第148話 依桜ちゃんとお悩み相談コーナー
「えーっと、お悩み相談、ですか?」
十二月一日、火曜日の放課後。ボクは、学園長室に来ていた。
「そ。放送部がね、そう言うのをやってみたい、って言いだしたのよ」
「放送部が?」
「なんでも、新しい企画としてチャレンジしてみたい! ということらしくてね。だから、一日だけ試験的にやってみて、反応が良かったら今後も続けてみよう! ってことになったの」
「なる、ほど? でも、なんでボクが呼び出されたんですか?」
大まかなことはなんとなくわかったけど、なぜボクが呼び出されたのかがわからない。
そもそも、ボクは放送部じゃないし、関係ないと思うんだけど。
「簡単に言うと、依桜君にゲストとして出てほしいんだって」
「ゲスト、ですか」
「さすがに、放送部だけだと返答をした際、同じような回答になるからじゃないかしら?」
「まあ、同じメンバーですからね。多種多様な回答をするのであれば、ゲストを呼んでやった方がいいですしね」
ずっとおんなじメンバーと言うのも、マンネリ化して、つまらなくなっちゃいそうだからね。
ただ……
「でも、なんでボクなんですか?」
「依桜君は有名だからね。依桜君をゲストとして出させれば、多くの質問が寄せられると思ったのでしょう」
「……さすがに、そこまで多くないとは思うんですけど」
「いえいえ。依桜君は、学園で一番の有名人。しかも、人気も高い。その依桜君が回答してくれるとなったら、生徒の大半が興味を示して、色々と送ってくれるんじゃないかしら?」「人気があるかどうかはあれですけど……」
お悩み相談かぁ……。
一応、中学生の時とかに、稀に相談事をされていたことはあったけど、そこまでいいものじゃなかった気がするんだよね、ボクの返事は。
正直なところ、かなり迷う。
「それで、どうかしら? 私としては、アリだと思うのよね、この企画は。匿名での募集になるから、誰が相談した、なんてわからないし、もしかすると、深刻な問題も出る可能性があるからね。学園の長としては、大賛成なのよ」
「それはたしかに……」
たまに、いじめに関するアンケートを取ったりするけど、なかなか言い出し難いし、仮にそこに書いたとしても、先生に呼び出されて、余計にいじめがエスカレートする可能性もある。
そう考えると、お悩み相談と言う企画は、かなりいいかも。
「それで、出てもらえる?」
「そうですね……ボクとしても、そう言うのはアリかなーと思いますし……わかりました。引き受けます」
「ありがとう! それじゃあ、出ると言うことで話しておくわね。一応、今週末を予定してるから、よろしくね」
「わかりました」
「それじゃあ、帰って大丈夫よ」
「はい。さよなら」
「ええ、気を付けてね」
その日は軽く挨拶をしてから、ボクは家路に就いた。
そして、週末の朝。
「依桜君、今日はよろしくね。時間は昼休み。授業が終わったら、軽食を持って放送室にお願いね。一応、各教室のテレビで中継を流すつもりだから」
「て、テレビですか?」
「ええ。その方が面白いかなと」
わざわざテレビを使って、お悩み相談をするなんて……すごいね。
まあでも、回答者の顔が見えたほうがいい、と言う点はあるかも。
その方が、真剣にやっていると言うのがわかるしね。
……まあ、大丈夫かすごく不安だけど。
学園内だけとはいえ、テレビに出るとなると、ちょっと緊張する。
一応、エキストラと言う形で、一度出てはいるけど、あの時はまだ映ることはなかったから、そこまで気負わなかったけど、今回はすでに映っている前提でのテレビだから、さすがに緊張する。
だ、大丈夫かな?
「それで、お悩みに関しては、学園のHPで募集したから、放送室にタブレットを置いておくので、それを見てね」
「わかりました」
紙じゃないんだ。
ボク的には、紙の方が好きなんだけど……電子の方が、多く見れるし、コンパクトだから便利だもんね。
と言っても、ボクは本を買う時は、紙だけど。
電子書籍はあまり好きになれない……。
「それじゃ、今日はよろしくね」
「はい」
簡単な朝の打ち合わせはこれで終了となった。
あとは、昼休みになるのを待つだけ。
そして、いつも通りに授業は消化されていき、四時間目が終了。
「それじゃ、ボクは放送室に行ってくるね」
「お、そういや今日だったっけか」
「頑張ってね、依桜。ちゃんと、テレビで見とくわ」
「頑張ってね!」
「リラックスしてやれよ」
「うん。それじゃあ、行ってきます」
みんなに応援されながら、軽食類を持って、放送室に向かった。
「始めまして! 私は放送部部長、二年の
「一年の、男女依桜です。今日はよろしくお願いします」
「いえいえ! 今日はゲストとして参加してくださり、ありがとうございます! 本音を言いますと、まさか引き受けてもらえるとは思いませんでしたよ!」
さっきからずっと満面の笑みの豊藤先輩。
どうやら、ボクが引き受けるとは思っていなかったみたい。
変な企画だったら断っていたけど、お悩み相談なら、ボクとしてもあまり問題はないからね。
「それでは、早速始めていきましょう! 中継などは西崎がやるので、私たちは放送に専念です!」
「は、はい」
て、テンションが高いなぁ。
「ささ、こちらの部屋へどうぞ!」
そう言われて、案内されたのは、何やらラジオ局で見そうな部屋だった。
ガラスが張られており、中から、機材のある場所が見える形になっている。
こんな場所があったんだ。
中に入り、向かい合うように座る。
目の前にはマイクが。
これに向かってしゃべればいいのかな?
「さあ、始めましょう! 西崎、よろしく!」
『それでは、始めまーす! 3、2、1……スタート!』
西崎君のスタートの掛け声とともに、軽快な音楽が鳴り出す。
「学園の皆さん、ハロハロー! 今日はね、火曜日から言っていた通り、お悩み相談コーナーが設けられたよ! これが好評だったら、今後も続けていきますので、どうぞよろしく!」
あ、こういうキャラクターでやっていくんだね、豊藤先輩。
でも、さっきのを見ている限りだと、これが素なのかも。
「さあ、最初で最後になるかもしれないお悩み相談コーナー、本日のゲストは……色々と不思議は絶えないけど、その女神のごとき美貌で男女問わず魅了し続けている、一年六組、男女依桜さんです! よろしくお願いします!」
「こ、こんにちは! お悩み相談コーナーのゲストとして呼ばれた、男女依桜です。今日は、精一杯頑張りますので、温かく見守ってくださると、嬉しいです!」
豊藤先輩に紹介された後、ボクも簡単に自己紹介する。
……それにしても、魅了し続けてるって……どういうこと?
ボク、そんなことをしているつもりはないんだけど……。
「本日は特別に、各教室のテレビにて中継を映し出しますので、そちらでお楽しみください! さて、まずは一つ目のお悩みです! えー、相談者は三年生のFさんですね。『こんんにちは。実は、私には好きな人がいます。その人は、鈍感で、私の好意に気づいてくれません。お互い三年生で、卒業も近いです。どうしたらいいでしょうか?』とのことです。なるほど。記念すべき最初のお悩みは、どうやら恋愛のようですね!」
恋愛事……。
ボク自身、割と無縁だけど、頑張らないと!
「それでは、色々と考えていきましょう。依桜さんはどう思いますか?」
「そう、ですね。鈍感なら、まずはストレートに言ったほうがいいんじゃないでしょうか? どういった感じにアプローチをしているかはわかりません。ですが、それが遠回しじゃないのなら、真っ直ぐ、自分の気持ちを伝えるべきだと思います」
「なるほどなるほど。でも、恥ずかしいから、怖いから、と言う理由で直接言えないのでは?」
「そうですね。その気持ちはきっとあると思います。ですが、Fさんは三年生です。卒業も近いです。それに、二月は自宅研修期間になります。学園に来るのは稀になるでしょう。そうなれば、言うチャンスは減ってしまいます。もしも、その気持ちが強く、恋人になりたい! と思うのでしたら、自分の気持ちを相手に伝えましょう。たしかに、フラれるのは怖いかもしれないですが、一歩を踏み出せなければ、後悔しか残りません。それを引きずって生きていく方が辛いはずです。だから、悔いがないようにするべきだと思います」
ボクが思ったことを言った。
本音を言うのは大事。それは、向こうの世界で嫌と言うほど知ったからね。
その言葉を言えずに、戦争に赴き、言えずに亡くなった人たちを、ボクは多く見てきた。
そうなれば、後悔を抱いたままになって、幽霊になる、ということも、
だから、恋愛事も同じかな、って。
……ま、まあ、こっちの世界では、戦争は無縁だけど。
「なるほど……。依桜さんの言葉には、妙に重みがありますね! でも、たしかに依桜さんの言う通りですね! 私としても、当たって砕けろ! ですね。やっぱり、乙女的には恋愛は大事ですよね!」
「ボクは、元々男だったのであれですけど、たしかに大事ですよね」
「あ、そう言えばそうでしたね! では、いい感じに依桜さんの意見が出たということで、依桜さん、まとめの回答をどうぞ!」
「そうですね……。他人事に聞こえるかもしれませんが、まずはぶつかってみること、ですね。Fさんの進路がどうかはわかりませんが、少なくとも、卒業後の進路はバラバラです。ですので、悔いがないよう、自分の気持ちを伝えてみてください」
「はい、Fさん、そう言うことらしいので、是非是非、意中の相手に愛の告白をしてくださいね!」
ふぅ……なんとか、一つ目できた、かな。
やっぱり、恋愛はしたことがないから難しいよぉ。
「ところで、依桜さんは、恋愛に関してはどうなんですか? 好きな人とか、気になる人とか」
「ボクですか? う~ん……今は、恋愛をしようとは思わない、ですね」
「ほほう。それはどうして?」
「えーっと、その……ボクの場合、元々男だったと言うのもあって、どっちと恋をすればいいのかなー、って。中身は、実際男、ですからね」
「ふむふむ。言われてみれば、そうですね。たしかに、難しい話です。まあ、きっと心の底から好きになれ人が現れますよ!」
「そう、でしょうか?」
「ええ、ええ! 依桜さん、可愛いですからね! きっと、男女両方から好意を寄せられるはずです!」
「あ、あはは、それはさすがにないと思いますよ」
まあでも、豊藤先輩のいうことには一理ある、かな。
もしかすると、心の底から好きだと思える人が現れるかもしれない。
……それに、それが未果たちである可能性がある、かも。
……ない、かな。
「いえいえ、可愛いですからね! モッテモテですよ! ……と、雑談はこのくらいにして、次の質問に行きましょう! 続いての相談者は、二年のOさんですね。『こんにちは。俺、全然モテないんですよ。だから、どうやったらモテるんでしょうか? やっぱり、顔ですか? 顔なんですか?』とのことです。……なるほど。男子ですねぇ」
「あ、あはは……」
なんだか、態徒に近いあれを感じる。
「それでは、議論しましょう。えーっと、モテたいですか。まあ、高校生の男子らしい悩みですね。モテたい……たしかに、顔、と言う要素はありますね。女子的な視点からすると」
「ず、随分、はっきり言いますね」
「いやいや、実際そんなもんですよ? 男子だって、好きなタイプは? と訊かれて『優しい人』って言う人がいると思いますけど、そうは言っても大体顔ですよね?」
「う、う~ん……」
どうしよう、ちょっと否定しづらい。
晶と態徒以外の友達は、みんな、『顔。もしくは、スタイルがいいか』って言ってたし……。
ボク自身は、性格で選びたい。
だって、どんなに容姿が良くても、中身が良くないと、付き合っても辛いだけだもん。
「うーん、ボクの昔の友達が言うには、『結局、女は金だよ金。顔が良くなくても、金持ちなら誰でもいい』って言っていましたけど……」
「あー、まあ、正直ないわけではないです。でも、そこまで露骨な性格ブスはなかなかいないと思いますよ」
「まあ、その人が言うには、ですからね。でも、モテたい、ですか……。とりあえず、ボクが思うのは、まず清潔感ですね。それから、気遣いができたりすると、いいかもですね。あとは、嘘を吐かず、誠実でいることです」
「お、おぉ、結構まともな回答……。でも、たしかに依桜さんが言うように、清潔感と誠実さは大事です。噓つきとは付き合いたくもないですしね。それに、清潔感もないと、ちょっと、って思いますからね。それでは、結論が出たということで、真と目をお願いします」
「Oさん。モテたいのでしたら、外と中を磨きましょう。その中でも、気遣いができる優しさ、誠実さを磨きましょう」
「シンプルですが、割といい回答ですね!」
いい、かはわからないけど、これくらいしか言えないけどね。
だって、モテたいと思ったことないもん。
「それでは、次の質問に行きましょー! さて、次の質問は……一年のBさんですね。『こんにちは! 俺には彼女がいるのですが、最近、なんだか腐ったような視線を向けてくることがあります。あれは、何なのでしょうか? 最近、彼女の家に行った際、『謎穴やおい』と言う作者の同人誌が出てきて、しかもそれがBL本でした。俺はどうすればいいですか?』とのことです」
え、ええぇ……。
ま、また女委?
一体、この学園には女委の本の愛読者がどのくらいいるの?
「私から言えることは一つ……BLも愛です! 否定してはいけません! 彼女さんは腐女子かもしれませんが、それはなるべくしてなったのです! 彼氏さんだって、百合ものの同人誌が目の前にあれば、見ることでしょう! つまり、そう言うことです! なので、このお悩みの回答は……あくまでも趣味です! 許容してあげましょう! それから、腐ったような視線は、腐女子の習性です! 安心してください!」
……ま、全く安心できないような……?
で、でも、このお悩みに関しては、できれば関わりたくないので、ちょっと安心。
「さあ、次です! こちらは二年のDさんからです。『女神様の下着の色を教えてください』だそうです」
「ふぇえ!?」
何その質問!?
なんで、ボクの下着の色!?
「それで、何色ですか?」
「あ、え、えと……い、言わないと、ダメ、ですか……?」
「私的には聞きたいところです! それに、これはお悩みです! 答えていただきたいものです!」
「うっ……」
そ、それを言われると……。
た、たしかに、これもお悩み……いや、これってお悩みなの?
そもそも、下着の色が聞きたい、って悩み?
お悩みって、もっとこう……○○なんですが、どうすればいいですか? みたいなものを指すんじゃないの?
「それで、何色ですか?」
「……そ、その…………い、言えませんっ! 恥ずかしいですぅ! 次! 次お願いします!」
「えー、拒否されたので、次に行きます。Dさん、頑張って想像してください。えー、では次……三年、Aさんから。『女神様のスリーサイズを知りたいです』だそうです」
「なんで、ボクなの!? スリーサイズなんて聞いても、何も嬉しくないよね!?」
「それで、スリーサイズは?」
「え、えっと……下着の色よりはいい、かな。えっと……上から、87、55、82、です」
「その胸の大きさでそのウエストは反則じゃないですか? う、羨ましいっ!」
そ、そんなに羨ましい?
ボクは基準とかまったくわからないし……すごいのかすごくないのかわからない。
「次です次です! 次は、一年Hさん。『こんにちは! 女神様の好みを訊きたいです』とのこと」
「だから、なんでボクに対してばかりなの!? ねえ、そんなに気になる!?」
結局、この後のお悩みも全部、ボクに関する質問でした。
答えられるものは答えたけど、無理なものは流しました。
……なぜか、『下着の色』や『どんな下着をつけてますか?』みたいなものが多かったのは、本当に呆れるほかなかったです。
そんなこんなで、ある意味酷いお悩み相談コーナーは終了となった。
何かと好評を博し、放送部の看板企画となったそうです。
……できれば、もう出たくないです。
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