第391話 依桜ちゃんの家へ 下

 みんなと遊んで、しばらくすると夜ご飯の時間が近くなってきた。


「あ、もうすぐ夜ご飯だね。じゃあ、準備をしちゃおうかな」

「晩飯ってなんだ?」

「ふふふー、お・た・の・し・み♪」

(((((何あれ、可愛い……)))))


 口元に人差し指を当てて、軽くウィンクをしながら言う。


 ……なんだか、自然にこういう仕草が出てしまうようになっちゃったけど……これ、大丈夫? ボク、大丈夫? これ。


「とりあえず、福引の景品を……と」

「……福引? 依桜。あなた、福引を引いたの?」

「うん。引いたよ、八回」


 ボクがそう答えると、エナちゃんを除いたみんなが苦い顔を浮かべた。


「あれあれ? みんなどうしたの? 依桜ちゃんが福引を引いただけで、どうしてそんな顔に?」

「あー、今日の昼休みに言ったと思うんだが、依桜は去年、商店街の福引を全て当てていたからな。それで」

「そう言えば言ってたね」

「あ、あはは……ぐ、偶然だよ、偶然」

「何言ってんのよ。偶然で、一等~五等なんて当てないでしょう」

「うぐっ」

「で? 今回は何を当てたのかしら?」

「………………ぜ、全部、です」

「「「「またか……」」」」


 やめて! そんな呆れたような顔をボクに向けないでぇ!

 ボクだって、びっくりしたんだよぉ! だって、またしても全部当てちゃうんだもん!

 好きで当ててるわけじゃないよぉ!


「それでそれで! 依桜ちゃんは何を当てたのかな!」

「え、えっと……ま、マッサージチェアと、高級焼肉セット、美天市内全飲食店フリーパスチケット、商品券一万円分、おっきいクマさんのぬいぐるみ……」

「「「「またえらいものを……」」」」

「それはすごいね! 依桜ちゃんって、すっごく運がいいの?」

「ま、間違ってないけど、ある意味不運ともとれる、かな……」


 少なくとも、いいことがあったことなんて、数えるほどしかないような気がするしね。

 温泉旅行くらいじゃないかな? もしかすると。


「ふむふむ……。でも、いいなぁ、依桜ちゃん。うち、そういうので当たったことなんてほとんどないからね!」

「でも、今みたいに売れてるということは、そこにも少なからず運が関わっているような気がするよ、ボクは。ボクなんかよりよっぽどすごいと思うな」

「そうだねぇ。わたしも今でこそ、コ〇ケでは壁でやってるけど、それだって偶然に偶然が重なった結果だしねぇ。やっぱり、実力の他に、運も兼ね備えてないと、人気が出ないんと思うんだよね、わたし」

「なるほど。女委ちゃんって、普段は割と軽くて付き合いやすいけど、結構真面目に考えていたりするよね! うんうん、女委ちゃんさすが!」

「にゃははー! 褒められてるのかわからないセリフ、あざます、エナっち!」


 二人のやり取りを見ていると、本当に仲がいいんだろうなぁ。

 でも、女委の交友関係がどうなっているのか、本気で気になるところ。

 もしかすると、エナちゃん以外にもすごい人と友達になっていたりするのかな?


「さて、と。じゃあボクは夜ご飯の準備かな」

「手伝った方がいいかしら?」

「うーん、そんなにやることはないんだよね。材料を切るだけだからね」


 だって、バーベキューだし。


「それに、お客様に手伝わせるって言うのも、なんだか気が引けるもん」

「まあ、依桜はそうか」

「別に、気を遣わなくてもいいと思うんだがなぁ」

「依桜君らしくて、わたしはいいと思うぜー。こんな美少女が現実にいるんだもん。いいモデルになるからね!」

「……女委だけ手伝ってもらおうかな」

「なぜに!?」


 あはははは、とみんなで笑い合いつつ、ボクはキッチンの方へ移動した。



 キッチンで材料を切ったり、海鮮系の食材の下処理をする。

 同時に、ブリのあらで味噌汁を作っておく。

 野菜もやるけど、それだけだと油っぽくなっちゃうしね。あとは、単純に美味しいから。


 バーベキュー用の器材はすでに準備済み。家にあったものを、三階の方に持って行くだけだったからね。

 もちろん、木炭も準備してます。


 火をつける時は……残念ながら、ボクは火属性魔法を覚えていないので、こっちの世界方式で。


 ……あ、そう言えばメルって魔法適正がすごく高かったような……ちょっとお願いしてみようかな。


「メル、いるかな?」

「いるぞ! なんじゃ、ねーさま?」

「えっと、メルって火属性魔法は使えるかな?」

「うむ、もちろん、魔王じゃからな! 聖属性以外は全部使えるぞ!」

「おー、すごいね。じゃあ、メルにお手伝いしてもらいたいんだけど、いいかな?」

「もちろんなのじゃ! ねーさまのお手伝いなら、なんだってするぞ!」

「ふふっ、ありがとう、メル。じゃあ、ちょっと来てくれるかな」

「はーい!」


 メルだけを呼び出して、三階へ。



「お、依桜、出来たのか?」

「ううん、まだ。ちょっとやることがあるからね。……じゃあ、メル、お願い。あ、火力はそんなにいらないからね。ビー玉サイズでいいから」

「はーいなのじゃ!」


 ボクが指示をすると、メルは手の平にビー玉よりもちょっとだけ大きいくらいの火を発生させると、それを用意してあったバーベキューグリルの中の木炭に入れた。


 すると、木炭に火が移り燃え始めた。


「おー! 依桜ちゃん、これって魔法?」

「うん。この娘――メルはね、向こうの世界では魔王なんだよ」

「魔王! こんなに可愛い魔王がいるんだ! なんだか癒されそうだね!」

「すっごく癒されてます」


 ボクにとって、一番の癒しだもん、メルって。

 すごくいいと思います。


「グリルを使うということは、バーベキューとかそっち系か?」

「まあ、わかっちゃうよね。うん、そうだよ。もうちょっとで下準備も全部終わるからもうちょっと待っててね」


 ボクがそう言うと、みんなは気長に待つと言ってくれた。


 そんなに長く待たせるわけじゃないけど、さっさと準備を済ませてこよう。



 というわけで、残る工程を全て終わらせて、ニアたちも呼ぶ。


 父さんと母さんの二人は、もうすぐ帰るとのことで、ご飯は先に食べててもいい、というメッセージがさっき届いたので、問題なしです。


 師匠は既に帰宅してます。


「というわけで、今日の夜ご飯はバーベキューです!」

「「「「「「「「「「「「おおー!」」」」」」」」」」」」

「お肉と野菜だけじゃなくて、サザエやホタテ、イカもあるから遠慮しないでどんどん食べてね! 父さんと母さんももうすぐ帰ってくるから気にしないでね! あ、サザエとホタテは一人一個だよ!」


 今回のバーベキューについて軽く注意をする。

 みんなは待ちきれない、みたいな顔をしていて、今にも涎を垂らしそう。

 あらかじめ焼き始めていたので、もうすでに食べられる段階に。


「それじゃあ、早速食べよ! お皿とお箸は持ったかな? ……うん、それじゃあいただきます!」

「「「「「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」」」」」


 そんな感じで、ボクの家にて楽しいバーベキューが始まった。



「うお、この肉美味いな!」

「ほんとだー! 依桜君、これどうしたの?」

「ふふふ、それはボクが福引で当てた焼肉セットだよ。高いお肉だから、味わって食べてね!」

「……依桜ってば、何でもありになったわよね」

「そうだな。だが、それのおかげで俺達はこうして美味しいものが食べられているんだ、文句はないだろう?」

「そりゃあね」

「むぐむぐ……焼き加減が絶妙! 依桜ちゃん、こういうのも上手なんだね!」

「まあ、普段から料理してるからね!」


 あと、『料理』のスキルを持っているから、それもかな。


「ねーさまねーさま! こっちはまだかの?」

「どれどれ? ……うん、大丈夫だよ。はい、どうぞ」

「ありがとうなのじゃ!」

「イオお姉ちゃん、こっちは?」

「こっち、も」

「イオねぇ!」

「これは、どうなのですか?」

「……だいじょうぶ?」

「はいはい、順番だよ」


 うーん、なんだか忙しない。


 まあ、十人以上もいたらこうなる、よね。


 未果たちは普通に食べてる反面、メルたちの方は食べて大丈夫なのかわからないため、ボクに尋ねてくる。


 もちろん、嫌ということはない。むしろ、みんなのお世話ができると思うと、すごくありです。と言うより、鬱陶しいとか思う人がいたら、その人に拳を入れたくなる。可愛い妹たちは、正義です。


「このバーベキューというのは、なかなかにいいな。酒が進む」

「師匠はいつもお酒が進んでるじゃないですか」

「ははは! まあ、それもそうだな。だが、この状況も相まって、いつもより三割増しだ」

「……はぁ。ほどほどにしてくださいよ? 師匠」

「わかっている」


 なんだか、騒がしいバーベキューだね。


 でも、こう言うのが一番いいかも。



 それからみんなで食べていると、父さんと母さんが合流。


 新しい友達、エナちゃんを見て一瞬固まったけど、すぐに馴染んだ。


 うーん、さすが。


「はーい、ブリのアラで作った味噌汁ですよー。飲む人―」

「「「「「「「「「「「「「「はーい!」」」」」」」」」」」」」」

「うん、全員だね」


 なんだか安心。

 これでもし、いらないなんて言われたらさすがに悲しかったよ。


「はぁ~……なんだか、ほっとする味ね」

「そうだな。何と言うか、落ち着くな」

「これも上手い。やっぱ、依桜の料理は最高だな!」

「あはは、さすがに持ち上げすぎだよ」

「いやいや、依桜君の料理って実際すっごい美味しいし、誇張表現でもないよー」

「うんうん! うちも初めて食べたけど、本当に美味しいね! うち、ファンになりそうだよ!」

「ちょ、ちょっと気恥ずかしいね……」


 こうして正面から褒められると、やっぱりちょっと恥ずかしいような。

 未だに慣れない……。


「いやー、まさか息子が娘になった挙句、こーんな料理上手な子に育つとはなぁ……」

「そうねぇ。お母さんも嬉しいわぁ。正直、普段から家事を任せっきりなのは申し訳ないけど」

「いいのいいの。二人は仕事をしているんだし、家事くらいはね」

「うーむ……依桜ちゃんって、本当に性格がいいんだね」

「そ、そうかな? 割と普通だと思うんだけど……」

「「「「「「「「それはない」」」」」」」」


 メルたち以外の全員から、瞬時に否定された。


 そ、そんなに性格いい、のかな? ボクって。


 言うほどよくない気もするけど……。



 そんなこんなで楽しい夜ご飯は進み、用意していた材料もすべて使い切った。


 結構な量を用意していたんだけど、やっぱり育ち盛りだね。高校生や小学生はよく食べます。


 ……まあ、なんだかんだで一番食べてたのは師匠なんだけどね。

 実質、用意した食材の内、三割方は師匠のお腹に収まったもん。

 それでもまだ余裕があるとのことで、師匠のお腹はブラックホールか何かなんじゃないかと思ったよ、ボク。


 ちなみに、メルたちはお腹いっぱいになったからか、眠っちゃいそうだったのですでに寝かせてあります。


「あっちゃー、もう夜遅いわね」

「あぁ、もう九時か……」

「オレと晶は男だから問題ないけどよ、これ、未果たちがちと心配だよな」

「たしかにそうだね……」


 こんな夜遅くに一人で歩く、となるとちょっと心配。


「あら、それなら泊って行けばいいんじゃないかしら~?」

「おばさん、いいんですか?」

「もちろん! ただ、明日は平日だから、朝早めに起きて衣服を取りに行かないといけないから、みなさんに任せるけど」

「「「「「泊ります!」」」」」

「わかったわ。布団の方、用意しとくわねー」


 そう言って、母さんは室内に戻っていった。


「なんか、ボクが何かを言う前にお泊り会になったんだけど……」

「まあまあ、いいじゃないかー、依桜君。こう言うのは、ノリと勢いだよ!」

「うんうん! うち、お友達のお家でお泊り会なんてしたことないからちょっと嬉しいな!」


 うっ、そう言われるとちょっと痛い……。


 でも、そうなるとあれだね。わざわざ朝早く起きて制服を取りに行くのも大変だよね……。


 ……仕方ない。


「じゃあ、先にみんなの制服とか教科書をどうにかしないとね」

「「「「「???」」」」」

「とりあえず、作っちゃおっか」


 ボクがそう言うと、エナちゃん以外の四人はすぐに理解したような表情を浮かべた。


「依桜ちゃん、作るって?」

「えーっとね、ボクの持つ魔法に『アイテムボックス』ってあるんだけど、なぜかボクのは中に入れる上に、欲しいと思ったものを創り出せてね。だから、いっそのこと作っちゃった方が、みんなゆっくり朝は寝てられるかなって」

「アイテムボックスすごいね! でも、なるほど。たしかにそれはありがたいかな? 今後予備として使えるってことだもんね!」

「うん、そういうことです」


 本当は、あまり使いたくない手段だけど、さすがに平日の朝に早起きするのは大変だもんね。


 ボクは全然慣れてるし、もっと言えば一時間程度でも問題ないけど、みんはそうもいかないからね。


「それで、どうする?」

「「「「「お願いします」」」」」

「了解だよ」


 と、そういうことになった。



 急遽お泊り会に突入し、明日必要な物を創り出した後は、順番に入浴。


 もともと、複数人でお風呂に入ることを想定していたので、まとめてお風呂に入ることができた。

 あ、もちろん男女分かれてます。


 ボクと未果、女委、エナちゃんの四人と、晶と態徒の二人、と言った形で。


 ……本来なら、男女三人ずつでバランスがよかったんだけど、今はボクの性別が変わったことで、女の子の比率が高くなってるんだよね。


 うーん。なんでこうなったんだろう。


 お風呂から上がった後も、男女別で就寝となりました。


 エナちゃんがいなかったら、多分みんなで寝たと思うんだけど、さすがに一緒に寝るのはまずい、と未果と晶が言ったため、分かれることになりました。


 うん。まあ、そうだよね。


 そんなこんなで、エナちゃんが転校してくる、何て言う騒がしい一日は、こうして幕を閉じました。


 いい思い出になったよ。

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