第445話 到着すると……

 多少の揺れはありつつも快適に移動は進み、しばらくするとクナルラルが見えて来た。


「相変わらず、綺麗な場所だなぁ」


 馬車から見えるクナルラルの首都の街並みを見て、ボクはそう呟く。


 前回こっちに来た時は、走ってたからあまりちゃんと見れなかったんだよね。


 まあ、前回はかなり急ぎみたいなものだったから、しょうがなかったんだけどね。ニアたちをこっちに連れて来る、みたいな理由もあったし。


 ニアたちもここからの景色は初めてらしく、目を爛々と輝かせてはしゃいでいた。


 いい景色だよね、本当に。


〈ほー、これが魔族の国の風景ですかー。いやぁ、絶景かな絶景かな〉

「あ、アイちゃん。いたんだ」

〈ええいましたよー、ずっと。なんか私が出てくるタイミングが全くつかめなかったので、あ! 今がチャーンス! とか思って出てきました〉

「あ、あはは……なんか、ごめんね?」

〈いえいえ、いいんですよ。私はサポートAIですからね! その辺りは、別に気にしませんぜ。……っと、ん? これは……〉

「アイちゃん? どうかしたの?」


 不意に、アイちゃんの様子が変わった。


〈あ、いえいえ。ちょいとばかし、面白いもんが見れましたのでねー。まあ、進めばわかります〉

「そう?」


 一体何がわかると言うんだろう?


 ちょっと気になるけど、まあ何事もなさそう、かな?


 それにしても、ちょっと外が騒がしい気がするけど……なにかお祭りでもやってるのかな?


 なんて、そう気楽に考えていたボクだったけど、クナルラルにてとてつもなく恥ずかしい思いをすることになることを、この時のボクは知らない。



 というわけで、クナルラルに到着。


 ボクたち一行を待ち構えていたのは……


『イオ様―!』

『ようこそおいでくださいました!』

『イオ様、こっちに視線をお願いしますー!』


 という、なんだろう……パレード的なものだった。


 ボクたちが乗る馬車がこの首都に入った瞬間、大勢の魔族の人たちが道の両サイドに並んで、ものすごく歓迎していた。


 窓の外を見れば、素晴らしいとしか言いようがないほどの笑顔を浮かべている魔族の人たちがいて、魔法か何かなのかはわからないけど、宙には花びらが舞い、七色に光る玉が数多く浮かんでいた。


『イオ様だー! きれー!』

『ティリメル様もいらっしゃるぞ! なんと素晴らしい光景!』

『姉妹になったと聞いてはいたけれど、お似合いすぎて眩しい!』


 そして、魔王であるメルもものすごく歓迎されていた。


「おー! すごいのじゃ! 同胞たちが歓迎してくれておるぞ!」


 メルも大はしゃぎ。


 自分の同胞であり国民だもんね、歓迎されたら嬉しいよ。


 ……先代の魔王って、そう言えばかなり嫌われていたって言う話だから、魔王だから歓迎されるんじゃなくて、メルのような可愛い魔王だから歓迎されるのかな?


 うん、絶対そうだね。


〈イオ様、今絶対に現実逃避してましたよね?〉

「うっ……」

〈あ、図星。まー、この光景を見ればねぇ? 人気者ですねぇ、イオ様は。素晴らしい!〉

「素晴らしくないよぉ……」


 この状況、すごく困るんだけど。


 たしかに、日本でもちょっと前に天皇陛下のパレードがあって、大勢の国民が見に行っていたけど、まさか自分がされる側になるとは思わないよ!


 これ、すごく困るんだね!


 目立つのが好きだったり、それが普通だと思っている人たちなら、そこまで困ったり戸惑ったりすることはないんだろうけど、ボクのようにもともと一般人だった人は違う。


 そもそも、最初から王族として生まれて来た人と、生まれは一般人で、途中から王族になった人では感性が違うもん。


 ボクは後者。


 もともとごく普通の一般家庭に生まれた、男の子だからね!


 決して、王族の家系に生まれたわけじゃないもん。


 なのに、この状況!


 ボクの人生、本当にどうなってるの!?


 ブー、ブー。


〈お、未果さんたちからLINNが届いてますよ〉

「え、なんで電波が通ってるの!?」

〈さぁ? ミオさんが何かしたんじゃないですか?〉


 あ、あり得る……!


 そう言えば師匠、ボクのスマホと師匠のスマホで連絡を取れるようにしてたっけ。


 どうやっているのかはわからないけど、それの応用、なのかな?


「と、とりあえず、表示して」

〈りょーかーいでーす〉


 アイちゃんが自動操作をして、LINNのチャット画面を表示してくれる。


『依桜の歓迎パレードとかやべえな!』

『まさか、ここまで慕われていたとは……恐るべし、依桜ね』

『にゃははー。人たらしなのかもねぇ、依桜君は!』

『パレードをされる側は、恥ずかしいんだな……』

『なんだか、アニメのイベントの時とはまた少し違う気持ちだよ、私』

『ライブとは熱狂の仕方が違うね!』


 みんな、自分たちが思っていることをそれぞれ打ち込んでいた。


 晶は、ボクと全く同じことを考えてたね。


 ……それにしても、一体どうしてパレードが行われているんだろう。


 ボク、ジルミスさんにしか連絡していなかった気が………………あれ? まさかとは思うけど、このパレードを企画したのって……ジルミスさん、だったりしないよね?


 あの、気配りもできて、仕事もできるジルミスさんじゃないよね?


 そうであってほしい。


『『『イオ様―!』』』

『『『ティリメル様―!』』』


 ……ともあれ、今はこの現実を耐えるところから始めよう。



 それから小一時間ほどして魔王上に到着。


 馬車から降りてみんなと合流。


 ……パレードのせいで、馬車がなかなか前に進まず、その間は酷く恥ずかしい思いをしました。


 パレードは二度とやりたくないです……。


 同じ事を思ったのか、未果たちもちょっと疲れた様子。

「えっと、みんな、ごめんね、ボクのせいで……」


「まあ、たしかにものすごく困りはしたけど、曲がりなりにも、この国のツートップが返ってきたわけだし、パレードをしても不思議じゃないもの。別に、気にしてないわよ」


 未果のセリフが沁みるよ……。


「皆様、少々お疲れのようですが、すでに昼食の準備が整っておりますので、こちらへどうぞ。もし、動くのも辛いようでしたお申し付けください。すぐに、城の者を手配いたしますので」


 ジルミスさんの気配りがすごい。


 ボクたちが疲れていることを見抜き、瞬時にそう言っていた。


 こう言う人だから、王様をやっていたのかな、ジルミスさんって。


 ともあれ、精神的疲労なので大丈夫だと言って、ボクたちはジルミスさんに案内されるまま、魔王城内にある食堂へ向かった。



 そうして、食堂に入るとすでに料理がテーブルの上に並べられており、出来立てであることを証明するように、湯気が立ち上っていた。


 この世界には、毒が入っていないかを鑑定するための魔道具が貴族の間で普及しているため、食べ物や飲み物に毒が入れられていることはまずないそう。


 ボクや師匠、メル辺りは毒耐性、もしくは毒無効があるから大丈夫だけど、みんなはそうもいかないからね。


 こういうのはありがたい。


 そんなわけで、食事が始まる。


「なにこれ、美味しい!」

「ああ、あの国の食事もよかったが、ここの料理も美味いな」

「やっべえ、ナイフとフォークが止まらないぜ!」

「ほほー、これが異世界の料理! 写真に撮っておこう! ネタにする!」

「今の気持ちを覚えておけば、演技に活かせそう……。それにしても、美味しい」

「異世界の料理ってとっても美味しいんだね! ちょっとびっくり!」


 と、地球組のみんなは魔族の国の料理に舌鼓を打っていた。


 反対に異世界組は、


「ふむ、この国の酒は美味いな。気に入った。後で買うとしよう」

「こっちの料理も美味しいぞ!」

「わ、本当です! すごく美味しいです!」

「こっち、も、美味しい、よ……?」

「リルの言う通りだね! とっても美味しい!」

「スイ、よく食べるのですね」

「……美味しい。止まらない」


 師匠を除いて、和気あいあいとしていました。


 何あれ、和む……。


 姉妹仲良く食べている光景は、やっぱりいいものです……。


 師匠はお酒を気に入ったようで、後で買いに行くと呟いていた。


 師匠にはあとで釘を刺しておかないと。


「あ、そう言えばジルミスさん」

「はい、いかがなさいましたか?」

「えっと、ちょっと訊きたいんですけど……さっきのパレードって、一体何だったんですか?」


 ちょうどいいので、さっきのパレードについて訊いてみる。


 あれはちょっと困ったしね……。


「あぁ……あれですか」


 すると、ジルミスさんは微妙に困ったような笑みを浮かべた。


「私の方では、イオ様のことですしああ言うのはいらない、と言ったのですが……さすがに、パレードをした方がいいと言う者たちの方が多数でして……。国の上層部の者たちだけでなく、民たちもパレードを望む声が多く……それで、仕方なくあのような形に」

「な、なるほど、そうだったんですか……」


 よかった。ジルミスさんが首謀者じゃないみたい。


 むしろ、ボクのことを考えてパレードはしないほうこうでかんがえていてくれたみたいだし……なんていい人なんだろう。


「やはり、不快でしたでしょうか?」

「不快、というわけではなかったんですけど……その……ボクとしては、とても恥ずかしかったなぁ……と」

「そうでしたか。……いえ、イオ様のお考え方であれば、そう思うのが普通なのでしょう。申し訳ありません、止めることができず……」

「いえいえ、頭を上げてください。恥ずかしくはありましたけど、一応経験にはなりましたし……女王ってああいうこともするんだなって」

「そう、ですね。人間の方々の方ではどうなのかはわかりませんが、少なくとも新しい王が即位すればパレードを行っているようです。この国でも、似たようなことは過去にも行っていたようですから」

「あ、そうなんですね」


 ということは、新しい魔王の誕生とか、新しい王様の即位とかかな?


 そう言うことをしていても不思議ではないよね。


「イオ様の場合は、演説のみでしたから。おそらく、それも原因かと。とはいえ、今回パレードをしていなかった場合、後々が大変だったでしょう」

「えっと、どうしてですか?」

「イオ様はこの世界の方ではなく、向こうの世界の方です。なので、こちらにいる間の滞在期間も短いですから」

「そうですね。そうほいほいと行けるわけじゃありませんし……」


 これでも、向こうでは学生だからね。


 それに、今は声優業もしているし。


 と言っても、もう少しでそれも終わりそうなんだけどね。


 最終話の収録が近いし。


 それが終われば、ボクの声優としての活動はお終いになるわけで。


 それ以外だと……普通に休みたいというボクの私的感情が。


 だって、普段のボクと言ったら、そこまで休む暇がなくて、何らかの出来事に巻き込まれてるんだよ? 少なくとも、今回の異世界旅行の前日ですら巻き込まれてるわけだし……。


 そう言えば、悪魔たちの目的って何なんだろう?


 一応、天使の人が監視しているみたいだけど……。


 ……大丈夫だよね? これ、変なことに巻き込まれたりしないよね? ボク。


 さすがに、これ以上変なことに巻き込まれるのは、勘弁してほしいと言うか……ただでさえ、九ヶ月前のことでいっぱいいっぱいなのに。


「そう言うこともあり、やむを得ずパレードを行ったわけです。ちなみにですが、ここで行わなかった場合、十中八九少し先の方で先ほどよりも大規模なパレードが行われたことでしょう」

「……それは、本当にありがとうございます、ジルミスさん」

「いえ、私はイオ様とティリメル様に仕える、忠実なる家臣ですのでこれくらいは当然です」


 ……イケメンだね、ジルミスさん。


 本当に、色々と助かったよ。


 心の底から、感謝しました。

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