第484話 天使長の邪神講義(成り行き)
「戻ったよー」
「あ、依桜ちゃん! お疲れ様!」
「ありがとう、エナちゃん。……それで、こっちの方の調子はどう?」
設営の準備に関しては西宮君の方で色々とやってくれる、と言うことになったので、ボクは一度クラスに戻ってきました。
ボク自身も、向こうを手伝おうと思ったんだけど、
『いえ、会長はかなりの量の仕事をこなしていましたし、これくらいはこちらでやりますので、ご自分のクラスの準備をなさってください』
と言われて、他の役員の人たちも同じように言ってきたので、お言葉に甘えてこっちに戻ってきました。
体育委員会や運動部の人たちのために、差し入れでも作って、明日辺りに持って行こうかな。
どのみち、ボクの役割は受付係で、内装には関わらないからね。
……お化け屋敷だから。
「順調だよ! 受付のテンプレートも出来てるし、あとは内装の完成を待つだけかな?」
「あ、そうなんだ。ごめんね、あんまりこっちを手伝えなくて……」
「いいよいいよ! 依桜ちゃん生徒会長さんだもんね! うちたちよりも大変だと思うもん」
「そう言ってもらえると安心かな」
生徒会ばかりで、クラスの準備は全然手伝えてないから、申し訳なく思ってたんだけど、こう言ってもらえると本当に安心できるね。
『あ、依桜ちゃん、生徒会はもういいの?』
「うん。あとは他の役員の人たちがやってくれるみたいだからね。だから、戻ってきたんだよ」
『そっか。ちなみに、いつ頃までこっちを手伝える感じ?』
「うーん……今週いっぱいはこっちにある程度専念できるかな? 来週の月曜日~水曜日までは向こうにかかりっきりになっちゃうと思うけど。あ、放課後は追加申請の受理とかもあるから、普段の時間割で言う所の、六時間目まではこっちで準備、っていうことになるかな」
本番三日目からは、本当に忙しくなるからね。
去年だって、生徒会にはいなかったけど、それでも何らかの役割がある人たちはバタバタと動き回ってたからね。
生徒会の人もちょこちょこ見かけたし。
『ならよかった!』
「ちなみに、何かすることってあるかな? 受付だし、あんまりないかもしれないけど……」
『んー、特にないかなぁ。見ての通り、やることもなくてねー。今していることと言えば、ちょっとした内装作りとかで』
「なるほど。……そう言えば、衣装の方は?」
「もう少しでできるって。女委ちゃんが言うには『田中さんの調子が絶好調らしいから、今週中には完成するらしいよ!』だって」
「へ~、結構早いんだね」
去年はたしか、三日目くらいに完成したんだったっけ。
となると、本当にハイペースなんだね。
……変な衣装じゃなきゃいいなぁ。
「ねね、依桜ちゃん」
「ん、何? エナちゃん」
「今はやることがないみたいだし、ちょっと学園内を回ってみない?」
「学園内を?」
「うん! ほら、うちってこの学園に来てから初めての大規模なイベントだし、学園祭の準備期間中の学園内も見てみたいなーって思って」
「なるほど。エナちゃんの気持ちもわかるし、行ってみる?」
「やった! じゃあ行こ行こ!」
「うん。……えっと、そう言うことなので、ちょっと学園内を回ってくるね」
『いいよいいよー。依桜ちゃん忙しかったもんね。いくらでも見てきていいよー』
『多分、二人ともかなり忙しくなりそうだからね、当日は。今のうちに見てくるといいよ』
「ありがとう。じゃあ行ってくるね」
「行ってきまーす!」
『『いってらっしゃーい!』』
クラスメートの二人に見送られて、ボクとエナちゃんは準備期間中の学園内の散歩へと出向きました。
「わぁ~、大規模だなぁ、とは思っていたけど、個人の出店も結構すごいんだね!」
「あはは、そうだね。ボクも去年初めて見た時は、かなり驚いたなぁ」
まずはどこへ行こうか、と言う話になり、まずはシンプルに高等部の方を見て回ることに。
学園内は外から戻ってきた時見ようと言うことになり、今は中庭や校舎前の辺りを散歩中。
その準備中の人たちの姿や、完成度の高いお店を見て、エナちゃんはちょっと興奮気味。
かく言うボクも、去年この状況を見た時は、同じような反応をしたっけ。
個人の場合でも、結構な予算が出るので、かなりしっかりとしたお店が作れるしね。
それに、個人よりもクラスのお店等もかなり売れるみたいだから、ある意味でこっちの方がお小遣いを稼げる、ということになったりもします。
と言っても、さすがにそれなりの人数がいるから、ピンからキリまであるんだけどね。
「ちなみに、学園祭から一週間前になると、飲食店系統は一日に二時間だけ営業してもいいことになってるんだよ」
「そうなの? でもそれって、当日に材料が少なくなったりしないの?」
「意外と売れるんだよ、準備期間中の営業って。人って、限定って言葉に弱いでしょ? だから、営業すると二時間限定、っていう文字に反応して、買いに来る人が多いの。その時の売り上げで、材料をさらに仕入れて、当日は想定以上に売る、ということをしたりする人もいるしね」
「はぇ~、結構本格的なんだね」
「そうだね。中には、あらかじめ準備期間中の営業で入る売り上げすらも、目標金額への計算の一部として戦略を立てる人もいるくらいだから」
「学生、なんだよね? まだ」
「あ、あはは……正直、下手な経営者よりも上手くやってる人はいるかなぁ……。ほら、女委なんていい例だし」
「たしかに」
実際の所、女委は学生でありながら、メイド喫茶を経営してるしね。
しかも、かなりの売り上げを出しているとか。
女委の多才っぷりには驚かされるけど、本当に異常だよね、女委も女委で。
「こんなに人がいっぱいだと、知っている人もいそう…………って、あれ?」
「どうしたの? エナちゃん。急に立ち止まって」
きょろきょろと周りを見回していたエナちゃんだけど、不意にある一点を見つめて立ち止まった。
「ねえ、依桜ちゃん。あそこにいる人って……」
「あそこ? ……あ」
不思議そうな顔をしながら、エナちゃんが指差した先には……
「こっちももらえますかぁ?」
『は、はい! 喜んで!』
なぜか、クレープ屋さんの前で、のんびりクレープを買っているフィルメリアさんがいました。
……いやなんで!?
「~~♪ あらぁ? あらあらぁ? 依桜様ではないですかぁ。それに、エナさんもぉ。こんにちはぁ」
「あ、はい。こんにちは」
「こんにちは!」
いつものほんわかとした話し方をするフィルメリアさんに挨拶を返すボクたち。
そんなフィルメリアさんは、鼻歌まじりでかなりご機嫌に見える。
「えっと……フィルメリアさんはここで何を? たしか、寮母さんのお仕事があったよね……?」
「実は、私が管理する寮に住んでいる子供たちが、学園に泊まり込むとのことでしてぇ。一応、寮母の人たちも準備期間中は学園に来ていいことになってるんですよぉ。それで、せっかくだから、ということで来てみたんですぅ」
「な、なるほど……ちなみに、料理を買っていたのは?」
「美味しそうな匂いがしましたし、一生懸命作る子供たちの姿を見てみたかったものですからぁ。あと、美味しいですしねぇ」
「……つまり、暇だから学園に来て、美味しそうなものが売られていたから、食べ歩きを?」
「その通りですよぉ」
実は、目の前にいるフィルメリアさんの両腕には、食べ歩きで買ったと思しき料理類がいくつもぶら下がっていました。
見た感じ、結構な量があるよね? これ。
「フィルメリアさんって、いっぱい食べるんですね!」
「うふふぅ。天使ですから、いくらでも食べられるんですよぉ」
「そうなんですね! あと、スタイルがいいのもやっぱり天使だからですか?」
「そうですねぇ。基本的に天使は、美形として生まれるのでぇ。なんでも、その方が人間の方々の第一印象をよくできるらしいのでぇ」
「そんな理由なんだ」
「そんな理由なんですよぉ。神様方曰く『所詮、顔だよ顔! ボンキュッボンだよボンキュッボン!』とのことらしいのでぇ」
「「神様、なかなか酷い……」」
フィルメリアさんが言う、神様の発言には、ボクとエナちゃん揃って微妙な表情を浮かべました。
神様って、何と言うか……俗的なのかな?
「ところで、依桜様たちはここでなにをぉ? たしか、学生さんは準備中と聞いたのですけどぉ」
「ボクたちは特にやることがなくて。それで、せっかくだからということで、二人で学園内を歩き回ってるところなの」
「なるほどぉ。そう言う理由だったんですねぇ。……それなら、私もご一緒してもよろしいでしょうかぁ?」
「もちろんいいよ。……いいかな、エナちゃん」
「いいよ! うち、あまりフィルメリアさんと話したことなかったし、楽しそう!」
「そう言ってもらえると、私も嬉しいですぅ」
天真爛漫なエナちゃんの発言に、フィルメリアさんはいつものおっとりとした笑みを浮かべて、そう言う。
なんだろう、初めて会った時よりも、生き生きとしているように見えるなぁ、フィルメリアさん。
「じゃあ、早速行こ!」
「うん」
「そうですねぇ」
エナちゃんが先導する形で、ボクたちは三人で準備期間中の学園を見て回ることになりました。
「なるほどぉ。こうして見てみますと、色々とあるんですねぇ」
フィルメリアさんさんと合流して、一緒に見回っていると、周囲を興味深げに見ていたフィルメリアさんがそう零す。
「結構人がいるからね。フィルメリアさんとしては、人が多い場所って苦手なの?」
「いいえ、むしろ大好きですよぉ。私は天使ですし、人間の方々が大好きなんですよぉ」
「天使の人たちって、みんなそうなんですか?」
「そうですねぇ。天使としても、悪魔としても、どちらも切っても切れない関係ですからねぇ。両種族とも、好きの中身は違えど、大好きですねぇ」
「そうなんですね! うちたちがよく見る創作物だと、天使の人たちや神様って、平気で人を殺しちゃうような人ばかりだったので、ちょっと安心です!」
「あらぁ。こっちの世界では、そう言う風に認識されることが多いんですねぇ……」
エナちゃんのストレートな発言に、フィルメリアさんはいつもの柔らかい笑みを浮かべつつも、目に見えて落ち込んだように見えた。
あー……うん。まあ、たしかに、こっちの世界の創作物って、結構神様とか天使は悪役……というより、碌な性格をしていない、みたいな風に書かれてるもんね。
なんだったら、聖書などに登場する神様や天使って、実際悪魔よりも人を殺していたりするから、あながち間違いとも取れないんだけど……。
……あれ? そう言えば、こっちの世界とあっちの世界って、師匠やセルマさん、フィルメリアさんの発言から考えると、何かと繋がりが多いよね?
もしそうなら、ちょっと気になることが……訊いてみようかな。
「えと、フィルメリアさんに訊きたいんだけど、いいかな?」
「はいぃ。私にお答えできることでしたら、何でも聞いてくださいぃ。私たちは、依桜様に忠誠を捧げたましたのでぇ」
「あ、あはは……」
いつから忠誠を捧げたんだろう……?
なんだか、日に日に天使の人たちのボクに対する反応とか考え方が、色々と変な方向に行っている気がするんだけど……。
ま、まあ、いい、かな、うん。今はいいよね。
「え、えーっと、ちょっとした疑問なんだけど、こっちの世界と向こうの世界の天使って、こう、管轄が違う、みたいなことってあるの?」
「そのご質問にはお答えしますがぁ……どうして急にぃ?」
「あ、いえ。さっきのエナちゃんの発言がきっかけで……こっちの世界には聖書とかあるんだけど、その中の天使と悪魔、あと神様のこととかを考えてたの」
「依桜ちゃん、それはどうして?」
「えと、ボクも夏休み中の旅行で師匠から聞いたんだけど、こっちの世界は『法の世界』って言って、向こうは『魔の世界』って言うの」
「そうなんだー」
ボクの説明に、エナちゃんは目を丸くしてちょっとだけ驚いたような表情を見せる。
「それでね、そこから師匠とかフィルメリアさん、セルマさんたちのお話を聞いていると、こっちと向こうって、何らかの繋がりがあるのかな? って思ったの」
「なるほどぉ。それで、天使に管轄があるのかをお尋ねになったのですねぇ」
「うん。それで、えと。この質問に関する説明って、大丈夫、なの?」
「問題ありませんよぉ。別段秘密にしているわけではありませんしねぇ。まあ、だからと言ってそうホイホイと教えるような事柄でもないですけどぉ」
あ、やっぱりそうなんだ。
「それで、答えでしたねぇ。……とりあえず、結論を先に言いますとぉ……管轄と言う物は基本的にないですねぇ」
「あ、そうなんだ。じゃあ、こっちの世界の聖書とかって、やっぱりこう……空想と言うか、想像なの?」
「正直なところを言いますと、必ずしも否定することはできないですねぇ」
「そうなの?」
「はいぃ。いくらクソ神――こほん。頭のねじがいくつも外れている神々方でも、むやみやたらに殺すような真似はしませんからねぇ」
「じゃあ、仮に聖書の内容が本当だった場合って……」
「そうですねぇ。考え得る可能性としましてはぁ……邪神が関わっている可能性、でしょうかぁ?」
「邪神……」
それってたしか、師匠が以前、ボクにもその邪神という存在を倒せるようになってほしい、って言ってたよね?
師匠も殺したことがあるみたいだけど、相当強敵だったらしくて、師匠でもかなり危なかった、って聞いたっけ。
「ねぇ、依桜ちゃん」
「あ、なに? エナちゃん」
「邪神ってなーに?」
疑問符を浮かべながら、エナちゃんがそう尋ねて来た。
あ、そう言えばエナちゃん……と言うより、みんなは知らないんだったっけ。
「えっと、簡単に言うと、師匠ですら死を覚悟するくらいの存在、かな」
「あのミオさんが?」
「うん。あの師匠が」
「はぇ~、そんなにすごい神様がいるんだ」
エナちゃんは少し実感が沸かないながらも、目を丸くしてかなり驚いている様子。
まあ、師匠が死を覚悟するくらいの存在って、ボク邪神くらいしか知らないもん。
「恵菜さん、そこは訂正させて頂きたいのですがぁ。邪神はたしかに『神』と付きますが、あれは神であって神ではないのですよぉ」
と、エナちゃんの発言を聞いたフィルメリアさんが、邪神に関することで訂正を入れる。
「えと、どういうことですか?」
「前提的な知識として、各世界に存在する神様の内、とある一柱の神様について話すのですけどぉ。まずですね、各世界には、マイナス担当の神様という神様がいらっしゃるのですぅ。その神様は、その世界に存在する、全ての生物の負の感情を受け止め、浄化する役割を担っているのですねぇ」
「なるほど。神様にも、役割分担ってあるんですね!」
「いかに神と言えど、一柱ではできないこともありますのでぇ」
その辺りは人と同じなんだ。
やっぱり、役割分担は必要なんだね。
「それで、その世界にいる全ての生物の負の感情を受け止め、浄化することが役割なのですがぁ……その際のこちらの世界の状況次第では、負の感情を受け止めきれなくなってしまう状況に陥ることもあるんですぅ」
「それって、向こうの世界で言えば、人間と魔族の戦争が大規模になっている状況、のような感じなの?」
「そうですねぇ。とはいえ、依桜様が終結させた戦争に関しては、幸いにも邪神が発生する少し前くらいで止まったのですがぁ……実は過去に、邪神が発生しているんですよぉ」
「それが、師匠が殺したっている邪神、なんだよね?」
「はいぃ。あの時の邪神はそれはもう、人類滅亡どころか、世界消滅の危機だったのですよぉ」
「消滅って……それ、相当まずかったんじゃ?」
「まずかったですねぇ。基本的には傍観主義、放任主義、適当主義な神々方でも、あの時ばかりはあの世界を守ろうと躍起になっていましたからねぇ」
神様たち、本当に碌な人たちじゃないんだね……あ、人じゃないから、碌な神様じゃない、かな。
「あれ? でもそれなら、どうしてそこまで躍起になったんですか?」
と、フィルメリアさんの説明を聞いて、エナちゃんがそう質問する。
言われてみれば確かに。
傍観主義、放任主義、適当主義なら、仮にそんな事態になっても何もしない気が……。
だって、この世界と向こうの世界だけとは限らないもんね。
実際、平行世界に行ったことがあるわけだし……。
「そうですねぇ。大きな理由としましては、この世界と向こうの世界を生み出し、管理し、そして愛していたとある女神様が遺した世界だったから、という理由が挙げられますねぇ」
「それってもしかして……師匠が良く話してた、ミリエリアさん、って言う神様のこと?」
「そうですよぉ。我々天使だけでなく、神々方や悪魔の方たちですら、逆らうことをせず、そして慕っておりましたぁ」
「そ、そう聞くと、相当すごい神様だったんだね……」
だって、師匠が『クソ神』って言ってたり、フィルメリアさんたちが『クソ上司』って言う時点で、色々と察せるんだけど、その神様たちが慕うミリエリアさんって一体……。
……あれ? でもたしか、セルマさんはミリエリアさんに対して怯えていたような気がするんだけど……あれって、慕っていた、って言える、のかな?
「そうですねぇ。我々天使たちへの労働は、ほどほどにしていただいておりましたし、何より文字通り慈母神とも呼べるようなお方でしたのでぇ」
「へぇ~、そんな神様がいるんですね! うち、会ってみたいなぁ」
「残念ながら、数百年ほど前に、ミリエリア様はお亡くなりになっているのですぅ……」
「え、そうなんですか!?」
「はいぃ。その知らせを受けた時と言えば、神界・天界・魔界、全ての世界で盛大なお葬式が開かれたほどですのでぇ……」
「そ、それはまた壮大だね……」
魔界でもお葬式、開かれたんだ……。
もしかしてセルマさん、ツンデレ?
「ですがぁ! 我々は必ずミリエリア様が転生なさると信じておりますぅ!」
「転生? え、神様って転生するの!?」
神様でも転生とかするんだ。かなり驚き。
エナちゃんの方も、神様が転生すると知ってかなり驚いている様子。
「はいぃ。と言いますか、どの世界でもそうなのですが、その世界で死んだ者は、半数近くが転生するんですよぉ。それはもちろん、人間に限った事ではなく、我々天使や悪魔、神々にも言える事なのでぇ。とは言っても、神々や天使、悪魔に関しては、例外なく転生を果たしますがぁ」
「な、なるほど……」
「フィルメリアさん。そのミリエリアさん、っていう神様はいつ転生するんですか?」
「わからないんですぅ……。ただ、転生にはルールがありましてぇ、間違っても亡くなった世界とは別の世界で生まれ直すということは、まずありえないんですよぉ」
「え? それじゃあ、神界で転生していないってこと?」
「そうですねぇ。ここが最も不思議な点と言われておりましてぇ。どういうわけか、数百年経った今でも、ミリエリア様は転生なさらないんですよぉ」
「そうなの?」
「はいぃ。神々方の間で立てられている仮説としましてはぁ……一、単純に時間がかかってしまっているパターン。二、ミリエリア様自身が転生を拒んだパターン。そして、三。神界ではなく、『法の世界』もしくは『魔の世界』で亡くなり、もうすでに転生しているパターン。これらが挙げられますねぇ」
「なるほど。……ちなみに、フィルメリアさんとしては、どのパターンがあると思ってるの?」
さっきのフィルメリアさんのお話を聞いている限りだと、大好きだったみたいだから、ちょっと気になる。
「私ですかぁ? そうですねぇ……私としましては、一か三ですねぇ」
「どうしてですか?」
「ミリエリア様は、本当に二つの世界を愛されておりましたので、転生を拒む、と言うことはないと思うんですぅ。それに、唯一無二の親友がいた、とも話しておりましたしねぇ。そのような状態になっていたにもかかわらず、拒むと言うことはあり得ないと思いますのでぇ」
その親友って、師匠だよね。
師匠、本当に仲が良かったんだ、その神様と。
「……あらぁ、そう言えばお話が脱線してしまいましたねぇ」
「えーっと……何の話でしたっけ?」
「適当な神々方が躍起になって世界を守ろうとした経緯ですねぇ」
「あ、それです! それじゃあ、フィルメリアさんのお話を総合すると、ミリエリアさん、っていう神様が遺した世界だから、躍起になった、ということでいいんですか?」
「そうですよぉ。とは言っても、我々が動く前に、ミオ様が件の邪神を滅ぼしてしまったんですけどねぇ」
「……あの、やっぱり師匠って、天使や神様たちからすると、相当異常だったりするの?」
「もちろんですぅ。本来であれば、人間の方が邪神を殺すことはほぼ不可能ですからねぇ。それを成し遂げたミオ様は、異質と言っても過言でありません。しかも、神々方に怒り心頭で、神々方もミオ様のお怒り様には怯えておりましたぁ。あれは、スカッとしましたねぇ。天界で働いていた頃は、職務中それを思い出して乗り切っておりましたのでぇ」
「そ、そうなんだ……」
神様ですら恐怖する師匠って一体……。
「さて、話を最初に戻しまして、聖書のお話でしたねぇ」
「うん。一応、邪神が関わっているのでは? ということでいいんだよね?」
「概ねそれで大丈夫ですよぉ。まあ、その可能性は本当に低いと思いますけどねぇ」
「低いんですか?」
「はいぃ。何分、この世界に顕現することは、神様でも難しいのでぇ。我々天使は、場合によっては降りられますし、今となっては依桜様と契約をしたことで、その縛りがなくなったため、こうして楽しい生活を満喫していますが、本来であれば、ほぼ不可能に等しいですのでぇ」
色々と縛りはあるんだ。
でも、どうしてこの世界では顕現ができないんだろう?
……まあ、今はそう言うことを知ってもあまり意味はなさそうだし、とりあえずはいいかな。
もし気になったら、また聞けばいいもんね。
いつでも会話ができるわけだから。
「お話が色々なところに飛びましたけどぉ……依桜様、疑問は解消されましたかぁ?」
「うん、バッチリ。ちょっとだけ気になることもあるけど、特に問題なさそうだし、それに、フィルメリアさんの説明はわかりやすかったから。ありがとう」
「いえいえぇ。これも、私たちが忠誠を誓う天使たちの当然の役割ですのでぇ」
「あ、あははは……」
人間でありながら、天使に忠誠を誓われるボクって一体……。
「あ、フィルメリアさん!」
「どうしましたぁ? 恵菜さん?」
「あっちに美味しそうなお店がありますよ!」
「本当ですかぁ? では、早速行きましょうぅ。依桜様、よろしいでしょうかぁ?」
「うん。ボクも話してたらちょっとお腹すいちゃったし、行こっか」
「はいぃ!」
「うん! 行こ行こ!」
なんだか、色んな事を知ったけど、新しい知識程度に捉えることにして、ボクたちは再び準備期間中のお店巡り(いつの間にか目的が変わっている気がします)を再開しました。
……師匠って、本当に何なんだろうなぁ。
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