第446話 ザブジェの町への道中

 お昼を済ませたら、自由行動。


 ボクの方は、例によって孤児院巡りをしようかなと。


 こっちにもあるからね。


 残るはクーナとスイの二人のみ。


 ただ、その前の三人で色々とあったので、個人的にはすごく心配だったりするんだよね……。だって、九ヶ月前に訪れてる、って言うんだもん。


 どうなってるんだろうね、本当に。


 そこが一番の謎と言うか……。


 あの時の五日目と六日目に一体何があったんだろう。ボクに。


 ……まあ、それはいいとして。


 ボクが孤児院巡りをすると言うと、


「なら、今回は私も付き合うわ」

「じゃあ、オレも」

「うちも行こうかな」


 と、未果、態徒、エナちゃんの三人がボクたちの方に同行することになりました。


 あ、メルたちはいつも通りついてくるので。


「今回は、俺が女委の方を見張っているよ。さすがに、昨日のあれはな……」

「晶、目を離さないでね?」

「任せろ。何か問題を起こそうものなら、何が何でも阻止しよう」

「わー、晶君の目がマジだぜー」


 晶、頑張ってね……!


 割と本気の声援を心の中で送った。


 女委は、目を離すと何をしでかすかわからないからね……もうすでに、昨日という日の前科があるわけで。


 晶には、是非とも監視を頑張ってもらいたいです。


「んじゃ、あたしはちょいと調べもんでもするかね」

「あれ? 師匠はどこへ?」

「いやなに。初めて魔族の国に来たんで、少しな。あぁ、安心しな。分身体はアキラ質の方に付けといてやる。それじゃあな」


 そう言うと、師匠の姿が消えた。


 ……転移、なんだよね? これ。


 正直なところ、九ヶ月前のボクらしき人物も転移を使っていたそうだから、あとで師匠に訊いてみようかな、転移の原理とか。


 まあ、それはそれとして。


「それじゃあ、ボクたちは行ってくるね」

「ああ、気をつけてな。変なことに巻き込まれるなよ?」

「わ、わかってるよ。もう……」


 ボクだって、そうほいほいとトラブルを引き寄せているわけじゃないし……。


 王国であれだったから、できることなら、魔族の国の方では平穏に旅行を楽しみたいところです。


「さ、みんな行こっか」

「「「「「「はーい(なのじゃ)!」」」」」」

「ここまで来ると、姉って言うより、お母さんね」

「だなー。あれじゃね、やっぱ保育士とか向いてんじゃね、依桜」


 二人のセリフは、聞き流しました。



 というわけで、まずはクーナが過ごしていたという、ザブジェの町へ。


 クーナ曰く、


「普通の町なのです」


 だそう。


 魔族の国にある町だから、正直普通じゃなさそうな気がしてならないんだけど……まあ、大丈夫だよね。


 それに、魔族の国とは言っても、人間と変わらない生活をしているし、趣味嗜好も似たような物ばかりだったことを考えると、そこまで人間と大差なさそうだもんね。


「それにしても、魔族の国だからちょっと身構えていたんだけど……結構綺麗な場所ね」

「それな! なんかもっとこう、おどろおどろしいような雰囲気を想像してたけどよ、これはマジで予想外」

「うんうん。うちも、薄暗くて、表面に怖い顔が浮かび上がっている木とかがたくさんある森のような場所を想像してたかな」

「トレントのことかの? たしかに、トレントは怖がられることがよくあるが、基本的にみんないい存在じゃぞ!」

「へぇ、そうなの? メル」

「うむ! 魔族の常識じゃ!」

「ということは、クーナとスイも知ってるのかな?」

「はいなのです!」

「……知ってる」


 なるほど、魔族にもそういった類の常識とかあるんだ。


 でも、トレントってどういう存在なんだろう? 少なくとも、三年間の間に遭遇したことはなかったし、前回と前々回にも見た記憶がない。


「メルちゃん、トレントがどういう存在なのかわかる?」


 と、ボクと同じような疑問を抱いたのか、未果がメルに尋ねていた。


「うむ。トレントは、どちらかというと友好的な魔物でな。行き倒れになっている魔族、もしくは人間を見かけると、自身に実る果物を与えてくれるのじゃ」

「おー、よく聞く設定だな。それって、美味いのか?」

「美味しいらしいのです。私は食べたことはないのですけど、私の先生が教えてくれた限りだと、体力とか魔力を回復してくれるだけじゃなくて、二日は食べなくても動けるようにしてくれるらしいのです」

「へぇ、それを行き倒れしている人にくれるんだね! ちょっと会ってみたいかも!」

「……トレントは、クナルラルなら割とどこにでもいる。ほら、あそこにも」


 スイがエナちゃんの後方にある樹を指さす。


 ボクたちもそれにつられて、スイが示した方向を見ると……たしかに、何かいた。


『あ、どもっす』


 しかも、ものすごく軽い口調だった。


 ……い、イメージと違う。


 見た目としては、普通の木の表面に顔がある……まあ、広く知られているトレントのような感じかな? ただ、どことなくウィ〇ピー〇ッズに似ている気がしてならない……。


 リンゴや毒リンゴを降らせて攻撃してきそう。


 というか、魔物なのに喋るんだ。


「こんにちはなのじゃ!」

『おや、もしや魔王様で? 今代の魔王様とお会いするのは初めてですが……なるほどなるほど。今代の魔王様はとてもお優しい方なのでしょうね。安心というものです。これで、切られずに済みますよ』


 なんて、笑みを浮かべながら気楽に言ってきた。


 あれ、敬語になった。


 ……それにしても、切られるって。


「あの、先代の魔王は何かしたんですか?」

『する前……あー、いや。自分は未遂でしたが、伐採されかけました。同胞は何名かやられましたが……しかも『環境破壊は気持ちいいZOY!』とか言いながら』

「どこの独裁ペンギンよ……」


 未果が呆れていた。


 うん、それはボクも思った。


 頭の中に、某星の戦士に登場した、ペンギンの王様が浮かんだよ。


 なんで、そのネタがこっちにもあるのか気になるところではあるけど。


『いやー、もう絶対あの魔王には従わねー、とトレント同士で話していた物です。まあ、どうやら件の魔王は殺されたらしいんですけどね! ハハハ! 愉快愉快!』


 先代の魔王、人望ないなぁ……。


 それはつまり、人望がないほど悪い事ばかりをしてきた、ということになるんだけどね。


 それにしたって、人望がなさすぎる。


 ジルミスさんも言ってたけど、先代の魔王に賛同していたのって極悪非道な魔族ばかりだったらしいしね。


 殺すのはよくないことなんだけど、さすがにあれでよかったと思えて来るよ。


『ところで、魔王様以外の方々は? そっちの金髪の幼女と水色髪の幼女は魔族なのはわかるんですが、そっちの方たちは人間ですよね? いつから仲良くなったんで?』

「うむ、色々あったのじゃ! 今では人間とも友好関係にあるぞ! ちなみに、ここにいる銀髪のお姉さんは儂の姉で、こっちの茶髪の娘と黒髪の娘ともう一人の茶髪の娘は儂の妹でもあるぞ! あと、魔族の二人もじゃ!」

『おや、人間が姉とな。すごいことになったもんですねぇ……それじゃあ、そっちの二人は?』

「あ、こっちはボクの友達です」

『あぁ、お友達でしたか。いやー、人間なんて見たの、いつ振りでしょうね。戦争中は匿っている人間たちの為に大量の実を提供したもんです』


 懐かしそうに、しみじみと話すトレントさん。


 あ、あの人たちの食料とかってトレントさんから支給されたものだったんだ。


『あの時は大変でしたよ。人間たちを助けるために、水分を取りながら実を作り続けましたし。ありゃ地獄でしたよ。水を取りながら実を作るもんですから、実作りが終わった後なんて、水分消費が激しいのなんのって……すぐにカラカラに干からびるやつも出始めたし』


 なんかそれって……


「……充電しながら使い続けたスマホみてーだな」


 態徒、同じことを考えていたようです。


 充電しながらスマホを操作するのって、バッテリーをすぐにダメにしちゃうから、やらない方がいいんだよね。


 ……トレントさんはそれをやっていたみたいだけど。自分の身で。


『にしても、そこそこの人数でどこへ向かっているので?』

「えっと、ザブジェという町へ行こうとしてるんです」

『あ、ザブジェか。たしかあそこはサキュバスがそこそこ多い町だったなー』

「あ、そうなんですか?」

『ああ。まあ、所謂サキュバスの集落的なものだと思って大丈夫だ』

「さ、サキュバスの集落……! ごくり」

「なに生唾飲み込んでんのよ。顔に出てるわよ、態徒」

「おっとすまねえ。ついつい」

「サキュバスの集落かぁ……どういう場所なんですか? うち、ちょっと気になっちゃって」

『んー、どうと訊かれると……まあ、サキュバスらしい集落、とだけ』


 どういう集落?


 いろんな魔族の人たちと戦ってきたけど、ボクはサキュバスのことについてはよく知らないんだよね……。


 というか、みんなすぐに倒せちゃう人ばかりだったから、まともな戦闘とかなかったしね。


 なので、未だによくわかっていない種族とも言えます。


 妹に、サキュバスが二人いるけど。


「女委の奴、こっちに来ればよかったのにな」

「……むしろいなくてよかったわよ」

「女委ちゃんだと、すごい化学反応を起こしそうだもんね!」

「言われてみりゃそうだな。あいつのことだし、とんでもないもんをサキュバスたちに渡しそうだぜ」


 三人とも、なんで話が通じ合ってるんだろう。


「あの、サキュバスと女委を会わせると化学反応が起こるって、どういうこと? さすがに、変なことは起きなさそうだけど……」


 と言うと、三人は『しまった』みたいな顔をした。


(やっべ。依桜はそういや、ピュアだった……)

(どうすんのよ。絶対この娘、サキュバスとかよく知らないわよ)

(ライトノベルとか読まないの? 依桜ちゃん)

(読まないわけじゃないけど、依桜は日常系を好んで読む傾向があるのよ。まあ、異世界系も読むには読むけど、有名どころだけね)

(なるほどー。じゃあ、どうするの? この状況)

(……誤魔化す、しかなくね?)

(そうね。誤魔化しましょう)


 なんだか、三人でこそこそ話している気がするんだけど……一体何を話してるんだろう?


「どうしたの?」

「い、いえ、ちょっとね」

「そうなんだ? ……それで、さっきの話なんだけど……」

「あ、あー、化学反応ね! まあ……あれよ! 女委って何をしでかすかわからないじゃない? だから、魔族の中でも比較的娯楽に興味が強そうな種族と会わせるのは危険! という意味だったのよ」

「あ、そう言う理由だったんだ。たしかに、これ以上女委の作品を広めたら、とんでもないことになりそうだもんね。理解しました」


(((ほっ……)))


 ただ、なんでサキュバスが娯楽に興味が強そうだと思ったのかは気になるけど……。


『おっと、そろそろ先に進まなくていいのかい?』

「あ、それもそうだね。……トレントさん、お話ありがとうございました」

『いやいや。久々に誰かと話せて楽しかったよ。またいつでも寄って欲しい。あ、これお土産』


 トレントさんはそう言うと、自身の頭――というか、生い茂る葉の辺りから桃色の実を人数分降らせた。


 しかも、器用なことにそれぞれの手元に落ちるようにコントロールされてました。


 地味にすごい。


『お腹が空いたら食べて』

「ありがとうございます。トレントさん」

『はは、いいってことよ。それじゃ、気をつけてなー』


 そう言って、トレントさんは沈黙した。


 普通の木のように擬態しているんだね、普段は。


「……じゃあ、行こっか」


 トレントさんからのお土産を受け取り、ボクたちはザブジェの町へと再び足を進めた。

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