第500話 美羽、お化け屋敷に挑戦する
学園祭二日目が始まり、昨日以上に多くのお客さんが入り、学園内はかなり賑わっていた。
正直なところ、この学園が基本的にどこも広めでよかったと思ってます。
何せ、
『よっしゃぁ! 今日こそ、今日こそこのお化け屋敷をクリアし、サインをゲットするぜ!』
『『『おおおおお!』』』
ボクたちのクラスの前には、エナちゃんとボク(いのり)のファンと思われる人たちが長蛇の列を作っていたからね……。
これ、下手をすると階段の方まで続いているんじゃ……。
アイドルの力って、すごいと思いつつ、接客をして行く。
中に入って行った人たちはと言えば、
『やっぱ無理ィィィッッ!』
『こえぇよ! マジでこえぇよ!』
『ひぃぃぃ!』
すぐにリタイアして、出て行っちゃうんだけどね。
女委、一体どれだけ怖い内装にしたんだろう。
ボクは入って数秒でギブアップしたからわからないけど、こうもリタイアする人ばかりだと、ちょっとは気になってくる。
……まあ、怖いから絶対にやらないけど。
「次の人どうぞー」
並んでいるお客さんを捌くべく、先頭にいる帽子を被ってサングラスとマスクをしている人にそう声をかけると、
「こんにちは、依桜ちゃん、エナちゃん」
突然、ボクとエナちゃんの名前を口にした。
あれ、この気配ってもしかして……。
「美羽さん?」
「ふふ、依桜ちゃんにはバレちゃうか。うん、こんにちは。今日はお仕事が入っていなかったからつい来ちゃった」
いたずらっぽく笑いながら、サングラスとマスクを外す美羽さん。
ボクとエナちゃんは驚きつつも、知り合いが来てくれた嬉しさからか、ついつい言葉も明るくなる。
「そうだったんですね。もしかして、わざわざ並んでくれたんですか?」
「うん。いくら知り合いと言っても、他の人に悪いから。だから、正々堂々と並んで、こうして待ってたの」
「なんだか嬉しいね、依桜ちゃん」
「そうだね」
まあ、美羽さんが来ていることを知っていたら、優先的に通したんだけど、美羽さんはその辺り真面目だから、何かと理由を付けて並んでそう。
ただ……。
『な、なぁ、あれって声優の美羽じゃね?』
『何!? 有名人すらも来るこの学園の学園祭どうなってんだよ、マジで』
『ってか、何だあそこ!? 女神様に、エナに、美羽って……すっげえ豪華なんだが!』
さすがに、美羽さんの登場は周囲にもかなり影響を与えているみたいだけど……。
とはいえ、このままここで美羽さんと話していると、ボクとエナちゃんのような事態になりかねないし……。
「ともあれ、来てくれてありがとうございます。もうすぐ空くと思いますので、中に入って待っててください。料金は1000円です」
「はーい。じゃあ、はい、1000円」
「……はい、ちょうどですね。では、いってらっしゃいませ」
そう言って、にこにこ顔の美羽さんは中に入って行った。
「……美羽さん、クリアできるかなぁ」
「大丈夫じゃないかな? うちはダメだったけど、美羽さんって度胸ある気がするもん」
「……それもそっか」
「次は……およよ? 美羽さんじゃないか! お久!」
「うん、お久! 女委ちゃん」
私が依桜ちゃんたちのクラスに入ると、中にはナース衣装に身を包んだ女委ちゃんが。
どうやら、案内役みたい。
「最近会えてなかったし、お仕事が忙しいのかい?」
「ん~、まあそんなところかな? 自分で言うのもなんなんだけど、持っている役が多いし、声優イベントとかもあるから」
「そう言えばそだね。それにしても、まさかわたしプロデュースのこのお化け屋敷に来るとは! ふっふっふ、美羽さんはクリアできるかな?」
「SNSとか、動画サイトで見たけど、なんでもかなり怖いみたいだね。それでいて、クリア者0。私はお化け屋敷は好きだし、これは行くしかない! って思って来たんだけど……」
女委ちゃんと話しつつ、視線を別の所へ。
その先では、
『こっわ! マジでこえぇ! なんだこのお化け屋敷!? トラウマもんだよ畜生!』
『絶対夢に出るわ……』
先に入っていた人たちが、逃げるようにして教室から出る所だった。
「かなり怖いみたいだね、本当に」
「にゃっはっは! わたしこと、『真藤皐月』がプロデュースしたお化け屋敷だからねん! そう簡単にはクリアさせませんとも! もち、友達の美羽さん相手でもね!」
「ふふっ、その挑戦受けて立つわ」
「おっしゃ! あ、ちなみにクリアすると、依桜君とエナっちどちらかのサインか、握手ができるんだけど、美羽さん的にはいらないよね?」
「うーん、私はみんなと遊んだりする機会があるし、興味はないかな?」
「だよねー。じゃぁ、そうだなぁ……あ、こう言うのはどうよ。わたしたちの学園、一週間後くらいに修学旅行があって、京都に行くんだけど」
「うんうん」
それがどうかしたのかな?
私はあまり関係ないと思うし……。
「十中八九いつものメンバーで班を組むことになると思うのさ。んで、その間もし美羽さんが来ることができれば、依桜君と自由時間の間は二人きりのデート状態にしようじゃないか!」
「――乗った」
女委ちゃんの提案に、私は一瞬の時間すら置くことなく、即答した。
だって、依桜ちゃんとデートできるかもしれないっていうことだから、このチャンスを逃すわけにはいきませんとも。
「おー、さっすがー!」
「ふふ、私としても、依桜ちゃんとデートしてみたいから。一緒に出掛けると言っても、お仕事関連だけだからね」
「それもそうだねぇ。……んじゃ、ちょっち訊いてみるね」
「聞いてなかったんだ」
「まあねん。……あ、もしもし依桜君? うん、わたしわたし。えっとさ、突然なんだけど――」
女委ちゃんはすぐに依桜ちゃんに電話をかけ出した。
見たところ、悪い方で話している風には見えなくて、意外とすんなり通ってるみたいだけど……。
どうだろう?
「オッケーオッケー。ありがとねー。……はい、許可出ました」
「わ、意外。依桜ちゃんオッケー出してくれたの?」
「おうよ! 依桜君的に、このお化け屋敷は異常な難易度だから、出来たらそれくらいいいよー。だそうで。あと、わたしたちと回る機会は多そうなんで、そういうのもありだね! とのことです」
「ということは、私もそれなりに依桜ちゃんに好かれている、っていうことかな?」
「なんじゃないかね? 前に、依桜君に美羽さんの印象を訊いてみたら『大人っぽくて、綺麗。個人的に憧れに近いかな?』だそうで」
「そ、そうなんだ。……ふふ、なんだか嬉しい。依桜ちゃんが私の事、そう思ってくれているなんて」
「依桜君の場合、自分の外見が子供っぽい、とか思ってる節があるからねぇ。だからこそ、大人な雰囲気を醸し出している美羽さんに対して、そう言った感情を抱いているんじゃないかね?」
「なるほど」
たしかに、依桜ちゃんって、大人っぽい外見かと聞かれると、そうではない感じかな。
大人と子供の中間くらいで、どちらかと言えば子供寄りな顔立ち、といったところ。
実際、童顔と言われてもおかしくない顔立ちだもの。
可愛いとは思うけど。
「そういえば、美羽さん、依桜君が大人モードになってたのに、特に反応しなかったね」
「あ、あれって大人モードって言われているんだ」
「安直だけどねん。依桜君、特に触れられなかったから普段通りに接してたみたいだけど、どう思ってるんだろう? って気になってたよ?」
「依桜ちゃんが?」
「うむ」
「んー……そうだなぁ……。私としては、今の依桜ちゃんよりも、小学生状態と通常時の方が好きかな? 大人モードも決して悪くないし、魅力的だけど、個人的には向こうの方が」
「なるほどねぇ。その辺りは、結構好みで別れてるっぽいし。……っと、立ち話しすぎだね。そんじゃまあ、そろそろお化け屋敷へ行くとしましょうぜ」
「うん、待たせちゃ悪いもんね」
「うむうむ。こっちだぜー」
さて、女委ちゃんがプロデュースしたお化け屋敷は、どれくらいの怖いのかな?
依桜ちゃんは、お化けが苦手みたいだから、依桜ちゃんの主観はこういったホラー系のあれこれではあまり信用できないけど……評判はかなりいいみたいだし、楽しみかな。
女委ちゃんに案内且つ、ダイブの仕方を教えてもらい、ゲームの中へ。
無事に成功したところで、目を開けると、霧がかかった暗い草原のような風景が目に入って来た。
「結構雰囲気ある」
まず最初に口を付いた感想は、かなりお化け屋敷としての雰囲気があることに関して。
ただ、見た感じスタート地点は外だし、屋敷と言っていいのかどうかがちょっと微妙だけど。
〈えー、こほん! どもども! お久お久! 完全無欠、スーパーAIのアイちゃんどぇす!〉
不意に、この怖い雰囲気を壊すかのような、この場に似つかわしくない声が聞こえて来た。
「アイちゃん? どうしてここに?」
姿かたちは見えないけど、確実にこの空間にいる依桜ちゃんのサポートAI、アイちゃんに声をかける。
〈んー、ほら、最近私の出番少なかったじゃないっすか? いえ、話数的に考えればそうでもないのかもしれないんすけど……リアルタイムが、ね?〉
「ごめんね、ちょっと何を言っているのかわからない……」
〈んー、そこはお気になさらず。ちな、美羽さんの質問に対する回答は、『女委さんに頼まれたから』っていうのが一番ですかね〉
「女委ちゃんが?」
〈ええはい。いやー、ほら、私ってばスーパーなAIじゃないですか? 現実世界ではイオ様のスマホ、もしくは異転二式の中に生息しているんですが〉
「アイちゃんって動物なの?」
表現の仕方が生息は、AIとしてどうなのかな?
〈こまけぇこたぁいいんすよ。……んで、まあ、現実じゃ一家に一台的な状態にしかなれんのですが、こと電子空間の中では違うんですねぇ、これが〉
どうしてか、さっきからアイちゃんの話し方の節々に人をイラッとさせるような何かを感じるんだけど……。
その辺りがスーパーたる所以なのかな。
〈つまるところっすね、今回に限りまして、女委さんバックアップの元、私が増殖するアプリを開発し、各プレイヤーのサポートキャラとして参加することになったんですね!〉
「あ、そう言う……」
ゼ〇ダの伝説で言うところの、ナ〇ィみたいな存在ということかな。
たしかに、お化け屋敷って案内役がいるタイプの場所もあるし、理に適っているね。
それに、アイちゃんは言動や行動はかなり難があるけど、AIとしては世界最高レベルで優秀だもの。
そう考えれば、これは反則に近い気がする。
〈というわけでして、今回はよろしくおなしゃーす〉
「どうして、ちょっと不良っぽ言い方?」
〈いやほら、学園祭だし。だから私も、学園祭編仕様の会話にしようかなと〉
「最後だけだと思うなー、学園祭編仕様」
時たまアイちゃんはよくわからないこと発言するけど、それはそれでアイちゃんの持ち味なので、特に気にせず付き合うことにしよう、という暗黙の了解じみたことが私たちの間にあったりしますが、本人(本AI?)は知りません。
〈さてさて! ここからは、この私が大人気声優の美羽さんを案内しやしょー! こっちでーすぜー〉
「お願いします」
〈ドニャ・パス号に乗ったつもりで、お任せくだせぇ!〉
「そこはタイタニックとか、泥船じゃないのかな?」
その例えはほとんど伝わらないと思うな、私。
スタートからすでに、少し怪しいような気もするけど、依桜ちゃんとのデートを目指して頑張ろう!
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