第474話 学園祭の会議
土日を挟んで、月曜日。
例年通りなら、学園祭は十月上旬――今年であれば、十月七日と八日の二日間で、九日に片付け日が設けられています。
そして、学園祭の準備期間は、学園祭当日から三週間前からと言う風になっているんだけど、今年から初等部と中等部が新設された関係で、さらに一週間伸びることに。
とは言っても、さすがに必要な授業日数が足りなくなると問題と言うことで、四週間前の一週間は、六時間目と放課後のみを使った準備になります。
三週間前からは例年と同じで、五時間目と六時間目を準備時間に充て、当日の一週間前からは完全に授業がなくなり、一週間丸々準備期間に。
基本的には変更点はないけど、あるとすれば準備期間が四週間前からになったことかな?
ちなみに、ルール決めのための会議だけは、この時期にやるとか。
と、そういうわけで、今日から本格的に準備が始まり、同時に生徒会でもお仕事が忙しくなります。
先週中に届いた申請書は無事受理され、個人やグループ、部活動での模擬店などの出店場所は例の学園アプリによる公平なくじ引きで決まり、これから会議が始まるところです。
「――それでは、みなさん集まったようですので、会議を始めたいと思います」
そう宣言したのは……ボクです。なぜか。
本来なら、司会進行役の人がやると思うんだけど、なぜかボクが言う羽目に。
これも、生徒会長になった影響なのかなぁ……。
……ともあれ、今は目の前のことに集中しないと。
現在ボクがいるのは、高等部の校舎三階にある、大会議室。
大きいホワイトボードの前に、生徒会メンバーが座り、その先には二重のコの字型にセッティングされた机があり、そこには学園祭に関係がある委員会に所属している人たちが座っています。
参加しているのは、ボクたち生徒会と、学園祭実行委員会(全員)、保健委員会(委員長と副委員長)、美化委員会(委員長と副委員長)、風紀委員会(委員長と副委員長)の計五つの組織です。
「初めに言っておきますと、ボクは足りない知識や経験を補うために、今までのこの学園で行われた学園祭のデータなどを記憶し、そこから様々な問題への対策を考えていますが、みなさまからしたら頼りない面もあるかもしれません。ですので、力を貸していただけると幸いです」
軽く頭を下げながら言うと、ボク以外の人たちは全員頷いてくれました。
よかった、とりあえず問題はなさそう。
「それではまず最初に、当日のルール決めです。今までのデータや、ボクも体験した昨年の学園祭を見ている限りですと、大きなところでは『過剰な客引きの禁止』、『入場料、並びに、高額な商品の販売の禁止』、『非正規での出店の禁止』、『売上金の横領の禁止』などがあります」
他にも細かい物はあるけど、毎年変わらずに設定されているルールはこれ。
「これらのルールについて、質問がある人はいますか?」
『はい』
「えーっと、野村君」
ボクの問いに手を挙げたのは、風紀委員会に所属する一年生の野村君。
今回の会議にあたり、ボクは今日この会議に参加する人の顔と学年、クラス、名前は記憶してあります。
生徒会長として、必要だと思うので。
『えーっと、今言われたルールがいまいちわからなくて、説明をお願いしてもいいでしょうか?』
「そうですね。一年生もいることですし、説明をしましょうか。えーっと、西宮君、説明してもらっていいですか?」
いきなり副会長の西宮君に丸投げだけど、さすがに全部ボクが話すのはちょっとあれなので……。
「わかりました。……では、自分の方から説明させていただきます。まず、『過剰な客引きの禁止』についてですが、要は無理矢理客を連れてきてはいけない、と言うものです。道行く生徒やお客様方に話しかけ、手を引っ張ったり、背中を押しての入店などが該当します。この学園祭では、基本的に宣伝する場所は問わず、中庭や廊下などでの宣伝はOKです。しかし、先ほども言ったように、手を引っ張る、背中を押す、と言った、相手の承諾などがない状態での客引きは禁止、というわけです」
『じゃあ、それが他校の友人や家族だった場合はどうなんですか?』
「それにつきましては、相手が嫌がる素振りや、不快感を表していなければいいです。言ってしまえば、相手を不快にさせるようなことがダメなわけですからね。それが友人同士で起こる悪ふざけ的なものであれば、まだ許容です。もっとも、相手が少しでも嫌そうにしていたらアウトですが」
親しき中にも礼儀あり、だよね。
いくら友人や家族と言っても、無理に連れて行くのはまずいもん。
とはいえ、そういう人たちだったら、大抵後で来る、みたいなことを言うから、そうそう問題になることはなさそうだけど。
「では次に、『入場料、並びに高額な商品の販売の禁止』についてです。この学園の学園祭では、売り上げに応じて、自分たちが貰える金額が変動します。その条件として、予算以上の売り上げを回収しなければいけません。そうして自分たちに還元されるのは、全体の売り上げ金額の内、30%です。この時、高額な商品を売りさばくことで、大金を得ようとする人が必ず現れます。自分たちは高校生であり、遊ぶことが多く、結果的にお金がかかります。この学園祭で臨時収入を得ようと、必死になる生徒が数多くおり、実際に成果を上げています。ですが、これはあくまでも学園祭です。つまり、学園生が工夫して、様々なものを販売したり、アトラクションを作ったりするものを披露し合い、それらを他クラスや他学年、来場者の皆様を楽しませるための物です。間違っても、お金稼ぎという手段ではありません。あくまでも、無理のない金額で楽しんで貰うことに意味があります。例に挙げてみましょう。仮に、喫茶店を経営するとして、その内のメニューにサンドイッチがあるとします。パンや材料は普通に購入し、あとは挟んだり、少し工夫をするだけです。その場合の値段は最低でも二百五十円。どんなに高くとも、六百円くらいが妥当でしょう。ですが、これを千円や、二千円などにすると高すぎます。材料が高級食材でない限り、これはただのぼったくりとなってしまいます。そうなれば、楽しむことはできません。なので、このルールがあります」
……西宮君って、一応同学年なんだけど、考え方が大人……。
それに、結構わかりやすい。
この学園祭に来る人の年代などはまちまちで、小学生の子や、中学生~高校生くらいの人、二十代の若い人や、お年寄りの人も来る。
これが社会ですでに働いている人たちならいいけど、小学生や中学生は自分でお金を稼ぐことができない。
一応、稼ぐ手段が完璧にないわけじゃないけど、それでも自分のお父さんやお母さんからお小遣いをもらっているわけなので、あんまり高額にすると、そういった人たちが楽しむことができないもんね。
そういう意味で、かなり大事なルールです。
『じゃあ、アトラクション側だと、どれくらいが妥当なんですか?』
「そうですね……高くとも千円ですね。もっとも、これはかなりのクオリティであることが条件であり、大体は五百円より少し安いか、高いくらいです」
まあ、中身が値段に釣り合っていなかったら、入りたくないもんね。
「では、次です。『非正規での出店の禁止』についてですね。これは、簡単です。申請書を提出しない状態での出店を全面的に禁止するルールです。昨年も問題になった出店がありましたが……不思議なことに、その店をしていた生徒は、所謂がり勉と形容すべき風貌になり、勉強大好き人間になっていました」
……それ、もしかして師匠がやったあれなんじゃ……。
たしか、『江口アダルティー商会』っていう名前のお店(?)を経営していた人を潰した、って前に態徒から聞いたし、多分間違いないと思う。
「このルールがある理由としましては、単純に学園側になんの利益もなく、その生徒にのみ利益が入ってしまうからです。そうなってくると、様々な問題が発生し、この学園の信用問題にまで発展しかねないため、禁止にされています」
『もし出店してしまうとどうなるんでしょうか?』
「経営していた中身によりますが、最悪の場合退学もあり得ます」
……去年のあれはセーフだったんだ。
でもあれ、世間的に見たら、ただの犯罪だよね?
……もっとも、そのお店に学園長先生も足を運んでいたわけだけど。
「と、そんな理由で禁止となっているわけです。では最後に、『売り上げ金の横領の禁止』ですね。これはもう、字面の通りで、売り上げ金を着服してはいけない。これにつきます。もちろん、そんなことをしようものなら一発退学もあり得ますし、最悪警察沙汰になりかねませんので、禁止ですね。……それでは、説明を以上とさせて頂きます。会長、あとはお願いします」
「ありがとうございました、西宮君」
「いえ、こういうのも副会長の役目ですので」
うん、頼りになるね、西宮君。
こういう人がいてくれると、組織は回りやすくなるからね。
もちろん、他の役員の人たちも頼りになるけどね。
「それじゃあ、次に行きますね。今挙げたルールは絶対に守らなければいけないものですが、次にそれ以外の細かいルール……というより、当日の動き方等を決めたいと思います。一応、必要そうなものはあらかじめ考えて、資料として簡単にまとめましたので、目を通してみてください。もし、何か不明な点や、改善点、もしくはこんなルールがあった方がいいんじゃないか、といった意見をしてもらえると助かります。それじゃあ、今から配りますので回してください」
そう言って、生徒会の庶務の人が各列の端の人に資料を配る。
それを横の人に回していき、すぐに全員に行き渡ったみたい。
『……これはまた、随分と見やすい資料だな』
『ルールだけじゃなくて、必要な理由や、万が一のことも想定されて書かれてますね』
『欠点らしい欠点も見当たらない……』
『女神会長、ハイスペックすぎない……?』
などなど、こんな声があちらこちらから聞こえて来た。
見やすいと思ってもらえているみたいでよかった。
でも、欠点はさすがにあると思うし、ボクがやっているのは、自分にできる事だけなんだけど……そんなにハイスペック、なのかな?
ちなみに、今渡した資料に書かれていることを簡単にまとめると、『緊急事態における避難誘導と避難場所』、『混雑時の誘導方法』、『喧嘩やいざこざが起こった場合の対処法』、『ミス・ミスターコンテストにおける、一般客、及び生徒の撮影の禁止』、『数か所の救護テントの設置』、『学園内の立ち入り禁止場所』、『緊急事態に備えてのAEDの設置場所』、とこんな感じ。
去年のことや、万が一の場合を想定した時のものが多くなってる感じかな。
「とりあえず、これらは必要だと思ったのですが、何か意見はありますか?」
そう尋ねてみるも、特に手を挙げることはなかった。
「あ、あの、何でも言ってくださいね? さすがに、どこか穴がある場合があるかもしれませんし、何か見落としていることがあるかもしれないので」
「いえ、特に必要はないかと」
「ど、どういうことですか?」
「会長が考えたルールは、特に穴が見当たりません。イレギュラーなことが発生した場合の対処法も書かれています。しかも、わかりやすく丁寧に書かれているので余計ですね」
「そ、そうですか? ボクとしては、まだなにかあるような気がしてならないんですけど……」
「特に問題はないかと。それにですね、この学園に通う生徒は基本的にお祭り好きという面があります。何が問題か、ということはしっかりと考えられると思いますよ。一応、進学校でもありますので」
そう、なのかな?
まあでも、去年学園祭を回っている時とか、テロリストが襲撃してくる以外は特に問題が起こってなかった気がする。
そう考えると、あまり細かいルールは決めなくてもいいような気がするし、今回ボクが提案したものでも問題ないような……?
「え、えーっと、特に問題がないようでしたら、次に行きたいんですけど……いいですか?」
そう尋ねてみると、参加している生徒の人たち全員が頷いた。
ほ、本当に大丈夫なのかな……?
「わ、わかりました。それじゃあ次に。……えーっと、次に話し合うのは、各期間の役割分担です。この学園の学園祭はかなり大きなものです。ですので、何か問題が起こらないとも限りません。ですので、巡回をするわけですが……これらは、実行委員会の二割の人たちと、風紀委員会の人たちにお願いしたいんですけど、大丈夫ですか?」
『問題ないです』
『任せてください』
「それならよかったです。ただ、今年から初等部と中等部が新設されたので、回る箇所が多くなっています。中等部は、風紀委員会の方から六名ほど選出して、各学年のフロアに二人ずつ巡回に行ってください。その際、各クラスの学級委員の人たちも巡回に参加することになっていますので、その人たちをリードしてあげてください」
『わかりました』
「初等部は、向こうの先生方が見てくれるそうなんですけど、一応各学年に一人ずつ、計六人、向こうの巡回に行ってください」
『はい』
「ただ、巡回ばかりですと、自分のクラスの準備が遅れてしまうかもしれないので、日替わりで巡回にあたるよう、お願いします。この辺りのシフトについては、両委員会で話し合って決めてください」
『えーっと、質問いいですか?』
「あ、はい。どうぞ」
初等部と中等部の巡回についての簡単な説明を終えると、実行委員会の人から質問があった。
こうやって質問があると、素直に嬉しい。
『風紀委員長はわかるんですけど、なんで実行委員会の方も巡回に参加するんでしょうか?』
「それについては簡単です。まず、初等部と中等部は今年新設された新しい部です。そして、学園祭という大きなイベントに参加するのは今年が初でもあります。中には、高等部に通う人たちの親類の子たちがいて、その関係で学園祭を知ってるいる子がいるのはたしかです。ですが、さすがに全員がそうとは限りません。知らないことは大人に訊く、という考え方を子供はします。でも、先生方は一応新しく赴任してきた先生がほとんど。質問に答えられない場合があります。そこで、実行委員会の出番と言うわけです」
『じゃあ、つまり、初等部や中等部の生徒が学園祭について質問できるようにするため、ということですか?』
「その通りです」
『なるほど、わかりました! 質問に答えて頂きありがとうございます!』
「いえいえ」
もやもやがなくなった! と言わんばかりのスッキリとした笑顔を浮かべて質問してきた人が座る。
よかった、上手く説明できたよ。
見た感じ、一年生、だよね?
今年が初めての学園祭なんだから、さっきのような疑問を持っても不思議じゃないよね。
例年通りであれば、風紀委員会だけでよかったんだけど、さすがに初等部と中等部が新設されちゃったからね。
こうなると、説明用の人が必要になってくるもん。
そこには、実行委員会の人たちが適任と言うわけです。
生徒会も、結構学園祭には関わっているけど、それでも実行委員会ほどじゃないということを知ったからね。
生徒会はどちらかというと、書類仕事や、学園祭内でのイベント用ステージの設営や、それらの指示などが多いみたいだし。
「それでは次に――」
それから、会議は恙なく進んでいき、
「――では、これにて学園祭に関する会議を終わりにします。もし、何か不明な点等があれば、遠慮なくこちらに相談しに来ていただいて大丈夫ですので、その時は遠慮しないで来てくださいね。それではみなさん、お疲れ様でした」
『『『お疲れ様でした』』』
この日の会議は終了となりました。
なんとか進行できてよかった……。
やっぱり、異世界での経験が生きてるのかも。
この辺りは、感謝しかないです、本当に。
とりあえず、生徒会側のお仕事は一旦終了になったし、明日からは出し物の準備を頑張らないとね!
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