第473話 生徒会業務開始

『女神会長、こっちのチェックもお願いします』

「あ、うん。じゃあ、そっちの方に置いておいておいて。それから、こっちの書類は終わったから実行委員会の方に持って行ってね。あと、女神会長はやめてもらえると……」

『了解です、女神会長! では!』

「もう……。えーっと、他にクラスから申請書とか来てませんか?」

「中等部の方から、まとめて申請書が来てます。初等部の方は、明日来るそうです」

「わかりました。じゃあ、中等部の方は全部判子を押しておきます」


 ボクのクラスの出し物が決まり、その日の放課後。

 ボクはと言えば、見ての通り、生徒会長としての業務をしていました。


 学園祭期間に入ったため、やることは基本、クラスの出し物の承認等に関すること。


 それ以外は、学園祭当日の動きやルールなどを、全部の委員会との合同会議で決めたりなどなど、色々とある。


 今しているのは、出し物の申請書のチェック。


 不透明な部分があれば、そこに赤チェックを入れて、何がダメだったかを記載。


 問題ないようであれば、承認のハンコを押して、許可した旨を記載した紙をクラスに渡すといった感じ。


 初めてのことで、多少なりとも緊張しているけど、他の生徒会の人たちが上手くサポートしてくれているおかげで、特に滞りなくできています。


 ……まあ、どういうわけか、『女神会長』とか呼ばれてるんだけど。


 せめて、普通に苗字とかで呼んでほしいんだけど、直してくれそうにないんだよね……。


「高等部で、まだ申請書が出されていないクラスは、あとどれくらいありますか?」

「一年生は五組を除いた全クラス。二年生は、一組と六組が。三年生はすでに提出済みです」


 今現在、ボクに色々と教えてくれているのは、生徒会の副会長である、西宮君。一応同い年なんだけど、どうにも生徒会の人たちには敬語で話しちゃうんだよね……。


 ボクが途中参加みたいなものだからかな。


 ちなみに、西宮君は眼鏡をかけた線の細い人だけど、普通にカッコいい人です。

 知的な雰囲気が特徴で、結構モテてるとか。


「ありがとうございます」


 ということは、高等部は半分以上がすでに申請書を提出済み、と。


 ……残る問題は、


「クラスの出し物以外にも、部活動と個人から来ています」


 これなんだよね。


「えーっと、どれくらい来てますか?」

「そうですね……部活動ですと、文化部は全部。運動部は、半数近くが提出されています。個人ですと、大体七十二組ほど」

「け、結構多いんですね……」

「いえ、これでもまだ少ない方です。去年は、百以上ありましたので」

「これで少ないんだ……」


 さすが、お祭り好きが多く在籍してる学園。


 個人だけでも結構な申請があるんだね……。


 となると、必要になってくるのは、区画の割り振りと、避難経路の確保、かな。


 避難経路の確保に関しては、向こうの世界で散々やったから問題ないとして、区画の割り振りは大変そうだなぁ……。


「あの、区画の割り振りってやっぱり、揉めたりする、んですか?」

「んー……まあ、揉めますね」

「や、やっぱり……」


 この学園の学園祭と言えば、一年を通して最も大きなイベント。


 しかも、学園側から下りた予算よりも多く稼ぐことができれば、その分の収益を自分たちの収入にすることができるという、学園生にとって、とてもありがたいイベント。


 学生は、何かとお金が必要になることが多いからね。遊びと言う面で。


 ボクは別に困ることはないけど、本来なら、一般的な学生が所持しているお金は、多くとも十万円ちょっととかそれくらい。


 アルバイトをして、使わずに貯めていれば、かなりの額になってはいそうだけど、それでもそう多くはないと思う。


 そんな中、学園が催す楽しい行事でお金が稼げるとあれば、当然大多数の人が本気を出して稼ごうとするはず。


 それに、部活動も臨時で部費を手に入れることができるからね、この行事。


 一番稼ぎやすいのは、飲食店系。だから、個人や部活動の出し物の大半は飲食系のお店になると思うから、結果として立地はかなり重要なポイントになってくるわけで……。


「一応、クジ引き、なんですよね?」

「そうですね。公平になるよう、クジ引きです。今年から……と言うより、今学期から学園のアプリができたので、そっちでクジ引きをすることになるようです。出し物の許可証にQRコードを記載するみたいですよ」

「あ、もう有効活用してるんですね」


 さすが学園長先生。抜け目ない。

 でも、たしかにあのアプリは行事系に対してかなりよさそうだよね。

 何かと使えそうだもん。


「はい。ちなみに、締め切りを金曜日までにしたのは、土日を挟んでそれらを入力して行くから、らしいです」

「な、なるほど……」


 あの人、そんなことをしているから寝る時間が少ないんじゃ……。


 ま、まあ、生徒の為に全力でやってくれているから、すごくありがたいんだけど、もう少し休みを設けてもいいんじゃないかなぁ……。


『女神会長! 追加の申請書です!』

「あ、じゃあそっちに置いておいて。あと、それってどこからかな?」

『運動部ですね!』

「できれば、それがどこの部活かを教えてもらいたかったけど……まあいいです。じゃあ、こっちの方に積みあがってる申請書は、全部許可済みなので、こっちも実行委員会の方に持っていてくれるかな?」

『ちょっ、速くないですか!?』

「こういうの、ちょっとだけできるんですよ」


 嘘です。本当は、『瞬刹』と『身体強化』を使ってます。


 だって、これだけの量を、素のスペックでやろうとすると、かなり時間がかかっちゃうんだもん。


 そうなれば、メルたちとの時間が減っちゃうもん。


 今のボクは、メルたちとの時間がなによりも大事なのです。


 だから、この二つを使えば、処理速度は段違いになって、かなりのペースで処理ができるからね。


 ちょっと頭痛はするけど、それでも、メルたちのために早く帰ることができるのであれば、全然気にするほどじゃないですとも。


 実際、他の人と会話しつつも、ぺたんこぺたんことをハンコを押していってるしね。


「……よし、とりあえず、これで今日来ていた申請書のチェックは終わりました」


 ぺたんこぺたんことハンコを押していったり、不備があればチェックマークを入れるなどを続けていると、それなりにあった申請書は全部なくなっていた。


「お疲れ様です、女神会長」

「あの、だからその女神会長はやめて頂けると……」

「終わったのであれば、女神会長の今日の業務はお終いですね。後は、こちらの方でやっておきますので、その内容については別途まとめた紙を後日渡します」

「スルーなんですね……まあいいです。とりあえず、わかりました。それでは、ボクはお先に失礼しますね」

『『『お疲れ様です』』』

「みなさんも、頑張ってくださいね」


 にっこりと微笑みながらそう言うと、


『『『はいっ!』』』


 すごくいい返事が返ってきた。


 お、おぉ、やる気に満ち溢れてる。


 そんなに好きなのかな、このお仕事。



 翌日。


「会長、とりあえずこっちが初等部の書類です。で、こっちは昨日までに来ていなかった高等部の各クラスの申請書です」

「ありがとうございます。じゃあ、早速確認しますね」


 昨日と同じように、放課後に生徒会室に顔を出したボクは、役員の人から書類を受け取ると、その日の業務を開始。


 と言っても、やることは昨日とほとんど同じなんだけど……。


 申請書に目を通して、問題ないようであれば、ボクがハンコを押す。


 問題があれば、修正箇所に赤でチェックマークを入れて、それをクラスに返却、と言う形になるわけだけど……。


「うーん、こうしてみると、飲食店とお化け屋敷が多いですね」


 昨日から来ていた申請書と今日来た申請書の二つを見ていると、どうにもその二つが多いような気がした。


「まあ、その二つは毎年人気の項目ですからね。飲食店は幅が広く、オリジナリティも出しやすいですし、お化け屋敷についても、しっかりとしたものを作ることができれば、大抵はうまくいきます。ある意味では、失敗が少ない二つ、と言えますね」

「なるほど……」


 言われてみるとそうかも。


 ボクたちだって、去年は飲食店をしていたし、今年はお化け屋敷。


 クラスによって、準備の差はあれど、よほどのことがない限りは失敗しないもんね。


 ボクたちの方は、女委がいたからっていうのが一番大きいかな。

 女委は、デザインとか衣装の発注もしてくれてたもんね。


 そういう意味では、女委がクラスにいると、学園祭は結構順調にできるんだよね。


 こういう時、女委には頭が下がる思いだよ。


「そう言えば、被りが多い場合って、大抵は絞ることになると思うんですけど、この学園ではそういうのはないんですか?」

「あまりにも多すぎればさすがに絞ることにはなりますが、こんな風に全体の五分の三くらいに収まっていれば問題はありません。まあ、過去には五分の四くらいが飲食店とお化け屋敷だった時もあったそうですが……」

「そ、それはすごいですね……」


 何をどうしたら、そんなことになるんだろう。


 やっぱり、それだけお金が欲しかった、ということなのかな……?


「ところで、今の書類仕事以外だと、生徒会長ってどんなお仕事があるんですか?」

「直近の所ですと、来週の頭には会議があります。生徒会と実行委員会がメインとなり、各出し物の代表者が集まって、学園祭準備期間中のルールや、当日のルールなどを決めるんですよ」

「なるほど。それで、直近意外だと、どんなことが?」

「大体は、巡回でしょうか。問題を起こしているクラスがないかとか、違反行為をしている人がいないか、とかですね」

「そういうのも生徒会の業務なんですね」

「生徒会だけじゃなくて、実行委員会の業務でもありますけどね。さすがに、生徒会役員だけでは人手が足りませんので」

「ですね」


 この学園はクラスとか多いもんね。

 一学年七クラスだし、今では初等部と中等部が新設されたから余計に。


「あ、初等部と中等部の方も見回りとかってあるんですか?」

「一応ありますね。初等部と中等部の諸先生方に見てもらうにしても、今年からの部ですから、あまりよく知りませんしね。なので、高等部だけでなく、初等部と中等部の方も見回るんです」

「結構大変そうですね、今年から」

「まあ、仕方ありませんよ。……とはいえ、去年は今ほど仕事は進んでいないと思いますけどね」

「そうですか? ……っと、はい、確認できました。こっちはクラスに返却して、こっちは実行委員会の方へお願いね」

『あ、は、はい! 行ってきます!』

「……それで、去年は進んでいなかったとは?」

「会長の手際の良さ、ですね」

「ボク?」

「はい。会話しながら確認作業をしているのに、ペースがとても速いんですよ。しかも、不備もありませんし、指摘も的確。会長、こういったお仕事をなされていたんですか?」

「あ、あー、ちょっとだけ、ですね」

「そうでしたか。まあ、会長のおかげで、今年はスムーズに進みそうですよ」

「あ、あはは」


 ……実際は、ずる、してるんだけどねぇ……。


 早く帰るためだけに、『瞬刹』とか『身体強化』を使ってるからね。


 それに、師匠には別のことを考えながら、事務作業ができるようになれ、とか言われて、その技術を仕込まれてるもん、ボク。


 それどころか、複数作業を並行してできるしね。


 それらはこっちの世界とか、事務作業に関しては、本当に向いてると思います。


 ただ、今回はそれらの技術を惜しみなく使用しつつ、『瞬刹』と『身体強化』を併用しているので、結果的に速くできているわけで……。


 うーん、こっちの世界だと、出来ない事の方が少ないような気が。


『女神会長ー、昨日返却した申請書が戻ってきましたー!』

「あ、ありがとうございます。じゃあ、こっちにください」

『はーい!』


 役員の人から返却した申請書を受け取り、目を通す。


 返却されるような申請書というのは、大体が避難経路がしっかり記載されていないことか、もしくは出し物の内容がアバウトだったり、予算が適当だったりする時など。


 中でも、避難経路はよく見られたね。


 もし何か災害が起こった時とか、火事や事件が起こった時の為に、避難経路の確保は重要だから。何せ、人命がかかってるわけだもん。もしものための安全確保は必要不可欠。


 避難経路の確保の次に予算かな。


 出し物の内容がアバウト、ということはそんなになかったけど、それでもちょこちょこ見られたかな。


 初等部と中等部の方に関しては、ちゃんと先生方が見てくれていることもあって、全然問題なし。


 不備はなかった。


「……これはまた、不備に対するアドバイスが的確ですね」

「そ、そうですか?」

「ええ。そもそも、こう言った不備は、問題の箇所にチェックマークを付けて、問題点を軽く書くだけでしたが、会長のは何がダメだったか、というのと、こうすればいい、みたいなことが書いてあるので、再提出された申請書はかなり良くなっていますね」

「一応、過去の資料を読み漁りましたので。成功例や問題点はしっかりと頭に入っていますからね。あとは、どうすればいいかを軽く考えて、それらをちょこっと書くだけでいいんです。そうすれば、再提出にされたクラスも、問題点をすんなり理解できるようになりますからね。一年生は、来年同じようなミスをしないように、という面もあります」

「……そこまで考えているのですか」

「常に誰かを思いやる、これが一番大事だと思ってますから」


 にっこりと微笑みを浮かべながら、そう話すと、西宮君は敵わないと言った表情を浮かべた。


 いくらメルたちのために早く帰りたいと思っても、業務を蔑ろにするのはダメだもんね。


 やるからには、しっかりとやらないといけないわけで。


 責任感が大事!


 それに、女王になることに比べたら、マシなんじゃないかなぁ、というのもあるし。


 と言っても、あっちではボクに仕事はないんだけどね。


 基本的なことはジルミスさんがやってくれるているわけだから。


「……うん、問題なし。再提出分のチェックも終わったので、実行委員会の方へお願いします!」

『おおう。これはもう慣れろってことですね! じゃあ、行ってきまーす!』

「会長、早いのはいいのですが、無理とかしていませんか?」

「問題ないですよ」


 ちょっと頭痛がするくらいなら、全然無理しているわけじゃないので。

 痛みには強い方だからね。師匠に鍛えられたおかげで、その辺りは強くなりましたとも。


「そうですか。もし、何かあれば言ってくださいね」

「ありがとうございます。問題があったら、頼らせてもらいますね」


 生徒会の人たちがいい人で良かったです。



 この後、返却した申請書が再提出され、特に問題はなかったので、そのまま承認。


 それ以外にも、個人や部活動からの申請書が大量に来ていたけど、スパートをかけて、本気で作業することによって、なんとか五時前には帰ることができました。


 まだ最初の方だから問題ないけど、今後はお仕事が増えるかもしれないし、気を引き締めないとね! 油断は禁物!

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