第147話 デートの後の問題

 翌日


 休日(休んでない気が)を挟んで月曜日。


 十一月も終盤……どころか、今日で終わり。

 まあ、だから何かある、ってわけじゃないんだけどね。


 それにしても、昨日は楽しかったなぁ。

 なんだかんだで、態徒と二人で遊ぶ、なんてことは少なかったし、ちょっと新鮮だったかな。


 そう言えば、ボクが女の子になってから、二人だけで外出したり、二人で行動している頻度が増えたような? 中でも、晶と女委が多い気がする。


 逆に、未果と態徒が少ないかな?

 まあ、二人になること自体がそう頻繁にあるってわけじゃないけど。


「依桜、おはよ」

「あ、未果。おはよー」


 ちょっと未果と態徒のことを考えていたら、未果と出会った。


「今日は遅いね?」


 いつもはこの時間に来ること自体珍しい。

 ボクの場合は、これくらいの時間帯に出るけど、未果と出会うことは稀。

 たまーに、晶ともエンカウントするけど。


「ちょっとね。まあ、寝坊よ寝坊」

「未果が寝坊なんて珍しいね」

「ま、私にだってそう言う日くらいあるわよー」


 未果って、文武両道で、割と完璧なイメージがあるけど、実際は抜けてるところがあるからね。


「そう言えば依桜、昨日ってどこにいた?」

「昨日? なんで、そんなことを訊くの?」

「ちょっと気になることがあってね。それで、どこにいたのかしら?」

「美ノ浜ランドだよ」

「一人で?」

「ううん? 態徒と行ったけど」

「……何その珍しい組み合わせ」


 珍しいかな? 元々男だったと考えると、そうでもないと思うけど。


「まあでも、これで見間違いじゃないことがわかったわ……」

「?」


 ちょっと疲れたような顔をしていた未果に、ボクは疑問符を浮かべるだけだった。



「おはよー」

「おはよう」

「ん、珍しいな、二人で登校とは。とりあえず、おはよう」


 未果と話しながら登校し、教室に入る。

 晶はいつも通りに、ボクよりも早く登校していた。

 二人一緒に登校してきたことが珍しいと言ってきたけど。

 まあ、未果はこの時間じゃないしね。


「おっはー!」

「はよーっす」


 と、ボクたちが入ってきた直後に、態徒と女委も入ってきた。

 こっちの方が珍しくない?


「二人は、今日は早いな」

「いやー、ちょっと原稿に追われててねー。まあ、寝不足なわけですよ」


 あ、ほんとだ。

 目の下にすごい隈がある。


「何やってるのよ。ちゃんと寝ないと、体壊すわよ」

「その時は、依桜君に看病してもらうよー」

「あ、あはは……看病はするけど、できれば壊さないでね?」


 さすがに、壊す前提でいるのはどうかと思うもん。

 でも、本当に壊したら看病はする。友達だからね。


「なら、これで後先考えずに原稿が書ける!」

「あれ、ボクの話聞いてた?」

「聞いてたよ! だからこそ、抑制しないでもいいかな、と」

「それだと、早死にしちゃうよ? 気を付けてね」

「大丈夫大丈夫!」


 女委の大丈夫はあんまり信用できないなぁ……。

 それなりの頻度で色々と問題起こしてるんだもん。


「あ、そうそう。依桜君、昨日、美ノ浜ランドにいた?」

「え? う、うん。いたよ?」

「あー、そうなんだねぇ。……なるほどなるほど。ちなみに、一人?」

「ううん。態徒とだけど……」


 その瞬間、クラス内にいるボクたちを除いた人たちから、殺気が立ち上った。


『……おい、聞いたか』

『聞いた聞いた』

『あの、変態野郎、俺たちの男女とデートしたらしいぞ?』

『しかも、遊園地たぁ、調子に乗りやがって……』

『……変態は、今のうちに撲滅したほうがいいんじゃないかな?』

『そうね。変態は死すべし。ピュアな依桜ちゃんが、穢されるのは許容できないわ!』

『なら、後で体育館裏ね』


 あ、あれ? もしかしてこれ……態徒の身が危ない状況になってたり……?


「……態徒、大丈夫か?」

「いやぁ、はっはっは。……死ぬかもなあ」


 すべてを諦めたような笑顔を態徒は浮かべた。


「骨は拾うわ」

「ちょっ、オレが死ぬ前提で話すのはやめて!?」

「今、自分で死ぬかも、って言ってたじゃない。まあ、これも運命よ。……二人っきりで行くなんて」


 あれ? なんだか、未果が拗ねているような……? 気のせいかな。


「ところで、今朝、未果にも言われたんだけど、なんで昨日の事を訊いてくるの?」


 ちょっと気になった。


 たしかに、昨日はボクと態徒で遊びに行ってたけど……なぜか、二人とも、ボクが出かけていたことを知っているような口ぶりだったんだもん。気になる。

 それに、女委に至っては、美ノ浜ランド、って断定してきたもん。


「あー、それね……」


 なぜか、未果が気まずそうな表情を浮かべつつ、視線を逸らしてきた。

 どうしたんだろう?


「いや、あの、ね。依桜……また、有名になっちゃってるのよ」

「な、なんで!?」


 ちょっと待って!?

 ボク、なにか有名になるようなことした!?

 少なくとも、ここのところは目立つ行動をしていないような気がするんだけど……。


「とりあえず、この動画観て」


 未果がスマホを取り出して、何やら操作すると、何かの動画を見せてきた。

 そこには……昨日、ナンパしてきた三人組を撃退しているボクの姿が映し出されていた。

 …………こ、この時の!?


「な、なんでこの映像が動画にあるの!?」

「……あー、そういや、あの時周囲にいた人とか、めっちゃいたっけなぁ。ちらほらとスマホを向けている奴もいたし……」

「止めてよ!」

「いや、依桜の方が心配で、気が回らなかった。すまん」

「あ、そ、それならいい、けど……でも、はぁ……」


 またしても、やってしまった……。

 ただでさえ、女の子になってからは目立つような生活を送っているのに、さらに目立つ出来事が出てくるとなると、平穏な生活が送れなくなっちゃう……。


「おかげで、依桜の信者が増えているみたいね」

「……増えなくていいのにぃ……」

「にしても、どうしてこんなことをしていたんだ?」

「それはだな……かくかくしかじかでよ」


 軽く態徒が、この動画の時の状況を軽く説明。


「なるほどな。……それは、何と言うか……」

「命知らずだねぇ。依桜君に声をかけるなんて」

「しかも、態徒を馬鹿にした、ね。依桜の目の前でやっちゃいけないことをしたわけね。それは、依桜がこんな行動に出ても不思議じゃないわ」

「だ、だって、友達が馬鹿にされるのは嫌だもん……」

「……言い方は可愛いんだが、やっていることがなかなかにえげつないから、感心していいのかわからないところだな」

「え、えげつないことはないと思うけど……。だって、ゴミ箱に投げ入れたり、肘を水月に入れて、針を首に刺しただけだよ?」

((((それがえげつないだよなぁ……))))


 なぜか、可哀そうな人を見る目で、みんながボクを見てきた。

 あ、あれ? もしかして、変?


「だ、だって、師匠がやるなら全力でって言うから……」

「いや、全力だとしても、これはさすがに……」

「ゴミ箱が一番酷いね、これ」

「鳩尾に肘鉄もなかなかいてぇぞ?」

「まあ、依桜だしね……」

「「「「たしかに」」」」


 ボクだから、と言う言葉で通じ合うのは、なんだか納得いかないような……。


 う、うーん、もしかして、どこかずれてたりするのかな、ボク。

 ……多分、ずれてるんだろうなぁ。一年間も師匠と一緒にいたのだから、それがうつってもしかたないと言うか……。

 常識、また学びなおそうかな……。


「でもよ、ナイフを男が取り出した時は、マジで滑稽に見えたぜ? なんせ、ガチもんの奴を相手にしてるのに、粋がるんだもんよ」

「……まあ、ミオ先生の弟子、って言う時点で、相当あれだけど、それに挑むのも、知らないとはいえ、すごいわね」

「勝負にならないよねぇ」

「そもそも、同じ土俵にすら立ててないだろう」

「あ、あはは……」


 否定できなくて、苦笑いするほかなかった。


 いや、うん……。そもそも、この世界の人がボクに勝つのは、その……傲慢に聞こえるかもしれないけど、不可能に等しい。


 それこそ、蟻が一匹で象に挑む様なものだもん。

 それに、負けたら負けたで、師匠に何をされるかわからないから、負けられないしね……。


「まあでも、これで依桜がさらに有名になったわけね」

「あぅぅ……」

「ここまで来ると、もう隠しても意味がないような気がしてくるねぇ」

「学園祭に、モデル、エキストラ、動画、色々と出すぎて、もう顔はわれまくっちまってるからなぁ。正直、今さらどうこうしても、意味がなさそうだ」


 言われて、ボクも思う。


 多分、平穏な日常は送れないんじゃないかなぁって。

 だって、ボク自身は平気だと思っても、知らず知らずのうちに拡散されちゃってるんだもん……。ネット社会って怖い……。


「情報を錯綜させてた人も、これには困ってそうね」

「だろうな。ただでさえ、有名になるような状況がすでに三件もあったわけだからな。ここに来て、この出来事は頭が痛いだろう」


 ……学園長先生、ごめんなさい。

 心の中で学園長先生に謝った。


 ……でも、今回の件に関しては、学園長先生が発端とも言えないこともないんだよね……。チケットをくれたの、学園長先生だし……。


 ……まあ、過ぎたことだし、まさかこうなるとも思ってなかったから、悪いわけじゃないんだけど……。

 それに、実際に楽しかったのは事実だし。


「まあ、なるようになるだろ! それに、学園の場所はバレても、依桜の家はバレてないわけだしな!」

「……そうは言っても」

「これに関しては、態徒の言う通りだな。過ぎたことを言ってもしかたないし、今のところはネット上で騒がれているだけで、現実では特に騒がれてないしな」

「……そう、だね。大丈夫だよね!」

「ああ」


 何か問題が起きたら、その時に考えればいいのかも。

 それに、女委と態徒が言った通りだよね。

 もう手遅れだもんね……。

 だったら、今は気にせずに、いつも通りの日常を送ればいいよね。


「あ、そういえば依桜君。十二月二十九日~三十日って空いてるかな」


 と、急に女委がそんなことを尋ねてきた。


「うーんと、特に何もなかったはずだけど……」

「ならよかった! ちょっと依桜君に手伝ってもらいたいことがあるんだー。ちょっと人手が欲しくて……だから、手伝ってほしいなーって」

「そうなの? うん、いいよ」

「ほんと!? ありがと、依桜君!」

「うわわ! め、女委、いきなり抱き着いてこないでよぉ」


 笑顔で抱き着いてきて、バランスを崩しそうになる。

 たまに、抱き着いてくるんだもん。危ない時だってあるから、できればもう少し勢いを抑えてほしい。


「えへへ~」

「もぉ……」


 嬉しそうに笑う女委を見て、ボクは何を手伝うのか、ということを聞くことはなかった。



「……なあ、未果。俺には、女委が言った日付に、何か嫌な予感がするんだが……」

「奇遇ね。私もよ。……まあ、私は、事前にある程度知っていたからあれだけど」

「……まさかとは思うが、あれか? 年に二回の」

「そうよ。売り子をしてもらいたいんだって」

「……さっきの話を聞いたにもかかわらず売り子をやらせようとするとは……女委は、本当に恐ろしいな」

「そうね。……ちなみに、私たちにも手伝ってほしいそうよ」

「……そうか。ま、依桜のフォローもしないといけなさそうだから、別にいいけどな」



 この時、ボクが女委のお手伝いの内容を訊かずに了承してしまったことを、深く後悔することになるんだけど……この時のボクは、まさかあんなことになろうとはつゆほども思わなかった。

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