第490話 二度目の学園祭、開幕

 そして、十月七日、学園祭一日目がやってきました。


「みんなー、そろそろ行くよー」

「「「「「「はーい(なのじゃ)!」」」」」」


 いつもは、もうちょっと寝ているみんなだけど、今日ばかりはかなり早起きだった。


 普段のボクの起床時間は五時で、朝起きたら軽く洗濯機を回して、それが終わったら朝食作り。


 その際、みんなにはバランスが良く、美味しいものを食べてもらうために、基本的な一汁三菜は守るようにしています。


 ちなみに、今日の朝ご飯は、ご飯と焼き魚、ほうれん草と小松菜のおひたし、お漬物(おばあちゃん直伝のボクの手作り)です。


 日によっては、お漬物の部分が別の物になったりするけど、大体はこんな感じ。


 さすがに、毎日メニューを変えてるけど。


 普段なら、朝ご飯ができる頃に寝ぼけ目を擦りながら降りてくるみんなだけど、今日ばかりはさっきも言ったように早起きで、今日なんて六時起きだからね。


 そのため、ボクが愛用しているエプロンを着けて朝ご飯を作っている間、みんなはうきうきとした様子で、テーブルに座っていた。


 ちなみに、師匠はボクが起きた少し後に起きて来て、新聞を読みながらコーヒーを飲んでいました。


 似合う。


 学園祭初日の朝は、こんな感じです。


 そして、朝ご飯を食べて、登校する準備を終えたところで、いざ出発となりました。



 と、ここまではよかったんです。ここまでは。


「……何あれ」


 学園に登校したボクたちを待ち受けていたのは、学園の正門前にできた、長蛇の列でした。


 並んでいる人たちの服装や歳は様々。


 近隣の小学生や中学生、高校生に、大学生っぽい人とか、社会人らしき人。それ外にも中年くらいの人や、高齢の人たちと様々。


 あ、ちなみに、うちの学園の学園祭はかなり大規模であり、尚且つ色んな人――特に、学生が楽しめるようにと、この辺りに住む学校は、今日明日の両日ともに休校になっています。


 色々と自由過ぎる。


 学園も、街も。


「……で、イオ。これはどういう状況なんだ?」


 目の前の状況に少し驚いて、ぼーっとしていると、横にいた師匠が目の前の状況を面倒くさそうな表情を浮かべながら、ボクにどういう状況なのかを尋ねて来た。


 正直、ボクにも答えようがないと言うか……そもそも、一つしか言えないよね、これ。


「多分、学園祭に来たお客さんたちじゃないですか、ね?」

「なんで疑問形なんだよ」

「だ、だって、例年ならここまで行列ができてなかったんですよ? たしかに、並ぶ人はいましたけどさすがに……最後尾が見えなくなるくらいの長さはないですからね?」

「……つまり、去年お前がやらかした影響やら、それ以外のイベントが原因で、こんなことになった、と?」

「…………認めたくないですけど、そうです」


 学園長先生や、未果たち曰く、明らかにボクが原因とのこと。


 他にも理由を上げるとすれば……最近転校してきたエナちゃんの存在もあると思う。


 大人気アイドルがいる学園のお祭りとなれば、誰だって来たくなるもん。特に、ファンの人とか。


「ねーさま、ねーさま」

「ん、何? メル」

「儂らは、どこから入ればいいのじゃ?」


 そう言われて、ボクもはたと気付いた。


 たしかに、あの行列の前を堂々と歩くのはちょっと……。


 しかも、よく見ればテレビ局の人とか、人気動画投稿者の人たちもいるし……ちょっとまずいかも。


 最近、ボクは少しは有名人だと思うようになってきたし、下手に前に出ると変な騒ぎになっちゃうかも……。


 そして、それが原因でメルたちが怪我をするようなことがあれば、ボクは何をするかわかったものじゃないし、何より怪我をさせた人たちを許さないかもしれない。


 だから……。


「今日は、裏門から行こっか」

「うむ! よし、じゃあみんな行くぞ!」

「「「「「おー!」」」」」

「あぁ……朝から癒しが……」

「お前、顔がだらしないぞ」


 みんなが可愛いすぎるんだから、表情が緩むのは当然です。



 それから、なるべく並んでいる人たちにバレないよう、上手く立ち回って裏門へ移動し、そこから学園内へ。


 よく見ると、ボク以外の学園生も正門からじゃなくて、裏門から登校していた。


 あとで知ったことだけど、どうやら学園用のアプリに、『生徒、並びに教職員は裏門から入るように』という通知が来ていました。


 あらかじめ見ておけばよかったかも、とちょっとだけ後悔しました。


 と、そんなことは今はよくて。


 裏門から入ったボクたちは、中央広場(高等部・中等部・初等部へ続く三本の道のスタート地点のような場所)で、それぞれの場所へ。


 その際、


「イオおねえちゃん、あとで来てね!」

「きて、ね?」

「もちろん。必ず行くよ」

「やくそくだよ!」

「たのしみにしているのです!」

「……ぜったい」

「大丈夫だよ。午後には必ずそっちに行くから、安心して」


 みんなから午後は絶対に来てほしいと言われました。


 ボクに行かないという選択肢はなく、たとえ隕石が降って来ても、全力で破壊し、みんなと学園祭を楽しむ予定です。


「じゃあ、みんなもたくさん楽しんできてね」

「「「「「「うん!」」」」」」

「いい返事です。それじゃあ、ボクはそろそろクラスの方に行くから。また後でね」

「「「「「「はーい(なのじゃ)!」」」」」」


 うーん、可愛い妹がいる生活は……素晴らしいです。



「あ、い、依桜、君……!」


 クラスへ向かって歩いていると、不意に横から声をかけられた。


 声が下方向へ目を向けると、そこには鈴音ちゃんが立っていた。


「おはよう、鈴音ちゃん」

「お、おはよう、依桜、君」


 仲が良かった友達と再会して、こうして挨拶をすると、なんだかすごく嬉しい。


 中学生の頃は、よく一緒にいたからね。


「それで、どうかしたの? いきなり声をかけてきて」

「う、うん。えと、あ、あの……き、今日のことで、ちょっと……」

「今日と言うと……あ、もしかして例の事?」

「そ、そう、だよ」

「そっか。それで、例の事でないか問題があったかな?」

「そ、うじゃなく、て。かくにん、を、した、くて……」

「あ、確認ね。それで、何を確認したいのかな? なんでも言って」

「ありが、とう。……え、えと、今日、は、必ず、その……態徒君、を、広場に連れて来てくれる、んだよ、ね?」

「もちろん。あのイベントは、強制参加と言うわけじゃないけど、少なくとも前評判は高いかな。元々、この学園の人たちはみんな面白いことが好きだし、何より学生間の恋愛は、みんなにとって楽しいものだと思われてるから」


 ボクだって、恋愛をする気はないけど、それでもそういうことが目の前であったらついつい見ちゃうと思うし。


 まあ、今回は全力で応援する立場だけど。


「そう、なんだ。……じゃ、じゃあ、今日は人が多く、来る、の?」

「多分。……あー、えーっと、一応今からでも参加を取り消すことはできるよ? 人気がないところで、告白することもあり、だと思うし」


 人が多いと聞いて、表情を強張らせる鈴音ちゃんに、ボクは別の方法もあると言外に伝える。


 でも、


「だい、じょうぶっ。それくらい、しないと、わたし、逃げちゃうかも、しれないから……。それ、に。チャンスは、今日を逃したら、もう、ないかもしれない、もんっ……!」


 鈴音ちゃんは、顔を真っ赤に染めながらも、やる気に満ちた表情でそう言った。


 うん、やっぱり強いね、こういう時。


「わかったよ。鈴音ちゃんの告白が成功するように、ボクたちも全力で協力するから、安心してね」

「ありがとう……!」


 と、ボクと鈴音ちゃんが話していると、


「お? 依桜じゃん。どうしたん? それになんか今、告白ってワードが聞こえて来たんだけどよ。なんだ? 誰かに告白でもするのか?」


 ちょっとテンションが高い態徒が現れた。


「――っ!」


 態徒が登場した瞬間、鈴音ちゃんの顔がさらに真っ赤に。


 そして、あわあわとしていた。


「た、態徒、君……!」

「ん? って、おおぉ! 七矢じゃん! 久しぶりだなぁ! 元気にしてたか!?」


 ボクと一緒にいた鈴音ちゃんを見るなり、態徒はすごく嬉しそうな表情を浮かべながら、鈴音ちゃんに近寄ると、そう声をかけた。


「う、うんっ……! 元気だった、よ? 態徒君、は?」

「そりゃぁもう元気も元気! いやー、まさか七矢も同じ学園にいたとはなぁ。すっげえ嬉しいぜ」

「そう、なの?」

「おうよ! オレたち結構仲良かったしさ、仲のいい奴がいることがわかったら、そりゃ嬉しいって」


 いつものちょっとおちゃらけた態度や言葉はどこへ、と言わんばかりに普通の反応。


 しかも、随分と鈴音ちゃんに会えたことが嬉しいみたいだし。


 やっぱりこれ、勝算あるよね?


 と言うより、これでもし、鈴音ちゃんを振ろうものなら、ボクは態徒を殴っているかもしれない。


「そう、なんだ。……えへへっ」


 あ、鈴音ちゃんすごく嬉しそう。


 まあ、好きな人にそう言ってもらえたら嬉しいよね。


 しかも、態徒ってお世辞を言わないタイプだから余計に。


「ってか、一緒の学園にいたなら言ってくれよ。せっかく中学時代に仲良くなったのに、連絡先も教えてくんなかったしよー」


 少しだけ拗ねたように、当時のことを話す態徒。


 実際の所、ボクたちはたしかに仲が良くて、中学生時代はよく一緒に行動していたんだけど、連絡先は交換していなかった。


 一応、ボクたちの連絡先なら教えてあったんだけど、どういうわけか鈴音ちゃんは自分の連絡先を教えようとしなかったからね。


 その時は、不思議に思いつつも、仕方ないと思っていたんだけど。


 今にして思えば、あれって何かを隠している素振りだったような?


「ご、ごめん、ね。その、恥ずかし、くて……」

「まー、七矢は恥ずかしがり屋だったしなー。七矢は可愛いんだから、もっと堂々とすりゃ、モテてたんじゃね?」

「か、かわっ……?」

「おう。俺的には、七矢は可愛いと思うぜ? って、なんでそんなに顔が赤いんだ? 熱でもあるのか?」

「ひゃっ! た、たたた、態徒、君っ……?」


 うわー、態徒が自然体で鈴音ちゃんの額に手を……。


 もしかして、仲がいいからそう言うことができる、とか?


 でも、それをされている鈴音ちゃんの方は顔が真っ赤だけど。


「熱はないみたいだな。せっかくの学園祭を、風邪引いて休むとか、マジで寂しいもんな!」

「そ、そう、だねっ」

「お、そうだ。なぁ、七矢。オレ、午後から非番だからさ、一緒に学園祭回らないか? せっかく再会できてわけだし、オレも久々に七矢と話したいしさ」


 た、態徒がぐいぐい行ってる!?


 う、嘘でしょ? だ、だって普段の態徒だったら、


『な、なぁ、せっかくだし、依桜たちと一緒に、学園祭見ようぜ!? 他の奴らも喜ぶしさ!』


 とかだよ?


 しかも、ちょっとだけ上ずったり、変に挙動不審になっていそうなのに!


「依桜たちも行くよな?」


 ……あー、うん。なるほど。


 多分、自然体で誘うことは出来ても、考えてることはボクの予想と一緒だった、と。


 鈴音ちゃんを見れば、二人っきりで回れると思っていたんだろうね。嬉しそうだった表情から一転して、しゅんとしてしまっていた。


 ……これは酷い。


 手伝うと言った以上、手助けしないと!


「ごめんね、ボクはメルたちと一緒に回る用事があって……。それに、未果たちも用事があるみたいだよ?」

「マジか。それじゃ仕方ないかぁ」

「だから、鈴音ちゃんと二人で行って来たらどうかな?」


 ボクたちがいけない(実際はそんなことはなく、行こうと思えば行ける)と知ると、態徒は残念そうに呟く。


 そこでボクは、鈴音ちゃんをアシストする意味で、二人で行くことを提案した。


「オレと二人きりで? ハハハ! そんなの、七矢が行きたがらないだろ? だってオレ、『彼氏にしたくない男子ナンバーワン』だったり、『学園一の変態』とか言われてんだぜ? そんなオレなんかと……」

「い、行くっ!」

「へ?」


 二人きりで行くとは思わなかった態徒は、普段なかなか見ないくらいに食い気味な鈴音ちゃんの様子に、思わず間の抜けた声を漏らしていた。


 それはともかくとして、態徒の発言は色々と悲しい……。


「ふ、二人、でも、いい、よっ?」

「え、マジ? マジでいいの?」

「もち、ろん」

「……お、おう、そうか。んじゃあ、まあ……七矢がいいなら、二人で回る、か?」

「うんっ!」

「……ぐふっ」


 あ、態徒が顔を背けた。


 よく見れば、顔が赤い。


 これはあれかな? いい感じに、態徒に刺さってるっていうことかな?


 だとしたら、鈴音ちゃん、この調子だよ!


「態徒、君?」

「あ、あぁ、な、何でもないぜっ? んじゃあ、午後の一時くらいに、噴水の前に集合でどうだ?」

「だい、じょうぶ」

「そうか。んじゃ、一時にここな! ……っと、いけね。依桜、さっき女委から連絡があってよ、衣装に着替えないといけないらしいから、もし見かけたら連れてこいって言われたんだよ」

「あ、そうなの? じゃあ、そろそろ行くね。……じゃあ、鈴音ちゃん、頑張ってね。あと、こっちも上手くやるから」

「ありが、とう、ね? 依桜、君」

「うん。それじゃあね」


 最後にこそっと耳打ちして、ボクたちは鈴音ちゃんと一旦別れました。



「おはよー」

「おーっす」

「お、来た来た! ささ、依桜君はこっちだぜー」

「あ、ちょっ、いきなり引っ張らないで!?」


 教室に入るなり、ボクは女委に手を引かれて、衝立で作られた簡易更衣室に引っ張られた。


「女委、あんまり変なことしないでよ」

「色々と面倒になるから、下手なことするなよ」

「もちもち! よーし依桜君! ささっと脱いじゃって脱いじゃってー!」

「え、ちょっ、ど、どこ触ってっ――ひゃんっ!」

「うへへへ、やっぱり依桜君の体は触り心地がいいぜー」

「何言ってる……んぁっ! やんっ、そ、そこはだめっ……!」

『な、なぁ、あれ、向こう側で何が起こってんだ……?』

『……何も感じるな。何かを知ろうとすれば、俺たちは間違いなく……殺される』

『『『違いねぇ』』』



 数分後。


「はぁっ、はぁっ……ま、まったくもう……いっつもこれなんだから……」

「にゃははー、いやー、ごめんごめん。依桜君の着付けをしていたら、ついつい」


 女委に変なことをされつつも、なんとか着替え終わり、女委に文句を言うと、女委は楽しそうに笑いながら、そんなことを言っていた。


 ついで変なところを触られるボクの身になって欲しいです。


「さてさて、そろそろお披露目といこうか、依桜君!」

「あ、うん。……それにしても、これ、変じゃない?」

「大丈夫大丈夫! 依桜君的には嫌なのかい?」

「ううん。去年のメイド服とサキュバス衣装に比べれば、ね……」

「そ、その節は、大変申し訳ございませんでした」

「……もう過ぎたことだからいいけど、できれば、もうしないでほしいかな」


 色々と手遅れではあるし、何だったら、夏コミにちょっとあったけどね……。


「りょ、了解であります! ……っと、それじゃあ皆様お待ちかね! 今年の銀髪碧眼美少女のコスプレ姿だよー!」

「その紹介の仕方はやめて!?」

「はいはい、ツッコミはいいから前に出てねー!」

「わわっ! お、押さないでよぉ!」


 とん、と背中を押されて、更衣室から出された。


『『『おおお~~~~』』』


 いざ更衣室から出たら、クラスメートのみんなの口から、なぜか感嘆の声が漏れた。


 どうして?


「なるほど。今年はそう言う感じなのね。女委、依桜のコンセプトは?」

「うむ! よくぞ訊いてくれました! 今年の依桜君のデザインは……殺人鬼と言う名の死神な清楚美少女でーす!」


((((そのコンセプトは色々とアウトでは……?))))


 女委の口から飛び出たボクの今年の衣装のコンセプトに、未果、晶、態徒、エナちゃんの四人は、揃って微妙な表情を浮かべた。


 言いたいことはわかるよ。


 事情を知っているみんなからすれば、ボクって人殺しの経験がある上に、しかも職業が暗殺者だから、そう言う意味でボクのトラウマに響かないか心配しているんだろうね。


 でも、今はある程度吹っ切れているし、それに、あれはボクが背負っていくべきものだからね。大丈夫ですとも。


『なるほど、だから彼岸花とか返り血のようなものが描かれているのか』

『頭のお面はそう言うことか』

『……ってか、マジで何でも似合うのなんなん』

『和服姿も似合うなぁ、依桜ちゃん!』

『色々と日本人離れしているのに……くっ、さすがハイスペック美少女!』

『もう性別とか関係なく恋人になって欲しい!』


 ……なんか、変なことを言われているけど、それはそれとして……今ボクが身に着けているのは、一言で言うなら、和服、ですね。


 白を基調としていて、脚の辺りには彼岸花が描かれています。


 袖の辺りは、振袖の半分くらいの長さ。


 一応、着物ではあるんだけど、どちらかと言えば死に装束に近いような気がするかな。帯もそんなに大きいわけじゃないし。


 それに、さっきクラスメートの人が言っていたけど、ボクのコンセプトが殺人鬼な死神ということで(色々とおかしい気がするけど)、所々には返り血のような模様があります。


 髪型はいつもとほとんど変わらないんだけど、和服で攻めるためか、紅色の簪を右耳の上辺りに挿していて、反対側には狐のお面を着けています。


 なんだろう、お化け屋敷関係あるの? と思わないでもないけど……ツッコんだら負けなんだろうなぁ。


 まあ、これはこれで動きやすい、何か問題が起こった時は、すぐに制圧に動けそう。


「普通に似合ってるのが依桜らしいわ」

「そ、そうかな?」

「えぇ。と言うか、元々依桜の身の上的な部分で考えると、ピッタリすぎて怖いわ」

「あ、あはは……」


 未果のセリフには、ボクも苦笑い。


「そう言えば、今年は誰が衣装を着るんだっけ?」

「んーとね、依桜君たち受付係の人四人と、広報担当の四人に、わたしと晶君の二人だから、計十人だね。ちなみに、わたしたちもそろそろ着替えないとだねー。さ! 男子以外のコスプレ担当女子のみんなは、こっちにしゅーごー!」


 学園祭という、非日常的な日だからか、女委のテンションがすごく高い。


 しかも、女委は同人作家をしているから、ネタの宝庫! とか思ってそうだし、そう言ったことも相まって、余計にテンションが高いのかも。


「っと、じゃあ私も着替えて来るわ」

「うちも行ってくるねー」

「……俺は、適当に着替えて来るよ」

「うん、いってらっしゃい」


 女委の呼びかけにより、コスプレする人たちは、それぞれの場所に着替えに行きました。


 と言っても、晶以外はみんなの女の子だから、晶だけが違う場所なんだけどね。



 それから数分して、全員着替え終わった。


「お待たせ」

「おまたー」

「お待たせー!」

「終わったぞ」


 未果と女委、エナちゃんの三人の着替えが終わるのと同時に、晶が戻って来た。


 タイミングがいいね。


「あ、そんな感じになったんだ」

「そうよ。……これ、変じゃないかしら?」


 そう言うのは未果。


 未果は、ナース服を着ていて、所々に刃物で切られたような破れや、傷のような者が見える。しかも、本当に傷があるように見える所を考えると……特殊メイク、なのかな?


 地味にすごい。


 多分、女委だろうけど。


 あと、未果は大和撫子っていう感じがするから、実際看護師さんとか似合いそう。


 病院エリアがモデルかな?


「うちも、こう言う服は着たことがないから新鮮で、ちょっと心配かな」


 そう話すのはエナちゃん。


 エナちゃんは、なぜか巫女服。


 白衣はくえに緋袴と言った、本当に基本的な巫女服。


 今回のお化け屋敷のどこかにそんな要素あったかな? と思ったんだけど、後々女委に訊いたら『え? 巫女服美少女が退魔師なのは定番じゃん?』とのことでした。


 女委らしい。


 でもそれは……現実じゃなくて、二次元の話なんだよ、女委。


「俺は……そこまで気にはならない、な」


 そう話すのは晶。


 晶は、お医者さんがよく着ているイメージのある服、スクラブスーツ呼ばれる衣装に、白衣を羽織っていました。


 多分普通にお医者さんなんだろうけど……晶って本当にカッコいいから、すごく似合う。


 もし、晶がお医者さんになったら、人気でそう。性格も相まって。


 ただ、所々に怪我をしたような痕や、刃物などで刺されたような痕に、薄汚れている部分があることからか考えると、殺されてしまったお医者さん、っていうイメージなのかな?


 ちなみに、後から訊いたコンセプトは『逆恨みによって殺されてしまった人気イケメン医師』だそうです。概ね予想通りだけど……逆恨みって。妙に生々しい。


 みんな、自分の姿を見下ろしながら、似合っているかどうか心配みたい。


 晶だけは、特に気にしていないみたいだけど。


「大丈夫だよ、みんな似合ってるから!」

「おうよ! ってか、俺だけなんもコスプレがないってのは、仲間はずれみたいちと寂しいな」


 ボクに続いて、態徒もみんなを褒めた。


 ただ、その後に続いた態徒のセリフは、ちょっとだけ寂しそうだった。


 たしかに、今回は態徒だけがコスプレしてないもんね。


 ちょっと可哀そう。


「まぁ、態徒君だもんね」

「女委、それどういう意味だよ!?」

「そのままの意味! ……いやはや、それにしても美男美女のコスプレは目の保養&最高のモデルですなー! あとで写真撮らせてね!」


 女委は、やっぱり平常運転。


 ちなみに、ボクたち以外にコスプレをしている人たちの衣装としては、ゾンビっぽい人や、貞〇のような人まで様々でした。


 それから、みんなで持ち場の最終チェックをしたり、雑談をしたりしていると、遂に放送が始まった。


『叡董学園の皆さん、ご来場の皆様、おはようございまーす! 今年の包装やらイベントやらその他諸々色んなイベントの司会進行役を任されました、放送部部長の豊藤千代です! 皆様よろしくお願いします!』


 あ、今年は豊藤ほうどう先輩がやるんだ。


 ……そう言えば、近々お悩み相談コーナーをやるから、またゲストとして来てほしいって言われてたっけ。


 その内顔を出しに行かないとかな。


『さてさて! 今年からは例年以上に大規模なお祭りとなっております、叡董学園学園祭『青春祭』! 準備期間は大規模になったことにより、一週間増! すなわち、四週間の準備期間となりましたが……皆様、満足の行く仕上がりにはなりましたでしょうか! 私たち放送部は、ほぼほぼ司会進行等の役回りだけですので、準備もへったくれもありませんでしたが! 今年最後ですので、全力で! 盛り上げさせていただきます! それに、今年からは新たなイベントもありますのでね、そちらもお楽しみに! どういうものかはパンフレット等に記載されておりますので、そちらをご参照ください』


 それってやっぱり、告白大会のことだよね。


 結構お客さんが集まりそうだけど…………後で、ちょっと確認とかした方がいいかもなぁ。正門前の人たち、すごかったもん。人数が。


『高等部の生徒のみなさんはともかくとして、中等部・初等部の後輩諸君! この学園初の大規模イベント、悔いのないように楽しんでね! 最高に楽しいから! 特に! 高等部二年生と三年生の出し物のレベルが段違いだから、それを目標にして、来年以降の糧にしてほしい! ご来場の皆様は、例年よりも大規模且つ、騒がしいものとなるでしょうが、是非とも楽しんでいってください!』


 地味にハードルを上げて来たんだけど、豊藤先輩。


 これでもし、質が低いって思われたらどうしよう?


 ボク、そんなに関わってないけど。


『それでは、最後に諸注意です。学園内での盗撮行為は禁止です。発見次第即刻退場となりますので、くれぐれもしないようにしてください。動画撮影等は、ネット上に流す以外の目的であれば自由ですが、もしもネット上に流すようであれば、必ず学園側に申請するようお願い致します。その際、中身をチェックさせてもらいますので、ご了承ください。それから、未就学児をお連れのお客様の為に、もしものとき用の部屋やテント等が学園の敷地内の至る所にありますので、何かありましたら、そちらを使用するようお願い致します。あと、暴力行為や盗難行為、恐喝行為なども禁止です。もし、そう言った現場や、人を見かけましたら、すぐに近くにいる教職員・警備員・生徒会・風紀委員・学園祭実行委員の人に言うようお願い致します。今挙げた人たちは、右腕、もしくは左腕に腕章をつけておりますので、そちらを目安にしてみてください。以上が、諸注意等となりますので、必ず守るよう、お願い致します』


 諸注意の内、未就学児のお子さんたちの為に用意したお部屋やテントと言うのは、今年から導入したもので、提案したのは……実はボクだったりします。


 毎年の問題点……と言うほどではないけど、たまに上がってくる投書には、そう言った場所が欲しいとのお声がちらほらとあったみたいだったし、何より今年からは初等部と中等部が新設された影響で、そういうお子さんを連れた人が増えると思ったからね。


 それに、やっぱりそうやって落ち着いて対処できる場所があった方がいいもんね。


 妥協はしません。


『そうこうしているうちに、開祭時間である九時となりました! それでは、2021年叡董学園『青春祭』……スタートです!』


 その宣言と共に、学園中から『わぁぁぁぁぁ!』という歓声が上がった。


「それじゃあ、みんな! お化け屋敷、成功させるわよ!」

『『『おー!』』』


 そして、ボクたちのクラスでも、未果の号令で円陣を組むと、気合十分といった様子で各自持ち場に就きました。


 今年の学園祭が、始まった。

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