第539話 林間・臨海学校の裏側4

 その後、適当にイオと水上戦を行いつつ、人力水上スキーを行った結果イオがダウン。砂浜に打ち上げられた魚の如く、ぴくぴくとしていたが、まぁいいだろう。


 そのイオは、ミカが介抱していたしな。


 ミカがイオを膝枕している姿を見て、あたし的には少し安心したかね。


 内容自体も、一人で背負うな、自分たちにも寄りかかれ、ってことだったし。


 ふっ、あいつにもいい友人がいるじゃねぇの。あたしとしては、それが知れただけで満足だ。


 しばらくすると、イオの体力も回復したようで、あたしら全員で適当に遊び、時間となる。


 旅館にて夜飯を食べ、温泉に浸かったのち、全員が寝静まった頃に旅館を抜け出す。


 つってもまぁ、今回は面倒だから、近くまで転移したがな。


 時間は有限だ。


 明日の朝までに全部とはいかずとも、ある程度は調べなきゃならん。


 ならば……やることはやっちまった方がいい。


 そう考え、あの遺跡へ転移。


(ふむ……正直、泳ぎで進むのはめんどくさいな……仕方ない)


 水中にいること自体、大した苦労はないが、めんどくささはどうしたってある。


 そんならまぁ……ここは一つ、本気で調査をするためにあたしも本気を出すとしよう。


(……《エリアディストーション》)


 あたしは自身の体の中にある神気を用いて、辺り一帯のエリアの空間を歪めた。


 その歪みを利用して、この場にある全ての水を扉の外に押し出し、同時にこの遺跡内に水が入らないように維持する。


「……ふぅ。空気だけは、こっちに残すが……案外便利なもんだな」


 神気の扱い自体、あたしは特段上手いわけではない。


 ハッキリ言って、あたしよりもイオの方が才能はあるだろう。


 あたしのはなんつーか……本物の神気と言うより、宿ってしまった偽物、という物に近い。


 何をどうしたところで本物には敵わんがな。


 イオの場合は、本物と言っていいのか不明だが。


「さて……これで色々と調べられるな」


 肩を回しつつ、あたしは辺りを見回す。


 水が無くなったことにより、例の青のトーチの光量が増している気がする。


 あたしが光球を魔法で創り出さずとも問題ないくらいに明るい。


 海底なのにな。


「……ふむ、こいつが出来たのはいつだ? どうも、鑑定が効かねぇみたいだしな……」


 水を抜いた直後にこの遺跡を鑑定してみたんだが、どういうわけか何もわからなかった。


 いや、正確に言えば、見えなくはない、と言うか……まぁ、こういう風に出るのだ。


『――の―ごう――ん 作成者:―――― ――充填状況:47%』


 意味がさっぱりわからんっ!


 あたしの『鑑定(覇)』をもってしても完璧にはわからず、この遺跡がどういうものか知ることはできなかった。


 そもそも、名前はこの際どうでもいい。


 だが、一番気になるのは『充填状況』という項目だ。


 一体何を充填しているのか? そもそも、なぜ充填する必要があるのか、と言う部分だ。


 この時点で、明らかに科学のような所謂ファンタジーが介在しないようなものではなく、ファンタジーが根幹にいるような何かだ。


 この遺跡を建てた奴は一体何がしたかったんだ。


「……とりあえず、中を調べるか。まずは、そこからだ」


 鑑定から読み取れたことの考察は一度投げ出し、目の前の物を調べることにする。


 そこそこの広さがあるが、まぁ、向こうのダンジョンよりかはマシな所を考えると、頑張ればギリギリ明日の朝には間に合うだろう。


 だからまずは……


「何かの手がかりがあることを望むが……」


 これだけの物がまさか、『何もありませんでしたー!』はさすがにないだろうからな。


 果たして、何があるか。



 海底遺跡を調べること一時間。


 なるべく見落としが無いよう、隈なく探すと、構造的におそらく中央に位置するであろう場所に何やら神気の力を感じる扉があった。


「他の部屋は何も無しだったからな。ここには何かあることを祈るぞ」


 正確に言えば、全くなかったわけじゃないんだが……あるにしたって、円形の部屋の中心に良くわからん黒く丸い石が設置された部屋が、合計で六つあったことだろうか。


 全くわからん何かだったんで、放置した。


 詳しく調べようと思ったら時間がクソほどかかるだろうからな。


「……よし、中に敵がいる気配はなし、だな。まぁ、この世界にいるとは到底思えんが……ブライズの一例があった以上、油断は禁物だな」


 敵がいないからと言って油断せずに、あたしは扉を開けて中へ足を踏み入れた。


 そこには……。


「……これは、なんだ? 六芒星、か?」


 部屋の中央に、謎の六芒星が描かれた部屋だった。


 六芒星の周囲には、その頂点の位置に合わせて、部屋の外の壁にもあった例のトーチの色違いがそれぞれ設置されていた。


 一つは紫、一つは翡翠、一つは桃、一つは白金、一つは紅、一つは山吹色、以上の六つの色があるが……ふむ、この色の選出理由が全くわからん。


 普通、赤とか青、黄色、みたいな、そんな感じの選出じゃなかろうか。


 なぜ、この色なのか……ふぅむ、わからん。


「さて、それでこの六芒星は一体なんだ? 部屋に満ちる神気からして、間違いなく、神関係の物に違いはないだろうが……」


 しかし、神が所謂下界とも言うべき世界にこんなものを作るかと言えば疑問が残る。


 あいつら、基本的に放任主義の快楽主義だからな。


 適当に放置するけど、面白おかしく生きてね、みたいな感じだ。


 だからこそ、こんなわけわからんものを作るかと言えば正直否と答えるしかないだろう。


 これは、神と会ったことがあるからこその根拠だ。


 ……とはいえ、それだけが根拠になるかどうかは全くの別問題だが。


「……よし、軽く調べて行こう。六芒星以外にも何かがあるかもしれん」


 大きな情報としては目の前の六芒星だろうが、それ以外にも見つけないとな。


「まずは……『鑑定(覇)』だな。一体何があるのか………………あー、これはダメだな」


 鑑定を使用して、目の前の六芒星を鑑定してみたんだが、結果はダメだ。


 何かしらが隠れているどころか、そもそも見えない。


 なーんもわからん。


 情報の『じ』の字すらない。


 マジでなんなんだ……。


「しかし……この建物自体に神技『不変』がかけられてるところから察するに、壊されるわけにはいかないんだろうな」


 わかることはそれだけで、この遺跡が何の目的で作られ、なぜ壊れてはいけないのかがわからん。


 この遺跡自体、あるものはこの部屋の六芒星と、謎の石が六つ。


 それから、何らかの力を貯めている最中であること。


 これくらいしか今はわかることがない。


 つまり……


「手詰まり感半端ねぇ……」


 そう言う事だ。


 情報が少なすぎて、あたしとしても考察のしようがないからどうしようもねぇ。


「はぁ……収穫0とは言わんが、少なすぎんだろ、これは……」


 肩透かしをくらった気分だぜ、まったく……。


 しかし、ここは確実に重要な場所の可能性が高い、それがわかっただけ儲けものか?


 現状、あたしはミリエリアの手掛かりを探してはいるからな。


 あとは、イオの体に付いての謎だとか、まぁ色々だな。


 それから、例のあの本についての情報も欲しい。


 あれは写本だから、この世界のどこかに原本があるはずだしな。


「ともあれ、ここで調べることはもうなさそうだな」


 情報が少なすぎてヤキモキするぞ、まったく。


「できることなら、ここの壁の材質なんかも調べたいが……下手に壊して手に負えない事態になったら目も当てられんし……仕方ない、止めておこう」


 変な影響が周りに出たら問題だしな。


 それに、ここはあの砂浜から少し離れているとはいえ、近場に位置しているしな。


 もし、何かあれば向こうにも影響が行くことだろう。


 残念だ……。



 遺跡の調査を終え、あたしは旅館の部屋に戻って来てすぐに眠りの世界へ旅立ち、すぐに朝になる。


 今日することと言えば、林間学校に参加するイオたちの方へ付いて行くことだろう。


 そのまま、例の神社へ行くことだな。


 午前中はイオたちが森の中での食糧確保に勤しみ、その結果以前仲良くなったらしい熊と共に猪を狩ってきて周囲を驚かせていたがな。


 あいつはなんなんだ、マジで。向こうでも魔物と仲良くなるしよ。ある意味脅威だぜ、まったく。


 あたしも昼飯を適当に食べた後、例の神社へ向かおうとしたら、


「ししょう、ひとりでどこかいってるみたいですけど、なにしてるんですか?」


 何をしているのか尋ねてきた。


 あと、今のイオは何気にケモロリ状態と呼ばれる姿のため、クッソ可愛い。


 いやもう、今すぐ抱き枕にして寝たいくらいだ。


「気にするな。あたしの私用だ」


 そう言って、あたしはイオに背を向けて神社を目指した。


 だが、あたしがしてることをこいつに話すわけにはいかん。


 これは本当に、あたし個人の物だから。


 それに……イオが神の子孫だと知ったら、かなり困惑するだろうし、何よりただでさえミカたちとは違うというのに、さらに自分が特殊な出自だとわかってしまえば、思いつめることはわかり切ってるんでな。


 だから、これは絶対に伝えることはない。


 そんなことを考えつつ、あたしは二日前に辿り着いた例の神社に到着。


「よし、今日はこっちだな。まずは……鑑定だな」


 あの神殿と同じじゃなけりゃいいが……。


 新たな情報が出ることを期待しながら、あたしは目の前の神社に『鑑定(覇)』をかける。


 その結果表示されたのがこれだ。


『――のえ――た――つ 状態:損傷(微) 共有状態:中』

「……ふむ、名前以外は見えるが……損傷はともかく、共有状態?」


 気になったのは共有状態という単語だろう。


 共有状態と、この神社にある神気の波長から察するに、共有している物というのは、間違いなくあの海底遺跡だろう。


 問題は、何を共有しているかだが……まぁ、そんなもんわかるわけがねぇ!


「つーか、なんでこんなに情報がねぇんだよ此畜生!」


 結局こっちも外れなのか!?


 そんな思いが溢れだし、思わず叫んでしまう。


 いや、落ち着けあたし……冷静になるんだ、あたし。


 そもそも、未知の情報なんざ早々手に入るもんじゃない……ましてや、ここは魔の世界とは違うんだ。


 だからこそ、余計情報が手に入らなくても不思議じゃねぇ……不思議じゃねぇんだ。


 よし……落ち着いて来たな。


「……この中には何があるんだ? いや、神社の中に入るってのは、かなりまずいものだとはわかってるんだが……まあいいか。祟りなんてもんは、簡単に祓えるからな」


 実際、あの手のものは神が本当に祟っているわけじゃねぇし。


 あれなー、かなり面倒な仕組みしてるからな……人間がいる以上、そして噂や伝承を信じる奴がいる以上、一生消えることのない物だからな。


 だからこそ、厄介なわけだが。


「んで? 中には……ん? これは……なんだ? 壁画か?」


 中へ足を踏み入れるなり、最初に視界に飛び込んできたのは、何かの絵が描かれた壁画らしきものだった。


 神社の中にあるものが壁画……?


「描かれているのは……人間に似た何かが六人と、六芒星……それから、これは魔方陣、か? 周りには渦らしきものもある……何を表してるんだ? これは」


 またしても情報らしい情報はなく、あったのは意味不明な壁画一つのみ。


 今度はなんなんだ?


 未知だけが増えて、情報が何一つねぇ……。


「まあいい、とりあえずこれがどんなものか考察するか」


 この壁画が表しているのは間違いなく、あの海底遺跡だろう。


 六芒星に、人間に似た何かの色ってのが、あの部屋にあったトーチの色と同じだ。


 つまり、あの六芒星の場所にこの壁画に描かれた存在が必要になると言うことだが……その姿がどこかで見たことがある気がするのだ。


 一つは、どことなく禍々しい雰囲気を持った紫の髪をした存在。


 一つは、翡翠色の光を放ち、同時にプロポーションが抜群の存在。


 一つは、桃色の髪を持ち、そしてどこか黒い力を感じさせる存在。


 一つは、白金の髪を持ち、複数本の尻尾を持った存在。


 一つは、紅のオーラを持ち、力強い自然の力を感じさせる存在。


 一つは、山吹色のオーラを持ち、妙に引き込まれるような何かを感じさせる存在。


 そんな存在たちだ。


 正直なところを言えば、最初の二人に関してはどっかで見たような気がするんだよ……具体的には、イオの身近にいる奴だったり、あとはミリエリア関連だったり。


 まぁ、あいつらと決まったわけじゃないが。


「一応、スマホで撮っておくか。これは、エイコに聞いた方がいいだろう」


 あとは、海底遺跡のこともだな。


 もしかすると、あいつの力で何かわかるかもしれないからな。


「壁画以外には……何もない、が……なんか不自然だな」


 広さ自体は本当に大したことがないんだが、なんとなく不自然な気がするのだ。


『音波感知』を使用してみたが、謎の空間がこの建物内には存在している。


 だが、それらしき場所が全くない。


 じゃあ、その空間はどこにあるのか? と言うことになるが……普通に考えりゃ地下と考えるのが自然だろう。


 しかし、それは地下ではなく、目の前にある気がするのだ。


 だが、目の前には何の変哲もない和室しかない。


 じゃあ、その空間だろ? と思うかもしれない。


 だが、違うのだ。


 あたしが感知した空間と言うのは、壁の内側にあるような、そんな空間なのだ。


 だが、それらしき空間は無く、そもそもその感知に引っかかった場所と言うのが、目の前の和室だ。


 これは一体どういうことか……わけわからん事象が起きてるんだが。


 どうしろと?


「今のあたしですら理解不能の現象とか……マジどうなってんだよ、ここといい、あの海底遺跡といい……」


 あたし的には、林間・臨海学校を楽しむために来たようなもんだったんだが、まさか頭を抱えることになろうとはな……。


 まったく、これもイオと一緒にいる弊害かね?


 まあいいや。


 とりあえず、調べられることはこれ以上なさそうだし、イオたちがいる場所に戻るとするかね。


 時間的にはまだまだ余裕があるが、それはそれ。


 あんまし離れすぎても他の教職員に変な目で見られかねん。


 あたし的には全く気にしないが、周りの環境がめんどくさくなることは確実だろうからな。


 とはいえ、あたしは単なる体育の実技担当の教師にすぎんからな、あまり気にしない奴らばかりだとは思うがな。


「そんじゃ、戻るかね」


 収穫は、壁画とわからないこと、ってところだな。

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