第499話 二日目の朝
翌日。
昨日は、メルたちと一緒に外食をした後、家に帰宅し、お風呂に入ってからそのまま就寝。
かなり疲れていたためか、ボクもみんなもぐっすり眠れました。
二日目の朝は調子もよく、疲れも特に残っていない。
……いやまあ、正直何もなかったかと言われれば、嘘になるんだけど、ね……。
「……こっちかぁ~~……っ」
朝起きると、ボクの体は大人の姿になっていました。
そっかー……今回はこっちなのかー……。
たしか、最後に変化したのは夏コミの時だったかなぁ。
その前は林間・臨海学校の時……。
……そう言えば最近、大人モードになる頻度、高くない?
身長が伸びるのは嬉しいんだけど、これはこれで色々大変なんだよね……。
主に、胸が。
だってこの胸、通常時よりもおっきいし、重いんだもん……。
しかも、このサイズの下着って……この辺りにお店に、ないんだよね……。
一日だけの変化とは言え、さすがに付けないわけにはいかないので、ボクが普段行くランジェリーショップの人と相談して、この胸のサイズの下着を取り寄せてもらうことにしているくらいだもん。
……はぁ。
「……まぁ、ささっと朝ご飯作っちゃお……」
ボクは憂鬱な気分になりつつも、みんなを起こさないように布団から抜け出し、衣服を身に着けてから一階へと降りて行った。
……まあ、裸なものですから。
それからは普段と変わらない、微笑ましい朝の風景を送った後、みんなで学園へ登校。
ただ、この姿の時って、通常時よりも大人っぽくなっちゃってるから、制服が微妙に似合わないんだよね……。
どうにかならないかな、これ。
ま、まあ、マンガやライトノベルとかにも、やけに大人ぽっぽい女の子のキャラとかもいるもんね! 自分もそれだと思えば大丈夫!
と、そう思いながら学園へ向かい、学園が遠目にも視認できる距離に近づいたら……
「……うわぁ」
正門の前には、昨日よりも圧倒的な人数がそこにはいました。
ごった返す、という言葉を、本当の意味で初めて見たかもしれない。
それくらい、人が多かったです……。
「これは……みんな、今日も裏門から行こう」
「「「「「「はーい(なのじゃ)!」」」」」」
ボクは遠い目をしながら、みんなを連れて学園の裏門へ歩いた。
みんなと別れて、教室へ向かう。
「おはよー」
「おはよう……って、あぁ、本当に女委が建てたフラグ通りになったわけね」
「……見ての通りです」
「最後に変身したのが、夏コミの時だったから……一ヶ月以上、と言ったところか?」
「そうだね」
教室に入るなり、未果と晶に話しかけられ、体のことを言われる。
クラスメートのみんなは、この姿になると必ずする反応、赤面をしています。
なんでだろうね。
「おっはー。っと、およよ? なるなる。今日は大人モードですかー。はっはっは! いやー、作っといて正解だったぜー」
「あ、依桜ちゃんが変化してる! 今日は大人モードなんだね!」
「おはよう、二人とも。個人的には、通常時でいいんだけど……まあ、こうなっちゃった」
「いいんでないの? 結構受け良くなるしねー」
「そうかな?」
「そうだよ! でも、あれだね。その姿で接客したら、かなり驚かれそうだよね、昨日来た人とか」
「まあ……事情を知らない人からすれば、昨日会った人がなんか成長してる、って驚くもんね。ボクもそうだったら驚くし」
とはいえ、そんな奇妙な体質の人、いるわけないんだけどね! 普通だったらね!
「……ところで、態徒は? いつもなら、女委と一緒に来てるはずだよね?」
ここで話題転換。
未だ姿が見えない態徒の話題を振る。
いつもであれば、態徒は女委と一緒に来るし、エナちゃんの方は割と早めに来ることが多く、こうして女委と一緒にくることはどちらかと言えば少ない。
……まあ、昨日のアレを見ている以上、なんでいないのかは明白だけど。
「遅い春を、満喫してるのよ、あのバカは」
嬉しそうな、それでいて呆れたような、何とも言えない表情を浮かべながら、未果がそう呟く。
他のみんなも似たような表情。
「まぁ、いいんじゃないか? 俺たちの中で、恋人が欲しいだとか思っていたのって、実際の所態徒くらいだからな」
「あれ? じゃあ、みんなはどうなの?」
晶の発言に、エナちゃんが疑問符を浮かべながらボクたちに尋ねる。
「ボクは……見ての通り、女の子になっちゃったから、っていうのもあるけど、そこまで欲しいとは思わないかな。みんながいればいいし」
「同じく。というか、恋人がいなくてもこんなに楽しい日常なのよ? 十分よ、十分」
「未果に同意だな。俺も今の生活で十分だ。……というか、俺の場合はこのグループに居る間が一番心安らぐしな……」
「んー、わたしはわたしで、このどうしようもなく楽しい非日常が好きでねぇ。あと、恋人は別段欲しいとは思わないかにゃー。どっちかと言えば、主人公の友人ポジが好きだし」
と、それぞれ似た様な考えの元、あまり恋人を欲しがっていなかったりします。
ただ、晶だけは全く別の理由な気がするけど……。
そう言えば前、なかなかにとんでもないラブレターを貰って気絶して、その記憶を消した、なんてことがあったっけ。
もしかして晶、少なからず女性不信になってるんじゃ……。
「なるほどー。じゃあ、好きな人もいない感じなの?」
「「……」」
「あ、あれ? なんで未果と女委は黙るの? え、もしかして、いるの!? 好きな人!?」
「と、というか、それを言ったら、エナはどうなのよ?」
「え、うち? それは………………」
あ、あれ!? なんか、エナちゃんも顔を赤くして黙っちゃったんだけど!?
チラッと晶を見れば、何から納得したような表情。
……これもしかして、ボクが知らないだけで、この三人は恋をしていたりする、の?
「え、えっと、やっぱり、いるの?」
「「「あー……」」」
ボクの問いに、三人は目を逸らしながら、そう声を漏らす。
どう見ても、言い難そうにしている辺り、聞かない方がよさそう。
「と、とりあえず、聞かないでおくね? いくら友達と言っても、言いたくないことは言いたくないもんね」
まあ、みんなに好きな人がいるのなら、応援しますとも。
大事な人たちだからね。
(((言いたくないっていうか、本人なんだよなぁ……)))
「おーっす!」
と、ここで態徒が登場。
しかも、明らかにテンションが高い。
だって今も、顔がものすごくにやけてるし。
これは何と言うか……
「気持ち悪いわね」
「気持ち悪いな」
「気持ち悪いねぇ」
「ちょっと……奇妙奇天烈かな?」
「友達だけど……その顔は、ちょっと気持ち悪い、かな」
「ちょっ、開口一番ひっでぇなお前ら!?」
「「「「いやだって、変態のにやけ顔はちょっと……」」」」
「珍しく混ざってる依桜に言われると、すっげぇ心にくんだけど!?」
教室には言ってくるなり、ボクたちの発言にツッコミを入れる態徒。
うーん、やっぱりいじるのは楽しい。
「それで、態徒君。今日は鈴音ちゃんと一緒に登校したの?」
「あ、おう。いやー、実は昨日さ、明日か一緒に登校しよう、って言われてさー。やっぱ? 彼氏としては受けないわけにはいかないって言うかー? いやー、マジで鈴音が可愛くて仕方ねぇ」
などなど、唐突ににやけ顔で惚気る始末。
……なるほど、ラブコメの友達キャラが主人公に対して、どこか辟易したような心境になるのは、こういうことなんだね。
理解。
「このバカはともかく、七矢が報われてよかった思うな、本当に」
「そうね、このバカはともかく」
「だねぇ。バカで変態な態徒君はともかく、鈴音ちゃんの恋が実ってよかったねぇ」
「おバカだけど、鈴音ちゃんの恋が成就してよかったね!」
「ボクも色々とした甲斐があったよ。態徒はともかく」
「お前ら、本当はオレの事嫌いなんだろ? そうなんだろ?」
「「「「「いやいや、そんなことはないよ?」」」」」
「……じゃあ、なんでさっきからひでぇことばっか言うの?」
という、態徒の質問に対し、ボクたちはノータイムで、
「態徒の春がウザいから」
「散々アプローチされていたことに気づかず、最近ようやく付き合ったことに対し、イラッと来たからだな」
「単純ににやけ顔が気持ち悪いから?」
「ちょっとだけ……イラッと来るからかなぁ」
「調子に乗ってる態徒に、ちょっとイラッと来たから」
各々率直な感想を話した。
いや……うん、理不尽なことを言っているのはわかっているんだけど、さすがに今回ばかりは……ね?
「なぜだ。彼女ができてから、明らかにオレへの風当たりが強くなった気がするんだが」
「「「「「気のせい気のせい」」」」」
「ぜってぇ気のせいじゃねぇ」
この世の春を満喫中な態徒に対するボクたちの反応は、ちょっとだけ冷たかった。
「まあ、冗談は置いておくとして……今日はどうするつもりなの?」
「ん、どうって?」
「だって、鈴音ちゃんと付き合ったばかりでしょ? だから、今日もデートするのかなーって」
当人同士もそうしたいと思っているだろうし、そう思っての質問。
態徒はともかくとして、鈴音ちゃんに至っては、中学生時代からの恋なわけだから、きっと態徒と二人で回りたいって思っているだろうし。
「なんだ、そう言う意味か。まあ、誘われてるな、普通に。だから、今日も悪ぃんだけど……」
「気にしないで。むしろ、ここでラブコメ系主人公よろしく、『全員で回ろうぜ!』とか言ってきたら、はったおしてるところよ」
「ボクは疑似的な死を与えてでも、鈴音ちゃんの所へ行かせます」
「……依桜お前、なんか鈴音の恋が関わってくると、サイコパスになるのなんなん?」
「気にしないで。元々の気持ちを知っていたのと、鈴音ちゃんのあの献身的な姿勢を見ていると、自然とそう言う考えになっただけだから」
「お前、ほんとに変わったな……主に、血生臭い方面に」
「暗殺者なので」
職業柄血生臭いもの。
「っとと、みんなそろそろ着替えてねー。時間もないし、早めに準備しちゃおうぜー」
「そうだったわ。それに、今日はミス・ミスターコンテストもあるしね」
「晶はともかく、女委はちょっと心配かな……」
「にゃっはっは! 依桜君、それは余計な心配ってもんだぜぃ」
「そう言う人って、大抵何かやらかしているような……」
「大丈夫だよ、依桜ちゃん。女委ちゃんだって、さすがに大勢のお客さんがいる前じゃ変なことしないよー」
「……だといいんだけど」
正直なところ、過去に色々とやらかしている前科がある以上、否定しきれないのがなぁ……。
そんな心配を抱きつつも、ボクたちは二日目の準備に取り掛かった。
『生徒、及びご来場のお客様! おはようございます! 早いもので、学園祭も二日目、すなわち最終日に突入いたしました! 昨日は、ヤクザが襲撃してくるイベントやら、告白大会やらで大変盛り上がりましたが、二日目もそれに負けないように盛り上げていきますよー!』
今日もものすごくテンションの高い豊藤先輩の放送に、学園の至る所から熱狂的な感性が上がる。
ちなみに、ボクたちのクラスも例外じゃないです。
『今日は皆様お待ちかね、ミス・ミスターコンテストが開催されます! 昨年は強制参加ではありましたが、今年は初等部と中等が新設された影響で、自由参加です! ですが、今年もかなりレベルの高い美男美女を揃えておりますので、ぜひぜひ! ご参加くださいね!』
ボクとしては、女委がなにかしでかさないか不安だけどね!
『さてさて、あんまり長いこと話して、開始が遅れると言うのは、後々暴動が起きそうですのでこの辺で。……それでは! 叡春祭二日目、スタートです!』
その宣言と共に、二度目の学園祭の二日目がスタートしました。
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