第522話 三日目と最終日

 それから朝。


「んっ、んん~~~っ……はぁ、うーん、よく寝たぜぃ」

「おふぁよ~……」

「おはよ~……」


 大体朝の六時半になる頃に、三人揃って起床した。


「おはよう、みんな」

「おーう、おはよう依桜君……」

「依桜ちゃんおはよ~……」

「「…………え、依桜君|(ちゃん!?)」」


 寝ぼけ目状態の二人は、ボクの挨拶を帰した直後、少しの間を空けて大きく目を見開いて驚きの表情を浮かべた。


 うん、だよね。


「いつ帰ってたんだい!?」

「夜の十一時くらい?」


 歩きと車での移動に、師匠たちとの会話も含めると大体それくらいだしね。


「ほぇ~、びっくりしたよ~。いきなり声かけてくるんだもん!」

「あはは、ごめんね?」

「ううん、いいよいいよ! 依桜ちゃんが無事でよかった~」


 そう言いながら、エナちゃんは安堵した表情を浮かべる。


「心配させてごめんね?」

「いいぜいいぜー。にしても、いきなり消えたと思ったら、いきなり帰ってくるねぇ。正直なところ、慣れ過ぎて『あ、またか……』って思わず呆れちゃったぜー」

「ですよねー」


 やっぱりというか、案の定と言うか、みんなはそう思ってたんだね……。


 複雑な気持ちだけど、変に心配させるよりかは全然マシかなぁ。


「ねね、依桜ちゃんはどこに行ってたのかな? うち、とっても気になる!」

「それについては、班行動の時に話すよ。今は、晶と態徒がいないからね」

「あ、それもそうだね! 楽しみだなぁ」


 どんな話が聞けるのかわくわく、と言った様子のエナちゃん。


 エナちゃんは何事も前向きに楽しむ! みたいなところがあるから、こういうのは嬉しいのかも。


 ただまぁ、今回の件が面白いかどうかはわからないけど……。


『生徒の皆さん、おっはようございまーす! 朝の六時四十分になりましたので、まだ寝ている方は起床を! そうでない方は、もうすぐ朝食の時間となりますので、準備をお願いします! あ、もしも起きていない方がいるようであれば、起こしてあげてくださいね! では、今日も一日、頑張りましょう!』


 朝の館内放送、すごくテンション高いよねぇ……。


 そう言えば今の放送を話してる人って、豊藤先輩の後輩さんだったっけ。


 夏休み明けにとある件で合ってるんだけど、すごく豊藤先輩に似てたっけ……。


「よーし! そんじゃまぁ、着替えましょうかね!」

「そうだね」


 ボクもそろそろ、着替えないとね。



 それから朝食の時間になったので、四人で大広間へ向かう道中、なんかやたらと視線を受けた。


 というか……よくわからないけど、なぜか雄叫びを挙げてる人とか、歓声を上げてる人とかがいたんだけど、あれはなんだったんだろう……?


 ボクを見ただけでそうなる? 普通。


 などということを思いながら大広間へ行くと、晶と態徒の二人と合流。


 鈴音ちゃんに関しては、どうやら自分のクラスの友達と話しているらしく、一緒じゃないみたいだった。


 二人の反応はと言えば、呆れたような心配したような、そんな複雑な反応でした。


 なんだろう、やっぱりみんなには呆れられてるんだね、ボク。


 そのことに対して、ちょっとだけ悲しいなぁ……なんて思いつつも、向こうに数日間いた影響からか、そう言う反応でも素直に嬉しい。


 さて、朝食を食べ終えた後は、修学旅行最後の自由行動。


 明日はほとんど帰るだけだからね。


 ボクたちと言えば、美羽さんと合流し、適当な喫茶店に入って話を……ということにしようとしたら、未果が謎のチケットのような物を手渡してきて、


「ここに行きましょ」


 と言ってきた。


 他のみんなはそれが何か知ってるようで苦笑いを浮かべていたけど、ボクと美羽さんはそのチケットがどんな代物なのかわからず、お互いに顔を見合わせて首を傾げた。


 そして、そのチケットの使い道の場所へ行き……思わず茫然としました。


 いやだって……一つ一つのスイーツの値段がとんでもないことになってるんだもん!


 え、なにこれ。高っ!


 いくら数億円規模の大金を持っていても、庶民な金銭感覚だから普通に恐ろしい金額なんですが!


 しかも、未果たちが言うには、これら全部が一人チケット一枚で食べ放題になると言う事実な上に、ここにいる全員分のチケットがあると来ました。


 ……あの人、本当になんなんだろう。


 ま、まあでも……せっかくだし……食べられるだけ食べておこう!


 ということになった。


 普段、あまり甘いものを食べない晶、態徒の両名だけど、今回に限って言えばそんなことはなく、普段以上に食べている辺り、このお店のスイーツは美味しい。


 ボク、未果、女委、エナちゃん、美羽さんの五人はスイーツの美味しさにものすごく顔が緩んでるしね。


 なので、しばらくは満足するまでスイーツを堪能し、話が始まったのは、全員でシェアしつつメニューを全種類注文し終えた頃でした。


「ふぅ……さて、それじゃあ話を聞かせてもらいましょうか」

「未果、ほっぺにクリームついてる」

「おっと失礼。……じゃあ改めて、話を聞かせてもらいましょうか」

「あ、うん。えっと、そうだね……とりあえず、結論だけ先に言っちゃうと、ボクと美羽さんは妖魔界に行ってました」

「「「「「あー……やっぱり」」」」」


 うん、なんと言うか、予想通りの反応。


「ってことは何かい。依桜君たちは、魑魅魍魎が蔓延る世界に?」

「言うほど蔓延ってはなかったけど……まあ、うん。そうかな」

「どんなところだったの?」


 きらきらとした瞳でどんな場所だったか尋ねてくるエナちゃん。


 他のみんなも、口に出さないだけで、じっと話し始めるのを待っている感じがある辺り、気になるんだろうね。


 まあ……いっか。


 なんだかんだで、ボクの身に起きた事件やらなんやらは普通に話してきたし、今更だもんね。


 なら……。


「うん、わかったよ。じゃあ、最初から話そっか」


 そう言うと、みんなは目に見えて喜びだす。


 うーん、心配以上に、好奇心とか非日常の代表的存在、ファンタジーに対する好奇心の方が勝ってるんだね。


 別にいいけど。


「そうだね……事の発端は――」


 というわけで、ボクはどんな経緯で妖魔界へ行ったか、ということを話し始めた。


 途中、美羽さんの補足も入りつつ、向こうでの四日間の出来事を話した。


 妖魔界の王である天姫さんと契約したことや、美羽さんも別の妖魔と契約したこと、その他にも向こうでの戦闘やら、とある村での宴やらなんやらを話した。


 ただ……邪神に関係することのみは、話さない方がいいと思って話していないです。


 いらない心配をかけたくないしね……。


 ……最も、美羽さんは知ってるわけなので、ちょっとあれですが。


「――以上かな」

「「「「「また、女を増やしてる……」」」」」

「その言い方は語弊があるよ!?」


 ボクの話を聞き終えての感想がみんな揃ってそれはどうなんでしょうか。


 あとそれだと、女好きの人、みたいになっちゃってない? なんかすごく嫌なんですが。


「ってか、今度は玉藻の前かよ。実在したのな、あの妖怪」

「そこはまあ、ボクも美羽さんも驚いた上に、セルマさんとフィルメリアさんの二人の知り合いだったことも驚きだったよ」

「なるほどね……。じゃあ、妖魔界は私たちがよく知る妖怪やらなんやらがいる、ってことでいいわけね?」

「うん、他にもUMAとかも存在してるみたいだよ?」

「マジで!? 何それ超見たいんだけど! わたしの今後の同人誌作成のために見たいんだけど!」

「まあ、うん。女委ならそう言うよね」


 言う前から、なんとなーくそう言うんじゃないかなー、とは思ってたけど……こうも見事に予想通りの反応をされると一周回って面白く感じる。


 女委の創作に対する熱意ってすごいからね。


 その辺りは、美羽さんも同様だけど。


「依桜君や、その件の天姫さんは呼べないのかい?」

「うーん、今は事後処理に奔走してるみたいで、それが片付いてからになるかな」

「そっかー……じゃあ、来たら紹介してほしいんだけど、OK?」

「もちろん。多分、何らかの形でこっちに住むと思うし。その時に紹介するよ」

「やっふー! 楽しみが増えたぜ!」


 うーん、すごく嬉しそう。


「ところで依桜」

「ん、なに? 晶」

「少し気になったんだが……美羽さんも異界の存在と契約できたっていう事は、もしかして俺たちも同じようなことが可能だったりするのか?」

「あ、たしかにそれは気になるわね」

「オレも」

「うちも」

「もち、わたしも!」


 言われてみれば確かに……。


 そう言えば、護衛に、っていう理由で美羽さんは伊吹さんと契約したわけだけど、あれってどういう理屈なんだろう?


 一応、召喚には魔力を使うわけだし……。


 みんなには魔力じゃなくて、気力が備わってるみたいだから、そっちを使用して呼び出す感じになるのかな?


 まあでも、できるかできないかを言うとなると……


「多分、できるんじゃないかな?」

「マジでか?」

「確証はないけど……その辺りは、セルマさんたちにでも聞いてみるよ。考えてみれば、みんなも何かに巻き込まれる、なんて可能性もあるわけだし、一応可能な限り契約しておいた方がいいかもだし」

「「「「「おおー!」」」」」

「うんうん、みんなの気持ち、わかるなぁ。私もかなりテンション上がったし」


 五人のテンションが上がったのを見て、美羽さんはうんうんと頷き、理解を示す。


 ボクだって、異世界に関わることが無くて、こうして超常的な存在と契約するってなったら、すごくテンション上がったんだろうな。


 今は色々と知っちゃってるからあれだけど。


「ねね、契約する相手ってどういう人たちがいるのかな」

「そうだね……今だと、天使と悪魔、あと妖魔の三種族だけど……他にも、精霊と妖精がいるみたいだね」

「へぇ~! 精霊さんとかいいね! うち、もしも契約できるなら、精霊さんがいいな!」

「あ、あはは、そうしてあげたいのはやまやまだけど、まだ精霊界と妖精界は行ってないからわからないんだよね……」

「そっかー……でも、依桜ちゃんのことだし、いつか行きそうだよね! 依桜ちゃんだもん!」

「「「「「たしかに」」」」」

「みんな!? そこは否定してくれないかな!?」

「いや、依桜だし、絶対どこかで巻き込まれるでしょ」

「うぐっ……」


 ひ、否定できない……。


 考えてみれば、天界と魔界に関しては、巻き込まれた形だし……特に魔界の方。


 天界自体は、そこまで関わっていなかったけど、結果的に悪魔の騒動を解決したらああなっちゃった感じだしなぁ……。


 そう考えると、いつか精霊界と妖精界の二つに行きそうで怖い。


 ……今度、お守り買っておこう。


「まあ、その辺りは仕方ないな。依桜はそう言う星の下に生まれてきたようなものだからな」

「晶、地味に言ってることが酷いよ……?」


 なんだかんだで、晶も言うよね……。


「でも、あれだね。依桜ちゃん、なんとか修学旅行中に戻ってこれてよかったね!」

「そうだね……最悪の場合、修学旅行が終わった後にこっちに戻る! なんてことになってたかもしれないと考えると、やっぱり寂しいものがあるし、そこは不幸中の幸いだったよ」


 やっぱり、みんなと一緒に回る、というのは大事だからね。


「そうね。私たちも安心したわ。あなたの場合、今年の春に巻き込まれた並行世界の例があるし」

「あれはまあ……うん。向こうの学園長先生が酷かった」


 あの時は一週間もこっちの世界にいなかったからね……。


 ……ただ、あの時の転移だけは、何かが違ったような気がするんだけど……まあ、いっか。気にしなくても。


 偶然違っただけだよね。


「まぁ、さすがの依桜でも、今年度中に巻き込まれる、なんてことはなさそうだな!」

「態徒、それはフラグだぞ?」

「いやいや、そうは言うけどよ、実際精霊と妖精ってのに巻き込まれるような事柄とか、この先なさそうじゃん? 今回だって、修学旅行先が京都だったから、みたいなところはあるしよ」

「そう、なのかな? ボクとしてはよくわからないけど……」


 でも、京都で、尚且つ伏見稲荷大社だった、というのは妖魔界と少し関係がありそうな気はしないでもないし、ちょっとは関わってそうだけど。


 まぁ、結局のところ原因はわからずじまいなんだよね……。


 邪神の兵が原因なのかな? やっぱり。


「たしかに、それはありそうだな。正直、精霊と妖精の二つが関係する出来事なんて、思い浮かばないしな。それこそ、異世界にいない限りは何も起こらないんじゃないか?」

「そうだといいなぁ……」


 ボクとしては、もうお腹いっぱいと言いますか……正直、もういいかなぁ……。


 ただ、なんだろう。ボクの予想としては、あの三人が、『ここまで来たら、残りの二人も契約しよう!』的なことを言ってくるんじゃ……? なんてことになりそうで怖い。


「ま、なるようになるんじゃないの? 依桜だし、そこまで心配はいらないでしょ」

「あ、あはは……いやまぁ、うん。よっぽどの存在が出てこなければ平気かなぁ……? 一応、今回の一件で、パワーアップじみたことはしたわけだし」


 主に、天姫さんとの契約でね。


「……さてと。話しながらとはいえ、大分食べたことだし、そろそろ外に出ましょうか」

「あ、うん。そうだね。ボクも十分食べたし。他のみんなはどう?」

「俺も満足してるよ。というか、もう食えない」

「オレもだぜ……ってか、お前ら食い過ぎだろ!?」


 少し辟易したような様子の晶の言葉に続くように、態徒のツッコミ? が入った。


「「「「「そう?」」」」」

「「そうだよ」」


 態徒の言葉に、ボク、未果、女委、エナちゃん、美羽さんの五人は首をかしげながら聞き返せば、態徒だけでなく、晶も一緒に肯定した。


「これくらい、女の子は普通ってもんだぜ!」

「……あ、ハイ。そっすか。……こいつらの胃袋、どうなってんだよ」


 ぽつり、と態徒が何か言葉を零したけど、何を言っているのかは聞き取れなかった。


 ともあれ、向こうの世界での出来事やら、美味しいスイーツを食べたことやらで満足したボクたちは、お店を出ました。


 ちなみに、鈴音ちゃんが一緒ではなかったので、まさかの態徒が、


『鈴音のために、お土産でも買ってくか』


 と言いながら、普通にいいスイーツを購入していた姿は、本気でカッコいいと思いました。


 ……まぁもっとも、


『オレの貯金の半分近くも持っていかれちまった……』


 という呟きがなければ、もっとカッコよかったと思います。



 その後と言えば、本当に何もないと言うか……ごくごく普通(?)な修学旅行の状況となりました。


 いや本当に。


 この辺りは……まぁ、また別の機会に、ということで。


 ちなみに、美羽さんは夕方に差し掛かる頃に帰るという事で、先に美天市へと帰って行きました。


 帰ったら伊吹さんを呼び出すんだー、ってすごく嬉しそうに話してたので、多分今日中には伊吹さんもこっちの世界に来るんじゃないかな? と予想してます。


 で、ボクたちの方は、何事もなく温泉に入って、何事もなく夜ご飯を食べて、何事もなく……就寝となりました。



 そして、修学旅行最終日。


 ボクたちは少し寝ぼけながらも起きて、朝ご飯を食べて、美天市へと帰ることになり、新幹線に乗車して東京駅へと戻ってから、みんな仲良く美天市へ。


「あー、やっとついたぁ……」


 美天駅に到着して改札を出るなり、女委がへとへとです、という心の声が聞こえてきそうなくらいに疲れた声を出していた。


 他のみんなはと言えば、女委ほどではないけど、やや疲れたような様子。


「女委、疲れたって言ってるけど、あなた途中から寝てなかった?」

「うへへ~、依桜君の肩最高だったぜ」


 若干だらしのない表情で、そんなことを女委が口走る。


 はい。聞いての通り、女委は途中から疲れによるものからか、うつらうつらとしはじめ、気が付けば寝落ちしそうになっていたので、一度女委とエナちゃんが席を交代してボクの肩を使って寝かせることにしました。


 結果、爆睡。


 時たま涎が垂れそうになっていたのを見ては、ハンカチなどで拭うなどして対処。


 ……さすがに、服に垂らされたらね。


「おし、オレも疲れたしそろそろ帰るぜ。鈴音も一緒に帰るだろ?」

「うん。もち、ろんっ」

「了解。んじゃ、オレたちは先に帰るぜ」

「うん、じゃあね、二人とも。また来週」


 というわけで、先に態徒と駅で合流した鈴音ちゃんが帰宅。


 その際、ボクたちは二人が恋人つなぎをして帰って行った姿を見ました。


 うんうん、仲睦まじいようで何よりです。


「じゃ、わたしはお店に寄ってくんで、この辺で!」

「あ、うん。また来週」

「おうともさ! じゃねー」


 次に女委が帰宅……というか、お店へ向かっていった。


 多分、お土産とかを渡しに行くのかな?


「あ、うちはこの後打ち合わせがあるから、この辺りで!」

「うん、頑張ってね」


 次にエナちゃんが帰宅。


 この後も仕事があるなんて、大変だね、エナちゃん。


 まあでも、一応学生とはいえ売れっ子アイドルだもんね。


 そこを考えると、四日くらい休むのは少し難しかったのかもね。


 あまり無理をしないでほしいと思います。


「さてと。私たちも帰りましょうか」

「うん、そうだね」

「そうだな」


 というわけで、ボクたち幼馴染組も帰宅することになりました。



「それにしても、俺たちはさほど問題なかったが、依桜に関してはまったく修学旅行してなかった気がするな」

「あはは……まあ、うん。ボクと美羽さんは向こうの世界に行ってた上に、四日間くらい向こうで過ごしたから正直なところ、あまり修学旅行を楽しんだようには感じてないんだよね……」


 あれはあれで貴重な体験だったし、新しい能力を得はしたけど……できればみんなと普通に修学旅行を楽しみたかったところです。


 一応、三日目に関しては普通に回ったけど。


「体質のなのかしらね?」

「うーん……異世界に行ってから、こんな感じだからなぁ……変わったんじゃないかな、ボクの体質」

「案外、依桜の中に不思議な力が眠っていて、それが異世界に行ったことで目覚めた、という可能性もあるかもしれないぞ?」

「それはさすがにない……と思う、よ?」

「いやわからないわよ? 依桜のことだし、そうであっても不思議じゃなさそうじゃない」

「た、たしかに……」


 自分でもそれは思うかも。


 だって、明らかに異世界に行って帰ってきた後なんて、死ぬほどいろんなことに巻き込まれちゃってるし……。


 それを考えると、晶の言う事も一理あると言うか……ま、まあ、さすがに可能性は限りなく低いとは思うけど……。


「まあでも、それのおかげで私たちも面白い日常になってるわけだし、いいけどね」

「他人事だと思って、酷くない? 未果」

「ふふ、でも事実じゃない? 依桜自身もそう思ってるでしょ?」

「それは……まあ、うん。思ってます」

「ははは、まあ俺も楽しいからいいと思うぞ」

「晶も……まったくもう。ボクだって、楽しいとは思ってるけど、それでも大変なんだからね?」


 楽しそうに言う二人に、ボクはやや頬を膨らませながら軽い抗議じみたことを口にする。


「ごめんごめん。でもまあ、私は今の日常好きよ。依桜や晶、態徒に女委、エナにミオさん、それからメルちゃんたちもね。こんなに人が集まったのって、結局は依桜が中心になってるからでしょ?」

「そう、なのかな?」

「そうよ。ね、晶」

「あぁ、そうだな」


 まあ、二人がそう思うのならそう……なのかな? 実感わかないけど。


「でもそれだと、ボクがいなくなったら崩れちゃう、みたいな感じにならない?」

「それは大丈夫じゃない? 依桜がきっかけで集まったとしても、それを通じて仲良くなったわけだし」

「……そっか。ならいっか」


 崩れないなら安心だね。


 まあもちろん、ボクもいなくなったりするつもりはないけどね。


「そういえば来月は体育祭だったか?」

「例年通りならそうね。依桜、そこのとこどうなの?」

「うん、多分十一月下旬だと思うよ? 二十日以降かな」

「なら、まだ時間があるわけね。種目決めは……もうちょっと先になるか」

「そうだね。二人は決まってるの?」

「いや、俺は特に。種目を見て決めるよ。もしかすると、新しい種目が出るかもしれないからな」

「私も同じく。依桜は?」

「ボクは……障害物競争だけは嫌です」

「「あー、それは仕方ない」」


 去年のことを思い出しながら、遠い目をする。


 いやほんとにね……スライムプールって何?


 なんでそんなものを用意しちゃったんでしょうか、あの人は。


 他にも色々あったし……できれば、今年は去年よりかは平穏な体育祭になってくれるとボクはすごく嬉しい。


「と、いうところで分かれ道だな。じゃあ、また来週な」

「えぇ、またね」

「うん、また来週!」


 そうこうしているうちに十字路に差し掛かり、ボクたちはそこで別れてそれぞれの家に帰って行きました。


 早く、メルたちに会いたいし、急がないとね。


 そう思いながら、足早にボクはみんなが待ってる家へと向かっていきました。

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