第493話 初々しい(?)デートだったはずなのに

「あ、そろそろ、あの時間かな?」


 みんなと遊び回ること、一時間半ほど。


 もうすぐ例のイベントが近いことを思い出したボクは、みんなを連れて、イベントが実施される場所へ移動することに。



 告白イベントは、前評判からすでに好評で、意外と参加者が集まっていたり。


 普段だったら、あんまり参加しなかったかもしれないけど、今回は鈴音ちゃんが参加するからね。


 鈴音ちゃんが参加する以上、友達のボクとしては見届けてあげたいところ。


 未果たちからも連絡があって、今向かっているとのこと。


 今のところは特にこれといった問題も起こっていなくて、安心している限りです。


 このまま何事もなく続けば――


 バンッ! バンッ!


 ガシャンッ!


 …………え?


『な、なんだ今の音?』

『銃声っぽくなかった……?』

『何かイベントでもやんのか?』


 唐突に発生した銃声や何かを倒すような音に、周囲の人たちは疑問符を浮かべていた。


『テメェ! そいつを置いてや!』

『じゃねェと、テメェも殺すぞ!』


 ……ちょっと待って。


 なんで、学園祭には似つかわしくない怒号が聴こえてくるの?


 普通、殺す、なんてフレーズ絶対に聴こえないと思うんですが。


 とりあえず、ボクは『気配感知』の範囲を拡大し、状況がどうなっているのかを探る。


 すると……


「な、なにこれ!?」

『気配感知』を使用した結果、どうやら、悪意を持った人たちが大勢この学園に押し寄せてきていることがわかった。


 同時に、それを止めようとしてくれているらしき人たちもいることがわかる。


 ……待って。これは一体、どういうこと?


 しかも、さっきの音はやっぱり銃声、だよね?


 それに、ガシャンッ! っていう音は、正門前から発生していたような……。


『お、おい! なんだあいつら!?』


 ふと、周囲にいた一人の人がある方向を指さしながら叫ぶ。


 それに釣られて、ボクはそちらを見ると……


『ハッハー! 随分人が多いなァ? 壊し甲斐があるってもんだ』

『オラ! 変なことをすりゃ、殺すぞ!』


 ガラの悪い男の人たちが暴れていた。


 ……これ、まさかとは思うけど……また襲撃!?


 なんで今年もこんなことになってるの!?


 原因、原因は一体……。


 ……そう言えばさっき、誰かを追い回している人がいたような……?


 あれって、一体――


『クソッ! なんで追いかけてくんだよ!』

『テメェに用はねェ! その女に用があンだよ! いいからさっさと渡せや!』

『ハァ!? だったら、尚更渡さねぇ! 七矢はオレが守る!』


 …………今の声って、態徒!?


 ボクは人ごみの隙間から奥を覗く。


 すると、鈴音ちゃんをお姫様抱っこしながら、刀らしきものを持った男の人たちから逃げ回る態徒の姿があった。


 ……。


 それを見た途端、ボクはすぐに行動に移すことにした。


「……みんな。今からボクの言うことをよく聞いて」


 真剣にそう声をかけると、みんなはこくりと頷いた。


「今から、向こうの校舎に行きます。そしたら、ボクのクラスへ行って、事情を話してそこに匿ってもらって。いいかな?」

「ねーさまどうするのじゃ?」

「ボクは、ちょっと悪い人たちを懲らしめないといけなくなっちゃったから、行かないと」

「でもねーさま……」

「いい、メル。今回は危険なの。だから……もし、悪い人に遭遇しちゃったら、能力やスキル、魔法を使って撃退すること。ニアたちは、まだその辺りは苦手だから。一番上のお姉ちゃんとして、守ってほしい」


 今回に関しては、ちょっと去年とは違うような気がするので、メルにはみんなを守ってもらうことにする。


 一応、みんなにはボクの戦闘技術を教えているんだけど、メル意外はまだ不慣れだから、ここは魔王であるメルに、みんなを守ってもらった方がいい。


 ……それに、メルは向こうの人基準で見ても、かなりの強さだから、こっちの世界の人に後れを取ることはないと思うから。


 もっとも、最悪の場合は想定しているけど。


「てかげんは?」

「死なない程度にしてくれれば、あとはボクでどうにかするよ。もし、殺してしまったとしても……師匠がいるから、大丈夫。だから、みんなを守ることに専念して」

「うむ! りょうかいなのじゃ!」

「いい、なるべく人ごみに紛れて向こうの校舎に行くこと。できる?」

「「「「「「うん!」」」」」」

「じゃあ、行って!」


 ボクがそう言えば、メルたちは一斉に高等部の校舎へと向かって行った。


「さて……ボクは生徒会長のお仕事をしないとね」


 それにしても、どうして態徒と鈴音ちゃんが巻き込まれているんだろう……?



 遡ること二時間ほど前。


「おっし。休憩時間だ! んじゃ、交代よろしく!」


 二年三組の教室にて、変態こと変之態徒は、休憩時間になると、交代相手にそう告げ、今にも駆けだしそうなほどに上機嫌にそう言った。


『なんだよ、やけに上機嫌だな、変之。やっぱ、男女たちと回るからか? あー、マジで爆ぜればいいのに』


 それを見た交代相手は、依桜と回るだろうと言う予想をぶつけ、嫉妬交じりの罵倒をする。


「ちげーよ。今日は別の奴と回る約束してんだ」


 ところが、今回はそういうわけではなく、態徒はそれを否定し、別の人物と回ると告げると、クラスメートは驚きの表情を浮かべた。


『は? マジで?』

「マジマジ。ちょっと、中学時代の友達と再会してさ。そいつと回るんだ。……っと、いけね。そろそろ時間になっちまう! んじゃ、後はよろしく!」

『あ、おい! ……行っちまった』


 態徒は話を切ると、そのままクラスメートの制止を聞かず、待ち合わせ場所に向けて走り去っていった。



「おし、なんとか十分前! あとは、待つだけ……って、お」


 待ち合わせ場所にしていた噴水に到着したオレは、あとは待つだけと思っていた。


 だが、その待ち合わせ場所にはすでに、目当ての人物がいた。


「よ、七矢」

「あ、態徒、君っ」


 目当ての人物――七矢に話しかけると、七矢は僅かに顔を赤くしながらも、どことなく嬉しそうに小さく笑った。


 やっぱ、七矢は可愛いなー。


「七矢の方が早かったかー。悪ぃ、待たせたか?」


 もしかすると、待たせたかもしれないと思って、そう訊いてみたんだが、


「ううん、だいじょう、ぶ、だよ? わたし、が、早く来ちゃった、だけ、だから。気にしない、で」


 そう言ってくれた。


 七矢って、マジで優しいんだよなぁ……。


 もし彼女にするんなら、七矢みたいな奴がいいよなー、やっぱ。


「そう言ってもらえると、気が楽だよ。……んじゃ、そろそろ行くか!」

「う、うんっ」

「まずはどこへ行くかだが……七矢は希望とかあるか?」


 突っ立っていても仕方ないので、希望を聞いてみる。


 すると、七矢は少しもじもじした後、提案して来た。


「え、と、お、お腹が空いた、から、何か食べたい、かな」

「たしかにそうだな。オレも腹が減ったし……あ、そういや、オレの知り合いがやってるお好み焼き屋があるんだけどさ、そこ行くか?」

「うんっ。行き、たい」

「おっし。じゃあ、早速行こうぜ! そいつ、めっちゃ気合入っててさ、なんでも『過去最高の出来!』らしくてな」

「そう、なんだ。仲、いい、の?」

「おう。ほら、オレ実家が道場だからさ、やっぱ武術系の部活では助っ人に呼ばれるんだよ。そん時にな」

「態徒君、らしい、ね」

「そうか? ……っと、話は歩きながらにしようぜ」

「う、うん。行こ」


 さすがに、腹が減って来たし、オレとしても、久々に七矢と色々遊びたいしな。


 そう思いつつ、オレたちは歩き出した。


「……?」


 ふと、どこからか視線が飛んできている気がして、立ち止まって振り向く。


「どう、したの?」

「あ、いや、なんか今誰かに見られてた気がしてさ」

「だい、じょうぶ?」

「おう。多分気のせいだろ。行こうぜ」

「うん」


 おっし、楽しみますかね!



「なかなかいい感じじゃない? あれ」

「そうだな。見た感じ、雰囲気も悪くないし、態徒の方も楽しそうにしている。これなら、今日のイベントは成功しそうなものだが……」


 態徒が振り向いた先には、野次馬その1とその2がいた。


 ちなみに、未果と晶である。


 二人は、依桜から『態徒が鈴音ちゃんとデートする』という情報を聞いた後、面白そうという理由で尾行することにしたのだ。


「でもさー、デートでお好み焼き屋はなくない?」

「そうかな? うちはありだと思うよ? 話を聞いている限りだと、鈴音ちゃんって態徒君大好きみたいだし、大好きな人といられるなら、どこへでも! みたいなタイプじゃないの?」


 そして、野次馬その3とその4もいた。


 まあ、言わずもがな、女委と恵菜の両名である。


 こちらも依桜から情報を得て、こうして尾行しに来た、というわけだ。


 友人の恋路は面白い、ということだろう。


「まあ、そうね。鈴音ちゃんは態徒が大好きすぎて、どこへだって着いて行きたい、なんて娘だから。間違ってないわ」

「ああ。それに、嬉しそうだっただろう?」

「うん! 態徒君も、隅に置けないんだね」

「まあねぇ。中学時代は、『はよくっつけや』って思ったものだぜー」

「「うんうん」」

「そんなになんだ」


 野次馬その1~その3は、中学の頃を思い出してもやもやし、恵菜はそんな話を聞いて、たしかにと思った。


 実際、どこかもどかしいのである。


「おっと、そろそろ態徒たちが移動するわ。追いかけましょ!」

「「「おー!」」」


 完全に野次馬である。



「おっす。どうよ、売れてる?」

『お! 変之じゃん! なんだなんだ、一人寂しく俺たちの究極のお好み焼きを買いに来たのか?』

「ふっ、生憎と今日は一人じゃないんだなー、これが!」

『どうせ、女神様たちとだろ? かーっ、裏やしいねぇ、お前は』

「いんや、今日は違う。ほら、こっちの子と一緒に回ってるんだよ」

『こっち……? って、うぉ!? お、おま、こんな可愛い子とどこで知り合ったんだよ!? 変態のくせに、変態のくせに!』

「お前、普通に酷くね?」


 ってか、二回も言うなよ。


 いや、否定できんけどさ。


「あ、あの……」

『あ、あぁ、はいはい。なんでしょうか?』

「え、えと、あの……た、態徒君、を、悪く言わない、で、くださいっ……!」

『…………お、おい、変之。お前もしかして、本省的なアレを見せてないのか……?』

「いや、一応依桜たちと一緒に過ごしていた時期があるから、見てるはず……」

『なのに、庇うどころか、怒る、と。……ふっ。負けたぜ……』

「何が!?」


 いきなり負けた宣言喰らっても、よくわからないんだが!


 尚、右隣にいる七矢は、頬をやや膨らませながら、オレの左腕の袖辺りを摘まんでいる。


 やべぇ、なんか小動物が威嚇してるみたいで可愛い……。


 あと、その仕草は反則だろー。マジドキドキしちゃうぜ?


『ってーわけで、お熱いお二人さんには、俺からサービスだ! 持ってけ泥棒!』

「さすがにそれはわりーって。金は払うぞ」

『いいんだよ。お祝いって奴だ』

「お祝い? なんの?」

『え、お前もしかして…………あー、いや、なんでもねぇ。なんか、ムカつくから言わん』

「ちょっ、それは酷くね?」

『うるせー! 早く行けや! 幸せがうつる!』

「それはうつってもよくね……?」


 むしろ、うつしたほうがいいだろ、それは。


 そんなことを思っていると、くいくいと七矢がオレの服の袖を引っ張っていた。


 ちなみに、上目遣い。


「そ、そろそろ、行こ……?」


 ズキュン!


 上目遣いでおねだりっぽく言うのは反則だって……。


 依桜もたしかに可愛いが、やっぱ七矢は何と言うか……安心する可愛さだよなー。


 人間離れしてないっつーか、一緒にいて安心するタイプの可愛さだ。内面も合わせてな。


「おう。んじゃ、あっちに休憩エリアがあるし、行こうぜ」

「うんっ」


 飯だ飯だ。



「……ほんとにいい感じね、あれ」

「だな。見たところ、態徒の友人らしき男子生徒は、七矢が態徒に好意を持っていることに対し、気付いているみたいだ」

「むしろ、あんなにバレッバレなのに、よくもまぁ、気付かないよねぇ」

「態徒君の鈍感っぷりも、結構神がかってるよね!」

「……まあ、あれ以上に鈍感なのが、私たちのグループにいるわけだけど」

「「「あれはもう異次元」」」


 依桜の友人たちから見た依桜の鈍感っぷりは、どうやら異次元レベルらしい。



「お。お化け屋敷があるぞ。行ってみるか?」


 昼飯を食べた後、オレたちは学園内を散策。


 その途中、うちのクラス以外がやってるお化け屋敷を発見し、そこに入るか提案してみる。


「わ、わたし、お化け屋敷、苦手……」


 どうやら、七矢はお化け屋敷が苦手らしい。


 ある意味、外見通り。


「そうなのか。んじゃあ、やめとくか?」


 さすがに、無理して行くってのも、七矢が可哀そうだしな。


 あと、単純に七矢には嫌われたくねーしな。


「で、でも、態徒君、が、行きたいなら、行く、よ……?」

「いいのか?」

「う、うん。で、でも、怖いから、手を繋いでも、いい……?」

「お、おう、もちろんだぜ! むしろ、遠慮なく繋いでくれていいぜ!」

「あ、ありが、とう」

「おうよ。んじゃ、早速行こうぜ!」

「う、うんっ」


 まさか、手を繋ぎたい、なんて言われるとは……。


 オレ、明日死ぬんじゃねーか? これ。


 オレは内心うっきうき気分になりながら、お化け屋敷へと七矢と一緒に足を踏み入れた。



 というわけで、お化け屋敷内部。


 中はかなり薄暗く、所々赤色の淡い光があるが、逆にそれが謎の恐怖心をあおる。


 まあ、もっとも……


「う、うぅっ……」


 今のオレの右腕には、柔らかな感触があるわけだがな!


 その正体はもちろん、七矢。


 最初は手を繋ぐだけだったんだが、次第に密着具合が増していき、今では腕を抱き抱えている状態だ。


 正直、七矢の柔らかな双丘(CかDっぽい)が、オレの右腕に当たりまくってて、マジでドキドキしっぱなし。


 個人的に、以前依桜とデートした時以上かもしれん。


 ……やっぱ、好きなんかね? 七矢のこと。


 まあ、七矢自身はオレのこと、友達程度にしか思っていなさそうだがな!


 ……言ってて悲しくなったわー。


「大丈夫か?」

「だ、だい、じょう――」


 バンッ!


「ひぅっ! た、態徒、君、こわい、よぉっ……!」


 おうふっ!


 七矢の胸の膨らみが、さらに密着してきただとぅ!?


 くっ、落ち着けオレ。


 顔をきりっとさせろ。


 正直、今はオレの全力の理性でにやけそうになる顔と、本能的な何かを抑え込んでいるが……やっぱ、好きな女子からの密着はキッツいぜ!


 だが、オレは男だ。


 何が何でも守らなくては!


「大丈夫だ。オレが守ってやるぜ」


 ……うわ、自分で言ってて寒気がした。


 オレ、こういうセリフ、マジ似合わねー……。


 こう言うのは、絶対晶担当だって。


 オレじゃ意味ないって。


 あー、七矢、引いてないよな……?


「た、態徒君……」


 あり。なんか、ちょっと顔を赤くしてる? あと、どことなーく、目が潤んでる気がするし、熱っぽい視線を向けてるような?


 ……まあ、気のせいだよな!


 オレ、変態だから女子にモテる、なんてことがあるわけないし?


 ……やべぇ。自分で自分の心抉っちまった……。


『アァァァ……!』

「きゃぁっ!」

「おうふっ」


 ……持ってくれよ、オレの理性!



「あー、七矢さん? いつまで、オレの腕に抱き着いてるんだ……?」

「だ、だって、さ、さっきの、が、怖く、て……で、でも、態徒君が嫌、なら、離れる、よ……」


 オレのセリフから、オレが嫌がってると勘違いした七矢は、なんでかわからんがしゅんとした。


「あぁ、違う違う! 別に嫌じゃねーから!」


 理由はわからんが、それでもなんか良心が痛んだんで、慌ててそれを否定。


「ほ、ほんと、に……?」

「ほんとだほんと。ってか、普段からそういうことされないから、結構嬉しいぜ、オレ的に」


 ……って! オレは七矢相手に何を言ってんだ!?


 これじゃ、気がありますよって言ってるのと同義じゃん!


 あぁ、くそぅ。七矢相手だと、どうも、いつもの調子にならねぇ……。


 ひ、引かれたか……?


「嬉しい、の?」


 ん? なんだこの反応?


 どことなく期待したような眼差しだが……?


「あ、あぁ。嬉しい、ぞ? オレ、身近な女子って言や、未果や女委くらいだからなー」

「依桜君、は?」

「依桜? 依桜は……あれは、なんか違う。いや、たしかに、クッソ可愛いし、まさに理想の女子、みたいな存在だが」

「……そう、なんだ」


 あ、あれ!? なんか、すんげぇ落ち込んだんだけど!?


 こ、こう言う時は、え、えーと……!


「か、勘違いすんなよ? オレ的には依桜みたいな完璧女子はさすがに彼女にしたいとは思わんからな!? どっちかと言えば、素朴な感じで、できれば大人しい奴の方が好みだからな!?」


 って、それ思いっきり七矢のことじゃねーか!?


 オレ、マジでどうした……?


 くっ、久々に会ってテンションが振り切れてんのか……?


 だとしたら、非常にまずい。まずいって言うか……これ、七矢に嫌われるんじゃ? と思うよう場面がそこそこあるような気がするんですが、マジで。


「……そ、そう、なんだ」


 オレの心配とは裏腹に、七矢は赤面しながら、やや俯いた。


 お、お? 引いてない、よな? この反応。


 よくわからんが、どうやら引かれていないらしい。


 なんでだ?


 まあ、これなら誤魔化せそうだ。


「それに、あいつは元男だしさ。いくら可愛くても、な?」

「そう、いえば、そう、だね」

「だろ? 今なんて、マジで完璧女子みたいな状態だし、ある程度受け入れてるけどさ、あいつ、最初の頃はずっと『男だよ』って言い張ってたんだぜ?」

「男の娘、だったもん、ね。わたし、も、そうなったら、多分、同じ、だと、思う。態徒君、は?」

「オレ? オレは……どうだろ? 正直想像できねーんだよなぁ。まあ、オレ的には、依桜みたいに、女子になる、っていう状況にはなってみたいとは思うが、やっぱ男の方がいいって。気楽だし」


 女子って、いじめとか陰湿そうだし、なんか、陰口とか平気で言いそうだし。


 それに比べて男よ。


 陰湿な奴もたまにいたりするが、大体は結構真っ直ぐに行くパターンの方が多いだろう。オレの主観だが。


「……じゃあ、わたし、も、女の子のままが、いい、かな」

「はは。まあ、今更別の性別になる、なんて考えらんねーよなぁ。やっぱ、今の性別が一番」

「……そう言う意味、じゃない、んだけど……」

「ん? なんか言ったか?」

「う、ううん。なんでも、ない。……態徒君。あっち、行こ?」

「おう。行くか」


 七矢が賑やかな場所を指さしながらそっちへ行こうと提案し、オレもそれに乗った。


 そしてそのまま、腕を組んだまま、オレたちは歩き出した。


 ……ってかこれ、傍から見りゃカップルなんじゃね?



「うわぁ、なんてもどかしくも初々しい状態……あの変態な態徒と言えど、こればっかりは素晴らしいと言わざるを得ないわ」

「そう、だな。俺もまさか、あの態徒があそこまで初々しくなるとは思わなかった。というか、あいつでもああなるんだな……」

「いやー、なんとまあ絵に描いたようなラブコメですこと! これは、いいネタになるぜー。今度、変態男子と内気美少女のラブコメでも描こっかなー」

「うんうん、いい感じだよね、あの二人! どう見ても両片思いだよね、あれって」


 野次馬たちは、まだ野次馬していた。


 しかも、心の底から面白がっているというのが、何とも言えない。


 当人たちが見たら、それこそ顔を赤くすることだろう。


「それにしても……くっ、じれってーな! わたし、ちょっとやらしい雰囲気にしてきます!」

「やめなさい」

「にゃはは、冗談冗談。ちょっと現実で言ってみたかったんだよね、このセリフ。しかも、ドンピシャじゃん? 状況的に」

「ドンピシャじゃないと思うが……」

「あははは」


 どこまで行っても、変態女子は変態女子である。



「……ん?」

「どうした、の?」

「いや、なんか嫌な気配がしてさ……」


 二人で学園祭を楽しんでいると、不意に何やら首のあたりがピリピリするような、そんな感じがしてきた。


 これはたしか……ミオさんによる特訓(という名の地獄の扱き)によって得た『危機感知』か?


 いやぁ、オレも人間離れして来たなー、なんて思ったもんだが……これが発動すると言うことは、これからオレが危険に晒されるような状況になるってことか?


 ……まずくね?


 このスキル(能力?)を得てからと言う物、たしかに悪いことが起こる前には、必ずと言っていいレベルでこれが発動していた。


 例えば、嫉妬に狂った男子が、オレを亡き者にしようとした時とか、ミオさんが全力でオレを鍛えようとした時とか、車が突っ込んできそうになった時とか。


 ……オレ、結構危ない生活を送ってんな、マジで。


 まあ、そんなことはともかく。


 今回はなんだ?


 学園祭中だし、やっぱ火事とか、通り魔とかか?


 まあ、さすがにそこまで物騒なことにはならな――


『死ねやッ!』

「殺気!? 七矢悪ぃ!」

「きゃっ」


 不意に物騒な掛け声と共に、何かが振り下ろされる。


 オレは慌てて七矢を抱き抱えると、そのまま横に飛んだ。


 オレたちが立っていた場所には、なぜか振り下ろされた刀が……って、刀!?


 なんで刀!?


 ってか、は? マジで何事!?


 急いで振り下ろした存在を視認。


 そこには、なんか堅気の雰囲気じゃない男たちがいた。


 あ、あれ? あれってもしや……ヤーさんと言う奴では?


『チッ。どうやら、運がいいようだなァ? なァ、嬢ちゃんよォ』

「あ、あなた、たち、は……!」

「え、何? 七矢の知り合い?」


 声をかけられた七矢は、驚愕と恐怖が入り混じった表情を浮かべた。


『おい坊主。死にたくなかったら、さっさとその嬢ちゃんを置いて逃げな。今なら、殺さないでおいてやるよ』


 ま、マジか。オレ、脅されてる? これ。


 ……下手に動いたまずい、よなぁ。


「あ、あのー、あなたたちはなんなんすかね……?」

『ンなもん、知らなくていいんだよ』

『そうそう。どうせ、関係ねェからな。ほら、死にたくねーなら、さっさと逃げな。そうでないんなら……一緒に死ね!』

「ちょぉっ――!?」


 オレが逃げる時間すら与えず、即座に切りかかってきたんですが、こいつら!


 ま、マジか? マジなのかこれ!?


「くっ、七矢逃げるぞ!」

「で、でも、わ、わたし、今日、履きなれていない、靴、なの……!」

「なに!? なら仕方ねぇ! 我慢してくれよ!」

「え……? きゃっ!」


 オレは失礼を承知で七矢を抱き抱えると、そのまま走り出した。


『待ちやがれ!』

『逃がさねェぞ、クソガキが!』


 クソッ、どうなってるってんだよ!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る