第481話 未果たちと相談

 とは言ったものの、いきなり再会させるのはどうなの? ということになったのと、鈴音ちゃんの方も、心の準備ができていない、ということでしばらく様子見に。


 ただ、さすがにボクと女委だけだと、難しいかも? と思ったボクたちは、未果と晶の二人と、エナちゃんの三人にも手伝ってもらうことに。


「――というわけなんだ。どかな?」

「なるほどね。……まさか、鈴音ちゃんも同じ学園だったことには驚きね」

「そうだな。……それで、まだ想っていたのか? あいつのこと」

「うん、全然想っていたよ。一途って、鈴音ちゃんのような人を言うんだなぁ、って改めて実感したよ」


 中学生の時から、ずっと一人を想い続けるって、簡単そうに見えて、難しいことだと思う。

 だから、鈴音ちゃんは本当にいい子だと思うな、ボク。


「ねね、その鈴音ちゃん? って、誰のことなのかな? それに、うちが呼ばれた理由もいまいちわからないんだけど……」

「あ、ごめんね。えーっと、鈴音ちゃんっていうのは、ボクたちが中学生の時に友達だった女の子だよ。学校ではよく一緒にいたんだけど、学校外で遊ぶことが滅多になくてね。途中からなぜか離れて行っちゃってね。それ以降はあんまり一緒にいることがなくなっちゃって、気が付けば今の状態、というわけなの」

「へぇ~、依桜ちゃんたちにそんな人がいたんだ。……それで、その子が今回呼ばれたことと何の関係が?」

「あー、えっと……驚かないで訊いてね?」

「なになに? もしかして、そんなにびっくりするような内容なの?」

「ええ、びっくりするわね。私だって、未だに信じられないし」

「あいつには悪いが、俺も同じ感想だ。何せ、普段から一緒にいる分、余計に謎だと思うからな」

「結構謎。天変地異レベルじゃないかなー?」

「そ、そんなになんだ。……じゃあ、依桜ちゃん。ずばっとお願いします」

「あ、うん。実は…………鈴音ちゃんって、中学生の時から、態徒のことが好きなんだよ」

「……………………」


 あ、固まった。

 しかも、興味津々と言った感じの笑顔のままで。


「まあ、そうなるわよね……」

「同感だ」

「にゃははー。いかに人望がないかがわかるよねぇ」

「あれでも、普通に性格はいいんだけどね」

「…………え、ええええええええええええええ!?」


 しばらく固まっていたエナちゃんが再起動するなり、素っ頓狂な声を上げた。


「え、ほ、本当に!?」

「「「「本当に」」」」

「あ、あの態徒君のことが好きな子がいるの?」

「「「「いるんです」」」」

「Likeじゃなくて?」

「「「「Loveの方」」」」

「ほぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~……今まで生きてきた中で、一番驚いたかも。そっか~、態徒君が好きな子が……びっくり」

「大丈夫。一番びっくりしてるのは、私たちの方だから」


 うんうん、と未果の言葉に追従するように頷く。


 申し訳ないんだけど、ボクもちょっと驚いてたり……。


 そう、実を言うと鈴音ちゃん。

 態徒のことが好きなんです。


 そうなったきっかけは、結構ベタななものだったり。


 きっかけは、大体中学二年生くらいの時かな? 鈴音ちゃんって可愛いから、それなりにモテていて、たまにナンパされることがあって、その時の相手が不良っぽくて、鈴音ちゃんが怖がっていたんだけど……その時、たまたま態徒が通りかかって、そのまま助けてくれた、というのが落ち。


 しかも、その時の態徒は悪ふざけとか0で、ちょっとアレな言動もなかったから、困っている女の子を助けに来た王子様、みたいな感じになっちゃったんだよね。


 その上、さりげなく心配したり、恩着せがましくもしなかったから、余計にクリティカルヒットしちゃって……結果、態徒のことが好きになっちゃった、というわけです。


「――なるほど~、それはたしかに、中学生の女の子なら好きになっちゃっても不思議じゃないね」

「それはわかるんだけど、相手があの態徒なのよねぇ」

「さすがにそれは言い過ぎだと思うが……」

「いやいや、態徒君ならそれくらい言われても問題ないでしょ。だって、態徒君だし」

「女委、それ理由になってないよ」


 みんな、何気に酷いなぁ……。


 ……まあ、ボクもちょっとは思っちゃってるけど。


 友達想いで、普通に優しいからね。


 ただ、それを全て台無しにするほどの残念さが態徒にはあるから、結果的に否定できないわけで……。


 ……うん。まあ、日頃の行い。


「態徒君はそれを知ってるの?」

「いや、知らないな」

「知らないわね」

「知らないねぇ」

「鈍感だからね」

「「「「それを依桜(君)(ちゃん)が言う?」」」」

「なんでみんなしてそれを言うの!?」


 ボク、そんなに鈍感!?


「まあ、依桜のとぼけたセリフは置いておくとして」

「え、別にとぼけてないんだけど……」

「問題は、どうやって態徒とくっつけるか、ね」

「あれ? 無視?」

「そうだな……。正直な話、勝率は高いだろう。七矢は可愛いし、男受けするタイプだろう。性格も悪くないし、おそらく好きな人を立てるタイプなんじゃないか?」


 ボクのセリフを無視して、晶が話を進める。

 ……晶も、結構容赦ない時あるよね……慣れたけど……。


「まあ、鈴音ちゃんってそんな感じだよねぇ。久々に会ったけど、相変わらず乙女オーラ満開だったもん。あれはいいねぇ。恋する乙女の雰囲気って言うのは」

「わかるよ! 恋をしてる時の女の子って、普段以上に可愛いよね! うちも、そう言う人は応援したくなっちゃうなぁ」


 女委の言葉に、エナちゃんも賛同し、楽しそうな声音でそう話す。


 ボクもわかるかも。


 誰かが言ってたけど、女の子は恋をしている時が一番綺麗だとかなんとか。


 言われてみれば、鈴音ちゃんも前以上に可愛くなっていた気がするし、何より態徒のことを話している時の鈴音ちゃんの笑顔はとっても魅力的だからね。


 本当、態徒にはもったいないくらい。


「……ということはつまり、依桜が恋をしたら、今以上に可愛くなる、ということね」


 と、不意に未果がぼそりと呟いた。


 それはどう……なんだろう?


「これ以上可愛くなる依桜が想像できないんだが」

「ば、馬鹿なっ……ま、まだ上があると言うのか……!?」

「晶はまだいいとして、女委はなんでやられ役の敵キャラみたいなことを言ってるの?」

「ノリ」

「の、ノリですか」


 女委のノリは、たまに……というか、割とよくわからない時が多いよ。


「まあ、それはともかくとして、問題は鈴音ちゃんの方よね」

「未果が言い出したと思うんだけど……まあいいです。問題は、どうやって二人をくっつけるか、だよね?」

「そうだな。くっつけるにしても、態徒に悟られるのはまずいだろう。だから、なるべく自然体でやらなきゃいけないわけだが……」

「……ま、態徒君なら大丈夫でしょ! 変に鋭いところはあるけど、バカだからゴリ押しで誤魔化せると思うしね!」

「「「「あー、納得」」」」


 非常に申し訳ないんだけど、女委の言う通り、態徒ならそれくらいでもおかしくないかなぁ……。


 一応、この学園に入学できるくらい(つきっきりでボクと晶が勉強を教えた)の頭は持ち合わせているから、決してすごくバカ、というわけではないんだけど……それ以外の部分が非常に残念。


 なので、実際に女委が言うようなことになることが多い。


 付き合いがまだ短い方のエナちゃんですら、そう思うレベルだし……。


「……ちなみになんだけど、態徒君はその鈴音ちゃんのこと憶えてるのかな?」

「憶えてるんじゃないかな? 一時期はボクたちと一緒のグループでいることとか多かったし、何より態徒も態徒で楽しそうでもあったから」

「へ~、そうなんだ。じゃあ、態徒君の方も多少は意識していたのかな?」

「そうだな……今思い返してみると、少しは意識していたんじゃないか? 未果や女委と接する時とは違う接し方だったしな」

「言われみればそうね。いつもよりかは、アレな部分が出てなかったし、何より妙に優しかった気がするし」

「だね。わたしもそんな風に見えたねぇ」


 三人の言う通り、鈴音ちゃんに対する態徒の反応と言えば、普段よりもさらに気を遣っていたり、さりげない優しさを見せていたっけ。


 だから多分、態徒も態徒で、鈴音ちゃんに大して、少なからず好意的な感情は持っていたんじゃないかな?


「なるほどね~。じゃあ、たまーに態徒君が『彼女が欲しい!』って言ってたけど、気付けばすぐに叶うっていうことだよね?」

「そうだな。まあ、あいつの残念な性格が災いして、気付くことなく今に至っているんだが」

「あ、あはは……」


 晶、地味に言っていることが酷い。

 でも、実際に残念な性格だもんね、態徒って……。


「まあ、あれ以上に鈍感で、残念な性格の人が目の前にいるわけだけど」

「「「……」」」

「え、なんでこっちを見るの? ボク、そんなに残念じゃないよね? ね?」


 なんて言ったら、四人が『やれやれ……』と言っているかのように、首を竦めて左右に振っていました。


 ボク、そんなに残念な性格……?


「おとぼけ美少女はスルーして、とりあえず鈴音ちゃんの件ね」


 おとぼけは酷くない……?


「んー、やっぱりド直球がいいんだろうけど、さすがに時期が時期だよねぇ。今は準備期間中で慌ただしいし、態徒君が告白された場合めんどくさそうだからね」

「なんで?」

「んー、エナっちはまだ知り合ってからそんなに経ってないからあれだけど、わたしたちなら態徒君が告白された場合の姿が思い浮かぶのだよ」

「そうなの?」

「まあ……大体は思い浮かぶかな」

「同じく」

「右に同じく」

「なるほどー。ちなみに、どんな感じになると思う?」


 どういう反応をするのか気になったエナちゃんが尋ねて来たので、ボクたちは、


「「「「多分、可愛い女の子(女子)に告白された影響で、しばらく舞い上がって、調子に乗るかな(だろう)」」」」

「わー、想像できるなー」


 補足をすれば、他の男子のみんなに嫉妬されるんじゃないかなぁ。


 だって、態徒の評価と言えば、『バカで変態な脳筋』みたいな感じだもん。


 だから余計なんじゃないかな、と。


「そうすると、どういう感じにすれば……」


 うーんとエナちゃんが顎に手を当てて考え込む。


 すると、


「おーっす、休憩から帰って来たぜー……って、お? 何してんだ、お前ら。考え事か?」


 軽食を摂るために学食に行っていた態徒が戻って来た。


「考え事と言えば考え事だな」

「へー、なんだなんだ? お前らだけってことはないよな? オレも関係あるんだろ?」


 態徒、なんでそう言うところは鋭いの?


「まあ、関係ないわけじゃないが……」

「お、じゃあ話してくれよ」


 なんて、笑いながら尋ねてくる。


 多分、友達として協力するぞ、という考えで尋ねて来てるんだろうけど……果たして言っていいのかどうか……。


「ん? どうしたんだよ?」

「え、えーっと…………と、突然だけど、態徒は鈴音ちゃんって憶えてる?」


 誤魔化すどころか、ストレートに未果が質問した。


 ……未果、それはちょっと危なくない?


「ほんと急だな。……んで、鈴音ちゃん? そりゃ憶えてるぞ? あれだろ? 七矢鈴音ちゃんだろ? 中学時代同級生だった」

「あ、憶えてるんだ。意外だぜー」

「言うほど意外か? ってか、結構一緒にいることが多かったじゃねえか。それに、七矢はよくオレたちに菓子類なんかをよくくれただろ? そんなことがあったのに、忘れるとかないって。あと、普通に可愛かったし……って、どうした?」

「あ、い、いえ、なんでもないわ」

「そうか? ならいいけどよ」


 ……お菓子、もらった憶えないんだけど、ボク。


 ボクと同様だったのか、未果、晶、女委の三人も少し眉をひそめていた。


 ……まさかとは思うんだけど、鈴音ちゃん、よく態徒にお菓子を持ってきてあげていた、のかな?


 だとしたら、甲斐甲斐しいと思うんだけど。


 好きな人の為に、お菓子を持ってくるなんて、普通はあまりしないと思うし。


「しっかし、七矢かぁ。懐かしいなぁ。あいつ、元気でやってんのかねぇ。最後に会ったのは中学三年生ん時だし、久々に会いたいもんだ」


 なんて、しみじみとした様子でそう口にする態徒。


 ……あれ? これって、脈あり?


「え、えーっと、態徒? ちょっと訊いてもいいかな?」

「おう、なんだ依桜?」

「態徒って、もしかして、その……鈴音ちゃんのことが好きなの? もちろん、恋愛的な意味で」

「へ? なんだ突然」

「いいから、さっさと答えなさいよ」

「な、なんだ? 未果まで。いやまあ……そう言う意味で行くと、そりゃ、な? オレに積極的に関わってくる女子っつったら、未果と女委以外じゃ、七矢くらいだったからなぁ。しかもほら、七矢って可愛いじゃん? オレ的には結構ストライクなわけよ」

「「「「「……」」」」」


 少し照れ臭そうにしながらも、本音を語ってきた。

 あ、あー……うん。


「……態徒、ごめん。ちょっと待っててもらえる?」

「おう」


 頭が痛そうな表情を浮かべながら、未果がちょいちょいと手招きをしてきたので、態徒意外のボクを含めた四人は少し離れたところへ。


「……両想いよね、あれ」

「どう見てもそうだろ」

「柄にもなく照れてるしねぇ」

「態徒君でも、あんな表情をするんだね、っていうくらい、照れてるよね!」

「これ、普通に告白してもうまくいく気がしてきたんだけど。変に作戦を練らなくても、よほど変な場所じゃない限り、失敗しないと思うんだけど」

「そうみたいね」


 まさか両想いだったとは思わず、ボクたちも思わず面食らってしまった。


 態徒のことが好きな人がいるだけでも十分驚く出来事なのに、当の本人も少なからず好意を持っているんだもん。


 驚かない方が難しい気がします。


「……となると、シチュエーションかしら? それさえ決まれば、そんなに難しくなさそうだし」

「シチュエーション、かぁ……」


 なかなかいいのが思い浮かばないなぁ。


 鈴音ちゃんの希望は学園祭中に告白すること。


 そうなると、告白にぴったりなシチュエーションってなかなかないような?


「……あ、そうだ!」


 みんなでうーんと頭を悩ませていたら、何か閃いたのか、エナちゃんが声を上げた。


「こう言うのはどうかな」


 そう言ってボクたち四人に案を話す。


「……だ、大胆だね、エナちゃん」

「大胆だけど、やっぱり学生時代にできる方法がいいもんね。それに、その鈴音ちゃんがどんな人なのかはわからないけど、そう言う場所の方がかえっていいんじゃないかなー、って」


 エナちゃんがする説明を聞いて、ボクたちはたしかに、と頷いた。


 鈴音ちゃんはかなり内気な性格をしているので、面と面向かって告白、となると結構難しい気がする。


 下手をしたら逃げちゃう可能性すらあるもん。


 だけど、今エナちゃんが話した内容なら、一周回って覚悟が決められる気がする。


「その案はたしかにいいけど、そう簡単に開催できるの?」

「そこは、生徒会長の依桜ちゃんがなんとかする方向で」

「ま、丸投げだね、エナちゃん……」

「だが、俺としても結構いいと思うぞ? それに、こう言う手法は、うちの生徒にはかなり受けが良くなりそうだしな」

「うんうん! 学園ラブコメ系作品じゃ、ちょこちょこ見かけるよねぇ。ありありのありだと思うぜー」

「……つまり、どうにかして許可を取ってほしい、っていうこと?」

「「「「イグザクトリー」」」」

「あー……うん、そですか……」


 ……まあ、ボクとしても、できれば成就して欲しいし、大胆でいい案だとは思うけどね。


 それに、晶の言う通り、かなり支持されそう……。


「……うん、わかったよ。とりあえず、学園長先生と実行委員会の人に提案してみるよ。できるだけ頑張るけど、あまり期待しないでね?」

「当然ね」


 ……うーん、変な伝統行事にならないといいけど。


 そんな心配をするボクでした。

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