第489話 学園祭準備最終日、そして……

 依桜が電話対応をしていた日から二日後。


 学園祭前日のとある場所にて。


「で、クソ共は?」

「……すいやせん。今だ詳しい情報は掴めず……」

「……そうか。まァ、あいつらはクソだが、バカじゃねェからなァ……。とりあえず、うちの可愛い可愛い娘にヤクをやらせようとした、あのクソ共を一刻も早く潰さなけりゃならねェ。わかるな? テメェら」

『『『おう!』』』


 そこでは、熊すらも睨んだだけで殺せそうなほどに、厳つい顔をした総髪の男が、だだっ広い広間(和風)の上座に座りながら、男たちに向かって怒りを滲ませた声で話していた。


 それに対し、その場にいた男たちもその怒りに呼応するが如く、返事をする。


 気弱な人間が見たら、それはもう即座に失神してしまうであろうほどに、怖すぎる空間だ。


「……本音を言やァ、今すぐにでも奴らをぶっ潰してェとこだが……カタギに迷惑かけんのはダメだからなァ」

「もちろんです。俺たちは、カタギの人たちのおかげで成り立ってますからね」

「そうだ。……それに、俺の可愛い娘も、近所の学園に通っている。俺としちゃァ、こんな血生臭ェ世界で生きるよりも、普通の奴に嫁いでほしいんだが……普通の奴は、家を見りゃすぐ逃げ出しちまうしなァ……」


 総髪の男は、残念そうにそう漏らす。


「……ヤクザですからねェ」


 と、顔にいくつも傷のある男が、総髪の男の言葉に反応して、そう口にした。


 そう、ここいる男たちは全員もれなく……ヤクザである。


 そして、上座にいる総髪の男こそが、この組の長だ。


「そこは仕方ねェが…………くっ、あのクソ共がァ……! 俺の可愛い可愛い娘に手を出そうとしやがって……許せんッ! おい、テメェら!」


 思い出して怒りが再び湧き出したのか、総髪の男は立ち上がると、広間にいる男たちに向けて声を張り上げた。


「確実に見つけろ! 明日は娘が近頃やけに気合を入れていた学園祭の日だ。それをぶち壊すような可能性のある奴らは、即刻潰す! あのクソ共を潰すため、全力をだしやがれッ! いいか!?」

『『『応ッ!』』』

「よし、ならば準備しろ! 明日は何が何でも、娘の学園祭を守れ!」

『『『応ッッ!』』』


 総髪の男の命令を受けた男たちは、即座に動き始めた。

 娘一人の為に全力を出す姿は……どこからどう見ても、ただの親バカである。



 場所は移り変わり、別の場所。


「ひゃははは! いやァ、ほんとにぼろい商売だ。見ろよ。今月だけこんだけ売れたぜ? やっぱ、頭が緩い学生どもを相手にすんのは楽でいいぜェ」


 そこでは、明らかに悪人面としか言いようがない男たちが、下卑た笑みを浮かべていた。


 そして、リーダー格らしき体の至る所に入れ墨を入れた男が、手元にある札束をぺらぺらと捲りながら、心底嬉しそう且つ、気持ち悪い笑みやらを浮かべていた。


 他にいる男たちも、その大金を見てやはり気持ち悪い笑みを浮かべる。


「だが、オレたちの邪魔をする奴らがいる……オレたちの商売を邪魔する奴らがなァッ!」


 ドンッ!


 と、近くにあった椅子を蹴り、イライラを発散させようとする男。


 他の男たちも、同じ思いなのか、やはりイライラとしているように見える。


「チッ、もう少しで、憎き組長の娘を薬漬けにできたってのによォ……しかも、あいつらの若頭も殺せるチャンスだったってのに………どこの誰とも知れねェ、女にやられただァ? ふざげやがって……! で、そいつが誰か調べはついてんだろうなァ?」

『す、すみません。それが、あまりにも早すぎたため、姿を覚えておらず……』

「使えねェなァ……。だが、オレたち『神崎組』に知らずとはいえ歯向かったんだ……当然許さねェよなァ?」

『当然だぜ!』

『むしろ、お礼参りしねぇと!』


 入れ墨男の発言に、男たちは賛同する。


「……おし。たしか明日は近くの学園で学園祭があったな。しかも、憎き奴らの愛娘も当然参加するはずだ。……ならいっそ、学園祭をぶち壊しにしてやろうぜェ? 楽しそうだろ? テメーら!」

『『『YEAHHHHHHHHHHHHHHHHH!!』』』

「ひゃははは! なら、急いで準備しろ! 警備員を雇ったらしいが、こちとら裏のモンだ。オレたちの前にゃ、無力もいいところだぜ! 標的は、叡董学園の学園祭だァッッ!」


 男たちは、やはり気持ち悪い笑みを浮かべて、明日の学園祭をどう壊してやるかと、考えるのだった。



 そんな、ヤクザたちが学園祭の日に何かをやらかそうとしているなど、学園生が知る由もなく、今日も今日とて学園祭の準備。


 とはいえ、最後の準備期間であるため、学園内はさらに祭りによる高揚感や、気合などにより熱気が増していた。


 準備も最終段階に入り、基本全ての出し物が仕上げに入っていた。


 それはもちろん、依桜たちのクラスも例外ではなく、


「無理無理無理無理ぃ! もう無理だよぉ!」


 見ての通り、依桜がギブアップするくらいには、仕上がっていた。



「ひっく…………ふえぇぇ…………こ、怖かった、よぉ……ぐすっ……」

「……ごめん。まさか、そこまでの悲鳴を上げた上に泣き出すとは思わなかったわー……」

「だ、だって……だってぇ……!」


 あー、やばい。本気で泣きそうな依桜が可愛すぎて辛い……。


 有事の際はイケメンな部分が前面的に出てくる上に、平時は誰にでも優しい家庭的な女の子な依桜の唯一にして最大の弱点(最近はメルちゃんたちも弱点だと思うけど)である、お化け屋敷を前に、泣き崩れている依桜。


「こ、怖かった、よぉ……未果ぁ……!」

「よしよし。もう大丈夫よ。私がいるから怖くないわよ」

「うぅっ……ぐす……」


 普段の依桜なんて忘却の彼方なのか、依桜は私に抱き着きながら、震えていた。


 ……こ、これ、男だったらマジでやばかったわ……。


 何がヤバいかって言われたら……正直、興奮するし、何よりちょっといじめたくなりそう。


 もちろんやらないけど。


 ……あと、ここがゲームの中でよかったわぁ……じゃないと、下着替えないといけなくなってたかもしれないし。


 女委みたいでなんか嫌ね……。


 でも、怖がってる依桜は可愛すぎるし、何よりその……ハートに刺さりまくるのよ。


 だからこれは不可抗力! 悪いのは、可愛すぎる依桜!


 ……と、なぜお化け屋敷が大の苦手であり、尚且つお化け嫌いの依桜がお化け屋敷を体験したのかという理由はまあ……至ってシンプルと言うか――。



 今日は学園祭準備期間最終日と言うことで、総仕上げに入っていたわ。


 そんな中で、私たちのクラスも、最終確認をしようと言うことに。


 最終確認なんて、大仰に言ってはいるけど、実際はただのテストプレイ。


 もちろん、参加する人は内装に関わっていない人たちね。


 だからか。


「というわけで! 広報、受付、衣装が係の人たちには! 体験プレイをしてもらいます!」


 女委がそんなことを言い出したわけで。


 なんと言うか……まあ、女委らしいわよね。


 女委の発言に対し、それに該当した人の反応は様々。


 でも、大半は『楽しそう!』という気持ちが現れていたわ。


 そう、大半は、ね。


「……(がくがく、ぶるぶる)」


 私の隣にいる、可愛さ全振りの最強幼馴染は、顔を真っ青にして震えていた。


 ……まあ、でしょうね。


「女委。さすがに、依桜は外してあげて」


 だから、私はそんな最愛の幼馴染を庇うべく、女委にそう言った。


 異世界に帰って来てからも、普通に強くなっていっている依桜だけど、それでも未だにお化け屋敷や幽霊の類が苦手。


 林間・臨海学校の時の肝試しなんて、普通に泣いてたしね。


 あの時は身内だけだったからよかったけど、こうして他の生徒もいるんじゃ、さすがに可哀そうだし。


 そう思っての提案だったんだけど、


「んー、わたしとしては問題ないんだけど、依桜君がねぇ?」


 ニヤニヤとしつつも、どこか困ったような表情を浮かべる女委の視線の先には、何か今世紀最大の決心をした、と言わんばかりの決意に満ちた顔を浮かべた依桜がいた。


 ……ま、まさかっ。


「い、依桜あなた……!」

「い、いつまで経っても、その、こ、怖いままにしてるのは、ダメだと思うから……が、頑張って行ってみる……!」

「いつの間にか、大きくなってっ……! 私は嬉しいわ!」

「あの、なんでお母さんみたいな目線なの……?」

「だって、幼稚園の頃から、ホラー番組とかホラー映画、もしくはお化け屋敷に行った後って、いっつも私にくっついてたし、なんだったら、一緒にね――」

「わーわーわーわー! なんでもなーい! なんでもなーいーっ!」


 さっきまでの青ざめた表情は一体どこへ。


 依桜は、私が言おうとしたことを、顔を真っ赤にしながら、両手でバタバタと振ったり、その場でぴょんぴょん跳ねたりして、私の言葉を遮った。


 ……まあ、気持ちはわからないでもないわ。


 何せ、ホラー系を見たり体験した後の昔の依桜と言えば、


『い、いっしょに、いて……?』


 とか言ってきたり、


『おてて、つないでほしい……』


 とか言ってきたり、極めつけは、


『み、みかちゃん、い、いっしょにねても、いい……?』


 って言ってくるのよ?


 しかも、その全てが涙目で上目遣い。


 なお、依桜と私の身長に関しては、昔から私の方が高かったので、必然的に私が見上げられる形でした。


 あの頃からもう、依桜はとてつもなくっ! 可愛かった。


 そんな、私と依桜のお母さんと、私のお母さんくらいしか知り得ない、依桜のトップシークレット的情報が暴露されかけたとあって、依桜は慌てたみたいね。


 うん。私が悪い。


「大丈夫よ。あのことは、私と依桜だけの秘密だから」

「……言わないでよ……?」


 ほら、このちょっと涙目で上目遣いな依桜の表情よ。


 当時から、この顔の依桜にはノックアウトされっぱなしだったわ。


「もちろん。……じゃ、依桜は頑張って挑戦すると言うことでいいのね?」

「う、うん。頑張る……!」

「よーし! じゃあ早速やろうか! 依桜君が一番ね!」

「……わ、わかったよ。い、逝きます!」


 今、依桜の『いきます』の漢字の『いく』という部分の感じが、明らかに違ったような気がするのは、私の気のせいかしら。



 そして、いざ挑戦するべく、依桜と私(もしものためのサポート要員)はゲームの中へ。


 ダイブが完了し、目を開けるとそこは……


「うわぁ……女委たち、本気出しすぎじゃない……?」


 薄暗い小道に、灰色の空。やや霧がかった周囲の空気に、その先にぼんやりと浮かび上がる病院。


 その手前には、寂れた墓地。


 小道の両脇には木があるけど、それらは全部枯れ木になっていて、余計に怖い雰囲気を増している。時間帯としては夕方から夜に移行した直後、ってところかしら。


 まだほとんど月も出ていないし、太陽も沈んだ後で、本当に暗い時間帯。


 その上、空は雲が全てお覆っていて、月明かりすらも届かないくらい。


 ……これ、学生が作ったレベル越えてるでしょ。


 しかも、ゲームのなかとは言え、ほとんど現実の風景にそっくりすぎるから、まるでここが現実だと錯覚してしまいそうね。


 ……で、肝心の依桜は……。


「………………(ぽろぽろ)」


 すでに、涙を浮かべていた。


 …………もうすでにダメそう。


「あー……依桜? 無理なくてもいいのよ? こう言うのは得意な人とか、やりたい人がやれば……」

「だ、大丈夫っ……。ぼ、ボクだって、強くなってるもん……! お、おおお、お化けなんて、こ、怖くない、もんっ……!」


 …………な、なんて健気!


 日に日に依桜の可愛さがレベルアップしているんだけど。


 いや、それは女の子になってからの話だから……今はソシャゲ風に言うならば、限凸寸前の状態ね。


 うん。そろそろ可愛さの極致に至るんじゃないかしら、この娘。


 さすが、私の幼馴染。


『よーし! それじゃあ早速行ってみよー! 二人とも、準備はいーい?』

「だ、大丈夫……!」

「問題ないわ」

『おっけーおっけー。じゃあ、始めまーす! 3、2、1……スタート!』


 女委の合図で、私たちのお化け屋敷体験が始まり、そして……


『ヴァァァァァァァァァッッッ!』


 唐突にどこからともなく、顔を血濡れにし、所々肉が剥げ落ちていたり、皮膚が腐っていたり、そして体があらぬ方向に曲がりまくった、まさに交通事故か何かで殺された後、適当に放置された死体の幽霊的存在が、私たちの前に現れた。


 そして――


「ひっ……き、き……きゃあぁぁぁぁぁぁぁっっっ! 無理無理無理無理ぃ! もう無理だよぉ!」


 悲鳴を上げ、滂沱の涙を流しながら――ギブアップした。



 ……と、こんなことがあった。


 まさか、


「入って数秒でギブアップするとは」


 依桜が悲鳴を上げ、ギブアップしたのは、まさかのまさか。三秒。


「……まあ、私もいきなりすぎて思わず心臓が止まるかと思ったけど」


 とはいえ、私としてもあのいきなりすぎる恐怖演出には、本気でビクッとしたけどね。


 心臓が止まるかと思ったとは言っても、ここは現実じゃなくて、ゲームのなかだからないとは思うけど。


「ふっふふーん! どうよ! ホラゲーあるある、『開始数分とか、始まった直後は基本的に驚かされない!』というテンプレをぶち壊し、初手三秒で腐りかけている半透明な幽霊に驚かされた気分は!」

「あんた、今さっき怯える依桜に対して、ものっすごい申し訳なさそうにしてなかった?」

「いやー……にゃはは。その、マジでスミマセン」

「ひっく……ふえぇぇん…………」


 ……で、変わらず依桜は泣き続けているわけだけど……。


「依桜。とりあえず、ゲームから落ちましょ? ね?」

「ぅん……出る……」


 依桜って、どうしてこうなると若干幼児退行を起こすのかしら。


 今だって、私の袖をそっと掴むどころか、腕を掴んでるしね。なんだったら、恋人がする腕組みたいになってるし。


 これ、カップルなのでは?


「女委、とりあえず、落ちるから、次の人たちに回して」

「おっけー! んじゃ、他の人たちを恐怖の地獄に叩き落そう!」

「ほどほどにして」

「うぃー」

「さ、依桜。落ちるわよ」

「ぅん……」


 まだ若干泣いている依桜と一緒に、私はゲームから落ちた。



 そして現実。


「……未果」

「ん、なに?」

「……手、繋いでてもいい……?」

「OK!」


 相変わらず、依桜はこういう時、私にくっついてくるのでした。


 やっべ! 私の幼馴染可愛すぎ! もう好き! ほんとに愛してる!



「来てくれてありがとう、依桜君……って、え、ごめん。依桜君、なんでちょっと泣いてるの?」

「き、気にしないでください……」


 お化け屋敷体験を終えた後、ボクはクラスから離れて、生徒会の仕事をした後、学園長先生に呼ばれて、学園長室に来ていました。


「それで、呼ばれた理由は……?」

さ「あぁ、別に大した用事じゃないのよ。単純に、明日から始まる学園祭のことについて話そうと思ってね」

「そうでしたか」

「ええ。……とりあえず、今日まで準備期間中のお仕事、ありがとう」

「いえいえ。生徒会長ですから」

「それはそうだけど、ほぼ完璧にこなしてくれたし、稀に失敗があったけど、その際は臨機応変に対応していたから、すごかったわ」

「経験がありますからね」


 主に、異世界の、だけど。


 こういった普通のことよりも、異世界での普通じゃない経験の方が多すぎて、ちょっとあれだけど。


「頼もしいわね、ほんと」

「そうなった原因は、学園長先生ですけどね」

「……そ、それはその……すみません」

「もういいですよ。学園長先生のおかげと言っていいかはわかりませんが、今は楽しい日常を送れてますし、何より妹もできましたから」

「……シスコンになったわねぇ」

「シスコンじゃないです。可愛い妹たちを可愛がるのは当たり前のことであって間違っても過保護だとかシスコンだとかはありませんというかですねメルたちの世界一越えて銀河一いえ宇宙一の可愛さを誇っているからこそ可愛がるわけで全然これっぽっちもシスコンという不名誉な物ではなく純粋な姉妹愛として成立しているのですなのでボクは決してシスコンというものではな――」

「ストップストップ! わかったから! とりあえず、息継ぎ無し、句読点なしで話すのはやめてください! ほんとに怖いから!」

「……そうですか」

「なんで残念そうなの……?」

「気のせいです」


 ボクは決して、みんなの可愛さを伝えきれていないから残念そうにしているなんてこと、断じてありません。


 気のせいです。


「と、とりあえず、話を戻して……。さっきも言ったけど、明日から学園祭が始まるわけです。昨年は……まあ、テロリストの襲撃があったわ」

「……はい」


 テロリストの襲撃と聞くと、ボクのせいで未果が撃たれてしまった時の記憶が浮かんでくる。


 あんなことがもう二度とないように、ボクはあの時のことをしっかりと胸に刻んだ。


 ボクの甘さでみんなが傷つく姿は見たくないから。


「あれは、私の落ち度でもあったわけだけど……去年、あんなことがあった以上、大きな出来事が起こらないとは限らないわ」

「そうですね。世の中、意外と平穏に過ごすと言うことは難しいですから。それに、意外とこっちの世界もファンタジーなことが多いわけですね」

「そ。だから依桜君。もしも何か問題が起きそうだと判断したら、即座に止めに行ってほしい」


 真剣な表情で、ボクにそうお願いして来た。


 うん……。


「もちろんです。ボクだって、学園生の人たちや、来場者の人たちには学園祭を楽しんでもらいたいですから。たとえ、何が来ようとも、楽しい学園祭は守り通します!」

「……ふふっ、本当に頼もしいわね」


 ふっ、と柔らかい笑みを学園長先生が浮かべる。


 その表情は、子供の成長を喜ぶ大人の笑みに思えた。


 学園長先生って、普段はあれだけど、本当は生徒想いのいい人だもんね。


 忘れがちだけど。


「明日、警備はしっかりするけど、それでもどうにもできないような事態が発生した時は、お願いね」

「はい、任せてください。……それに、もしそんなことになったら、師匠も手伝ってくれると思いますから」

「……そう考えると、たとえ邪神が来ようとも、何とかなっちゃいそうね」

「まあ……師匠、ですからね」


 二人揃って、頭の中に不敵な笑みを浮かべる理不尽の権化のような人を浮かべた。


 そして、お互いに顔を見合わせて苦笑い。


「……とまあ、そんなわけだから、何もないとは思うけど、よろしくね」

「はい。……それじゃあ、失礼しますね」

「えぇ。……あ。最後に、依桜君」


 退出しようと、ソファから立ち上がって扉へ向かって歩いていると、不意に学園長先生に呼び止められた。


 ボクを呼び止めた学園長先生は、教師らしい表情を浮かべ、


「ちゃんと、楽しんでね」


 そう言った。


「もちろんです。みんなや、メルたちと楽しみますよ」

「それが聞けて良かったわ。それじゃあ、頑張ってね」

「はい。それでは」


 そう言って、今度こそボクは学園長室を出て行きました。


 明日から始まる学園祭、何が何でも成功させないとね!

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