第132話 仮想世界へ

「は~い、とりあえず鬼側の説明は、私がさせてもらいますね~」


 CAI室に入り、とりあえず適当な場所に座ると、希美先生が入ってきた。

 どうやら、希美先生が説明をしてくれるみたい。

 もしかして、研究に関わってたからかな?


 一応、異世界研究に関りがあるということだし、この機械に関することにも関わってそう。


 ちなみにだけど、態徒曰く、


『この学園の先生で一番人気があるのは、希美先生なんだぜ?』


 だそう。


 理由は、保健室の先生であるのと同時に、美人で、スタイルもいいから、だそう。


「まず、ダイブの仕方について説明しますね~。皆さんの目の前には、『New Era』があると思います~。その周辺に、ヘッドセットとコンタクトレンズ、それから腕輪が一つあると思います~」


 言われて、ボクが座っている場所を見ると、見慣れないPCのほかに、ヘッドセットとコンタクトレンズ、腕輪がそれぞれ置いてあった。


「これらは、仮想世界に入り込むための専用装置なので、絶対に壊さないようにしてくださいね~」


 なんか、想像していたのと全然違った。


 ボクが予想していたのは、なんかこう……ヘルメットのようなものとか、ゴーグルとか、そんな感じだったんだけど……まさか、こんなにコンパクトなものだとは。


「ヘッドセットは、脳波や信号を読み取り、現実では動かないよう、完全に仮想世界用の体にリンクさせ、五感を再現します~。コンタクトは色彩や視線の動きなどを細かくするためのものなの~。そして、腕輪は、常に心拍素や脈拍を測るためのものよ~。この腕輪はかなり重要な役割をしていて、もしもゲーム中に現実の方の体に異常が発生した場合、即座に知らせ、ゲームからログアウトさせてくれるの~」


 それはすごいなぁ。

 ゲーム自体がどういったジャンルになるかはわからないけど、MMOって言っていたから、やっぱり剣と魔法をメインにしたファンタジーものなのかな?


「起動方法は、とりあえず皆がセットし終えたらね~」


 そう言われて、CAI室内にいる生徒のみんなが、嬉々として機器を着けていく。


 ボクも周囲の人と同じように、ヘッドセット、コンタクト、腕輪を身に着ける。

 コンタクトは、幸いにも、向こうの世界で経験があったので、すんなりと入れられた。

 周囲を見回すと、やっぱりコンタクトを入れるのに戸惑っているみたい。


 中には、普通のコンタクトをしている人もいて、一度取り出してから、ゲーム用のコンタクトを入れていた。


 それを見てか、希美先生が何やらメモを取っていた。

 もしかして、こういった部分の不満点に関するデータを取るためでもあるのかな?


「皆、セットし終えたわね~。それじゃあ、まずは、立ち上がっているPCの画面に目を向けてくださいね~。そこに、『CFO β』と書かれたアイコンがあると思うので、それをクリックしてくださいね~」


 希美先生の指示に従い、指定されたアイコンをクリック。

 すると、


【ようこそ! 『CFO』の世界へ! まずは、ヘッドセットのマイクを用いて、音声を登録してください!】


 と言うメッセージが表示されたウィンドウが画面に表示された。


「えーっと、このマイクを用いた音声登録は、装着者の声しか拾わないので、一斉にやっても問題ないですよ~」


 と言ったそばから、CAI室内は、まるで発声練習のごとく、声が響いていた。

 ボクも、適当に発声をすると、


【認証完了です! それでは、『let′s Dive』の文字をクリックすると、十秒後にダイブします! 一時間以上に渡ってダイブする場合は、ベッドやソファーなどに横になってプレイすることを、おすすめします】


『先生ー、これ、寝っ転がったほうがいいんですか?』

「うーん、その辺りは個人に任せるわ~。一時間、座った状態で寝れる、って言う人はいいけど~、無理なら布団を用意してあるからそれを使ってね~」


 希美先生がそう言うと、何人かの人が布団を取りに行った。

 ボクは……向こうで慣れてるのでいいかな。

 そして、布団を敷き終わったのを見計らって、


「準備が整ったみたいなので、指示された文字をクリックしてね~」


 言われて、文字をクリック。

 すると、視界にカウントダウンが表示された。

 目を閉じても、そのカウントダウンが表示されるところを見ると、やっぱりコンタクトが文字を投射しているみたい。


 ……これ、どうやってるんだろう?


「それじゃあ、行ってらっしゃい~」


 その言葉を聞いた瞬間、視界が完全に暗転した。



 次に目を覚ますと、自然豊かな場所がボクの視界に映し出されていた。


 周囲を見回すと、さっきまでCAI室にいた人たちが、興奮した様子で動き回っていた。


 中には、本当に五感があるのか、と確かめ合うために、自分の頬をつねっている人もいる。


 ボクも、なんとなく手を握る、開くをしたり、目を閉じて聴覚の有無を確認。

 少し歩いてみたり、匂いを嗅いでみたり。

 すると、本当に五感があることに気づく。


「すごい……」


 思わず、感嘆の声が出ていた。


 いくら異世界へ行ったことがあったとしても、あっちは現実。実在するものだった。

 でも、ここは現実じゃなくて、仮想世界。

 電脳空間、なのかな、この場合。


 なんとなく、歩いていると、ふと、あることが気になった。


「……まほうとかって使える、のかな?」


 試しに使ってみよう。確認しないと。


「……『生成』」


 いつもの魔法発動のキーワードを呟くと、手の中にナイフが一本出現した。

 ……うん。


「……なんで使えるの……?」


 ここって、仮想世界だよね? 魔力とかって空気中に漂ってないよね? 少なくとも、仮想世界の体だから、体内に魔力とかない気がするんだけど……。


 これ、どういうこと?


『さてさて! 生徒のみんなは集まったかなー?』


 と、ここで学園長先生が登場。……ホログラムで、だけど。


 なるほど、仮想世界だからこそ、空中に自分の姿を投影できるんだね。

 ……あれ? でもたしか、ハロパの時、ビンゴの数字を空中に投影していたような……。


『まあ見たところ、みんな、人類史上初の仮想世界ってことで、大はしゃぎしているみたいだねー? うんうん、いいよいいよ、そう言うの。さて、ここからは本来の目的、『叡春祭』二日目、最終種目である、アスレチック鬼ごっこについての説明をします!』

『おおおおおおおおおおおおお!』


 おー、みんなテンションが高いなぁ。


 気持ちはすごくわかるけど。


 ……そう言えば、異世界に行った時のボクと言えば……あまり喜ばなかったっけ。

 いきなりだったし、楽しむ余裕なんてなかったからなぁ。


 でも、今回はそう言うのとは無縁だから、楽しめそう、かな。年甲斐もなく、ちょっとわくわくしてるし。


 そう言えば、学園長先生のしゃべり方が、プライベート時のしゃべり方になってる。

 たしか、ミス・ミスターコンテストの時の説明をしている時みたいな話し方じゃないんだ。あれかな。学園長先生もテンション上がってるのかな。


『まず、この種目をゲームの世界でやることにしたのは、さっきも言った通り、テスト、と言う意味があったから。……と言っても、そんなことを思いついたのは体育祭の種目が決まった後なのだけど。本来は、グラウンドを改造して、地面を開くようにし、そこから巨大なアスレチックコースを出す予定だったんだけど……どうせなら、会社で創ってるゲームでやったほうが面白いということに気付き、こうなりました。ちなみに、この世界で死んだとしても、現実で死ぬことはないので、安心してね! 間違っても、脳が破壊できるほどの高出力電磁パルスが流れることはないので、安心して、死んでいいからね!』


 死んでいいって……教育者が言うセリフじゃないよね?

 同じことを思ったのか、周囲の人もちょっと苦笑い。


『まあ、裏話なんてどうでもいいので、さっさとルール説明に行きます。まず、正面向かった後ろをご覧ください』


 そう言われて、後ろを振り向くと、


『見ての通り、木で出来た建造物がありますね? あれが、今回の舞台となります!』


 学園長先生が言うように、木造の巨大なキューブ状の建造物があった。

 よく見ると、中が見えるようになっていて、様々な障害物などが見える。


『あの建物は、合計十階層あり、100×100×100の立方体です。中には、いくつものアスレチックが配置されており、中には、現実では再現不可能なものまであるので、純粋にアスレチックとして楽しむこともできます』


 そこは、仮想世界ならではだね。

 やっぱり、現実じゃできないことができる、って言うのがいいもんね。

 ……まあ、ボクの場合は、魔法とか能力とかスキルとかが使えるから、何とも言えないけど。


『まず、百六十八人いる逃走側は、開始と同時に、ランダムに各階層へ転移します。大体は同じような構造ですが、中にはその階層にしかない仕掛けもあるので、楽しんでくださいね! それから、四十一人の鬼側も、逃走側と同じくランダムに転移します。なので、この競技は、運要素が絡んでくるので、頑張ってくださいね! それから、今回、仮想世界でやるにいたり、両サイドそれぞれが有利に進める様なトラップを設置することができます!』


 トラップ?

 どういうことだろう?


『これに関しては、戦略シミュレーションゲームの発想に近いです。各フロアにそれぞれ五語個ずつ罠を仕掛けることができ、逃走側だったら鬼を足止めする様な罠が多く、鬼側だったら、妨害系が多いです。中身をすべて行ってしまったらあれなので、代表例をそれぞれ一つずつ紹介します。逃走側には、『罠にかかった鬼を、一定時間石化させる』というものがあります。そして、鬼側には『行き止まりを作る』というものがあります。あくまで代表例ですので、他にも色々とあります。中には、えぐいのもありますので、お楽しみに!』


 ……学園長先生が考えることだから、素直に楽しめないような……?


 それにしても、罠、か。


 中身がどういったものなのかはわからないけど、戦略性も試されるような競技なんだね、これ。


 棒倒しの時は、戦略とは言い難かったし。


 ……と言っても、ボク自身はそう言うのを考えるのはあまり得意じゃないので、ちょっとあれだけど。


『トラップの設置に関する相談は、多く取って十分! 十分が経過すると、トラップを設置するための画面が出現しますので、それぞれのリーダーに選ばれた人は、しっかり設置してください。ちなみに、設置には時間制限がありますので、設置漏れがないよう気を付けてくださいね。し忘れると、その分トラップが減りますので』


 うーん、そうなると慎重に行ったほうがよさそうだね。

 それにしても、リーダーとかあったんだ。

 鬼側のリーダーって誰なんだろう?


『とりあえず、特殊な部分はこれで終了。あとは、通常的なルールの説明。制限時間は90分。鬼に捕まったら、強制的に牢屋に転移させられ、終了までそこで感染することになります。勝利条件は単純。逃走側は、一人でも逃げ切れば逃走側の勝ち。反対に、鬼側は全員捕まえたら勝ちだ』


 たしかに、単純な勝利条件だ。


 でも、鬼側が不利な気がする……。


 だって、逃走側は、一人だけでも逃げ延びれば勝ちだけど、こっちは全員の確保。

 それに、逃走側は百六十八人と、かなりの人数。対して、鬼側は四十一人と、人数的にも不利。


 ……そう考えると、やっぱりトラップが重要になってきそう。


『さて、ルールは以上です。この映像が消えたら、トラップについての相談になりますので、頑張って決めてください! それでは、健闘を祈ります!』


 そう言い残して、学園長先生のホログラムが消えた。


『鬼側の人、こっちに集まってくれ!』


 それと同時に、リーダーのような人が呼びかけをしており、みんながそこに集まっていった。

 ボクも、リーダーのような人のところへ足を向けた。

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