第482話 またしても問題事

 えー、エナちゃんが出した案を実行委員会の方と学園長先生に話した結果……


『面白そうなのでOK!』


 と、両方からGOサインが出ました。


 と言うより、学園長先生の方に至っては――



「え? 何その案」

「どう、ですかね? も、もちろん、無理なら無理でいい――」

「最高ね!」

「ふぇ……?」


 ダメそうかなぁ、って思っていたら、学園長先生は喜色満面と言った様子で賛成の意味が含まれた言葉を発しました。


 …………まあ、うん、そう言えば、学園長先生でした……。


「そうよね! よくよく考えてみたら、なんでそれがなかったのかしら! 大勢の前で告白すると言うイベント……まさに青春! 胸の内から迸る、熱い想いを言葉と言う意思表示をするための物を用いて相手に、自分の好意を伝えること……OK! 準備しましょう!」

「え、いや、あの……いいんですか?」


 どうしよう、学園長先生のテンションが色々とすごいことになってるんだけど……。


 なんというか、新しいおもちゃを貰った子供みたいなはしゃぎ方と言うか……うん、なんだかちょっと、子供っぽい。


「いいに決まってるじゃない! だって昔、『未成年の主張』っていうのがあったじゃない?」

「いえ、ボクその年代じゃないんですけど……」


 仮にボクが生まれていたとしても、相当昔過ぎて、憶えてないと思うんですがそれは。


「細かいことは気にしない! 実は私、あれやってみたかったのよねー。まあ、今回はそういうのじゃなくて、色恋の方だけど」

「色恋でもかなりアレな感じですけど……」

「いいのいいの。ここでフラれても、OKを貰えても、どのみちいい思い出になるはずよ。というか、過去の失敗なんて、そのほとんどが大人になって笑い話になるようなものばかりよ」

「学園長先生的には、過去の失敗が、ボクにとって笑い話になると思ってるんですか?」

「その節は大変申し訳ございませんでした」

「……まあ、そのおかげで、メルたちと姉妹になれたわけですし、今からすれば感謝していますけどね」

「……依桜君、本当にシスコンになったわね」

「シスコンじゃないです。可愛い妹たちのお世話をするのは、当然のことですから」

「…………それをシスコンと言うんじゃ」

「違います」


 ボクがシスコンだなんて、そんなことないですよ。


 ボクがしていることは、世のお姉ちゃんやお兄ちゃんとして、当たり前のことのはずですからね。


「そ、そう。……まあいいわ。それで、さっきの案ね。私的にはすごく面白いし、承認します。それに、うちの生徒の性質上、絶対受けると思うし」

「あー……たしかに」

「でしょでしょ? だから、OKOKよ! ……ま、そんな案を依桜君が提案するとは思わなかったけどね。むしろ、反対する側じゃないの? 告白大会なんて」

「あ、あはは……ちょっとした個人的な事情がありまして……」

「へぇ? 依桜君がそう言うくらいのことなの?」

「そう、ですね。久しぶりに再会した女の子の恋路を応援したくて。……と言っても、本人の性格上、それで告白するかはちょっとわからないですけどね」


 鈴音ちゃん、内気な方だし……。


 でも、ここ一番と言う時には結構大胆になるタイプだから、意外とやりそうだけど。


「なるほどねぇ。恋路の応援のために。……となると、相手は依桜君が知っている人っていうことなのかしら?」

「知っているっていうか……ボクの友達と言いますか……」

「依桜君の? となると……小斯波君とか椎崎さん辺り? もしくは腐島さんとか?」

「いえ、その三人じゃないです」

「んー、さすがに御庭さんはありきたりすぎるし……ほかにいたかしら?」

「……あの、なんで態徒の名前が出てこないんですか?」

「え、だって明らかにモテそうなタイプじゃないし………………って、え? ちょっと待って? まさかとは思うけど、変之君なの?」

「はい」

「……あ、あははは! じょ、冗談よね?」

「いえ、全然冗談じゃないんですけど……というか、教育者として、その発言はどうかと思うんですけど……」

「だ、だってあの変之君よ!? 二年生男子の中で明らかに一番の変態と言わざるを得ない変之君よ!? 林間・臨海学校では女子風呂を除いた変之君よ!? そんな子が、誰かに好かれるって……一体何の冗談?」


 心底信じられないと言った様子の学園長先生。


 その気持ちはわからないでもないけど……やっぱりそれは、教育者としてどうなの? と思わざるを得ないんですけど……。


 ……まあ、それなりに長く一緒にいるボクたちですら、最初はそう思ったけど。


 でも、あれでもいいところはいっぱいあるし、誰か一人が態徒に好意を持っても不思議じゃないと言うか……ね?


「いえ、冗談じゃないんですけど……」

「……マジなの?」

「マジです。もっと言うなら、中学生のころからずっと想い続けてるくらい、態徒のことが好きな娘です」

「へぇ、そんな娘が……。ちなみに、可愛いの?」

「そうですね。晶が言うには、男受けするタイプって。ボクとしても、可愛い娘だと思いますよ。一途ですし、多分好きな人を立てるタイプかなって」

「そ、そこまでのレベルなのね。……まさか、変之君に対してそこまで本気で好きになれる人がいるなんてね」

「あ、あはは……正直なところ、ボクたちの方も、まさか今もずっと好きでいるとは思いませんでしたけどね」


 この辺りは鈴音ちゃんに申し訳ないかな。


 ちょっと甘く見てたわけだし。


 でも、普通に鈴音ちゃんのことは尊敬するなぁ。


 だって、中学生の頃からずっと態徒に対して恋愛感情を持っていたわけだしね。


 そう簡単にできる事じゃないと思うな。


「なるほどねぇ。……ん? ということは、その変之君のことが好きな女の子は、この学園にいるってこと?」

「そうですね。ボクも知ったのは今日ですけど」

「ちなみに、その相手の娘の名前、わかる?」

「七矢鈴音ちゃんって言う人です」

「七矢鈴音…………あー、あの娘か。たしかに、男の子からさりげなくモテそうな娘よね」


 え、もしかしてこの学園の生徒の名前とか把握してるの? 学園長先生。


「まあ、理由は概ね理解したわ。さっきの提案についても、ちゃんとスケジュール調整などもしましょう。……それに、依桜君からの案だし、私が棄却するわけないしね。迷惑ばっかりかけてるわけだし」

「自覚あったんですね」

「それはそうよ。というか、これで自覚がなかったら、私ただのサイコパスじゃない」

「……いえ、十分サイコパスだと思うんですけど」


 だって、お仕置きと称して、一人の生徒を異世界へ一週間放り出すくらいだし……。


 まあ、あの人に関しては本当に自業自得だったから、擁護する気はないんだけど。


「何気に酷いわね。……ともあれ、その案に関しては承認するから、委員会の方にも説明の方よろしくね」

「あ、そっちはあらかじめある程度の連絡はしてあります。あとは、学園長先生の許可だけだったので。ボクがOKの連絡を発信すれば、あとは生徒会と委員会のみなさんがやってくれるとのことです」

「仕事が早いわねぇ、新しい生徒会長さんは。さすが、ハイスペックTS娘」

「なんですか、その変な呼び方は……」

「私がたまーに心の中で呼んでる名前。気にしないで」

「……そ、そうですか。……じゃあ、ボクはこの辺りで失礼します」

「えぇ、頑張ってね」

「はい」



 ――こんな感じで、かなり乗り気でした。


 この学園を運営する人らしい反応と言えるけど……。


 ちなみに、学園長室を出て、すぐに連絡を送信したので、そっちの準備も進んでいます。


 と言っても、突然の提案だったから、そう早くは出来てないと思うけどね。


 それから、OKが出たことをみんなに伝えたら、


『『『『まあ、依桜(君)だしなぁ……予想通り』』』』


 って言ってきました。


 どうやら、ボクが許可を取ってくること自体は、予想できていたみたいです。


 なんで?


 ……まあ、この辺りはもう慣れた、と言いますか、何度も同じような状況になったことがあったため、すぐに受け入れることにしました。


 だって、何を言っても無駄そうなんだもん。


 それで、お仕事も終わり、ある程度の準備も終えて、ボクは帰宅。


 一応、最後に軽くクラスの方で準備を少しだけしたけど。


 そんなこんなで、今は学園から家に向かっている途中です。


 ただ、思いの外時間がかかったため、外は薄暗くなってるけど。


「とりあえず、急いで商店街でお買い物を済ませて、家に帰らないと……!」


 この時間だと、七時くらいになっちゃうかなぁ。


 うぅ、またメルたちに嫌われたと勘違いされちゃいそうだよ……。


 できることなら、そういう勘違いをされたくはないんだけど、こればっかりは仕方ないと言うか……。


 うん。急いで帰ろう。


 そう決めて、ボクはタッと軽やかに駆け出した。



 それなりの速度で走っていたボクだけど、商店街が近くなってきたところで、速度を緩めて歩きに戻す。


 これで、大体十分くらいは短縮できたかな。


 ささっと買って、家に帰らないと――


 パンッ!


 ……と思ったら、日常生活では滅多に聴かなさそうな音が聞こえて来た。


 それはまるで破裂音みたい……というか、妙に聞き覚えのある音な気がするんですけど。


 それ以前に、少し前に扱えるようになった武器と言いますか、『アイテムボックス』にその件の物が入っていると言いますか……。


 ま、まあ気のせい、だよね! 多分きっと、疲れたボクの脳が聴かせた幻聴――


 バンッ! ドパンッ!


 ……うわぁ、本当に聴こえるんですけど……。


 …………やっぱりこれ、間違いなく、銃声、だよね……?


 周囲を見回してみると、あまり気に留めている人はいなさそう。


 多分、クラッカーか何かの音だと思ってる、のかな……?


 ……ここまできたら確認しないわけにもいかない、よね?


「はぁ……ついさっき問題があったばかりなのに、どうなってるの……?」


 そう呟きながら、ボクは音の発生源に向かって走りました。



 そして、ボクが問題の場所へ行くと……


『へっ、舐めた真似してくれたじゃねーか』

『だが、ここで、テメーの命も終わりだ』

『くっ……お嬢、頭ァ……すいやせん……下手こきました……』


 なんか、任侠的な映画でしか見たことがないような光景が、路地裏で繰り広げられていました。


 状況的には、顔にいくつもの傷がある男の人が、頭や体の至る所から血を流しながら、壁にもたれかかるように座り込み、諦めの笑みを浮かべていて、その向かい側には拳銃を突き付けているガラの悪そうな男の人が三人いました。


 こ、これは、血を流している人を助けた方がいい、のかな?


 直感的には、悪い人には感じないし……


『じゃ、これでサヨナラだ。じゃあな。近いうちに、テメーんとこの奴らも地獄に送ってやるから、ま、ゆっくりしててや』


 って、考えてる場合じゃなさそうだよね!?


 今にも引き金を引きそうになっている男の人たちを見て、ボクは大急ぎで男の人たちの所へ一直線に向かい、


「はぁっ――!」


 直進中に生成したナイフで、拳銃をバラバラに切断しました。


『『『なっ――!?』』』

「すみません、痛いかもしれませんが少し我慢してくださいね!」


 三人組の方ほうが動揺したところで、ボクは大急ぎで血を流している男の人を抱えて壁を駆け上がって行きました。


『あ、テメェ! なに勝手に連れってってんだ! そいつを置いてけや!』

『クソッ、なんでチャカが切られてんだよ!』

『何もんだ、あの女……』


 なんて声が聞こえてきましたけど、無視して屋根とかを駆けて、人気のなさそうな場所へ移動し、周囲に人がいないことを確認してから男の人を下ろしました。


「あの、大丈夫ですか?」

「あ、あぁ、誰だか知らねーが、助かった……ごふっ」


 お礼を言った直後、男の人は口から血を吐いた。

 わわっ、この人結構重症だよ!?


「ちょ、ちょっと待ってくださいね! すぐに手当をしますので!」

「い、いや、俺のことは……ハァッ、ハァッ……構わねぇで、くれ……ハァ……ど、うせ、手当をした、ところで……がふっ……死ぬことにゃ、変わらねぇ、だろうから、な……ぐっ」

「いいえ、絶対助けます!」


 それに、助からないのは致命傷を負っているのと、今から病院に行こうにも遠いから治療が間に合わないからと言うもの。


 でも、ボクには魔法がある。


 幸いにも今は上級の回復魔法も使えるから。


 ……本来なら、魔法は使わない方がいいんだろうけど、目の前で人が死にかけているのなら話は別です。


 助けられる命を助けないのは、違うから。


「……『ハイ・ヒール』!」


 男の人に両手を向け、魔法を発動するための魔法名を唱えると、手のひらから淡い緑色の光が発生し、それが男の人の体をたちまち覆うと、傷を修復していきました。


 出血が多そうだけど、これくらいならあの薬がちょうどいいかも。


「き、ずが……?」

「すみません、この薬を飲んでくれませんか? もちろん、毒が入っているわけじゃないので」

「……あ、あぁ、見ず知らずの、俺を、治療、してくれたん、だ……疑うわけ、ねーさ……」

「ありがとうございます。じゃあ、ゆっくり流し込みますので、飲んでください」


 ボクは『アイテムボックス』から赤い液体が入ったペットボトルを取り出すと、ふたを開けて飲み口を男の人の口元に持って行きました。


 男の人は、ボクの言う通りに薬を飲んでくれた。


 よかった、ちゃんと飲んでくれた。


 ちなみに、今のませた薬は、異世界の薬草等で作った、増血薬です。


 これを飲めば、流れ出た血を増やすことができる、なんていうすごいものです。


「……あ? なんだ? 体の寒気やら痛みやらが引いていく……?」


 そう言うと、男の人は体を起こして、自分の体を見下ろしながら何かを確認しているようでした。

 あれかな、生きてる実感を確認してる、みたいな感じかな?


「どこの誰だか知らんが、どうやら命を救われたらしい。ありがとう」

「いえいえ、無事に回復したようで何よりです」

「……ん? 女?」

「あ、はい、一応女ですけど……」

「……すまん。さっき俺を助けてくれた……というか、今しがた助けてくれたのは、お前か?」

「そうです。たまたま銃声が聞こえて来たので、様子を見に行ったらあなたが殺されそうになっていましたので、助けたんですけど……」

「…………相手は銃を持っていたんだぞ?」

「そう、ですね」

「いやいや、そうですねじゃねーだろ!? お前、どんだけ危険なことをしたと思ってんだ!?」


 ガシッ! と両肩を掴まれて、急に怒鳴られました。


 あ、あれ?


「あ、あの、もしかして心配してくださってます……?」

「ったりめーだ! うちの世界のもんならわかるが、お前は明らかに高校生くらいのガキだろ! あぶねーことはすんじゃねぇ!」

「あ、い、いえ、ボク的には拳銃は別段脅威ではないと言いますか……あれくらいなら全然避けられますし……」


 むしろ、雷を避ける方が難易度は高いです。


「はぁ? お前は何を言って…………って、はぁ、あー、いいや。とりあえず、命を助けられたんだ。説教するってのも変な話か。……それに、考えてみりゃ、銃を持った男三人を相手に逃げきれてるんだ。信じらんねーが、不思議じゃねーか……」


 あ、あれ、なんか勝手に納得してくれた……?


 まあでも、理解してくれたのならよかった、かな、うん。


「……しかし、まさか本当に助けられてるとはな」

「え?」

「いや、お前に助けられた時、うっすらとお前の顔が目に入ってな、女神みたいな顔だったんで、ついに俺も死ぬのか、なんて思っちまったよ」

「め、女神って……」


 なんでボク、いつもそう言われるんだろう……?


「……っと、いけねぇこのことを、頭たちに伝えねーと……!」

「あ、大丈夫ですか?」

「あぁ、体の調子もいいしな。ありがとな、嬢ちゃん。きぃつけて帰れよ」


 男の人は最後にニヒルに笑うと、そのまま立ち去って行きました。


「……何だったんだろう?」


 さっきの状況が何だったのかはわからないけど…………これ、何か問題が起こる前兆だったりしない、よね?


 ……まさかね。


「っていけない! ボクも早くお買い物を済ませないと!」


 ボクはすぐに頭を切り替えて、商店街へと走るのでした。

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