第475話 ハイテクな当日の警備体制

 それから一週間ほどが経過し、今日から五、六時間目が学園祭の準備に充てられます。


 先週したことと言えば、お化け屋敷のマップや必要なオブジェクト、それからそれらの数と、お化け屋敷のストーリー等など。


 ボクたちのクラスは、『New Era』を用いたものになるので、先にこっちを決めておかないと、女委が準備に入れないからね(九月最初の土曜日からやる! って言ってたけど、さすがに内容が決まってない状態じゃ無理だったみたいです。


 なので、準備に関しては、基本全員で話し合って決めました。


 まあ、月曜日はボクは会議に出ていたからわからないんだけどね。


 火曜日から参加して、水曜日に終わり。


 残った二日間は、お化け屋敷の中の人のシフトを決めてたくらい。


 ただ、いくら女委とはいえ、モデリングをするわけだから、四日で出来るのか不安だったんだけど、女委曰く、


「ふっ、わたしだけじゃなく、わたしのお店の従業員の中に、そっちに明るい人……というか、趣味でプログラミングやらモデリングやらをしている人が数名いるからね! だから、月曜日には余裕で間に合うZE!」


 だそうです。


 とはいえ、私情に巻き込むので、その分の給料は出るとか。


 福利厚生しっかりしてるね、本当に。


 そして、女委が言った月曜日――つまり今日。

 ボクたちのクラスは、あらかじめ申請しておいた『New Era』で女委が作った世界へ入り、


「どうよ!」

『『『おお―――!』』』


 その出来栄えに感嘆の声を漏らしていました。


 ……ボク以外は。


「……あ、あの、め、女委? な、なんかすでに、こ、怖いんだけど……」


 視界の先に広がる光景に、ボクはびくびくしていました。


「そうかなー? まあでも、結構薄暗い雰囲気にしたからねぇ」


 目の前に広がるのは、葉が全部落ち、絶妙に朽ちた木が並んでいる小道。


 その先には、海外にあるタイプのお墓があって、さらにその先には大きな病院がそびえたっていた。


 しかも、雰囲気を出すためか、薄く霧が出てるし、何より薄暗い。


 それに、屋に見える病院なんて、所々外装が剥げてる上に、ぼろぼろ。


 うぅ……。


「一応、まだ何も配置してないし、用意したのはほとんど張りぼてなんだけどねぇ。お墓だって、ただそこに墓石を置いただけだし、霧もとりあえず発生させただけ。奥にある病院なんて、外装だけで、中身はまだな~んにもないんだよ」

「ほ、ほんとに……?」

「おうともさ。お化けが出てくることはないよー。それに、用意するのは基本的にお化けと言うより、殺人鬼とか、人体実験の被験者にさせられた人とか、ほとんど肉塊となっている人間だった物とか、そういう実体のある人ばかりだからねー」

「……そ、それなら安心かな……」


(((お化けはダメで、化け物はOKなのか……)))


「それで、これから何をすればいいのかしら?」

「おっとそうだった。えーっとだね、とりあえず建築担当とデザイン担当の人たちしゅーごー!」


 女委が手を挙げながらそう言うと、女委の回りに建築担当とデザインの人たちが集まった。


「今からオブジェクトの配置を始めるよ! お化け屋敷に必要かなと思ったオブジェクトとかは全部用意してあります! みんなで話し合って、来る人全員をちびらせちゃうほどのこわ~いお化け屋敷にしよう!」

『『『おー!』』』


 ……そ、そこまで怖くしなくてもいいと思うなぁ、ボク……。


「あと、デザイン担当! 諸君らには現場監督になってもらいます!」

『現場監督って言っても、なにすりゃいいんだ? 腐島』

「それは簡単! 建築担当の人たちを四等分にするんで、各グループに一人ずつ入ってほしいのさ! そして、アイディアをまとめて、指示して欲しい!」

『なるほど、そういう感じか……。おし、了解だ!』

『そういうのやったことないけど、頑張ってみる』

「頼んだぜー。そんじゃあ、君から君まではお墓をお願いします。で、君から君は病院内の一階の担当! 二階は君から君ね! で、あと残った人が三階だ! なるべく、脅かしスポットが被らないよう、連絡を取り合ってね! と言うわけでそれの防止するためのインカムどうぞ!」


 女委、そんなものまでプログラミングしてたんだ。

 ……どうなってるんだろう、本当に。


「それじゃあ、散開!」


 女委のその宣言と共に、各グループの建築担当の人たちがそれぞれの持ち場へと移動していった。

 あと残ったのは、建築・デザイン以外の担当。


「……ま、あっちは女委に任せればOKでしょ。それじゃ、他のメンバーもそろそろ行動を始めましょうか。とは言っても、私たちはこっちの世界じゃなくて、リアルの方での作業だけどね。だから、ささっとログアウトするわよー」

『『『へーい』』』


 なんだか残念そうでした。



 現実に戻り、ボクたちは作業を始める。


 と言っても、ボクとエナちゃん、それからクラスメートの深山さんと鈴木さんの二人は受付という、特に準備らしい準備がない役職なんだけどね。


 とはいえ、それでもやることはあるので、軽く話し合い。


「それじゃあ、ボクたちの方も、少し準備を進めよっか」

『それはいいんだけど、具体的に何をするの?』

『そうそう。私たちって受付でしょ? 本番当日まであまりやることがないと思うんだけど……』

「それはそうなんだけど、一応受付時のセリフとかを考えておこうかなって。こう言うのって、マニュアルがあると便利だしね」


 異世界での経験からくるものだけどね。

 と言っても、その経験って言うのは、冒険者ギルドの受付だけど。


「それもそうだね! でも、どういうことを言えばいいのかな? うち、出演者側だから、こういうの経験ないし……」

『私もないかな』

『わたしも~』

「普通はないと思うよ? 強いて言えば、吹奏楽部のように、定期演奏会なんかで受付をする時くらいじゃないかな?」

『たしかに』

『あの部活って、結構外部の人との接触が多いもんね。うちの吹奏楽部ってかなり強いって聞くし』

「へぇ~、そうなんだ! どれくらいなの?」

「資料で見た限り、過去に何度か、全国で金賞を取ったことがあるみたいで、今年も全国に出て銀賞だったみたいだよ?」

「それはすごいね!」

『まー、吹奏楽部だけが強いと言うより、うちの学園の部活、大抵強いみたいだけどね。設備は整ってるし、一応スポーツ関連での推薦とかもあるみたいだし』


 この学園、それなりの進学校だからね。

 スポーツ特待生と言う枠も一応存在しているし。

 ボクたちには関係ないから、全然話題にしてこなかったけど、各年に数人いるとか。

 ボクたちの学年はたしか、三人だったかな。


「えーっと、話が脱線してるから、戻そっか」

『あ、ごめんごめん』

『いくら特に準備がないと言っても、真面目にやらないと怒られちゃうね、未果ちゃんとかに』

「さすがに怒らないとは思うけど……」


 未果だって、一応受付の準備のなさは知っているはずだし。


 そう言えば、去年は料理担当で、かなりやることがあったけど、ことしはその間逆みたいになってるような気がするよ。


 やること多かったからね、あの時は。


『そう言えば、依桜ちゃんは受付の経験とかあるの?』


 ふと、鈴木さんがそんなことを尋ねて来た。

 深山さんも同じ疑問を持っていたのか、興味津々な表情でこっちを見て来た。

 エナちゃんだけは、事情を知っているからか、ちょっと笑ってるけど。


「ま、まあ、ちょっとだけある、かな」

『そうなんだー! どんなことしたの?』

「あ、え、えーっと……」


 な、なんて答えよう……?

 さすがに、


『異世界で冒険者ギルドの受付をしてました!』


 なんて言えないし……。


 というか、そんなことを言ったら、ボクは中二病とか、電波系な人だと思われちゃうよ。


 それは普通に嫌。


 ……まあ、魔法や能力、スキルとかが使える時点で、中二病も何もあったものじゃないと思うけど。


「ちょ、ちょっとしたお店での受付、かな……?」

『お店!? もしかして、ホテルとか?』

「ま、まあ、そんな感じ」

『すごいなぁ。じゃあ、依桜ちゃんがいれば問題なさそうだね!』

「そうは言っても、ボクだって何でもできるわけじゃないよ……? 問題ない、なんてことはないと思うけど」

「でも依桜ちゃん、早速生徒会の方で活躍したって聞いたよ? なんでも、会議が例年異常にスムーズに行ったとかなんとか」

『あ、それ私も聞いた』

『わたしも』

「あ、あれは副会長の西宮君とか、他の人たちが円滑に進むようにしてくれただけであって、ボクが活躍した、なんてことはないと思うけど……」


 したことと言えば、少しは円滑に進むように、っていう意味も込めて、あらかじめ資料を作って配布したくらいだし……。


 ルールに関する部分だって、そんなにすごいことを書いたつもりもないんだけど……。


『依桜ちゃんの謙虚さって、たまに異常だよね』

『たまにと言うか、いつもじゃない?』

「まあ、依桜ちゃんだもんね。仕方ないね」


 ……あれ、なんでボク、呆れられてるんだろう。


「……と、とにかく、ある程度のテンプレートは作っちゃお? とは言っても、本当に基本的なセリフしか書かないけど」

『いやいや、それだけでも十分十分!』

『むしろ、あるだけでありがたい』

「そう言ってくれると、安心かな」


 ボクが書けるのは、あくまでも普通のことだけだからね。


 と、こんな感じで四人でテンプレートを作成し始めました。



 それから一時間ほどで、大まかなテンプレートは完成。


「とりあえずはこんなところかな? 今回、エナちゃんという人気アイドルが受付にいることになるけど、お化け屋敷に入る目的以外での接触があったら、追い返しちゃっていいからね」

『『『はーい』』』

「それと同じで、お化け屋敷には入るけど、握手がしたい! とか、サインが欲しい! って言ってくる人も現れると思うから、その場合は断っちゃってね、エナちゃん」

「うん! 一人でもOKしちゃったら、色んな人が押し掛けることになっちゃうもんね。それに、あくまでもクラスの出し物がメインなんだからね! うちだって、こういう時は断るよ!」

「それならよかったよ」


 エナちゃん、結構ファンサービス精神が旺盛だから、あらかじめ言っておいたんだけど、どうやら杞憂だったようで何より。


 だって、以前のプールでのイベントだって、本来ならエナちゃんレベルの人気アイドルになるとやらなさそうなお仕事なのに、それをOKして、その上心の底から楽しみながら、同時にファンの人たちを楽しませようとしてたんだもん。


 でも、ちゃんとエナちゃんの中にも線引きがあってよかった。


『でも、万が一しつこい人とか強引な人が来たらどうするの?』

「一応対処法はあるよ。今年から学園祭の変更点が結構あるからね。それに合わせて、学園祭中の警備をちょっと強化しようかなと思っててね。風紀委員会の人たちや、教職員の人、それだけじゃなくて、一応警備員を雇おうかなってなってるの」

『そんなことになってたの!?』

「この学園は良くも悪くも目立ってるからね。あと、単純に設備が良かったり、しっかりとしたカリキュラムが組まれているから、結果として社長令嬢や、御曹司の人なんかも在籍しているみたいだからね。まあ、この辺りは高等部と言うより、初等部と中等部の方なんだけど……って、どうしたの?」

『いやいやいやいや! え、何? うちの学園にそんな人たちがいたの!?』

「あ、うん。みたいだね。ボクも生徒会長になってから知ったんだけど、去年の学園祭がきっかけでかなりの入学希望者や編入希望者が来てたらしくて。その中に、そう言った、所謂上流階級と言われる人たちの子供もいたみたいだからね」

『いつからそんな恐ろしい学園になったの……?』

『……まあ、エナちゃんが来る時点で色々とあれだけどね』


 そうだね。


 ボクもこのことを知った時は驚いたし、何よりこの学園にそんなすごい人たちが入学、もしくは編入してくるとは思わなかったもん。


 というか、してたんだね、っていう気持ちの方が強い。


 たしか、初等部と中等部の方にそこそこいるっていう話だったよね?


 …………メルたち、大丈夫かな? みんな可愛すぎるし、これでもし声をかけられたらと思うと……ちょっと、なにをするかわかりません、ボク。


 ま、まあ、みんなにはまだ早いよね! 大丈夫だよね!


「それで依桜ちゃん。警備員さんっていうのは?」

「あ、えっと、女委いるでしょ?」

「うん、いるね」

「女委って、なぜか異常なまでに顔が広いでしょ? 以前だって、警備会社の社長とも知り合いだったみたいだし」

「あ、あー、そう言えばそうだね。ということは、女委ちゃんの伝手で警備員を?」

「そういうこと。一応この件は学園長先生に提案済みでね。もう契約が始まってるみたいだよ」

『じゃあ、守りの体制は準備万端、っていうことなんだね』

「そうみたいだよ」


 多分、初等部と中等部が新設された上に、社長令嬢や御曹司の人たちが入ったから、資金もそこそこ増えたんだろうなぁ……。


 だからこそ、警備員を雇う、なんてこともできたわけだと思うし。


 ……いや、学園長先生の底知れない財力から考えると、ポケットマネーでできたかも。


「それで、話に戻るんだけど、もし強引な人とか来たら、とある物を使えば解決できます」

「とある物?」

「うん。みんなは学園のアプリを入れてると思うけど、あれに『通報』っていうボタンができるの。それは、当日学園内を巡回している、風紀委員会の人や、教職員の人たち、それから警備員の人たちに連絡がいくようになっていて、スマホのGPS機能を使ってすぐに駆け付けてくれるシステムになってるの」

『なんか、何でもありだね、この学園』

『まあ、去年からその傾向があったし、これくらいは……』


 それはボクも思います。


 でも、そういったことの全ての元凶は学園長先生だからね。


「でも、依桜ちゃん。目の前でスマホを使われるのを見たら、相手も怪しむんじゃないのかな?」

「その危惧はもっともだね。でも大丈夫。実はそのアプリを常駐させておくことによって、スリープ状態でも使えるの。たしか、画面を四回タップすると通報になるとか」

「わー、ハイテク」


 本当にね。


『じゃあ、そんなに心配しなくても大丈夫ってことだね!』

「そうだね。よっぽどのことが起こらない限りは、安心していいからね!」


 自信をもって、ボクは三人にそう言った。


(……今の、そこはかとなーく、フラグな気がしたよ、依桜ちゃん)


 なぜか、エナちゃんだけはちょっとだけ微妙な表情を浮かべていました。


 なんで。

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