第145話 依桜ちゃんと遊園地デート 上

 日曜日。


 ボクは、駅前に一人、立っていた。


 これから、ちょっとした用事……というか、遊びに行くところです。

 そして、今はその相手を待っているところ。


 そう言えば、ここで待つのはいいけど、どうにも見られているような……?


 も、もしかして、ボクの服装、おかしい?


 今日の服装は、リボンやフリルが所々にあしらわれた、水色の長袖ワンピースに、白のカーディガンを羽織っている。寒くなってきたこともあって、ワンピースは、膝よりも下の方までの長さがある。


 ……本当は、ズボンがよかったんだけど、


『だーめ! 依桜は可愛いんだから、スカートで行きなさい!』


 って、母さんに言われてしまい、この結果に。


 うーん、女装させられたこともあったせいで、スカートを穿いても違和感があんまりなかったんだよね……。

 そのせいで、問題なく穿けちゃうって言うのが、何とも皮肉な話だよ……。


 それはそれとして……変なところはないよね?

 でも、なぜか視線が多いし……どうしてだろう?


『あの娘、ちょっと前に騒ぎになった娘だよな?』

『うわ、マジだ。一人で誰かを待ってるみたいだけど……彼氏待ちか?』

『じゃね? チッ、その相手が羨ましいぜ』


 それにしても、もうそろそろ来てもおかしくないんだけど……。


「おーい、依桜―」


 と、ボクを呼ぶ声が聞こえてきた。

 やっと来たみたいだね。


「すまんすまん、ちょっとばかり寝坊しちまってな」

「いいよ。それじゃ、行こっか」

「おうよ!」


 今回、一緒に遊びに行くのは、態徒。


 ハロパが終わった翌日に、ボロボロだった態徒を見て、あまりにも可愛そうだったので、一緒に遊びに行こう、と言う約束をしていた。

 今日は、その約束を果たすために、遊びに行くことになった。


 と言っても、決まったのは、昨日だったりするんだけどね。


 ことの経緯は、昨日の学園見学会が終わった後のこと。



「はいこれ」


 と、アクシデントの後始末を終えた後、学園長先生に呼び出されて、学園長先生の所に行くと、唐突にチケットを渡された。


「えっと、これは?」

「遊園地のペアチケットよ」

「遊園地?」

「そ。最近新しい遊園地が近くにできたのよ。そこにちょっと出資していたら、向こうから貰ったの。でも、遊園地は柄じゃないし、それだったら有効活用してもらおう! というわけで、依桜君に上げようと思ったの」


 出資って……。いよいよ、謎が深まってきたよ、学園長先生。


「でも、いいんですか?」

「いいのいいの。言ったでしょ、ご褒美があるって」

「そう言えば……」


 たしかに、一昨日言っていた気がする。

 ご褒美も用意しておくから、って。


「それに、今回は無理を言った、って自覚があるしね。だから、受け取って」


 今回『は』なんだね……。

 今まで、結構ボクに対して無理を言ってる気がするんだけど……主に、異世界と学園行事関連で。

 もしかして、自覚なし……?


「わかりました。それじゃあ、ありがたくいただきますね」

「うんうん。素直でよろしい! それじゃ、誰か適当に誘って遊んできてね! 一応、同性同士でも問題ないから!」


 そう言い残して、学園長先生は去って行った。

 この後、師匠と飲み歩きだそうです。

 貰ったチケットを眺め、少し考える。


「ペアチケットとなると、一人しか誘えないわけだよね……」


 うーん、そうなると、誰と行こうか?

 今からだと中途半端になっちゃうし、どうせなら、一日遊びたいよね。


 どうもこのチケット、一日遊び放題みたいだし。


 いつものメンバーだと……たしか、日曜日はいつもバイト、って晶が言っていたし、女委はそろそろ原稿の準備が! って言っていた。


 そうなると、未果と態徒、ということになるんだけど……あ、そういえば。


「たしか、態徒と遊びに行く、って約束があったっけ」


 それに、約束したのは三週間くらい前で、それなりに時間が経っちゃってるし、忘れないうちに行こう。


 えーっと、電話電話……。

 スマホを取り出して、態徒に電話をかけると、二コールほどで通話に出た。


『もしもし、依桜か?』

「そうだよ」

『どうしたんだ? 晶はともかく、オレに電話かけてくるなんてよ?』

「ちょっとね。ねえ、態徒、明日って暇かな?」

『明日? ああ、暇だぞ。と言うか、オレは基本暇だぜ』


 ……それはちょっと悲しいような?


「そ、そうなんだ。えっとね、今日の見学会のお礼っていうことで、学園長先生から遊園地のペアチケットを貰ったんだけど、一緒に行かないかなーって」

『なぬ!? そ、それはつまり……デート、ってやつか!?』

「う、うーん、他の人から見たらそう、なんじゃないかな?」

『ぃよっしゃあああああああああ!』

「ひゃああ!?」


 いきなり大声を出すものだから、びっくりして悲鳴が出てしまった。


「い、いきなり大声を出さないでよぉ……」

『す、すまん。……だけどよ、なんでオレ? 未果とか晶とかもいただろ?』

「あれ? 覚えてない?」

『ん? なんかあったっけか?』

「ほら、十一月頭に、約束したでしょ? 遊びに行こうって」

『あ、あああ、したした! そういや、そんな約束してたなぁ。それでオレか』

「うん」

『了解了解! まあ、何はともあれ、美少女とデートできるんなら、40℃の熱が出ても行くぜ!』

「いや、その場合は休んで!」

『ハハハ! 冗談だ!』


 ……態徒の場合、全然冗談に聞こえない。不思議。


「それじゃあ、十時に駅前でいいかな?」

『おうよ! 楽しみにしてるぜ!』

「うん。それじゃあね」

『じゃあな』


 無事、約束を取り付けることに成功。

 ……まあ、態徒が断る可能性は低いと思ったけどね。態徒だもん。

 いくら、元男と言っても、今のボクは普通に女の子だからね。


「あ、そうだ。お弁当作っていこう」


 そんなことを考えながら、その日は家に帰った。



 ということがあって、こうして遊びに行くことになった、というわけです。


「それで、場所はどこなんだ?」

「えっと、最近出来たばっかりの遊園地だよ。たしか、『美ノ浜ランド』だったかな?」

「マジで最近の場所じゃん。よくそこのチケットがもらえたなぁ。たしか、アトラクションのクオリティが高いってことで、話題になってたよな?」

「そうなの? それなら、楽しみだね」

「だな!」


 態徒が言った情報を聞いて、楽しみになってきた。

 もともと楽しみだったけどね。遊園地に行くのも、かなり久しぶりだからね。

 ちょっとうきうきした気持ちで、ボクたちは遊園地に向かった。



 や、やべえ。やべえよ。

 まさか、依桜がデートに誘うなんてよ……つか、ち、ちけぇ!

 真隣にいるぞ、美少女が!


 現在、オレたちは電車に乗って移動中だ。


 日曜日ということもあって、電車内はそれなりに人がいたが、ぎゅうぎゅうというわけではなかった。全然余裕がある。


 そんな中、オレたちは電車の扉がを陣取って立っていた。


 すぐ隣には、超絶美少女の依桜(元男)が。

 今日の依桜は、ワンピースにカーディガン。……元男だと言うのに、何の違和感もなく着こなしているな。


 まあ、依桜は、中学生の時から女装とかさせられてたしなぁ。

 そのせいだろう。うん。

 今は、それのおかげで可愛い私服姿の依桜が見れてるしな! 当時、女装させた奴ら、ありがとう! 心の底から感謝するぜ!


 ……にしても、あれだだなぁ。


 ちょっと話題は変わるかもしれないが……オレと依桜の身長差は結構ある。

 オレの身長は、大体170後半。対し、依桜は150(一センチ伸びたと言っていた。めっちゃ喜んでた)。

 見てわかる通り、かなり差があるわけなんだが……まあ、何が言いたいかと言うとな。


(胸、めっちゃ見える!)


 ってことなわけだ。


 今日の依桜の服装はワンピースだとさっき言ったな? 何と言うかな……服の構造なのかは知らんけど、胸が見えてるんだよなぁ……地肌が。


 微妙に依桜のご立派なお胸様の谷間が、見えているんだよッ!


 うわぁ、マジか……まさか、生きているうちに、こんなに素晴らしい光景を見れるなんてなぁ……マジ、感無量。

 ……と、同時に、周囲から依桜への視線が集中しているな。


 正直、当事者じゃなくてもわかるレベルで、視線が注がれている。


 露骨に頬を赤らめている奴や、鼻の下を伸ばしている奴もいるからな。しかも、男。……ただただ気持ち悪いな。もしかして、オレもあんな感じだったり……?

 うっわ。今度から止めよう。


 しかしあれだなぁ。


 本当に、元男とは思えないくらい、可愛いよなぁ。実際のとこ、男の時ですら可愛いと言われていたような奴だもんな、依桜。


 性別を間違えてる、なんて思われるのはよくあることだったし。

 そんな奴が、実際に女子になると、こうもモテモテになるんだな。

 いやぁ、友達でよかったぜ。


 だからと言って、依桜が女子になってよかった、なんてほとんど思わないが。……ちょっとは思ってるがな。


 実際のとこ、依桜がこの姿になったのは、オレたちじゃ、想像の及ばないくらいの地獄を体験してるからだしな。そう簡単に喜べるような境遇じゃないからなぁ。


 まあ、女子になった、と言うのはちょっと羨ましいが……。


 にしても、依桜はこの視線に気づいてるのか? ……気付いてるんだろうなぁ。気付いていながら、その意味に気付いていないと見た。


 実際、疎いしな。恋愛事とか、性的なことに。


 思えば、男の時からそうだったっけなぁ。

 オレと依桜、晶の三人で遊んだときに、オレの秘蔵のエロ本を見た時とか、依桜は目を回して気絶してた。

 で、起きたら、そのことをさっぱり忘れてた。

 絵に描いたような初心だもんな、ピュアだもんなぁ。すげえよ、マジで。


『次は、美ノ浜ランド前―。美ノ浜ランド前―。お降りのお客様は、お忘れ物がないよう、お気を付けください』

「あ、そろそろだね」

「おう」


 依桜を眺めながら、考え事をしているだけでもう着いちまった。

 いやあ、依桜のご立派様は素晴らしいやな。


 ついつい考え事をしちまうぜ! え? 柄にもないって? ハハハ! オレだって考え事くらいする。


 と、駅に到着したようなので、オレたちは電車を降りた。



 美ノ浜ランド前に到着。


「わぁぁ~~~」


 美ノ浜ランド前に来ると、隣にいた依桜が目をキラキラと輝かせながら、感嘆の声を出していた。

 ……マジで可愛いなぁ。


 まあ、それはそれとして、たしかに楽しそうだ。


 外からでも、『キャー』という楽しそうな悲鳴が聞こえてくる。これはあれか、ジェットコースターとかか?


 そういや、オレも久しぶりだったっけな、遊園地に来るのは。

 依桜が目を輝かせるものもわかるぜ。


 と、一人うんうんと頷いていると、不意にオレの右腕がとても柔らかく、温かい、そんな幸せな感触に包まれた。


 ハッと右を見ると、そこにはオレの腕を掴んで谷間に持って行っている依桜の姿が!


「態徒、早く行こっ!」

「お、おう!」


 や、やっべええええええええ! マジ柔らけええええええ!


 なんだこれ!? おっぱいってこんなに柔らかかったのか!? しかも、すっげえ温かくて、めっちゃ幸せなんだが!


 つーかこれ、依桜無意識にやってるよな? そんなに楽しみか、遊園地。

 ……もしかしすると、三年間も殺伐とした世界にいたから、余計に楽しみなのかもな。


 ならば、


「よーし、今日は思う存分楽しもうぜ!」

「うんっ!」


 全力で楽しまないとな!


 依桜だって、娯楽に飢えてたかもしれないしよ。

 ……まあ、オレはすでに、右腕が幸せな状況なので、思い残すことはなかったりするんだがな!


 と、超楽しそうにしている依桜に腕を引かれながら、オレたちは遊園地に入っていった。



 ちなみにだが、依桜がオレの右腕を掴んだあたりから、周囲からの死線がすごいことになった、とだけ言っておこう。

 ふっ、この優越感!

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