第208話 依桜ちゃんとお悩み相談2

 なんでもない日常のある日、ボクは学園長先生に呼び出されていました。


「それで、えっと、用件は?」

「お悩み相談、覚えてる?」

「はい。今も週に一回やってる、あれですよね?」

「そうそう。それでね、また依桜君に出てほしい、っていう声が多いらしくてね」

「それで、ボクに出てほしい、ってことですか?」

「そう」

「なるほど……」


 お悩み相談……。

 たしか、ゲストとして呼ばれたあれ、だよね?

 あれが好評だったらしく、あの後も週一で実施されることになったくらいだし。

 ボクは、まあ……別にいいと言えばいいんだけど。


「学園長先生的には出てほしい、っていう感じですか?」

「んー、私はそっちの方が面白そうってだけ。出てほしいと思っているのは、放送部と生徒の方。依桜君、的確に答えを出してくれるから」

「的確、じゃないとは思いますけど……」

「いやいや、実を言うとね、あのお悩み相談の後、相談した生徒がみんな上手くいったらしいのよ」

「そうなんですか?」

「ええ。鈍感だった彼に勇気を出して告白したら、無事恋人になれた、とか。モテたい、と言っていた男子は、自分磨きを頑張ったら、告白を何度かされた、とかね」

「そうだったんですね。でも、ボクは思ったことを言っただけですよ?」


 実際、向こうの経験を基に言ったものばかりだし。

 それに、恋愛感情を持ったことはないからね。

 ……最近、ちょっと変だけど。


「それがよかったから、こうしてまた、ゲストで出てほしい、って言われてるのよ」

「そ、そうなんですか」

「それで、どうかしら?」

「……わかりました。的確にできるかはわかりませんけど、やらせてもらいます」

「ありがとう! あ、前と同じく、テレビで中継するから」

「え!?」


 なぜ、それを早く言ってくれなかったのかと、ボクは学園長先生にジト目を向けた。


「あ、それから、依桜君の友達を一人呼んでほしいって」

「わかりました。じゃあ、みんなに相談してみますね」

「ありがとう。それじゃ、よろしくね」

「はい」



「あ、依桜。お前、またお悩み相談やるんだってな」

「うん。なぜかね」


 昼休み。


 みんなでお昼を食べながら、今朝の話に。


 放送部は、ボクが了承したことを学園長先生からすぐに教えられ、向こうも今週のお悩み相談にはボクが出る、と言うことを告知していた。


「あ、みんなに相談なんだけど……一人、友達を呼んでほしいって言われてね。四人のうちの誰かに一緒に出てもらいたいんだけど……」

「へぇ、それは面白そうだなぁ」

「だね」

「あー、私はパス」

「俺も」


 態徒と女委は乗り気で、未果と晶は乗り気じゃない、と。

 そうなると、この二人のどっちか……。


「う、うーん、どことなく、地雷臭が……」

「どっちも変態だもの」

「変なことを言うのが目に見えてるな」


 ボクの言ったことに、二人が反応する。

 うん。本当にその通りだと思います。


「……どっちがマシか、と訊かれれば……まあ、女委よね」

「だな。態徒は、変なことを言いそうだ」

「ちょっ、酷くね!? い、依桜、依桜はどっちがいいんだ!?」

「え、えっと……まあ、女委、かな。少なくとも、気の利いたことが言えるし……態徒よりは」

「畜生!」

「はっはっはー。態徒君、今回はわたしの勝ちだね!」

「あ、あくまでも、態徒よりマシ、というだけだからね? 女委も大概だよ?」

「なんだってー」


 うわ、棒読み。

 表情もなんだか、とぼけてるし。


「まあいいけど……じゃあ、とりあえず、女委が一緒に出てくれる、ってことでいい?」

「OKさ!」

「依桜が決めたんじゃしゃーないなー」


 というわけで、女委が一緒に出ることが決まった。

 ……できる限り、抑制しないと。



 週末。


 放送部のお悩み相談は、月二回。

 第二金曜日と、第四金曜日になっている。

 ちなみに、今週がその第二金曜日です。


「どうもどうもー、依桜さんお久しぶりですね。あれ? お久しぶりなのかな?」

「会ったのは、一ヶ月前ですから、久しぶりと言えば久しぶり、だと思いますよ、豊藤先輩」

「そですね。それで……そちらが、依桜さんのお友達?」

「Yes! どうも、腐島女委です! よろしく、豊藤先輩!」

「なるほどなるほどー。元気な人が来ましたねー。まあ、元気な人は大歓迎! さあさあ、早速準備をしましょう!」


 前に会った時と変わらず、豊藤先輩はかなりテンション高めだった。



 前と同じ部屋に通され、ボクと女委が並んで座り、その対面側に豊藤先輩が座る。もちろん、ボクたちの前には、マイクが置かれている。


「それじゃあ、始めましょう! 西崎、よろしくぅ!」

『それでは、始めまーす! 3、2、1……スタート!』


 以前と同じく、西崎君のスタートの掛け声とともに、軽快な音楽が鳴りだした。


「学園内の皆様、ハロハロ―! 月二回の恒例企画! お悩み相談の時間ですよ! さて、今回のゲストは二名! 学園一の巨乳の持ち主である、男女依桜さん! それから、学園一の腐女子、腐島女委さんです!」

「どんな紹介ですか!?」


 豊藤先輩のおかしな紹介に、思わずツッコミを入れていた。


「にゃははー、照れるなぁ」


 だけど、豊藤先輩の紹介に、女委は普通に照れていた。

 まあ、女委にとって、それは褒め言葉だもんね。


「ツッコミはさておき、自己紹介をお願いします。と言っても、依桜さんに限って言えば、最初のゲストで出てますが。でも、一応は自己紹介をお願いしますね」

「わかりました。えーっと、みなさんこんにちは。一年の男女依桜です。なぜか、もう一度出てほしい、という声が多かったらしいので、こうしてまたゲストとして参加させてもらいました。的確な回答ができるかはわかりませんが、頑張ります!」

「どもー! 同じく一年の、腐島女委さんだよ! 今回は、依桜君の友達ということで参加させてもらいました! 悩み相談なんて、BL以外ではされたことないけど、頑張っちゃいますぜ! どうぞよろしく!」

「テンションが真逆ですねぇ、お二人とも」


 うん。ボクも、正反対なテンションしてるなぁ、なんて思っちゃったよ。

 女委、楽しそうだね。


「ふふふー、やっぱり、正反対なくらいの方が、馬が合うってことだね!」

「なるほど、一理ある。何はともあれ、今回は期待していますよ、お二人とも!」

「頑張ります」

「任せてよ!」


 本当に正反対だった。


「じゃあ、早速一つ目のお悩み。こちらは、一年生のAさんからですね。『こんにちは! つい先日のスキー教室で、私に好きな人ができました。できれば付き合いたい! と思うのですが……相手が、私と同じ女の子なので、どうかと思っています。どうすればいいでしょうか?』だそうです」

「よっしゃあああああ! 百合だああああああ!」


 ああ、女委のスイッチが!


「おお、女委さん、随分テンション高いですね」

「百合の話題とあらば、このわたし! ならば、解決してみますよ!」

「自信満々ですね。まあ、とりあえず、回答を聞いてみましょう」

「あいさー! こほん。じゃあ、わたしの回答。というか考え。襲え。以上です」

「どういう意味!?」


 女委のわけのわからない考えに、ボクは思わず声を上げていた。

 というか、襲えの意味がわからない!


「文字通りさ! いいかい、依桜君。同性愛と言うのは、いわば禁断の愛なわけですよ。相手が百合じゃない限り、実る可能性は低いわけよ。で、だったら、襲ってしまった方が手っ取り早いというものです」

「いやそれ犯罪! 襲っちゃダメ! 襲うの意味はわからないけど! なんとなく、犯罪臭がするからダメ!」

「えー?」

「えーじゃないの!」


 まったく、やっぱり地雷だった……。

 こんなことなら、未果か晶に頼み込んだ方がよかったよ。


「なかなかにとんでもない人が来ましたねぇ」

「なんか、すみません……」

「にゃはは、照れるなぁ」

「褒めてないと思うよ、女委」


 女委って、本当にポジティブだよね……。

 その辺りはちょっとうらやましいとは思うけど、考え方がいまいちわからないから、全部羨ましいかと言えば、ちょっと違う。

 だって、女委の言っている言葉の意味がわからない時がよくあるんだもん。


「それじゃあ、依桜さんはどうですか?」

「そうですね……普通の人からしたら、忌避されるんでしょうけど、ボクは特に否定しません。心の底から好きだと思えるのなら、それが正しいと思います。それに、今の世の中、同性愛者を差別するのは、ダメですからね。愛の形は、人それぞれです」

「おー、やっぱりまともですね」

「……むしろ、女委の回答がおかしいと思うんですが」

「そうかい? 普通だと思うんだけどなー」


 ……女委の感性は、やっぱりおかしいと思います。


「それでは、まとめてしまいましょう! とりあえず、お二人の回答を統合して……恋愛は自由です。許可が出たら、襲いましょう。ということですね」

「違うと思いますよ!?」

「あり? なんか違いました?」

「なんで、襲う前提なんですか!」

「なんでって……襲いたくなりますよね?」

「当然ですね!」

「……あ、うん。次行きましょう」


 この二人に何を言っても無駄だと思ったボクは、ツッコムのを諦めて、次のお悩みに行くよう、促した。

 この二人、もしかすると混ぜるな危険かも……。


「ですね。じゃあ、続いてのお悩み。こちら、二年のHさん。『こんにちは。私は胸が小さいのが悩みです。どうしたら、大きくなるんですか?』だそうです。……うん。ちょうど、目の前に学園のツートップがいるので、訊いてみましょうか。どうですか、お二人とも」

「そうだねぇ……。わたしは、特に何もしてないなぁ。気が付けば、巨乳でした」

「さ、参考にならない……じゃ、じゃあ、依桜さんは?」

「ボクも何もしてないです。というか、ボクの場合は、朝起きたら女の子になっていて、胸もこれだったので……どうしたら、というのはちょっと……」


 そもそも、元々男だったのに、なんでこのサイズなんだろう? って思ったよ、ボク。

 でも、女委とか態徒が言うには、TS? した男の人の胸は二パターンって言ってた。

 たしか、巨乳か、幼女になるか、だって。


 ……あれ、それボクどっちにもなれるような……。


「まあ、依桜君の場合は、単純に遺伝だろうねぇ」

「あー、そう言えば北欧系でしたっけ?」

「そうです。父さんと母さんのどっちかはわからないんですけど、一応先祖に北欧の人がいる、って話です」

「北欧の人って、巨乳が多いって聞きますしねぇ。やっぱり、遺伝なのか……ということは、女委さんも?」

「いえいえ、わたしは普通にこうなりました。お母さんが巨乳かと言われれば……普通ですね。Cくらいです」

「なるほど……突然変異か……」

「お、突然変異って言われると、なんかちょっとカッコイイ」

「女委、普通は怒るところだと思うよ」


 どうして、好意的に思えるんだろうね、女委。

 ポジティブすぎて、考えがよくわからないよ……。


「うーむ、こうなると……回答するのが難しい。二人とも、自然とそうなっただけだから、大きくする方法を聞いても答えは得られない、か……。ですが、ここで諦めては、お悩み相談の名が廃ります。というわけで、育乳方法って何か知ってます?」

「そうだねぇ……四十℃程度のお湯に浸かるのがいいとか、基礎体温を上げるとか、体を冷やすものを食べたり、飲んだりしないこととかかな? あとは、脇の下、体の側面、二の腕を揉むといいとか」

「女委、随分知ってるね」

「ふふーん。わたしは、依桜君よりも女の子歴が長いからね! その間、胸が大きいことを羨ましがられてたから、大きくする方法を聞かれたから、調べたのさ。ま、ネットに転がってるものばかりだけどねぇ」

「なるほどなるほどー。じゃあとりあえず、今のを回答としましょう。それに、育乳ブラなるものが世の中にはあるらしいので、それも手だね! じゃあ、次のお悩み相談行ってみよう!」


 うわー、すっごい軽く流しちゃったんだけど、豊藤先輩。


 い、いいのかな、こんなに適当で……。


 でも、胸を大きくする方法なんて、ボクはよく知らないし……第一、男だったんだから、知るはずないしね。


 ……さすがに、このお悩みに関しては、ボクが力になれることはないよ。


「次は……一年のIさんから。『こんにちは! インターネットにある、小説投稿サイトで、小説を書いているのですが、最近思うような話が書けません。題材は、よくある異世界ものなんですが、如何せんネタが……何かいいネタはないでしょうか?』とのこと。ふむ。小説ですか……お二人とも、どうですか?」

「うーん、こういった創作物に関することなら、女委の方がいいかも」

「へぇ、女委さん、得意なんですか?」

「いえいえ、ただの同人作家です」

「ええ!? 同人作家やってるの!?」

「はい。まあ、別に秘密じゃないので、言うんですが、わたし、『謎穴やおい』です」

「マジですか!? この学園にいる女の子の間で、密かに人気を博している、あの……?」

「人気かどうかはあれですが、まあ、多分そうですね」


 女委って、かなり人気ある同人作家だと思うんだけど、そこまで人気がある、とは思っていない節がある。


 その辺り、謙虚だよね。


 ……あれ、なんだろう、今一瞬、『お前も人のこと言えないだろ』っていう幻聴が聞こえたような……。


「では、その道のプロである、女委さん。何かあります?」

「そうですねぇ……やっぱりこう、異世界に行って、魔王倒して、最後の悪あがきで呪いをかけられて、美少女になる、というのはどうでしょう?」

「――ッ! けほっけほっ……!」


 ボクは一瞬、噴き出しそうになった。

 噴き出すは行かなくても、普通にむせた。

 それ、すっごく聞いたことある話! というか、ボクの体験談だよね!?

 何勝手に、ボクの人生の経験をネタにしようとしちゃってるの!?


「依桜さん、どうしたんです? 急にむせて」

「あ、い、いえ、お水が気管に……」

「大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です……」


 苦笑いを浮かべながらそう言う。

 そして、女委の方に視線を向ける。


「なるほどー、意外と見かける題材ですが、でも、そう言った作品あまり多くないですねぇ。イイと思います。というわけなので、Iさん。女委さんが言った題材を使ってみて下さい」


 ボク的には、その小説が投稿され始めて、見た時、その主人公に感情移入できる気がします。


「はい、次のお悩み。えーっと、三年のKさんから『こんにちは。私、つい最近から、女神様に恋しちゃってるみたいなんです……どうすればいいですか?』だそうです。あー、女神様、ですかー。うん。まあ、まどろっこしいのはあれなので、聞きます。依桜さんの恋愛対象って、結局男女どっち?」

「ふぇ!? いや、あの、えっと……こ、答えなきゃダメ、ですか?」

「もちろん。女委さんは?」

「聞きたいなー。依桜君の恋愛対象」

「え、えっと、その……よくわからないですけど、未果とか女委、あとは師匠と、美羽さんには、よく赤面させられたり、ドキドキしたりします、けど……」


 特に、女委と師匠にはよくドキドキさせられます……もちろん、未果にも。


「おお! と言うことは、百合! 百合なんですね!?」

「ほうほう、依桜君そう思ってたんだねぇ。いやー、嬉しいなー」

「あ、ち、違うよ!? た、たしかに、赤面させられたり、ドキドキしたりするけど……は、恥ずかしかったりするだけ、だよ……?」

「「うわー、かーわーいーい!」」

「なんですかその言い方!?」


 すごく馬鹿にされている気がするのは、ボクだけ!?


「まあ、遊ぶのはさておき。依桜さん的には、よく一緒にいる小斯波君とか、変態には何か思わないんですか? 好意的な」

「うーん……友達として、という意味では、好意を持ってますけど……赤面させられたり、ドキドキしたり、というのはない、ですね」

「なるほどー。やっぱり百合ですね」

「ふぇ!? ゆ、百合、なんですか? ボク」

「百合ですね。明らかに、女の子に対して心動かされてるみたいですしー」

「依桜君。百合はいいものだよ。てぇてぇなんだよ」

「てぇ、てぇ?」

「脳死して、語彙力が溶けて、尊いが言えなくなったこと」

「なる、ほど?」


 やっぱり、女委が言うことは、よくわからない……。

 う、うーん。ボクって無知なんだなぁ、ってよく思うよ……。


「じゃあ結論。依桜さんは……百合! 以上です! では、どんどん行きます!」

「って、ち、違いますからね!? って、なんでスルーするんですかぁ! あの、聞いてます? お願いですから、ボクの話を聞いてくださいーーーー!」


 ボクの叫び空しく、スルーされました。


 ……酷いよぉ。


 ボク、できればもう、やりたくないです、このお悩み相談……。


 この後の相談事の大半は、ボクに関係するものばかりでした。

 そのほとんどが、恋愛絡みで、なおかつ、女の子たちから、という、何とも反応しにくいものとなりました。

 ボクは……すごく疲れました。

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