第146話 依桜ちゃんと遊園地デート 下

 殺意マシマシの死線を受けながら、園内に入る。


 相変わらずというか、何と言うか……依桜はオレの右腕を胸に抱いたままだ。

 ……男友達とわかってはいるんだが、その……今の依桜はどっからどう見ても女子。正直、興奮する。


 だが! だがしかし!


 鋼のような理性で、本能を抑え込む。


 いや、さすがに友達に対して欲情するとか、絶対ないから。たしかに、依桜は可愛い。だが、幸いにも、男の時を知っているから、そこまでって言うほどのあれはない! ……生々しいな。


 たしかに、男の理想を詰め込んだようなビジュアルだが、オレは友達! 友達にそんな感情はまずい……。


 それに、間違ってそっちの方向に進んでしまった場合、関係が悪化するのは火を見るよりも明らかだ。

 ならば! 見守るのが一番ってことよ!


 ……でも、この胸の感触は素晴らしいや……。


「最初は何から行く?」

「お、おお、そうだな」

「? どうかした?」

「い、いいいやなんでもないぞ?」

「そう?」


 危ない危ない。

 前に、顔に出やすい、とか言われたんだし、気を付けなければ!


「それで、どこに行くか、だったか……安直に、ジェットコースターとかどうよ?」

「そうだね。この時間だったら、開園してすぐだから、そこまで待たないと思うし」

「だな。じゃあ、行くか!」


 というわけで、まずはジェットコースターに乗ることにした。



 幸いと言うべきか、本当にそこまで待つことはなかった。


 待ち時間は、二十分もかからなかった。


 すぐに案内され、オレたちは先頭に乗ることに。


 ここのジェットコースターは、結構人気で、しかも有名。

 最高時速は200キロ越えで、最高高度は、120メートル。落差は約100メートルらしい。

 この時点で、かなりやばそうな雰囲気なわけだが……。


「~~~♪」


 依桜は、見惚れるくらいのにっこにこ笑顔。

 しかも、楽しそうに鼻歌まで歌ってる。


 ……依桜、そう言えば絶叫系は得意だったけなぁ。

 お化けは怖いのに。


『それでは、出発です! いってらっしゃーい!』


 ガクンッと一瞬だけ揺れると、列車が動き出した。


 最前席だから、次に何が来るかがよくわかる。


 ちなみに、スタート前から見えていたのは、坂だ。


 見たところ、そこまで高くはないようだが、オレは外から見た時、やばいかもな、と思った。

 この坂を超えて、少し行ったところに、ほぼ壁と言えるレベルの坂があったのだ。いや、壁って言ってる時点で、坂じゃないと思うが。


 で、だ。それが明らかに高すぎる。


「~~~♪ ~~~~♪」


 横を見ると、さっき以上ににっこにこ笑顔だった。しかも、鼻歌も絶好調のようで。

 ……すげえなぁ。

 とまあ、依桜に対し感心していると、最初の坂が頂点に達し……


「うおあああああああああ!?」


 かなりの浮遊感と共に下り始めた!


 思わず、悲鳴を上げてしまったが、マジではえええ!? やばい、風圧がやばい!

 ものすごい疾走感だ。絶え間なく風が体に当たり続ける。


 情けないことに、少し恐怖を感じたので、安全バーを思いっきり掴む。

 振り落とされないとわかっていても、これはさすがに怖いって!


 そんな風に、恐怖を感じていると、不意にゆっくりになった。


 同時に、体が真上を向いた気がした……ってか、マジで真上を向いていた。


 ……これはあれか。さっき、外から見えてた、一番高い坂(と言う名の壁)。

 やべえ、めっちゃドキドキするんだけど、このジェットコースター。


 正直、依桜の胸に腕が埋もれてた時もドキドキはしていたが、あれはいい意味でのドキドキだ。だが! 今回のはちげえ! 単純に恐怖からくるドキドキだ!


 なげえよ。120メートルはなげえよ。


 ちらりと横を見る。やっぱりにっこにこ。

 ……やばいなぁ、こいつ。


 と、依桜に対して、若干ながらの畏怖をしていると、さっき以上の浮遊感がオレを襲った。


「うあああああああああああああああああっっ!?」

「きゃーーー♪」


 横から依桜の悲鳴が聞こえるが、めっちゃ楽しんでるような悲鳴なんだが!? マジで!? このスピードを楽しめんの!? 心臓が強すぎる!


 って、それどころじゃない! やばいやばいやばいやばい! もう、やばいしか出てこねえ!

 左、右、ねじれ、など、様々な方向に動きまくる列車。

 しかも、大きく一回転するところもあった。マジで恐怖。つか、怖すぎ!


「あああああああああああああ!!!」



「はぁっ、はぁっ、はぁっ……ま、マジでやばかったっ……」


 ジェットコースターが終わり、近くのベンチでオレは情けなくもダウンしていた。


「大丈夫? 態徒。はい、お茶」

「あ、ありがとな……」


 お礼を言ってお茶を受け取り、ごくごくと半分ほど飲むと、ようやく落ち着いてきた。

 依桜は全然問題なさそうな表情だ。


「……依桜は、大丈夫だったのか?」

「うんっ! すっごく楽しかったよ!」

「……すげえな」

「でも……」

「でも?」

「もうちょっとスピードが欲しいかなぁ、なんて……」


 えへへ、と照れ笑いする依桜。

 だが、オレは全く笑えなかった。どころか、逆に恐怖したぜ。

 ……もうちょっとスピードが欲しいって……強すぎる。


「……ま、マジ?」

「うん。あれくらいのスピードなら、向こうで普通に出してたし、それに、師匠に抱えられて走った時の方が、もっと速かったもん」

「……マジかぁ」


 そっかぁ、そんな感じなんだなぁ。

 ……いや、わかっちゃいたけど、生身で200キロ以上出せるって、やばくね?


「それでそれで! 次はどこに行くっ?」


 ……一つ乗っただけでここまで消耗しているオレは、だらしないのだろうか?

 オレは、依桜の明るすぎるテンションに苦笑いするのみだった。



 ジェットコースターの次にオレたちが向かったのは……


「依桜、怖いならやめとこうぜ?」

「だ、だだだ、大丈夫っ……」


 まさかのお化け屋敷。


 いや、別にオレが誘ったわけじゃないぜ? 依桜が言い出したんだぜ?

 なんでも、お化けを克服したい! とのことらしいぞ。

 ……で、お化け屋敷の前まで来たはいいが、依桜はぷるぷる震えて、顔は青ざめていた。


「い、行こっ……」

「あ、ああ」


 と言いつつ、オレが引っ張っていく形になったが。



「う、うぅ……こ、怖いぃぃ……」


 中に入ると、案の定と言うか何と言うか、依桜はめっちゃ怖がってた。


 そのせいか、以前は絶対にくっつかない、みたいなことを言っていた依桜が、オレの腕にしがみつく形になっている。

 そう! 依桜の巨乳がオレの右腕を包み込んでいるのだ!


 いや、うん。まさか、この短時間に、ここまで幸せな感触を得られるとは思わなかったぜ!

 おかげで、オレに恐怖心はないわけだが……


 バンッ!


「ひぅっ!?」

「うおぅ!?」


 依桜がお化け屋敷のギミックの音に小さな悲鳴を上げると同時に、オレも変な声を出していた。


 いや、オレの場合は音に驚いたんじゃなくて、依桜がさっき以上に腕にしがみついてくるからだ。

 ……オレ、今日死ぬんじゃねえかなぁ。


「あ、あぅぅ……怖いよぉ……」


 よく見ると、依桜の目端にうっすらと涙が浮かんでいた。


 ……そこまで怖がってんなら、自分から行かなくてもよかったんじゃね?

 その後も、色々なギミックに依桜が反応し、その度にオレも反応しちゃったわけだが……正直、オレは恐怖心よりも、理性の方がキッツい。


 マジで依桜の胸が柔らかすぎるせいで、本能を抑えようと理性を総動員しているんだぜ? いつもみたいに、『ヒャッハー! 依桜のおっぱい最高だぜ!』みたいに言えるわけがない。つか、言ったら、依桜にぶっ飛ばされる自信がある。


 だからこそ、オレはしんどいわけだが……。


「相手はアンデッド……相手はアンデッド……刺せば倒せる……切れば倒せる……」


 ぶつぶつと独り言をつぶやいている依桜のこのセリフで、一気に冷静になれた。

 ……これ、オレが止めないと、マジでやるんじゃね?


「い、依桜?」

「……殺せば勝ち、殺せば勝ち……切る、刺す、抉る……」

「依桜、それはさすがにまずい!」

「ふゃあ!?」

「うおわ!?」


 刃先数ミリと言うところで、突き出されたナイフは停止した。


「い、いきなり大声出さないでよぉ……心臓が止まっちゃうかと思ったよぉ……」


 それはこっちのセリフだ。


 見ろ、心臓バックバクだぞ。それに、冷や汗もナイアガラだぞ? それから、マジで心臓一瞬止まったわ。

 とんでもないスピードでナイフを突きつけられると、人間ってマジで心臓止まるのな。

 ……知りたくなかったぜ。


「依桜、せめてナイフを持つのはやめてくれ」

「あ、ご、ごめんね。びっくりしちゃって、つい……」


 つい、でオレは命の危機にさらされたのか。


 ……元男の元暗殺者はやべえなぁ。

 この後、こんなことが何度もあった。


 ……オレ、マジで今日死ぬんじゃねえのかなぁ。



「ごめんね! 本当にごめんね!」


 お化け屋敷から出るなり、依桜に謝られていた。


「いいっていいって。別に、死んだわけじゃねえし?」


 まあ、何度か死にかけたが。

 ……いつでもどこでも凶器を生成できる魔法って、相当やべえよなぁ……。まさに、暗殺向きの魔法と言えるよなぁ。


「で、でも……」

「依桜はお化けが怖いってのはよく知ってるからな! 仕方ない仕方ない! それに、オレも役得だったしよ!」

「やく、とく?」

「い、いや、な、何でもないぞ! こっちの話だ」

「そ、そう……? でも、本当にごめんね……」

「わかったから、次行こうぜ!」


 無理矢理会話をぶった切って、話題を逸らした。

 このままだと、ずっと謝られかねん! それはさすがに困る。

 だからこそ、ここは多少強引にでも行かねば!


「う、うん」


 よし、何とか逸らせたな。

 今度はオレが依桜の手を引いて次のアトラクションへと移動を開始した。



 お化け屋敷の次は、メリーゴーランドやらフリーフォールに乗った。

 そして、時計を見ると二時近くなっていた。

 ちょうどいい時間だったので、昼飯になった。


「たしか、フードコートがあったよな? そこ行くか?」

「あ、お弁当を作ってきたんだぁ。だから、ベンチで食べないかな?」


 なぬ、弁当ですと!?

 それはつまり……


「手作りってことか!?」

「え? う、うん。あれ? もしかして、嫌、だった?」

「んなことはない! じゃあ、適当なベンチに座って食べようぜ!」

「うん」


 いやぁ、マジで今日はいい日だ……。

 合法的におっぱいに触れただけでなく、依桜の手料理が食べられるなんてなぁ……しかも、デートだし。


 はっはっは! やっぱこれ、オレ死ぬんじゃね?


 今までのオレの人生に、果たしてここまで幸運があったか? いや、ないな! 大体は、『変態』と言われるだけだ。いや、オレが悪いのかもしれんが。


 そんなことを考えつつも、オレたちは芝生がある場所のベンチで昼となった。


「あ、わりい、ちょっとトイレ」

「うん、いってらっしゃい」


 その前に、トイレに行ってこよう。



「ふー。スッとしたぜー」


 用を足し、依桜のところへ戻る。


 お、飲み物もついでに買って行くとしよう。

 依桜は……まあ、乳酸菌飲料でいいか。好きだし。

 オレは適当に、炭酸系でいいか。


 自販機で飲み物を買って、依桜のいるベンチのところに戻ると……何やら騒がしいような気がする。


『なあなあ、俺たちと行こうぜ? きっと楽しいぞぉ?』

『兄貴の言う通りだ。一緒に遊ぼうぜ? お嬢ちゃん一人みたいだしよー』

『なあ、いいだろ?』

「あ、あの、ボク友達を待ってるんですけど……」


 あそこは……依桜が座ってるベンチか?

 じゃあ、あの依桜に何か言っている三人組は……ああ、なるほど。ナンパか!

 ……って! それはまずい!


「依桜!」

「あ、態徒!」


 急いで依桜の下へ駆け寄ると、困ったような表情だった依桜が安堵したような表情をした。まあ、困るわな。


『ああ? なんだ、あんちゃん』

『もしかして、お嬢ちゃんの友達って、こんな冴えない奴か?』

『ハハハ! お嬢ちゃん、もっと男選んだほうがいいぜ? こんな、女のおの字すら知らねえようなガキより、俺たちの方が断然いいぜ?』


 お、おう。


 何と言うかだな……開いた口が塞がらない、ってのかね?

 正直なこと言うと、男選んだほうがいいつーか、依桜は元男だしな……んなこと言われても、困るだけだぜ?


「選ぶも何も、依桜の自由だろ」

『うるせぇ! てめえの言い分なんざどうでもいいんだよ!』


 なんだこいつら、言ってる事めちゃくちゃかよ!


 にしても、ほんとにガラの悪そうな奴らだな。

 ピアスを付けまくってる奴に、刺青が微妙に見え隠れする奴、グラサンかけてさも『ヤクザ』です、と言っているような奴。


 うん。碌な奴いねぇ。

 強さ的にはどうなんだ? オレは……まあ、ミオ先生にちょっと鍛えられたし、まあ、あれだが……。


『へっ、てめえのようなガキはな、お嬢ちゃんみたいな可愛こちゃんとは釣り合わねーんだよ! せいぜい、その辺にいるモブで十分なんだよ!』

『しかも、見るからにダサいしな!』

『ハハハ! 言えてる!』


 ……こいつら、好き放題いいやがってッ……!


 んなこと言ったら、お前らみたいな奴らの方が、全然依桜に釣り合ってねーよ!


 くそっ、殴りてえ! マジ殴りてぇ!


 オレはいいが、何も知らんくせに、依桜に色々言ってるのがムカつく!


 しかし、しかしだっ、ここで殴ればオレの負けだ。

 ここは、こらえるしか……って、


「――ッ!?」


 なんだ、今すっげえゾワッとした……?

 なんだ、鳥肌がやばいんだが……ん? あ。

 オレは、男たちの背後にゆらりとオーラのような物を纏った依桜を見た。


 ……あ、あれ? もしかして、依桜……ご立腹?


「……ねえ、お兄さんたち。今、態徒のことを馬鹿にした?」

『ああ? 何を当たり前のこと言ってんだよ』

『どう見ても、馬鹿にするところしかねーだろ』

『ま、あんな奴はいいし、さっさと行こうぜ』


 と、グラサンが依桜の腕を掴んだ。

 その瞬間、


『――は?』


 依桜の体が一瞬ブレたと思ったら、男がゴミ箱の方へすっ飛んで行って、ホールインワンした。

 ……あ、あーあ……。

 これは、オレの出る幕はない、か。


『なっ……て、てめえ、何しやがった!?』

「何って……クズはくずかごへ、って言葉、知ってますか?」


 う、うわぁ……依桜、怒ってるよ。

 あまり汚い言葉を使わない依桜がクズ、って言う時点で、割と怒っているな、ということがよくわかる。

 え、あれしきのことで怒るの?


『な、なんだと!? 言わせておけば、調子乗りやがって!』

『こうなりゃ、力ずくだ!』


 と、男が取り出したのは……って、折り畳みナイフ?

 いやいやいやいや! おかしくね? 銃刀法違反に反しまくってるような気がするんだが。つか、なんでナイフなんて持ってんだよ。暗殺者じゃあるまいし……。


『へへへ、嬢ちゃん、これで切られたくなきゃ、オレたちについてくるのが身のためだぜ?』

『俺たちゃ、女子供だろうが容赦がしねぇぞ?』


 と、チンピラが言っているが……お前たちの目の前にいるの、ガチもんの暗殺者、なんですが。それも、世界最強の弟子なんですが。


 しかも、折り畳みナイフ程度で、強がっているのが、マジで滑稽に見える。不思議だな!


 つーかこれ、ハムスターが龍に挑むようなものじゃね?

 見ろよ、依桜の表情。余裕の笑みだよ。いつも通りの、可愛い笑顔だよ。


「ふふっ、その程度の武器で、よくそんなに粋がれますね?」

『ああ!? てめえ、これが見えてねえのか?』

『こちとら、善意で言ってやってんのによ……もういい。いたぶって連れてってやらぁ!』


 と、男が一人、ナイフを突き出すが……


「遅いです。それに、握りが甘いですよ」


 ひらりと躱すのと同時に、依桜がナイフを持っていた右手を手刀で叩く。すると、それだけで男が持っていたナイフが手から離れ、地面に落ちる。

 そして、そのまま勢いを殺すことなく、肘を鳩尾に叩き入れる。


『うっ、ぐぉおぉおぉぉぉぉぉ……』


 さすがに手加減はしたようだが、あれは痛い。

 男は、苦悶の声を出しながら、その場に崩れ落ちた。


「それで……いたぶって、なんでしたっけ?」

『ひっ……く、くく、クソガキがぁあああ!』


 一瞬怯んだものの、すぐに動き出してやけっぱちになってナイフを振り回しながら突っ込んでいく。


 それを見ていた周囲の人たちから悲鳴が上がるが……これ、最初から勝負にすらなってないんだよなぁ。

 だって、


『ぐっ、がっあ……』

「おやすみなさい♪」


 にっこり笑顔で男の意識を刈り取っていた。

 ……なんか、針を首筋に刺しているように見えたんだが……いつもの、だよな、あれ。

 便利だなぁ、魔法。


「依桜、大丈夫か?」

「あ、態徒。ごめんね、態徒のことをそっちのけにしちゃって……」

「いや、それはいいんだけどよ……どこも怪我はないのか?」


 かける言葉がなかなかみつからなかったので、なんとなく意味のないことを訊いてしまう。


「あはは。大丈夫だよ、なんの技でもない攻撃を避けられないわけないよー」


 いや、笑顔で言ってるけど、普通の一般人はできないからな?

 その辺りは、依桜の身体能力やらなんやらが異常なだけだしな。


「そ、そうか。んで……こいつら、どうする?」

「んーと……とりあえず、警備員さんを呼ぼっか」

「だな」


 結局、そう言う結論になった。



 この後、防犯カメラに映っていた映像が決め手となり、三人組は警察に引き渡された。

 オレたちは、ちょっとした事情聴取を受け、すぐに解放された。


「まったくもぉ、お昼が遅くなっちゃったよ」


 と、頬を膨らませて、ぷりぷりと怒っている依桜。

 いや、お前なんでそんな怒り方なん?

 美少女かよ。……あ、美少女か。


「それで、依桜は何で怒ったんだ?」


 なんとなく、わかり切ったようなことを尋ねる。


「だって、態徒を馬鹿にしたんだよ? 許せないよ! まったく、なんでみんな態徒を悪く言うのかなぁ。佐々木君と言い、さっきの人たちと言い……態徒、すっごく優しいのに」


 おにぎりを食べながら、依桜が拗ねたように言う。


「いや、まあ……オレは変態だからなぁ」

「あ、自覚あったんだ」

「最近な」


 みんなに、変態だ、変態だ、って言われ続けたら、そりゃ自覚もするわ。


「それはそれでどうかと思うけど……。そう言えば、態徒も怒ってなかった? さっきの人たちに対して」

「まあ、そりゃあな。オレの友達が好き放題言われてんだぜ? 怒らない奴は、友達じゃないね!」


 実際、オレたちのグループはみんなそうだしな。


「そうだね。多分、未果たちでも怒ったかな」

「そりゃそうだ。あいつらも、なんだかんだで優しいしなぁ」


 晶と未果が同レベルで、女委が一番やばい。

 あいつ、社会的に殺しに来るんだぜ? 正直、一番敵に回したくないね。


「けど、ナイフを持ってるのは予想外だったな」

「そうだね。……そう言えば、あの人たち『俺たちは、『神崎組』の人間だ!』なんて言ってたんだけど……何だったんだろうね」

「さあなぁ。チンピラの考えることは、よくわからんわ」

「……それもそうだね」


 気になることがあっても、どうせ関係ないしな!

 仮に、関係あったとしても、その時考えりゃいいし。


 色々と、他愛のない話をしながら、昼食は終わった。

 尚、依桜の弁当は美味でした。



 この後も、オレたちは散々遊んだ。

 多分、全部のアトラクションを制覇した。

 そして、アトラクションを制覇し終える頃には、すでに日は傾いていた。

 それを見て、オレたちは美ノ浜ランドを後にした。



 この時、依桜がチンピラを撃退した姿を収めた動画がインターネット上で拡散され、またしても知らないところで有名になって行くが……この時の依桜は知る由もなかった。

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