第480話 恋する乙女な友達との再会

 それから約数十秒ほどで問題の場所に到着。


 そこは、少し薄暗い路地裏で、その先には『気配感知』で確認した通り、二人の人がいた。


 遠目から見る限りだと、叡董学園の女子生徒の人と、少し怪しいいでたちの男の人。


『――から』

『――――です』


 何か話しているみたいだけど……。


 ちょっと気になるし、セルマさんとフィルメリアさんの二人と契約したことで手に入れたスキルを使ってみよう。


「『悪人看破』」


 ボクが使用したのは、おそらくセルマさん側の能力だと思われる、『悪人看破』。


 これの効果は至ってシンプルで、その人が悪人かそうでないかを確かめるためのもの。


 シンプルながらも、何かと便利そうなスキル。


 今回使うのは初めてだけど、どうかな?


「……黒と白」


 使用した結果、男の人は黒くなり、生徒さんの方は白くなった。


 ……これって。


 このスキルについて、いまいち理解できていないし、とりあえずセルマさんに訊いてみよう。


 えーっと、セルマさん、聞こえる?


『ん、呼んだか、主?』


 うん、呼んだよ。


『それで、どうしたのか?』


 うん。『悪人看破』で気になることがあって。


『ふむ、言ってみるのだ』


 ありがとう。えっと、『悪人看破』で調べた人って、黒が悪人で、白が善人でいいのかな?


『うむ、その解釈で合ってるのだ。ただ、色の度合いによって悪人度合いが違うから、気を付けるのだ。ちなみに、灰色よりに黒なら軽犯罪者レベルで、どす黒かったらヤベー奴だと思うのだ。その間だと、重犯罪者なのだ』


 ありがとう、急にごめんね。


『いやいや、主の役に立てたようで何よりなのだ。じゃ、我は仕事に戻るのだ』


 うん、がんばってね。


『うむ! ではな!』

「……どす黒い、か」


 セルマさんとの会話の後、もう一度視線の先にいる男の人を確認してみる。


 ……あー、そこそこ深い黒、だね。あれは。


 となると、あの男の人はそれなりの悪人、ということになるのかな。


 ……まずいね、それは。


「……うん? あの男の人、今何か…………っ!」


 物陰からこそっと覗いていると、男の人がコートの内ポケットから白い何かが入った透明な包みを女の子に渡そうとしていた。


 見れば、女の子の方は少しだけ嬉しそうな表情を浮かべているところを見るに、多分『痩せられる薬』という説明でもしたのかもしれない。


 ……とりあえず、なんとかしないとまずそう。


 そう思ったボクは、すぐに行動を開始。


 この姿で登場するのは、さすがにまずい気がするので、『変装』と『変色』の二つを使用して、髪の長さを肩より少し下くらいの長さにして、髪色を黒に変更。


 さらに、『アイテムボックス』内からアンダーリムの黒の伊達メガネを取り出して、それを装着。


 とりあえず、これでボクだとバレないはず。


 何せ、絡まれている女の子は叡董学園の生徒さんみたいだし。


 正体がバレちゃいけないのは、暗殺者として当然だからね。


 ……とりあえず、警察に通報した方がよさそうだけど、それは一旦後回し。


 急がないと。


 女の子たちとの距離は……大体、五十メートルかな。


 これくらいなら、二秒もいらないかな。


「……すぅー……ふっ――!」


 軽く息を吸って、短い呼気と共に物陰から飛び出す。

 なるべく低姿勢で駆け抜け、男の人と女の子の間に割って入る。


「きゃっ!」

『な、なんだ!?』

「すみません。うちの学園の生徒さんに手を出さないでくださいね」

『は――? くぺっ……!?』


 ボクのセリフで呆けた反応をした男の人の首筋に、いつもの針を突き刺し、意識を奪った。

 その際、思いっきり地面に落ちないよう、軽く受け止めてから、地面に横たわらせた。


「あ、あの……?」

「あ、ごめんなさい。ちょっと、危ない光景が見えたものですから」

「え、えと、危ない、って? 私、この人から善意でダイエットを効率的にする、っていう薬を貰っていただけなんですけど……」


 あー……うん。本当にそういう謳い文句だったんだ。


「……それ、多分そういうのじゃないですよ。ちょっと貸してもらっていいですか?」

「あ、は、はい、ど、どうぞ」


 突然の申し出に不思議そうに思ったものの、すんなりと渡してくれた。

 受け取った包みに『鑑定』を使う。

 結果は……クロでした。


「これ、覚醒剤ですよ」

「え!?」

「もしこれを家で使っていたら、とんでもないことになっていましたよ。危なかったですね」

「え、ほ、本当に、覚醒剤、なんですか……?」

「はい。間違いありません。この人は多分、密売人だと思います。とりあえず、警察に通報しますけど、大丈夫ですか?」

「わ、わかりました」


 女の子に一言断りを入れて、警察に電話。


 覚醒剤を持った男の人がいます、と言ったのと、声の主が高校生の女の子だったことから、すぐに来てくれるとのこと。


「とりあえず、少し待っていましょうか」

「は、はい」


 渡されたものが、まさか覚醒剤だったとは思わなかった女の子は、少し顔を青ざめさせていた。


 なんとか使う前でよかったけど、これ、もしも『気配感知』を使ってなかったら、結構危なかったような気が……。


 間一髪、かな。


「あ、あの、あなたは叡董学園の生徒さん、なんですか?」

「はい、そうですよ」

「えと、学年は……?」

「高等部の二年生です」

「……二年生、ですか?」

「はい、そうですけど……何か気になる事でも?」


 ボクが高等部二年生だと話すと、女の子はなぜか不思議な表情になった。

 どうしたのかな?


「い、いえ、あなたみたいな綺麗な人、見たことがなくて……あ、わ、わたしも高等部二年生なんです」

「……そ、そうなんですか」


 ……まずい。


 同じ学年と言うことは、ボクという容姿の人が存在しない、って勘付かれちゃうかも……。


 で、でも、姿は変えてるし、問題はない……よね? 大丈夫、だよね?


 うん、だ、大丈夫なはず。


 ……あれ? そういえばこの人、どこかで見たような……。


 黒髪ショートカットで、可愛らしい整った顔立ち。

 線も細くて、華奢な印象を受けるちょっと小柄な体躯に、控えめで大人しそうな雰囲気。


 ……うーん? やっぱり、どこかで見たことがあるような……。


 ボクがうーんうーんと首をかしげながら唸っていると、


「あ、いたいた。おーい、依桜くーん!」


 後ろから女委の声が聞こえてきました。


 ……ボクの名前を呼びながら、だけど。


「え、依桜……? あ、あのあなたってその、め、女神会長さん、です、か……?」


 ……あー、うん。バレました。

 ですよねー……。


「はぁ、はぁ……いやー、やっと追いついたよー。……およ? そちらの可愛い女の子は?」

「……あ、あれ? あの、もしかして、女委、さん?」


 ボクを追いかけてきた女委を見るなり、女の子は驚いた表情を浮かべながら、まさかと言わんばかりにそう声をかけていた。


「うん、女委ちゃんだけど……あり? そう言うそっちは……鈴音ちゃん?」

「ふぇ? 鈴音、ちゃん? あれ、それってたしか……」


 すごく聞き覚えがある名前と言うか………………え、ま、まさか!?


「も、もしかして、七矢鈴音ちゃん……?」

「は、はい、そうです、けど……え、あの、会長さんと面識、ありました、っけ……?」


 …………な、なんという偶然。


 まさかここで、鈴音ちゃんに会えるなんて……。


 ……あ、そう言えば、鈴音ちゃんにはボクの体のこと、話してなかったっけ。


「あー、えーっと、久しぶり、かな。ボクです、男女依桜です」

「…………え!? お、依桜君、なの?」

「じ、実はね。去年の九月頃に女の子になっちゃって……。一応、ボクのことって自分で言うのも何なんだけど、結構有名だったと思うんだけど……」

「…………あ、そう言えば、女の子になっちゃった男子生徒がいる、って噂になってたような……」

「それ、ボクなの」

「そ、そうだったの?」

「うん。色々な事情があってね」

「そ、そう、なんだ。……あ、あれ? でも、どうして髪と目の色が黒、なの?」


 ……あ、そう言えば変えたんだっけ。

 あー、うーん……どうしよう……。


「依桜君、依桜君。とりあえず、鈴音ちゃんならいいと思うんだけど、どう? もし、あれがまだ続いているなら、近いうちに知ることになるかもしれないし」

「……そう、だね」


 たしかに、未だにあのことが続いているのなら、話しておいた方がいいかも。


「あー、えっと、絶対に他言しないでほしいんだけど――」


 と話を切り出し、ボクは鈴音ちゃんに事情を説明した。


 内容は、とりあえず、異世界に行っていたというものと、そこでのあれこれで呪いを受けて、女の子になってしまったこと、などなど、なるべくかいつまんで説明。


「――ということなの」

「は、はわわわ……い、異世界? があるん、ですね」

「そうなの。一応、魔法とかも使えるよ」

「い、依桜君、随分とファンタジーさんになっちゃったんですね」

「ま、まあ、結果的に、ね」


 ボクだって、こんなファンタジーなことになるとは思ってなかったよ。


「……それにしても、依桜君って結構目立つことが多かったのに、鈴音ちゃんは気付かなかったんだね。これはあれかい? まだまだ一途だから、気付かなかった的な?」


 ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、鈴音ちゃんに絡む女委。


 悪い顔……。


「ふゃ!? あ、え、えと、そ、それは、あ、あの~……はぅ~……」


 顔を真っ赤に染め、わたわたとした動きをしたものの、恥ずかしくなったのか顔を両手で覆ってしまった。


 あ、うん。この反応、間違いなく鈴音ちゃんだね。


 それに、この反応を見る限りだと……本当に一途なんだね。


「……じ、実はそう、なの……」

「おー、やっぱり。いやー、鈴音ちゃんの体から滲み出る乙女オーラがむんむんだったから、もしやと思ったけど……いやはや、マジで続いているとは」

「だ、だって、カッコイイから……」


 恥ずかしそうに俯きながらも、そう答える鈴音ちゃん。


 ……うん、本当に女の子してるなぁ。


 ウー……ウー……!


「あ、サイレンの音。もうそろそろ警察が来ると思うし、お話は一旦後にしよっか」

「わ、わかった、よ」

「OK! って、依桜君行動早いねぇ」

「大事だからね」


 一度鈴音ちゃんとの会話を切って、警察が来るのを待った。



 それから事情聴取などを受け、それが終わるとボクたちは学園へ戻りました。


 ただ、色々と話したいこともあったので、買ってきた物をみんなに渡して、少しだけ話してくる旨を伝えたら、快く了承してくれました。


 鈴音ちゃんの方も大丈夫だったようで、ボク、女委、鈴音ちゃんの三人で学食へ。


 学園祭準備期間中は、基本的に学食は営業中になります。


 この学園の学食って、味もいいし、内装もオシャレで人気だからか、この時期になると売り上げがすごい、って学園長先生が前に言ってました。


 実際その通りで、学食は準備期間中にもかかわらず、結構な人がいました。


 ボクたちは適当な場所に座り、話を再開。


 ちなみに、鈴音ちゃんは、ボクたちが中学生時代の時の知り合い……というか、友達です。


「それでそれで。鈴音ちゃんはまだあんちくしょうのことを想ってるのかな?」

「あ、あんちくしょうじゃない、よ。あ、あの人はちょっとお馬鹿だけど、優しくてカッコイイ人、だもん……」

「にゃははー。ごめんごめん。にしても、まさかこの学園にいるとは思わなかったよ。追いかけて来たのかな?」

「う、うん……。ちゅ、中学生の時に、告白できなくて、その……後悔していたから……」

「じゃあ、学園に通っている内に告白するの?」

「で、できれば、学園祭中にしたい、かな、って……」

「まぁ、学園祭と言えば、カップルが大量発生するイベントでもあるしねぇ。非日常の中でそう言うことがあれば、一気に距離は近づくよねぇ。うんうん、いい判断だと思うよ!」

「そうだね。ラブコメ系の作品でも、学園祭で告白する、っていうシーン多いもんね。ボクは応援するよ」

「もち、わたしもー」

「あ、ありがとう、ふたりとも。……で、でも、わたしなんかに、OKしてくれる、かな……?」


 ボクと女委の言葉に、鈴音ちゃんは照れ笑いを浮かべた後、少し悲しそうな笑みになった。


「んー、勝率で言えば……五分かなぁ。たしかに、彼はバカで変態だけど、告白されたらちゃんと考えるタイプだと思うしねぇ。依桜君はどう思う?」

「女委と同じ考えかな? バカはバカでも、友達想いのいい人だし、とりあえず付き合う、みたいな曖昧な返事はしないと思うなぁ。多分、友達から! とか、少しだけ時間をくれ! って言いそう」

「あー、わかるわかる。絶対そういうタイプだよねぇ」

「……じゃ、じゃあ、成功しない、かな?」

「いやいや、どっちかと言えば、勝率は高い方じゃないかな? そもそも、鈴音ちゃんみたいな可愛い女の子からの告白であれば、狂喜乱舞するんじゃないかなー? 去年とか『彼女が欲しい……』なんてこと言ってたしねー。まあ、最近は依桜君が引き寄せるトラブルの影響で、そう言うこともなくなったけど、大丈夫じゃないかな? 中学一年生の頃からの付き合いだけど、それなりに性格は知ってるからね」


 あー、なんかわかる気がする。


 鈴音ちゃん、実際可愛いし。


 お人形さんみたいな可愛らしさで、どこかおどおどしつつも、ちゃんと芯はあるタイプからね。


 少なくとも、フラれる、なんてことはないんじゃないかな。


「……そう、かな?」

「うん、女委の言う通りだと思うよ。ボクも中学一年生の頃からの付き合いではあるけど、何も考えずにフるほど、バカじゃないよ。だからきっと、友達から、って言うんじゃないかな?」

「うんうん。速攻でフラれる可能性は限りなく0に近いから、がんばってみよう! もちろん、協力するし」

「い、いいの?」

「うん。というより、今までのバレンタインで、下駄箱にチョコレートが入っているにもかかわらず、気付かなかったあっちも問題だからね。鈍感だもん」

「……え、それ依桜君が言う?」

「なんで!?」


 なんでボク、女委に呆れられてるの!?

 ぼ、ボク、鈍感じゃないよね?


「じゃ、じゃあえと、お、お願いします」

「まっかせてよ! この女委ちゃんと依桜君が、確実に二人をくっつけてあげようではないか!」


 こうして、ボクと女委の二人は、成り行きで鈴音ちゃんの恋のキューピットのようなことをすることになりました。

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