゃないのか?」

「それはどうかなー? うちは単純に、そこに入るようにマネージャーに言われただけだからね。それに、そう言う学校だからか、やっかみとかも酷くてね……。だから、今回の転校はちょうどよかったんだー」

「アイドルも大変なんだね」

「まあねぇ」


 苛烈な競争があると考えると、普段から嫌になりそうだよね。


 そうなったら、アイドルをする気力とかもなくなっちゃいそう。


「それにそれに、普通の高校、って言うのも行ってみたかったからね!」

(((((あの学園、普通……?)))))


 エナちゃんの天真爛漫な笑みと共に放たれた言葉に対し、ボクたちは揃って苦い顔をした。


 というか、少なくとも普通の学園じゃないよね、あの学園。

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