第483話 学園祭一週間前

 それから、時間は更に進み、学園祭一週間前に。


 今日から授業が一切なく、本格的な準備期間となります。


 そうなってくると、学園祭に関係のある委員会や、部活動、クラス、個人規模の出し物など、かなり忙しくなってきます。


 それはもちろん、生徒会にも言えることで……


「女神会長、今日からは今まで以上に忙しくなります」

「まあ、学園祭はもう来週ですもんね。今日から、来週の火曜日まで泊まり込みも許可されますし。……ちなみに、毎年この時期は忙しくなるんですか?」


 生徒会で一番頼りにしている西宮君に去年のことを尋ねてみる。


 ちょっと気になるし。


「そうですね……去年までは、てんてこ舞いになるほど忙しくはなかったのですが、今年は例年に比べて忙しいですね」

「やっぱり、初等部と中等部が新設された影響ですか?」

「それもありますが……原因は他にもありまして」

「そうなんですか?」


 初等部と中等部が新設される以外に、何か忙しくなるような要因ってなんだろう?


「はい。去年のミス・ミスターコンテストがかなり評判になったこともそうですが……一番はやはり、会長ですね」

「え、ボク?」

「はい。何せ、会長はあの一件から超が付くほどの有名人になりましたので。それがきっかけで、この学園を志望する中学生が増えたくらいですから」

「あ、あはは……」


 そう言えば、そんなようなことを聞いたっけ……。


 なんでも、ボク目当てで入学する人がいるとか何とか。


 でも、ボクなんかが目当てって、おかしいような……まともな感性じゃないような気がするんだけどなぁ。


「……でも、ボクが有名になったくらいじゃ、忙しくならない気がするんですけど」

「直接的な理由ではなく、関節的な理由なのですが……去年のあのレベルの高いイベントのおかげで、今年はやる気に満ち溢れてまして。後は、去年のイベントが理由で、注目も集まりましたし、おかげで今年は例年の数倍くらいは人が増えると予想されています。まあ、初等部と中等部の生徒の両親なども来ることになると思うので、そう言う意味でも忙しいんですよ」

「なるほど」


 そう言う理由だったんだ。


 たしかに、何も知らない人たちからすると、去年のテロリスト騒動はかなりレベルの高いイベントにしか見えないもんね。


 ボクだって、逆の立場だったらイベントにしか思わないだろうし。


 とは言っても、あんなに派手な動きをすればかなり話題になっても不思議じゃないよね……今思い返してみれば、次の日だって、外から四回までジャンプして教室に入ったこともあったし……。


 ……ある意味、一番自重しなかった時期って、帰還してから間もない頃だったんじゃ?


 ま、まあ、あの時は力のコントロールとか、手加減が上手くできてなかった時期だったし、仕方ない、よね。


 うん。魔法が使えることはバレてないんだし、問題ないのです。


『会長、申請書が多数来ています!』

「あ、わかりました。その申請書の中身はなんですか?」


 生徒会長の椅子に座って、内心苦笑いしていると、生徒会役員の人が手に紙束を持って入って来ました。


 どうやら、仕事みたいだね。


『備品の追加申請書です』

「わかりました。他には何かありますか?」

『あとは……あ、例のイベントに関する書類と、ミス・ミスターコンテストに関する書類があります』

「じゃあ、受け取りますよ」

『お願いします』


 紙束を受け取り、パラパラと中身を見ていく。


 んーと、備品の申請書は……あー、長机とか椅子が被っちゃってるね。


 高等部にあるストックじゃ、全てに対して要望通りにするのはちょっと難しいかな。


 そうなると、上手く均等に割り振らないとまずいかも。


「西宮君、この申請書にあるクラスの計画書ってありますか?」

「はい。見やすいよう、ファイリングしてあります」

「ありがとうございます。こう言う書類はファイリングすると見やすくなりますからね。すごく助かります」

「いえ、これくらいは」


 見やすいように、各学年だけでなく、初等部・中等部・高等部と言う風に別れているのも、とても見やすくてありがたい。


 それを見ながら、どういう割り振りをすればいいかを考える。


 一応、事前の出し物の申請書の中にも、必要な備品について書く項目があったんだけど、それはあくまでも事前の事。


 もちろん、想像力を働かせて、どれくらい必要か、というのを正確に計算できれば、追加申請は必要ないんだけど、今年から色々と変わって勝手が違うからね。


 結果として、こんな感じに備品の追加申請が多く来てしまう、というわけです。


 その中でも多いのはやっぱり、中等部と高等部の一年生、かな。


 高等部一年生は、この学園の大規模な学園祭に参加するのは初めてだからだし、中等部の生徒の人たちの方は、高等部一年生の人たちの理由に近いと思うけど、普通に考えたら中学校でやる学園祭……というより、文化祭って、本当に中学生で出来るレベルのことばかりで、追加が必要ないくらいの出し物をやることが多いもんね。


 そんな生活を今までしてきたのに、いきなりこんなに派手な学園祭をやるとなると……当然想定ミスが出てくるもんね。


 だから、ある意味では当たり前のこと。


 もちろん、高等部二年生と三年生は、すでに経験済みなので、そういったミスはある程度少ないです。


 ちなみに、初等部の方からは備品の追加申請等は来てなかったり。


 何せ、初等部は各クラスの担任の先生方がそう言ったことに参加するから、ミスがないんだよね。


 それに、仮にミスがあったとしても、備品の追加申請をしなくても、簡単に解決したりします。


 ただ……。


「うーん、やっぱり、飲食店系統が机を欲しがりますね」


 申請書を出してきたクラスを見てみると、机や椅子を欲しがるのは、ほとんどが飲食店系統。それ以外のアトラクション系等はむしろ少ないくらい。


「毎年、その辺りは争奪戦のような状況になりそうですからね」

「なりそう? 実際にはなっていないんですか?」

「もちろんです。そのようなことが起これば、この学園では大騒ぎになりますからね」

「あー……乱闘のようなことになって、それを面白がって見始める生徒が目に浮かびますね……」

「でしょう? なので、そう言ったことが起こらないよう、こちらが上手く采配しているわけです」

「な、なるほど……。そう聞くと、本当に責任重大なんですね、生徒会って」

「今や、初等部と中等部もまとめ上げなければいけないほどになりましたから。一応、初等部と中等部にも、生徒会に近い組織が作られていますが、それでもこちらが大本であることには変わりありません。忙しくなることは明白。こちらが、今まで以上に頑張らなければいけませんので、覚悟をしておいた方がいいかもしれません」

「……ですね」


 西宮君の言う通り、この学園の生徒総数はかなり増えて、気が付けば三千人以上。


 それだけの人数の生徒をほぼ生徒会でまとめなければいけなくなっちゃったわけで……。


 一応、生徒会に近い組織が作られたと言っても、気休めにしかならない場合が出てきそうだよね……。


 多分、今の中等部の三学年全てが高等部に進学して、ようやくある程度のノウハウがある状況になるんじゃないかなぁ。


 それまでは、手探り状態になると思うし。


「……はぁ。大変なんですね、生徒会長って」

「会長の場合、学園史上最も大変な時期に生徒会長になってしまったのかもしれませんね」

「あ、あはは……かもしれないですね……」


 安請け合いしすぎちゃったかもなぁ……。


 まあ、引き受けちゃった以上、最後までやり抜くし、そもそも生徒会長になってから一ヶ月近くになるからね。


 今更だよね、この考え。


 ……うん、今更。


 そもそも、異世界で一国の女王になっちゃってる以上、生徒会長くらいなんてことないよね!


「それで、振り分けの方はどうしましょうか?」

「……とりあえず、こんな感じで振り分けてもらえますか?」


 さらさらと紙に振り分けの仕方を書いて、西宮君に手渡す。


 あ、もちろん『瞬刹』と『身体強化』は使ってますよ。


 だって、それがないとすぐに終わらないもん。


「相変わらず早いですね」


 紙を受け取った西宮君は、苦笑いを浮かべた。


 一応、反則技を使ってるようなものだしね……。


「……なるほど。たしかにこれなら問題なさそうです。では、こちらで采配しましょう。美綴さん、旭君、二人はそれぞれ申請書が来ていた各クラス・部活・個人の代表者に、この紙に書かれている通りの机の許可が下りたことを伝えてください」

『『はい!』』

「その際、各出し物へのアドバイスが書かれているので、こちらも送っておいていただけると助かります。正直、書くことは多いですが……」

『問題なしです!』

『右に同じく』

「そうですか。では、よろしくお願いします。……では、石崎さんと渡辺君はここに残って各生徒会役員の橋渡しと、追加で何らかの申請等が来た際の対処を。それ以外は、中庭やグラウンドにある、学園側主催のイベント系統の設営に向かいます」

『『『はい!』』』


 テキパキと行動を指示する西宮君。


 あー、なんだろう。


「……西宮君が生徒会長になった方がよかったんじゃないですか?」


 西宮君の行動の迅速さを見ていたら、思わずそんな言葉が口をついていた。


「いえ、自分はこう言った裏方作業や指示出しは得意ですが、会長のように、人のやる気を引き出したり、高い処理能力があるわけではありません。できることは、それぞれの仕事に対し、適任な人材を割り振るくらいです」

「それでも十分だと思うんですけど……」


 人員の割り振りって、個人個人の能力を把握していないとできないと思うんだけど……。


「とりあえず、我々も外へ行きましょう。たしか、ミス・ミスターコンテストの舞台の設営が今日から始まるはずです」

「あ、そうでしたね。じゃあ、行きましょうか」

「はい」


 というわけで、数名を生徒会室に残し、ボクたちは中庭のステージの設営に向かいました。



「大体、この辺りの半分を使って設営することになります」

「なるほど……。設営時の状況はチラッとしか見ていませんでしたけど、いざこうして何もない状態から見てみると、結構広いんですね、舞台って」

「そうですね。ただ、今年からは人が増えることも予想されていますので、例年よりも大きめに設営することになっています」

「まあ、かなり増えましたもんね」

「ええ。倍以上に」


 たしかに、生徒が増えた以上、お客さんも増えるもんね。


 そう考えたら、例年通りの舞台じゃ色々と問題になるのかも。


 ……と言っても、去年も十分すぎるほどに大きかったんだけどね、あの舞台。


「それで、設営は基本的に誰がするんですか?」

「一応、外部の業者をメインに、体育委員会や夏の大会が終了して、しばらく本番がない運動部員が設営をすることになっています」

「あー……だから……」


 苦笑いを浮かべながら、後ろを振り向く。


「妙なテンションな人たちがいたんですね……」

「……そういうことです」


 ボクのセリフに、西宮君も苦笑いを浮かべていた。


 と言うのも、ボクたちの後ろには、なぜかものすごくやる気を出している運動部員や体育委員会の人たちがいたからです。


 しかも、そのやる気がこっちまで伝わってくるレベルで、残暑がようやく収まって来たはずなのに、この辺りには謎の熱気が発生していました。


 ちょっとだけ熱い。


「とりあえず……会長。後ろの人たちへの指示出しをお願いします」

「え、ボクですか!?」

「はい。例年なら、ここまでの人数は集まらないのですが……どうやら、会長が会長になったことによって、いいところを見せたい、そう思う人が増えた結果のようですね」

「ボクが、ですか? あはは、さすがにないですよ。単純にやる気が出ただけじゃないんですか?」

「…………なるほど。なんとなく会長がわかってきましたよ」

「今ので何がわかったんですか?」

「まあ、色々です。……ともかく、ささっと始めてしまいましょう。一応、本番まで一週間と少しあるとはいえ、今年は舞台の設営は例年よりも大きいので。何が起こるかわかりません」

「そうですね。……えーっと、それじゃあみなさーん! そろそろ設営を始めますので、よろしくお願いしまーす!」

『『『うーっす!!』』』


 ……運動部の返事の仕方だなぁ。


 なんてことを思いながら、舞台の設営を始めました。

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